りんごの街の救急医

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case 155:糖尿病患者の顔面が腫れているんです(Cureus. 2026;18(4):e107978.)

顔面の腫脹で受診した糖尿病患者がアレルギー反応として帰宅、翌日には眼球突出と意識障害…。

 

まれだけどER医として絶対に外したくない症例の典型例です。

 

病歴/身体所見

  • 57歳男性(アフリカ系米国人)
  • 高血圧/コントロール不良の2型糖尿病(HbA1c 13%)の既往
  • 上気道炎/副鼻腔炎症状でかかりつけ医を受診→azithromycin/albuterol処方
  • 2週間経っても改善せず、左顔面腫脹のため他院ERを紹介受診
    • 「抗菌薬に対するアレルギー反応」と判断され、ジフェンヒドラミンとステロイドを投与されて帰宅
  • 翌日、症状進行のため再受診
    • 顔面腫脹の進行/左眼の霧視/意識障害

2週間粘ってからの紹介、しかも他院ERでアレルギー反応として帰されているという経過…。

 

「だれが診てたんだ!」と言いたくなりますが、

それと同時に初診のERで気づけたかというと…う〜ん、自分も自信を持って「気づけました」とは言いづらいところです。

 

検査

  • 血液検査
    • WBC 30 ×10⁹/L
    • Na 111 mmol/L
    • K 7.9 mmol/L
    • 血糖 1,128 mg/dL
    • Cre 2.1 mg/dL
    • アニオンギャップ 27 mmol/L
    • 乳酸 5.3 mmol/L
    • プロカルシトニン 2.39 ng/mL
  • 動脈血液ガス
    • pH 7.23/pCO₂ 19 mmHg/pO₂ 55 mmHg/HCO₃⁻ 7.9 mmol/L
  • 眼圧:29 mmHg(左眼)
  • 他院での顔面骨CT
    • 左副鼻腔炎、篩骨蜂巣外側壁の離開疑い
    • 軟部組織への炎症波及、左眼窩内へのcellulitis像

HbA1c 13%の糖尿病患者で血糖1,128 mg/dL、pH 7.23、AG 27、HCO₃⁻ 7.9というのは、もう典型的すぎるDKA(mixed DKA/HHS)です。

appleqq.hatenablog.com

 

 

これだけ揃って受診しているのに「アレルギー反応」で帰してしまった経緯は、後から振り返ると本当にもったいないです。

顔面腫脹+糖尿病+経過数週のキーワードが揃ったら、アレルギーを考える前にまず何かを疑わないといけません。

 

初期治療と転院

  • 他院EDで持続する疼痛/視力低下/眼圧高値(29 mmHg)から緊急lateral canthotomy施行
  • IVインスリン/輸液/広域抗菌薬開始
  • その後、本院(著者ら所属)へ航空搬送
  •  

本院での評価

  • 顔面骨CT(再検)
    • 左眼窩蜂窩織炎
    • 副鼻腔疾患の広範囲進展
    • 軟部組織内ガスの増加
  • 眼科所見
    • 左眼著明な眼球突出、結膜浮腫
    • 眼瞼周囲皮膚の剥脱、血性鼻汁
    • 左瞳孔散大固定、眼球運動著明制限
    • 虚血様視神経、網膜血管の狭細化
  • ENT(鼻腔ファイバー)
    • 左鼻腔は粘膜浮腫と膿性分泌物で解剖学的指標が同定不能
    • 漿液血性分泌物あり、開口障害あり
  • 造影MRI(脳・眼窩)
    • 左眼窩のびまん性蜂窩織炎と眼球突出
    • 左海綿静脈洞の造影効果欠如→海綿静脈洞血栓症(CST)を疑う

造影MRI(軸位断):左海綿静脈洞の造影効果欠如、左眼窩蜂窩織炎、眼球突出、左外側直筋の腫大を認める(赤枠が病変部位)。

診断

糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)を背景とした鼻眼窩脳ムーコル症(rhino-orbital-cerebral mucormycosis:ROCM)、海綿静脈洞血栓症合併

  • ENTにより左内視鏡的副鼻腔手術+デブリードマン施行
    • 術中所見:左上顎洞/篩骨洞/蝶形骨洞/前頭洞に黒色壊死粘膜が充満
    • 右側にも同様だがより軽度の所見あり
    • 眼窩周囲〜頬部の壊死軟部組織を出血断端まで切除
    • 検体は病理組織学的解析と培養に提出
  • 病理:broad, ribbon-like, pauci-septate hyphaeを確認→組織学的にmucormycosis確定
  • リポソーマルアムホテリシンB高用量開始

黒色壊死粘膜が副鼻腔いっぱいに広がっていた、というENTからの報告は、想像するだけで背筋が冷えます。

でもこの黒色壊死はキーワードですね。

 

その後の経過

  • 術後MRI
    • 左MCA/ACA分水嶺領域/橋/小脳に多発拡散制限病変=多発脳梗塞
    • 持続する血管浸潤と早期脳梗塞を示唆
  • CTA(頭頸部)
    • 左頸部内頸動脈の先細り、海綿静脈洞-床突起上接合部の高度狭窄
    • 外科的デブリードマンとアムホテリシンB開始にもかかわらず血行性播種が継続
  • リポソーマルアムホテリシンB高用量と複数回のデブリードマンを継続したが感染は進行
  • 広範な脳病変と神経学的予後不良からホスピスへ移行(リポソーマルアムホテリシンBは10日間で中止)

抗真菌薬を始めて、デブリードマンもして、それでもCNS進展は止められなかった…。

「ムーコル症のCNS進展時の死亡率はほぼ100%」という数字(N Engl J Med. 2026;394(7):684-98.)を改めて突きつけられる結末でした。

もっと早く受診していてくれたら、あるいはもっと早く疑えていたら、結末は違ったかもしれません。

 


ここからはムーコル症の総論

本症例を機に、最近のNEJM総説(N Engl J Med. 2026;394(7):684-98.)を中心にムーコル症について整理しておきます。

ER医として知っておくべきポイントに絞ってまとめます。

 

疫学とハイリスク患者

  • サンフランシスコでの推定発症率:100万人あたり1.7例
  • 米国でのムーコル症関連入院
    • 有病率:10,000退院あたり0.12例
    • 平均入院費:$112,419/入院
    • 入院期間中央値:17日
    • 院内死亡率:23%
  • インドは世界平均の約70倍の疾病負荷(年間20万例超と推計)
  • COVID-19関連ムーコル症はインドで2021年に51,000例超のピーク

(N Engl J Med. 2026;394(7):684-98./Clin Infect Dis. 1998;27:1138-47./BMC Infect Dis. 2016;16:730./Mycoses. 2014;57 Suppl 3:85-90.)

ハイリスク患者として列挙されているのは以下:

  • 糖尿病(特に1型・コントロール不良・DKA合併)
  • 血液腫瘍
  • 同種造血幹細胞移植/重症GVHD
  • 固形臓器移植
  • 高用量グルココルチコイドの長期使用
  • 低出生体重児
  • 代謝性アシドーシス
  • 鉄過剰状態(デフェロキサミン使用例を含む)
  • 注射薬物乱用
  • 重度の低栄養
  • COVID-19
  • CAR-T療法、ibrutinib使用
  • 外傷/熱傷/爆傷/自然災害(竜巻、津波、洪水、地震など)

WHOはmucoralesを"high-priority pathogens"に指定しています。

糖尿病患者がやたら多いERでは、まったく他人事ではない疾患群だと思い直すきっかけになりました。

 

なぜDKAでムーコル症が起こるのか?

本症例の患者は2型糖尿病でDKAでしたが、

「代謝性アシドーシスが起こりやすい1型糖尿病の方がリスクが高い」とされています。

 

とはいえ、HbA1c 13%/血糖1,128 mg/dLまで放置されていれば、2型でもアシドーシスは起こりますし、これだけの条件が揃えば真菌にとっては理想的な培地が出来上がってしまうということになります。

 

分子レベルではこんな流れです:

  • CotH3-GRP78結合:mucorales胞子のCotH3タンパクが鼻粘膜上皮のGRP78受容体に結合→代謝性アシドーシスでこの両者の発現がupregulateされる
  • Mucoricin:mucoralesが分泌する17-kDのricin様毒素が免疫細胞と血管内皮細胞を殺し、組織壊死を引き起こす
  • 鉄代謝の異常
    • アシドーシスがトランスフェリン/フェリチンの鉄親和性を低下→遊離鉄が増加
    • 糖尿病コントロール不良ではトランスフェリン/フェリチンの糖化により遊離鉄がさらに増加
    • 遊離鉄はmucoralesの増殖燃料
  • 高血糖と代謝性アシドーシスは好中球の貪食機能と酸化的・非酸化的殺菌能を障害
  • 低アルブミン血症も虚血と病態進行に寄与(遊離脂肪酸の酸化を許容しmucoralesの病原性遺伝子発現を増加)

(N Engl J Med. 2026;394(7):684-98./Nat Microbiol. 2021;6:313-26./mBio. 2020;11(3):e01087-20.)

 

DKAは単なる代謝異常ではなくて、mucoralesに「いらっしゃい」と看板を出している状態なんですよね。

代謝補正自体が抗真菌治療の一部、というのはちゃんと意識したいところです。

 

臨床像~病型と高リスク患者の対応

ムーコル症は侵入経路と宿主によって以下のような病型をとります。

病型 主なリスク群 特徴
Sino-orbital / Rhinocerebral 糖尿病/DKA、COVID-19関連

本症例の病型。

海綿静脈洞・脳神経III/IV/V1/V2/VI、内頸動脈に波及。medical & surgical emergency

Sinopulmonary 造血幹細胞移植、固形臓器移植、重症再生不良性貧血、長期高用量ステロイド CTでreversed halo sign(mucormycosisを強く示唆)。conventional halo signはAspergillus等を示唆
Cutaneous / Musculoskeletal 外傷/熱傷/爆傷/自然災害、未熟児、免疫抑制 brown-black eschar(固く木質様)。皮下感染は身体所見より深く広範
Osteoarticular 重度外傷/爆傷、注射薬物乱用、免疫抑制 骨/関節への直接接種または血行性
Gastrointestinal 未熟児、重度低栄養、免疫抑制、異食症(pica) 未熟児では死亡率ほぼ100%(消化管穿孔と腹腔内播種)
Disseminated 血液腫瘍、造血幹細胞・固形臓器移植、重症再生不良性貧血、心内膜炎 CNS浸潤が多い

(N Engl J Med. 2026;394(7):684-98.)

 

ER医として最も意識すべきは、ハイリスク患者で以下の"early sentinel findings"を見たら緊急評価を行うというシンプルな指針です:

  • 眼瞼周囲蜂窩織炎
  • 複視
  • 口蓋限局性壊死
  • 壊死性創傷

本症例も振り返ると、糖尿病+顔面腫脹+「抗菌薬で改善しない」の3点で十分赤信号でした。

「アレルギー反応」というラベルはあまりに楽観的すぎたわけですが、知らなければ無理ゲーという側面もあります。

糖尿病コントロール不良患者の顔面腫脹はアレルギーと決めつける前にムーコル症を一度疑う」ということを胸に刻んでおこうと思います。

 

診断~組織が物を言う

  • 確定診断は組織の鏡検・病理・培養
    • KOH/calcofluor/Blankophor染色での鏡検:幅7〜15 μm、ribbon-like、無中隔または希少中隔、非二分岐、直角分岐の菌糸
    • Aspergillus/Fusarium/Scedosporiumは細く・二分岐・有中隔→鑑別の鍵
    • 病理染色:PAS、Grocott-Gomori methenamine silver
  • 培養は25〜37℃で増殖(37℃で検出率向上)。Sabouraud agar
  • 感受性試験のbreakpoint未確立、MIC値の臨床的意義は限定的
  • 分子診断:MALDI-TOF MS、PCR(18S rRNA標的)、cell-free DNAシーケンス、メタゲノミクス
  • 画像
    • 副鼻腔CT/MRIは病初期に異常を捉えにくいこともある→経時的フォローと内視鏡再評価が重要
    • 肺病変疑いではBAL(可能なら生検つき)、胸膜病変では経皮針吸引

(N Engl J Med. 2026;394(7):684-98.)

培養は最大50%で陰性となることが知られています(Cureus. 2026;18(4):e107978.)。

培養結果待ちで治療を遅らせるのは厳禁

臨床的に疑った時点で動くというのが鉄則です。

 

治療の5本柱を覚える

ムーコル症治療の成否を決める"five pillars of intervention"が明示されています。

  1. 早期発見とstaging
  2. 適切なタイミングでの抗真菌薬開始
  3. 感染組織の外科切除
  4. 免疫不全の改善
  5. 代謝異常の補正

(N Engl J Med. 2026;394(7):684-98.)

本症例ではDKAの補正、デブリードマン、リポソーマルアムホテリシンBがすべて行われたわけですが、それでもCNS進展は止められませんでした。早期診断と早期治療開始だけが転帰を変えるというのを痛感する症例です。

抗真菌薬

  • 第一選択:リポソーマルアムホテリシンB 5.0〜7.5 mg/kg/日
    • 侵襲性肺アスペルギルス症の用量(約3 mg/kg/日)より高用量
    • 10 mg/kg/日の高用量は腎毒性が増えるだけで治療成績の改善なし
    • リポソーマル製剤の方がアムホテリシンB deoxycholateより安全性プロファイル良好
  • イサブコナゾール:ムーコル症の一次治療として唯一ライセンスされたトリアゾール
    • VITAL試験(オープンラベル単群、FungiScopeレジストリのリポソーマルアムホテリシンB治療例とのマッチドコントロール比較)に基づく
    • 適応:リポソーマルアムホテリシンB代替(腎毒性で使えない場合、長期治療)
  • ポサコナゾール:サルベージ療法での有効性
    • 24例で奏効率79%(旧懸濁液製剤、800 mg/日分割投与)
    • 91例の後ろ向き研究で奏効率61%
    • 現在は徐放錠または静注製剤が主流
  • 無効な抗真菌薬(覚えておきたい)
    • エキノカンディン系
    • フルシトシン
    • フルコナゾール
    • イトラコナゾール
    • ボリコナゾール
  • 併用療法(血液腫瘍患者でのpropensity-score解析):臨床的ベネフィットなし

(N Engl J Med. 2026;394(7):684-98./Lancet Infect Dis. 2016;16:828-37./Antimicrob Agents Chemother. 2006;50:126-33./Clin Infect Dis. 2006;42:e61-e65./J Antimicrob Chemother. 2015;70:3116-23.)

「真菌っぽいからとりあえずボリコナゾール」とやってしまうと、ムーコル症だけは外してしまうわけです。

"DKA+顔面腫脹+眼症状をみたら、empirical抗真菌薬はリポソーマルアムホテリシンB"ですね。。。

外科治療

  • 進行期のpulmonary/sino-orbital/cerebral/myocutaneous mucormycosisは「外科で治す病気」
    • 血管浸潤による梗塞と組織内薬剤移行不良のため、抗真菌薬だけでは足りない
  • 診断から1週間以内にデブリードマン、viable marginまで繰り返す(実際にはなるはやで!)
  • COVID関連ROCMでは7日以内のデブリードマンで死亡率半減
  • インドのCOVID関連ROCM 2826例研究:外科的デブリードマンは早期病期でのみ有益

(N Engl J Med. 2026;394(7):684-98./Lancet Infect Dis. 2019;19:e405-21./Clin Microbiol Infect. 2019;25:26-34./Indian J Ophthalmol. 2021;69:1670-92.)

補助療法・代謝補正

  • 代謝性アシドーシスと高血糖の補正は必須(治療の一部)
  • グルココルチコイドは可能な限り速やかに最低有効量まで減量
  • 好中球減少からの回復が成否の鍵
    • G-CSF/GM-CSFは好中球減少期間短縮・貪食機能増強
    • 顆粒球輸注は選択例で有用な可能性
  • 高圧酸素療法:糖尿病患者のsino-orbital/rhinocerebral型、孤立性myocutaneous型の選択例で有用な可能性
  • 外傷関連創傷では局所Dakin液(0.025%次亜塩素酸ナトリウム)

(N Engl J Med. 2026;394(7):684-98.)

予後を決める因子

  • 早期診断と治療開始の有無
    • 血液腫瘍患者で早期治療開始により死亡率が約80%→40%へ半減
    • 抗真菌薬開始遅延(>6日)で死亡率が82.9% vs 48.6%に倍増
    • 血液腫瘍患者ではアムホテリシンB開始1日遅延ごとに死亡オッズ+11%
  • CNS進展の有無
    • CNS進展時の死亡率はほぼ100%
    • 最適治療下でも全体死亡率は40〜50%
  • 外科切除可能か
  • 免疫不全/原疾患の改善
  • 播種の有無

(N Engl J Med. 2026;394(7):684-98./Clin Infect Dis. 2008;47:503-9./Clin Infect Dis. 2005;41:634-53./Lancet Infect Dis. 2019;19:e405-21.)

「1日遅れるごとに死亡オッズが11%上がる」というのはなかなかインパクトのある数字です。疑った瞬間に動く、というのを自戒を込めて改めて意識したいと思いました。

まとめ

  • 糖尿病/DKA患者の顔面腫脹は、アレルギー反応と決めつける前にrhino-orbital-cerebral mucormycosis(ROCM)を必ず鑑別にあげること
  • ROCMはmedical & surgical emergency。CNS進展時の死亡率はほぼ100%であり、早期診断・早期治療開始・5本柱の介入が転帰を決める
  • ムーコル症にはエキノカンディン・ボリコナゾール・フルコナゾール・イトラコナゾール・フルシトシンは無効。第一選択はリポソーマルアムホテリシンB 5.0〜7.5 mg/kg/日
  • 進行期は「外科で治す病気」。デブリードマンと代謝補正を抗真菌薬と並行で行う

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