今週号は、みんな気になるあんなことこんなことかも。
・心電図で右脚ブロックがあるけど、これはキケン???
・徐脈の実践的なマネジメント
・敗血症だと思ったけど…mimicsとしてどんな病態がある?
・最新版メイロンの使い方・考え方
・ARC(augmented renal clearance)をどうやって疑って対応すればよいか?
今週からは簡単なインフォグラフィック付きです!
循環器
ACS
Right bundle-branch block (RBBB) and acute coronary syndrome (ACS) a narrative review
ありふれたRBBB(右脚ブロック)だけど虚血が隠れていることがあるので、特定の状況では注意が必要と喚起している総説。

RBBBの頻度と意義
- 一般集団でのRBBBの有病率は0.2〜1.3%であり、男性1.4%、女性0.5%と男性に多い。加齢に伴い頻度は増加し、50歳で約1%、80歳では17%に達する。
- 心不全など構造的心疾患患者では約10〜11%とさらに高頻度で、肺疾患などの併存疾患も関与する。
- 虚血性心疾患を有する患者ではRBBBはより頻回にみられ、院内死亡のオッズが約64%増加すると報告されており、単なるECG異常ではなく予後指標になりうる。
- ただし、慢性・非急性のRBBBは多くの場合良性であり、典型的なECG像(V1–2のrsR’/rSR’、I・aVL・V5–6の幅広いS波、V1–3の軽度ST低下やT陰転)が安定して存在する。これらのST-T変化は伝導様式の変化による二次性変化であり、虚血そのものではない。
- しかし、新規あるいは急性出現RBBB+胸痛の場合は話が別であり、広範梗塞・近位LAD閉塞のマーカーとなり、心原性ショック・不整脈・死亡率増加と関連するため、早期のOMI(occlusion MI)認識が極めて重要
ACSにおけるRBBBの病態生理
- 右脚は心室中隔に沿って走行し、多くの症例でLADから分岐する中隔枝(septal perforator)が主要な血流供給源である。
- したがって、
- 近位LAD閉塞による中隔虚血
- 前壁〜中隔の貫壁性梗塞
- 広範な心筋障害に伴う伝導遅延
により右脚が機能不全となり、新規RBBBが出現する。
- そのため、RBBBはより大きな梗塞サイズや近位冠動脈閉塞のサロゲートマーカーと解釈しうる。
ACS以外のRBBBの原因
原因は大きく心原性・変性/伝導系疾患・医原性/外傷・その他に分類されている。
- 心原性(Cardiac causes)
- 変性/伝導系疾患
- Lenègre病/Lev病:伝導路への線維化・石灰化
- 加齢に伴う伝導系変性:高齢者に多い孤立性RBBB
- 医原性・外傷
- その他
良性RBBBと病的RBBBの鑑別(臨床アプローチ)
著者は、「良性RBBBは除外診断である」と強調し、以下の段階的評価を提示している。
- 臨床歴・症状
- 良性:
- 無症状、スポーツ診断や健診などで偶発的に発見
- 胸痛・呼吸困難・失神・動悸なし
- 突然死の家族歴なし
- 病的:
- 労作時呼吸困難、浮腫、失神、胸痛など
- 心疾患既往、最近の手術・外傷、肺塞栓リスク因子など
- 良性:
- 身体所見
- 良性:心不全徴候なし(頸静脈怒張、浮腫、異常心音なし)
- 病的:右心負荷の兆候(肺高血圧に伴うP2亢進など)やその他異常所見
- ECGの特徴

- 追加検査
孤立RBBBにおける期待されるECG像
- QRS ≧120 ms(完全)+V1–3の典型的rsR’パターン、側壁誘導の幅広いS波。
- V1–3では軽度のST低下とT波陰転など二次性再分極異常が見られるが、これは終末R′と反対方向の「適度なディスコーダンス」であり、通常は安定したパターンである。
著者は、臨床文脈(胸痛・血行動態不安定・CPAなど)と合わせて、以下のレッドフラッグを挙げている。
- 新規/推定新規RBBB+虚血症状
- 2017 ESC STEMIガイドラインなどと同様、STEMI equivalentとして取り扱うべき。
- 新規RBBB合併AMIは、LBBB STEMI equivalentより高い死亡率との報告もある。
- 新規二枝ブロック(RBBB+LAFBなど)
- 近位LAD閉塞と予後不良を強く示唆。
- ST変化がさらに読みにくくなるため、より慎重な評価が必要。

これは新規の二枝ブロックに加え、V2誘導にconcordant STEがある。
- concordantパターンでのST上昇(QRSと同方向のST上昇)
- 例:RBBBでV1–3にR′があるのに、同じ誘導でSTが上昇する。
- LBBBにおけるSgarbossa基準同様、**特異度が高く「ほぼ急性冠閉塞」**とみなしてよい。

- 過度のdiscordantパターンのST上昇
- Smith-modified Sgarbossaと同様の割合の概念を適用し、
- ST上昇が前のS波の25%超であれば「過度」と判断。
- RBBBにもこの比例性の考え方を応用し、二次性変化の範囲を超えるST変化を検出する。
- Smith-modified Sgarbossaと同様の割合の概念を適用し、

- 前壁以外の連続誘導でのST上昇
- II・III・aVF(下壁)、V5–6やI・aVL(側壁)で明確なST上昇があり、RBBBによる二次性変化では説明できない場合。
- 相互性ST低下(reciprocal change)
- 対向誘導でのST低下は真のSTEMIを強く支持。
- 連続ECGでの動的変化
- ST変化の進展や新たなQ波出現などは、急性閉塞の可能性を高める。
RBBB時にACS以外の疾患を示唆する所見
RBBB+以下の特徴がある場合、Brugada、ARVCなど他の病態も考慮すべきである。
- Brugadaパターン
- QRSは典型的RBBBほど広くない。
- V1–3でcoved型またはsaddleback型のST上昇(>2 mm)、陰性T波。

- ARVC/右室拡大
- V1–2 での局所的 QRS 延長、不完全 RBBB 様パターン。
- 終末 R′ は低振幅で、典型 RBBB ほどシャープでない。
- V1–3 の QRS 終末に小さな陽性偏位 epsilon 波(ARVC の所見として有名)。
- 完全 RBBB がなくても、V1–3〜V4–V5 にかけて広い T 波陰転があると ARVC の主要基準となる。

- QRS幅 >140 ms
- 追加の伝導障害や著明な心室肥大などを示唆。
ここでも、心エコー、MRI、Holter、血液検査などを組み合わせて、ACS以外の原因を精査することが推奨されている。
RBBBのECG効果:期待される像と異常像
RBBB存在下でACS/閉塞を疑うべきECG所見
| ECG項目 | STEMI/ACS を示唆する異常(高リスク) | 偶発的・非虚血性 RBBB で期待される所見 |
|---|---|---|
| QRS形態 |
新規 RBBB+胸痛・虚血症状があれば STEMI equivalent とみなす。 QRS 幅の急な延長や断片化が出現すれば急性変化を疑う。 |
V1–2 で安定した rsR′/rSR′ パターン、QRS ≥120 ms の広い QRS が過去 ECG と同様に持続し、形も幅も変化しない。 |
| V1–3 の ST 上昇/T波 |
V1–3 で ST 上昇がQRSと同方向(コンコーダント)、または 2 mm を超えるような明らかな ST 上昇があれば OMI を強く疑う。 ディスコーダンスが消失し、T波が陽転するような変化も危険サイン。 |
V1–3 では、終末 R′ と逆向きの 軽度の ST 低下とT波陰転 が見られる。 いわゆる「適切なディスコーダンス」で、通常は 1–2 mm 以内・経時的に安定している。 |
| 他誘導の ST 変化 | 下壁(II, III, aVF)または側壁(I, aVL, V5–6)など、連続する2誘導以上で明らかな ST 上昇がある場合は、RBBB では説明できない原発性 ST 上昇として STEMI を強く示唆する。 |
明らかな原発性 ST 上昇はみられない。 あっても軽度で非特異的な二次性変化にとどまり、経時的変化に乏しい。 |
| 相互性 ST 変化(reciprocal changes) | 例:前壁 ST 上昇に対する下壁の ST 低下など、対向誘導での ST 低下が明瞭な場合、真の STEMI を強く支持する。 | ST の相互性低下はみられないか、ごく軽度である。明らかな reciprocal depression がない。 |
| 比例性(proportionality) | 過度のディスコーダンス:どの誘導でも ST 上昇が直前の S 波の 25% を超える場合、二次性変化では説明できず OMI を強く示唆する(Sgarbossa/Smith 基準の考え方)。 |
比例したディスコーダンス:ST 変化は S 波の 25% 未満で、絶対量も通常 1–2 mm 以内に収まる。 RBBB に伴う典型的な再分極変化と考えられる。 |
| 軸・二枝ブロック | RBBB+左軸偏位(LAFB)=二枝ブロック は、近位 LAD 閉塞や予後不良と関連し、OMI を強く疑う所見である。 |
孤立 RBBB の多くは軸がほぼ正常範囲にあり、明らかな軸偏位は伴わない。 軸異常があれば何らかの脚枝ブロックの合併を疑うべきである。 |
- V1–3のST-T変化
- STEMI疑い:
- ST上昇(コンコーダント、または過度なディスコーダンス)、V1–3のT波が陽転し「RBBBらしさが失われる(discordanceの消失)」など。
- 非虚血性:
- QRSに対して適度なディスコーダントST低下・T陰転(通常 <1–2 mm)。
- STEMI疑い:
- その他誘導でのST変化
- STEMI疑い:
- 下壁・側壁の連続誘導で明瞭なST上昇+相互性ST低下。
- 非虚血性:
- 明らかなST上昇なし。二次性変化があるとしても軽度かつ安定。
- STEMI疑い:
- 比例性(proportionality)
- STEMI疑い:
- ST偏位がS波の25%を超える「過度なディスコーダンス」。
- 非虚血性:
- ST偏位はS波深さの25%未満にとどまる。
- STEMI疑い:
- 軸・二枝ブロック
- STEMI疑い:
- RBBB+左軸偏位(LAFB)=二枝ブロック。
- 非虚血性:
- RBBBで軸が正常範囲内。
- STEMI疑い:
- ガイドラインの位置付け
- 観察研究・メタ解析の結果
- 症例報告・FOAMed ECGコレクション
- 近位LAD閉塞がRBBB+微妙なST変化のみで表現される症例が少なくない。
- これらは、RBBBの「二次性変化」に紛れて見逃されやすく、低い閾値で冠動脈造影を行うべきであることを示している。
- アルゴリズムの実際
- 胸痛/虚血症状の患者に対し、
- まずRBBBの有無と典型的パターンを確認。
- 新規/推定新規RBBBならそれだけでSTEMI equivalentとして扱う。
- 典型的RBBB像に加え、
- 新規二枝ブロック
- V1–3のST上昇
- 非RBBB誘導でのST上昇
- 過度のディスコーダントST上昇
- subtleなST変化と相互性変化
のいずれかがあれば、STEMI equivalentとして再灌流ルートへ。
- 一方、明らかなST変化が乏しく、臨床的にも虚血が薄ければ、肺塞栓・肺高血圧・心筋症・先天性心疾患など他の原因を評価する。
- 胸痛/虚血症状の患者に対し、

研究の限界と今後の課題
- 現在のエビデンスは多くが観察研究・レジストリ・症例報告であり、RBBBをターゲットとしたランダム化試験は存在しない。
- Sgarbossa/Smith基準はLBBB・ペーシングリズムを対象に開発されており、RBBBに対する外挿は概念的には妥当だが、形式的な検証は行われていない。
- したがって、
徐脈
Pearls and Pitfalls: Severe Bradycardia
徐脈の実践的な鑑別とマネジメントをまとめた総説。やっぱりアトロピンはあんまり使わんよな~。

疫学・病態生理
序論
- 成人の洞性徐脈は通常60 bpm未満を指すが、50 bpm前後でも状況次第では不安定となる。
- 一方、スポーツマンやβ遮断薬内服中の患者では、50 bpm前後の洞性徐脈はしばしば生理的であり、症候も伴わない。
- したがって、「数字としての心拍数」ではなく、症状や血行動態(意識、血圧、尿量など)を重視すべし
疫学
- 一般人口における徐脈の有病率は0.5〜2%。
- 洞結節機能不全は65歳以上の心疾患患者(冠動脈疾患、心不全、AFなど)で約600人に1人という頻度で見られる
- ペースメーカー植込みの約半数が洞結節機能不全に起因する。
刺激伝導系と徐脈の病態生理
- 洞結節は特殊心筋細胞とイオンチャネル・ギャップジャンクションから構成され、自動能を有する。
- 加齢により洞結節内部のコラーゲン含量が増加し、線維化して徐脈・洞機能低下を来す。
- 洞結節への血流は主に右冠動脈、あるいは左回旋枝から供給されるため、下壁虚血(とくにRCA閉塞)で洞不全・房室ブロックが出やすい。
- 心拍数が大きく低下すると、心房・房室接合部・心室の「二次ペースメーカー」によるescape rhythmが出現しうるが、そのレートは一般に遅く、心拍出量を十分に保てないことが多い。
- 血圧は「心拍出量 × 末梢抵抗」で決まるため、著しい徐脈でも交感神経亢進により一時的に血圧が保たれることがある。
- しかし心拍出量は低下しているため、このような「血圧が高い徐脈」に降圧薬を投与すると循環虚脱を招く危険がある
原因
洞結節機能不全(SND)
- 含まれる病態:
- 洞性徐脈
- 洞停止 / 洞房ブロック(P波が一時的に消失し、その後escape rhythmが出ることも)
- Tachy-brady症候群:AFや心房粗動などの頻脈発作と洞停止・徐脈が交互に出現。
- chronotropic incompetence:運動負荷時に目標心拍数の80%に達しない。
- 洞停止では、SA結節が完全に活動を止めると、下位ペースメーカー(房室接合部・His束)からescape rhythm(狭QRS: 45–60 bpm、あるいはwide QRS: 30–45 bpm)が出現する。
- 稀にescapeも出ないと心停止(心静止)に至る。
房室ブロック
- 1度房室ブロック
- 2度房室ブロック Mobitz I(Wenckebach)
- 2度房室ブロック Mobitz II
- PR間隔は一定だが、突然P波が伝導しなくなりQRSが脱落。
- His束〜脚レベルの障害であることが多く、突然の完全房室ブロックへの進展リスクが高い危険な病態。
- 特に2:1伝導の場合、Mobitz IかIIか判別困難なため、「II型とみなして慎重に扱うべき」
- 高度房室ブロック(high-grade)
- 3度房室ブロック(完全房室ブロック)
急性虚血・心筋梗塞
- 下壁・下側壁・下後壁梗塞では、迷走神経緊張亢進とRCA支配領域の虚血により洞性徐脈・房室ブロックが高頻度。
- 多くは梗塞発症6時間以内に出現し、アトロピンに良く反応。
- 6時間以降の徐脈・房室ブロックは、より持続的な虚血に起因するが、多くはAV結節の不可逆的壊死にまでは至らず、回復しうる。
- このタイプはアトロピンに反応しにくい。
- 前壁梗塞(LAD病変)は脚ブロック・三枝ブロックを介して遠位完全房室ブロックをきたし、予後不良。薬剤への反応も乏しい。
薬物中毒
- β遮断薬・Ca拮抗薬(非DHP)・ジギタリスが代表。
- それ以外にも、リチウム、アミオダロン、オピオイド、コカイン、抗てんかん薬など多彩な薬剤が原因となり得る。
- 多くは偶発過量や腎機能低下による蓄積で生じるが、自殺企図も含まれる。
- 薬物ごとに特異的・半特異的な治療(グルカゴン、高用量インスリン療法、ジゴキシン抗体、脂肪乳剤など)があるため、毒物コンサルトを積極的に行うべき
代謝異常(高K血症・BRASHなど)
- 高K血症
- BRASH症候群
- Bradycardia, Renal failure, AV blockade, Shock, Hyperkalemiaの頭文字。
- 軽微な誘因(脱水、薬剤増量など)→徐脈→心拍出量低下→腎血流低下→高K・薬物蓄積→さらに徐脈・ショックという悪循環。
- 夏季の脱水との関連を示唆する報告もあり、「β遮断薬/CCB+腎不全+高K+徐脈+ショック」の組み合わせはBRASHを疑うべき。
- その他:低K、Mg・Ca異常、低酸素、高CO₂、アシドーシス、重症肝疾患なども徐脈の原因となる。
内分泌・環境・神経・感染・リウマチ
- 甲状腺機能低下症
- 徐脈+1度AVブロックとして出現することが多い。
- 高度房室ブロックは稀だが報告があり、ホルモン補充で改善することが多い。
- 低体温
- 抵抗性徐脈の原因として重要。
- ECG上のOsborn波(J波)はほぼ100%感度で見られるが、特異度は約48%。
- 低体温が高K血症のECG所見をマスクしうる点に注意。低体温→横紋筋融解→腎不全→高Kという流れもあり得る。
- 神経学的原因
- 感染症・リウマチ性疾患
- Lyme心炎では心病変の約90%がAVブロック。
- ウイルス性心筋炎(コクサッキーB、パルボB19など)、梅毒(第三期)でも伝導障害。
- RA、強皮症、多発筋炎・皮膚筋炎、ANCA関連血管炎、Behçetなどで稀に徐脈・ブロック。
| カテゴリ | 要因 |
|---|---|
| 薬剤(Medications) | α2作動薬:clonidine, guanfacine, tizanidine, dexmedetomidine |
| α遮断薬:prazosin | |
| コリン作動薬:neostigmine | |
| β遮断薬:β遮断薬全般(amiodarone および timolol 眼科用点眼を含む) | |
| カルシウム拮抗薬:diltiazem, verapamil | |
| Digoxin | |
| 抗不整脈薬(クラス1A/1B/1C): | |
| ・洞結節機能軽度低下を「しばしば」悪化させる:flecainide, propafenone, sotalol | |
| ・洞結節機能軽度低下を「ときに」悪化させる:digoxin, quinidine, procainamide, disopyramide, moricizine | |
| ・洞結節機能軽度低下を「まれに」悪化させる:lidocaine, phenytoin, mexiletine, tocainide | |
| 抗てんかん薬:carbamazepine, lacosamide, phenytoin | |
| その他:抗ヒスタミン薬、抗うつ薬、lidocaine、lithium、methadone、phenothiazines、propofol infusion syndrome、remdesivir、ropinirole、sugammadex、ticagrelor | |
| 心血管性原因(Cardiovascular causes) | 心筋梗塞(MI):洞結節を巻き込む下壁梗塞(右冠動脈支配領域) |
| 房室ブロック:房室結節虚血を伴う下壁MI、脚ブロックなど伝導障害を伴う前壁MI | |
| 代謝異常(Metabolic factors) | 電解質異常:高K血症(とくにBRASH症候群)、低K血症、高Mg血症、低Ca血症 |
| 甲状腺疾患:甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症 | |
| その他:副甲状腺機能亢進症、低体温、尿毒症、重篤な低酸素血症、高二酸化炭素血症、アシドーシス、進行した肝疾患 | |
| 迷走神経性原因(Vagally mediated causes) | 迷走神経反射:頸動脈洞症候群、血管迷走神経性失神、嘔吐、いきみ、排尿、挿管 |
| 緑内障(眼圧上昇に関連した反射など) | |
| 頸部異常:リンパ節腫脹、腫瘍 | |
| 訓練されたアスリート:高い安静時迷走神経緊張(高vagal tone) | |
| 神経学的状態(Neurologic conditions) | Cushing反射(頭蓋内圧亢進)、神経原性ショック、てんかん発作(ictal bradycardiaなど) |
| 感染症(Infections) | Lyme病、梅毒、大動脈弁感染性心内膜炎(ring abscess)、心筋炎、ウイルス感染(CMV、インフルエンザH1N1など) |
| 膠原病・リウマチ性疾患(Rheumatologic disorders) | 全身性エリテマトーデス(SLE)、強皮症、関節リウマチ、多発筋炎、皮膚筋炎、好中球性多発血管炎(granulomatosis with polyangiitis) |
| 遺伝性疾患(Genetic disorders) | Duchenne型筋ジストロフィー、特発性/老年性洞結節機能不全(高齢者) |
| 浸潤性疾患(Infiltrative diseases) | アミロイドーシス、ヘモクロマトーシス、サルコイドーシス |
| 外傷性・医原性(Traumatic/iatrogenic) | 外傷:心筋挫傷、心臓手術後、腹腔内損傷 |
| 手技関連:TAVR、電気生理学的治療、肺動脈カテーテル留置など | |
| 医原性原因(Iatrogenic causes) | 心臓外科手術:術後回復期(多くは5日以内に自然軽快) |
| 電気生理学的手技:TAVR、アルコール中隔焼灼術、肺動脈カテーテル留置など | |
| その他(Miscellaneous) | たこつぼ心筋症、遺伝性神経筋疾患(myotonic dystrophy)、特発性線維硬化症(Lev病[高齢者]、Lenegre病[若年者]など) |
救急外来での評価
- まずバイタルと血糖:ショック、低体温、低血糖などの即時介入事項を検出。
- 12誘導ECGが最重要であり、徐脈の機序(洞徐脈か、房室ブロックか、escape rhythmか)、虚血変化、高K所見などを確認する。
- 検査パネルは「疑った病態」に応じて取るべきであり、ルーチンでフルセットを出しても診断効率が上がるという証拠はないと明言している。
- ペースメーカー患者では胸部X線でリード断線・位置異常の確認。
- 頭蓋内出血や腹腔内出血を示唆する所見がなければ、画像検査のルーチン実施は有用性が低い。
初期薬物治療
アトロピン
- 2020年AHAアルゴリズムでは1 mg IVを3〜5分ごと、最大3 mg。
- 低用量では逆に徐脈を悪化させる二相性作用(0.5 mg未満)に注意。
- 有効例は主に迷走神経性徐脈や下壁梗塞に伴う房室結節レベルのブロックであり、高度房室ブロックや代謝性原因(高K、低体温など)にはほとんど無効。
- 心移植後には禁忌。
- 実臨床では、アトロピンを投与しつつ、エピネフリン持続点滴とTCPを同時に準備することが推奨される。
- 周術期・ショックに準じる「dirty epi drip」を作るとよい。
- 1 mgエピネフリンを1 L生食に混和 → 1 μg/mL
- 20 mLボーラス=20 μg(push-dose):20–50 μg IV をボーラス投与、ごく短時間で血圧と心拍数を持ち上げて、循環を「立て直す」までのつなぎとして使用する
- 60 mL/h = 1 μg/min, 120 mL/h = 2 μg/min, 600 mL/h = 10 μg/min:2–10 μg/min の範囲で持続点滴
- ボーラス(push-dose epinephrine)
その他の薬剤
- ドパミン:5–20 μg/kg/minで使用。高用量では血管収縮・不整脈リスクが上昇。
- イソプロテレノール:ボーラス+1–20 μg/min持続だが、冠動脈狭窄では「coronary steal」(β2により健常な冠動脈が強く拡張し、狭窄部を通る流量が相対的に減少)の懸念。
- アミノフィリン/テオフィリン:心移植後、下壁梗塞後、脊髄損傷、頸動脈洞症候群、チカグレロル誘発徐脈など特定状況で検討。
- カルシウム:高K、低Ca、高Mg、CCB中毒などで必須。
- 高用量インスリン療法:重度CCB/β遮断薬中毒の場合。
- 脂肪乳剤:局所麻酔薬中毒による徐脈・ショック。
| 薬物・毒物 | 解毒薬・治療 |
|---|---|
| β遮断薬(Beta blocker) | グルカゴン:5 mg 静注(IV)、10分ごとに反復投与可、最大3回まで |
| カルシウム拮抗薬(Calcium channel blocker) | ・カルシウムグルコン酸10%:30〜60 mL 静注(IV)・インスリン(regular):1 単位/kg ボーラス+0.5 単位/kg/時 で持続静注。低血糖を避けるため必要に応じてブドウ糖を補充 |
| ジギタリス(Digitalis/digoxin) | Digoxin immune Fab(DigiBind® または DigiFab®):経験的には10〜20バイアル投与。血中digoxin濃度が利用可能であれば、添付文書の用量ガイドに従う |
| オピオイド(Opioids) | ナロキソン:0.4 mg 静注(IV)。反応がなければ 2 mg 静注を追加 |
| 有機リン(Organophosphates) | アトロピン:2 mg 静注(IV)、3〜5分ごとに倍量ずつ追加し、肺分泌物がコントロール可能になるまで投与継続 |
| プラリドキシム(Pralidoxime, 2-PAM):2 g 静注(IV)を10〜15分かけて投与、6時間ごとに反復 |
ペーシング
ペーシング適応
- 薬物治療に反応しない症候性・血行動態不安定な徐脈。
- Mobitz II、高度房室ブロック、完全房室ブロックなど、突然の心停止リスクが高いブロック。
- 救急ではまず経皮ペーシングを行い、状態が落ち着き次第経静脈ペーシングへブリッジするという流れが基本。
経皮ペーシングの実践
- パッド配置
- AP(前後)配置:陰極を左胸骨傍(V3近傍)、陽極を左肩甲骨下;捕捉率が高いとする研究があり推奨。
- AL(前側方)配置:右前胸部+左側胸部。
- 肥満や意識障害ではAP配置が難しいが、可能ならAPを優先。
- 鎮静・鎮痛
- 出力設定と捕捉確認
- 合併症とトラブル
- 擬似ペーシング、捕捉失敗、疼痛、横隔膜捕捉(しゃっくり)、皮膚熱傷、ペースメーカー症候群など。
- 皮膚状態(汗・湿り・塩分・体毛)を整えることで接触インピーダンスを低下させ、必要電流を減らせる。
経静脈ペーシング
- 内頸静脈からのアプローチが最短・最直線経路で推奨。
- バルーン付きペーシングカテーテルを用いて、
- 位置不良・出力不足・線材不良などによる捕捉失敗に対しては、
- 合併症

典型的な洞性徐脈。成人で心拍数<60 bpm、各QRSの前にP波がありPR間隔は正常、その他の洞調律の条件を満たす。

洞停止(または洞房ブロック)。心房脱分極の失敗によりP波が出現しない一時的ないし持続的停止する。時に下位ペースメーカー(房室接合部など)のescape rhythmが出てくる。

洞不全症候群の一亜型であるTachy-Brady症候群、徐脈・洞停止と発作性心房頻拍(しばしばAF)が交互に出現する。

1度房室ブロック。PR間隔が0.2秒を超えて延長しているが、実際には伝導路に“ブロック”はなく、全てのP波がQRSに伝導している状態ではある。

Mobitz I(Wenckebach周期)型2度房室ブロック。PR間隔が拍ごとに徐々に延長し、ある時点でP波が心室に伝導せずQRSが脱落する。

Mobitz II型2度房室ブロック。PR間隔は一定のまま(正常または延長)、突然P波が伝導せずQRSが脱落する」「多くは脚ブロックを伴う広いQRSで、CHBへ急激進展の危険が高い」。

高度2度AVブロック(高位Mobitz II)。2つ以上の連続したP波が伝導しないパターンであり、広いQRS・心室レート20–40 bpm・前壁心筋梗塞に伴うことが多く、infra-Hisian起源でCHB進展リスクが高い。

完全房室ブロック(3度AVブロック)、上段の矢印がR波、下段の矢印がP波を示す。心房と心室が完全に独立して固有ペースメーカーで拍動し、P波とQRSの間に全く相関がない。QRS幅と心室レートはescapeの位置で決まる。
敗血症・感染症
Mimics
Clinical Mimics: An Emergency Medicine-Focused Review of Sepsis Mimics
sepsis mimicsとしてtable 3が効く。
「SIRS/敗血症のように見えるが、原因が感染ではない/主因ではない代表的疾患」のみまとめておく。
Anaphylaxis(アナフィラキシー)
なぜ敗血症に見えるか
- ヒスタミンなどのメディエーターにより全身性血管拡張 → 分布異常性ショックとなる。
- その結果、
- 低血圧
- 頻脈(代償性)
- 末梢温かいショック像
などが、「早期敗血症性ショック」と酷似する。
- 発症が急激なため、「急に血圧が下がった」「ぐったりしている」というだけでは、感染かアレルギーか区別しにくい。
敗血症との違い・鑑別ポイント
- 発熱はむしろ乏しい(論文中でも “Fever unlikely to be present” と記載)。
- 皮膚(蕁麻疹・紅斑・掻痒)や呼吸器症状(喘鳴・咽喉頭違和感)が強い。
- 既知のアレルゲン(薬剤、食物、蜂など)への暴露直後~数時間以内という時間的関連。
-
ショックの立ち上がりが非常に早く、「昨日から徐々に悪化」ではなく「30分前から急に」という経過が多い。
EDでのキーポイント
なぜ敗血症に見えるか
- 誤嚥性肺炎/誤嚥性肺障害は、
- 発熱
- SpO₂低下・呼吸数増加
- 白血球増多
を伴い、典型的な「肺炎性敗血症」に非常に似ている。
- 特に化学性肺障害(Mendelson 症候群など)は、誤嚥直後から呼吸不全になりうる。
鑑別のポイント
-
誤嚥性肺障害は、初期は発熱を伴わないこともある(炎症はあっても感染が成立していない段階)。
-
画像上、重力依存部位の浸潤影(右下葉優位など)を示すことが多い。
EDでの考え方
-
誤嚥直後~数時間の呼吸不全は、必ずしも「細菌性肺炎」ではない。
- 抗菌薬は必要になることが多いが、誤嚥のタイミングと症状出現の時系列を整理することで、
- 化学性肺障害+二次性感染
- 純粋な肺炎
を意識しておくべきである。
Adrenal Insufficiency(副腎不全)
なぜ敗血症に見えるか
鑑別のポイント
-
消化器症状(腹痛、嘔気・嘔吐)、長く続く倦怠感・体重減少などの慢性的な背景症状。
-
感染源(LUCCAASS で探索)が見つからず、ステロイド投与で急速に循環が改善する場合、副腎不全を強く疑う。
EDでのキーポイント
Diabetic Ketoacidosis(DKA)
なぜ敗血症に見えるか
-
- 頻呼吸(Kussmaul 呼吸)
- 頻脈
- 低血圧(脱水)
- しばしば発熱
など、「重症感染症」のようなバイタルになる。
- 白血球増多や脱水による BUN/Cr 上昇も、敗血症でよく見る所見である。
鑑別のポイント
-
血糖値、血液ガス(代謝性アシドーシス)、ケトン(血中・尿中)の確認でほぼ診断可能。
-
誘因として感染が最多であり、
-
「感染+DKA」
という二重の病態も多い点に注意が必要である(単なる mimic として片付けられない)。
-
EDでのキーポイント
Heat Emergency(熱中症・熱緊急症)
なぜ敗血症に見えるか
- 高体温・頻脈・頻呼吸・意識障害・ショックなど、典型的な SIRS 像を呈する。
- 特に熱射病(heat stroke)は、多臓器不全・DIC を合併しうる点で、重症敗血症とほぼ区別がつかないレベルになる。
鑑別のポイント
- 高温環境・運動・脱水・薬剤(抗コリン薬など)といった環境・行動歴。
- 論文でも強調されているが、末梢体温ではなく中枢温(直腸温など)の測定が必須である。
- 多くは急速な発症(活動中に突然 collapse)である。
EDでのキーポイント
-
高体温患者を「すべて感染」と見なさず、環境要因と発症シチュエーションの聴取をする。
-
熱射病であれば、冷却(蒸発冷却・全身冷水浸漬など)+輸液が最優先で、抗菌薬は後回しでも構わないケースが多い。
Hypovolemia(低容量状態)
なぜ敗血症に見えるか
- 出血・脱水・第三腔へのシフトなどによる循環血液量減少は、
- 頻脈
- 低血圧
- 末梢冷感
- 高乳酸
を引き起こし、ショックとしては敗血症と区別がつきにくい。
鑑別のポイント
-
吐下血・下痢、利尿薬使用、大量発汗など、体液喪失の明らかな原因の有無。
-
身体所見:口腔内乾燥、皮膚ツルゴール低下、平坦な頸静脈など。
-
体液喪失を補正すると、比較的速やかに血圧・バイタルが改善することが多い。
EDでのキーポイント
- 敗血症患者も低容量になっていることが多いため、両者は排他的ではない。
- 「肺炎だろうが何だろうが、まずは低容量を補正しないと見えてこない」ことを論文は強調しており、
- 早期輸液で反応をみること自体が診断にも治療にもなる。
Pulmonary Embolism(肺塞栓症)
なぜ敗血症に見えるか
-
呼吸困難・頻呼吸・頻脈・低酸素血症は、肺炎・敗血症でも見られる。
-
論文では、38℃以上の発熱や白血球増多を伴う PE が一定割合で存在することが紹介されており、
-
「発熱+呼吸困難=肺炎」と短絡すると PE を見逃す。
-
鑑別のポイント
- 典型症状:突然の呼吸困難、胸痛(胸膜炎性)、失神など。
- リスク:長期臥床、手術後、悪性腫瘍、経口避妊薬、妊娠など。
-
Wells score, Revised Geneva score, PERC などを用いた事前確率の評価が重要。
EDでのキーポイント
-
「肺炎っぽいが画像で局在がはっきりしない」「酸素化が不釣り合いに悪い」場合は PE を考える。
-
抗菌薬投与だけで安心せず、呼吸・循環が不安定なら PE を常に頭の片隅に置く。
Pancreatitis(急性膵炎)
なぜ敗血症に見えるか
鑑別のポイント
-
典型的腹痛(心窩部〜左上腹部の持続痛、背部へ放散)。
-
リパーゼ(あるいはアミラーゼ)正常上限の3倍以上。
-
CT での膵周囲炎症所見など。
EDでのキーポイント
-
敗血症様ショックでも、腹痛の詳細と膵酵素をチェックするだけで大きく診断が変わる。
-
治療は主として輸液・疼痛管理・重症度評価(APACHE, BISAP)であり、
-
感染性合併症がなければ抗菌薬は不要なことも多い。
-
Intestinal Ischemia(腸管虚血・虚血性腸炎)
なぜ敗血症に見えるか
-
腸管の虚血・壊死は、腸管内細菌や毒素の漏出 → 強い SIRS → ショックを引き起こす。
-
発熱・白血球増多・乳酸高値など、敗血症の所見がそろう。
鑑別のポイント
-
古典的所見:触診所見に比して痛みが非常に強い(pain out of proportion)。
-
高齢、心房細動、動脈硬化、低血圧エピソードなどのリスク。
-
造影 CT での腸管造影不良、腸間膜血栓など。
EDでのキーポイント
-
「敗血症性ショック」として抗菌薬だけ投与すると、診断が遅れて致死率が跳ね上がる(未治療で死亡率 80% 以上)。
-
強い腹痛+乳酸上昇+リスク因子があれば、外科・血管外科との早期相談が必須。
Thyroid Disease(甲状腺ストーム/粘液水腫性昏睡)
なぜ敗血症に見えるか
-
甲状腺ストーム:
- 高熱
- 頻脈(しばしば心房細動)
- 下痢・嘔吐などの GI 症状
- せん妄・興奮などの神経症状
により、典型的な「敗血症+循環不全」に見える。
- 粘液水腫性昏睡:
- 低体温
- 低血圧
- 意識障害
- 低Na
といったショック像で、これも感染と紛らわしい。
鑑別のポイント
-
甲状腺ストーム:Burch & Wartofsky スコアなどで評価可能。
EDでのキーポイント
- 「感染源がぱっとしない高熱+強い頻脈(とくに AF)」では、甲状腺ストームも常に鑑別に入れる。
- 治療の優先順位が、
Toxic Ingestion / Overdose(中毒・薬物過量)
なぜ敗血症に見えるか
-
交感神経刺激薬中毒:
- 頻脈、高血圧、高体温、発汗、散瞳、興奮など → SIRS そのもの。
- 抗コリン薬中毒:
- 高体温、皮膚乾燥、散瞳、せん妄 → 「原因不明の発熱+精神症状」。
- サリチル酸中毒:
- 頻呼吸、代謝性アシドーシス+呼吸性アルカローシス、脱水による頻脈など ≒ 敗血症。
- セロトニン症候群:
-
高熱、頻脈、筋強剛・ミオクローヌス、意識変容 → 敗血症・髄膜炎と非常に類似。
-
鑑別のポイント
EDでのキーポイント
Withdrawal State(離脱:アルコール・ベンゾ・オピオイドなど)
なぜ敗血症に見えるか
鑑別のポイント
-
大量飲酒歴・ベンゾジアゼピン長期使用歴・直近の断薬など。
-
以前の離脱歴(DT など)。
-
発熱はあっても軽微なことが多く、感染源が乏しい。
EDでのキーポイント
-
「不穏で汗びっしょり、頻脈の患者」がいると、うつろに「敗血症かも」と思ってしまうが、
- 実は離脱で、ベンゾジアゼピン+補液が第一選択というケースも多い。
-
もちろん、離脱と感染の併存もあり得るので、両方を意識して評価する。
Vasculitis(血管炎)
なぜ敗血症に見えるか
-
血管炎は慢性的な全身炎症疾患で、
- 発熱
- 倦怠感
- 体重減少
- 関節痛・筋痛
などの非特異的症状を伴う。
-
白血球増多、CRP・ESR 高値など、「慢性敗血症?」と誤認されやすい。
鑑別のポイント
-
皮疹(紫斑、網状皮斑など)、末梢神経障害、腎障害など、血管炎特有の所見。
-
ステロイド・免疫抑制薬の使用歴(これにより感染リスクも増えている)。
-
感染源が見当たらないのに炎症が持続している場合は、膠原病・血管炎を必ず検討する。
EDでのキーポイント
- 敗血症疑いで入院→培養陰性・抗菌薬に反応しない → 血管炎だった、というケースは現実にある。
- ED では definitive な診断までは求められないが、「これは本当に感染か?」と一度立ち止まる視点が重要である。
なぜ敗血症に見えるか
-
インフルエンザ、麻疹、アルボウイルス、HIV など重症ウイルス感染は、
-
高熱
- 頻脈
- 頭痛・筋痛
- 呼吸器症状
を伴い、しばしば入院レベルの SIRS となる。
-
-
細菌感染と区別がつかないことも多い。
鑑別のポイント
-
接触歴・流行状況・渡航歴・動物・蚊などへの曝露歴、性行動歴、ワクチン歴。
-
典型的なインフルエンザ症状(急な高熱・筋肉痛・乾性咳など)や発疹のパターン。
EDでのキーポイント
- 論文では、「ウイルス感染症も SIRS の重要な原因であり、特に抗ウイルス薬の適応がある疾患を見逃さないこと」が強調される。
- 一方で、「ウイルスだろう」で抗菌薬を完全に省略して良いかどうか」は患者ごとに異なるため、リスク評価が必要である。
Spinal Cord Injury(脊髄損傷)
なぜ敗血症に見えるか
-
頚髄・上位胸髄損傷では、交感神経遮断による神経原性ショックが起こり、
- 低血圧
- 徐脈(!)
- 体温調節障害(低体温)
を呈する。
- これに感染が合併すると非常にややこしくなるが、純粋な神経原性ショックのみでも「ショック+体温異常」として敗血症と混同されうる。
鑑別のポイント
-
外傷歴(交通事故・転落など)、四肢麻痺・感覚障害などの明らかな神経所見。
-
ショックなのに**徐脈(頻脈がない)**という、敗血症とは逆のバイタル。
EDでのキーポイント
-
若年男性の外傷患者で、低血圧+徐脈+四肢の運動感覚障害があれば、まず脊髄損傷を疑うべきである。
- 論文では、過剰輸液よりも早期の昇圧薬使用・脊髄灌流圧の維持が推奨されている点も触れられている。
腎臓
酸塩基平衡
メイロン使用に関する最新の総説。
生理学的背景と理論的枠組み
代謝性アシドーシスの自然な防御メカニズムの整理。
- 乳酸アシドーシスなどでは、乳酸イオン(Lac⁻)が増加し、SIDが低下してpHが低下する。
- これに対して、呼吸性代償として肺換気が亢進しPaCO₂が低下、腎性代償としては
このプロセスを
- 物理化学的モデル(Stewartアプローチ)では「SIDの変化」として、
- 重炭酸中心の伝統的モデルでは「HCO₃⁻↑/PaCO₂↓ → HCO₃⁻/PaCO₂比↑ → pH↑」として
それぞれ説明できる。
ポイント:
自然な代償が十分ならば、NaHCO₃投与が不要なケースも多く、本剤はあくまで「代償が追いつかない時や急速な補正が必要な時の補助」という位置づけ。
NaHCO₃投与のメカニズムと製剤ごとの違い
NaHCO₃を静注すると、
- NaHCO₃ → Na⁺ + HCO₃⁻ に解離し、
- Na⁺が強カチオンとして増え、対応する強陰イオンが増えないため、SIDが増加しアルカリ化が進行する。
- 同時に、HCO₃⁻濃度も上昇し、重炭酸モデルから見てもpH上昇が説明できる。
そして、製剤は大きく 高張(4.2〜8.4%) と 等張(約1.3%) に分かれる。
高張NaHCO₃
- Na濃度が最大約1000 mEq/Lと極めて高い。
- Na⁺濃度上昇によるSIDの急激な増加で、強力なアルカリ化作用を発揮する。
- ただし、
- Na負荷が大きい(Na過剰 → 高Na血症)
- 浸透圧の上昇(高浸透圧血症)
が避けられず、循環・脳浮腫・電解質バランスなどへの影響に注意が必要。
等張NaHCO₃
- Na⁺濃度は約154 mEq/Lと、生理食塩水に近い。
- pH上昇の主因は、Cl⁻の希釈によるSID増加であり、Na濃度自体は大きく変化しにくい。
- HCO₃⁻も増加するが、高張液に比べるとNa⁺/HCO₃⁻濃度が低いため、有意なアルカリ化にはかなりの投与量(=輸液量)が必要となる。
- その結果、循環血液量過剰・浮腫などの「容量負荷」のリスクが前面に出てくる。
CO₂生成という「見えにくい代償負担」
NaHCO₃の投与は、「酸のバッファー」として有用に見える一方で、CO₂生成を増やすという重要な側面を持つ。
反応式:
NaHCO₃ + H⁺ → Na⁺ + H₂CO₃ → Na⁺ + H₂O + CO₂
- H⁺と結合したHCO₃⁻は炭酸(H₂CO₃)を形成し、それが水とCO₂に分解される。
- したがって、酸を中和するたびにCO₂が増える。
- このCO₂を排出するには 一時的に肺胞換気を増やすことが不可欠 であり、換気予備能が乏しい患者では、
- PaCO₂上昇
- 頭蓋内圧上昇(脳病変合併例)
などのリスクが強調される。
特に心肺蘇生中や、既に高CO₂血症・重度肺障害を伴う症例では、このCO₂排泄が十分に行えないため、NaHCO₃投与は害が勝つ可能性が高いと考えている。
臨床エビデンスの整理
一般的な代謝性アシドーシス
- 重度アシドーシスでは心収縮力低下・カテコラミン反応性低下が懸念されるが、
- NaHCO₃投与後に血行動態が明瞭に改善したとする研究結果は一貫していない。
特定病態:乳酸アシドーシス・DKA
- 乳酸アシドーシス:循環虚脱や酸素供給不足など原因病態の是正(蘇生・血行再建)が主であり、NaHCO₃はこの代わりにならない。
- DKA:インスリン投与と輸液によるケトン体の抑制が本質的治療であり、NaHCO₃は例外的状況(非常に重度のアシドーシスなど)を除き一般には推奨されない。
心肺蘇生(心停止中のアシドーシス)
- 欧州蘇生協議会(ERC)のガイドラインでは、ルーチンのNaHCO₃使用は推奨されていない。
- 理由は、心停止中の極端に低い心拍出量と不十分な換気のため、生成されたCO₂を排出できず、細胞内アシドーシスをむしろ悪化させる懸念があるからである。
AKI関連アシドーシスにおけるNaHCO₃の位置づけ
最も詳細に論じられているのが、AKIを合併した重度代謝性アシドーシスである。
BICAR-ICU試験(Lancet 2018)
-
- 重度代謝性アシドーシス患者を対象にNaHCO₃投与 vs 通常治療を比較。
- 全体では死亡率の改善は示されなかった。
- しかし、事前規定されたAKIサブグループではRRT導入の減少が示唆された
BICARICU-2試験(JAMA 2025)
-
- 対象をAKI患者に限定しNaHCO₃投与を検証。
- 結果として、RRT利用の減少は再確認された一方で、生存率に有意な差は認められなかった。
著者らの総合的評価としては:
- 一貫しているシグナル:RRT導入の減少
- 確立していないアウトカム:死亡率改善
したがって、
AKIを伴い腎性代償が著しく障害された患者では、NaHCO₃は「腎回復やRRT開始までの橋渡し」として検討しうるが、長期予後改善を期待できるエビデンスはまだ不十分
という慎重な立場である。
実臨床での使い方:判断の観点と投与量
評価すべきポイント
NaHCO₃投与前に、少なくとも以下を評価すべきと述べている。
- 肺の代償能力
- CO₂生成増加に対応できる換気予備能があるか。
- ARDSや高CO₂血症、重度肺障害ではリスクが高い。
- 腎機能・代償能力
- 代謝性アシドーシスがどの程度AKIに起因しているか。
- 腎回復が見込めるまでの「一時しのぎ」として意味があるか。
- Na負荷・容量負荷・高浸透圧のリスク
- 既に容量過負荷や高Na血症、高浸透圧を認める患者では、特に高張NaHCO₃は慎重を要する。
- アシドーシスの重症度
- pH≤7.1程度の重度アシデミアで循環不安定・ショックを伴う場合には、慎重なNaHCO₃投与が現実的な選択肢になりうると記載されている。
用量とモニタリング
- 観察研究では、24時間あたり 中央値約110 mEq 程度の投与量が報告されている一方、
- RCT(BICAR系試験)では平均250〜375 mEq/日と、かなり多い投与が行われている。
著者らは、
- 「いくら上げるか」のターゲット(pHやHCO₃⁻目標値)を事前に決めておくこと
- 投与中は
- Na・Cl・浸透圧
- 体液バランス
- PaCO₂・pH
をこまめにモニターし、有害事象を予測的に管理すること
の重要性を強調している。
代替的アプローチ
- トロメタミン(THAM)などの代替バッファー
- 選択的Cl⁻除去を行う電気透析 といった新しいextracorporealアプローチ
も紹介されているが、これらはまだ研究段階(investigational)であり、広く実装されるにはさらなるエビデンスが必要とされる。
全体としての結論
- 代謝性アシドーシス治療の本丸はあくまで「原因の是正」である。
- NaHCO₃は
- 代償が追いつかない重度アシデミア
- 特にAKIを伴い腎性代償が障害された症例
において、慎重に用いればRRT導入を減らしうる補助手段ではある。
- しかし、
- 死亡率改善の確かなエビデンスはまだない
- CO₂生成・Na/容量負荷・高浸透圧といった予測可能な害を必ずモニターすべき
- 心停止・乳酸アシドーシス・DKAなど、多くの状況では、
- NaHCO₃は「第一選択」ではなく、むしろ慎重適応に限るべき薬剤
ARC
What every intensivist should know about augmented renal clearance (ARC)
ARCに関する総説。このまえ読んだINTENSIVISTではCrCl8時間で判断すると書いてあったけど、ここでは実務上の観点から4時間でもOKと記載がある。
Introduction(導入)
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42歳男性、穿孔性憩室炎のためにハルトマン手術を受けた。その後、 CTRX2g + MNZ500mg/dayを5日間投与された。day6に敗血症になり、CTで吻合部漏出が確認されたため、緊急開腹手術を受けた。血液培養でエンテロコッカス・フェシウムが陽性となったため、VCM20mg/kg負荷投与後、3000mg/24時間での持続静注を行った。それにもかかわらず、治療開始から2日目と3日目のバンコマイシン濃度は治療濃度未満のままであり、血液培養は陽性のままであった。こんなときになにを考えますか?
Why should I think of ARC?(なぜARCを意識すべきか)
-
ARCは、内因性物質や薬物の腎からのクリアランスが亢進している状態であり、
-
ICU患者ではもともと、血流動態の変化、毛細血管リーク、臓器不全などにより薬物の分布容積やクリアランスが変化しており、「適切な薬物曝露を得ること」が難しい。ここにARCが加わると、腎排泄薬のクリアランスがさらに増加し、治療目標濃度到達が一層困難になる。
-
観察研究のシステマティックレビューでは、ICU患者におけるARC頻度は 20〜65% と報告され、外傷性脳損傷患者では 最大85% に達する。
-
抗菌薬治療の観点からは、
-
すべての抗菌薬には治療効果・毒性に関連するPK/PD指標(目標濃度)があり、
-
βラクタムやバンコマイシンでその目標に達しないと 治療失敗や耐性化 と関連することが示されている。
-
-
症例のように、腹腔内深部感染で Enterococcus faecium を治療する場合、早期に十分な曝露を確保することが極めて重要であり、ARCによる「抗菌薬アンダードージング」は見過ごしてはならない問題である。
How can I identify ARC?(ARCの同定方法)
- 臨床的リスク因子の評価
- GFR推定式の限界
- CrCl測定(ゴールドスタンダード)
- ARC予測モデル
When should I think of ARC?(ARCをいつ疑うべきか)
-
ARCは以下のような状況で特に念頭に置くべきとされる:
-
症例のバンコマイシン低濃度も、ARCを示唆する「サイン」として解釈される。
What should I do with ARC?(ARCが疑われ/確認されたらどうするか)
- ARC認識とチームでの共有
-
まず、ICUチーム(特に集中治療薬剤師)がARC現象を理解し、リスク患者のフォローアップに関与することが重要と述べられる。
-
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ARCリスク評価とCrCl測定
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先述のリスク因子(若年、外傷、敗血症等)と CrCl4h を評価し、必要に応じ予測スコアを併用してARCの可能性を見積もる。
-
症例のような若年・敗血症患者では、入室早期からARCを強く疑うべきとされる。
-
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薬物投与量の個別化とTDM
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高用量レジメンと投与方法の最適化
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ARC患者では、標準投与ではMICの高い病原菌に対して目標濃度を維持できないことがあり、
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例:セフェピムを最大 6 g/日まで増量することで、高MIC菌に対するPK/PD目標を達成できたデータ、
-
例:セフトリアキソンで、翌日の十分な曝露確保のために 2 g 1日2回といった高用量が有用であったデータがある。
-
-
ARC持続期間は症例により異なり、長期間高用量が必要な場合もあるが、ARCが消退すると同じ用量で毒性リスクが増す。
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βラクタムは神経毒性、バンコマイシンは腎毒性を示しうるため、
-
-
初期24–48時間の考え方
-
投与スケジュールの工夫とMIPD
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βラクタム系では、時間依存性の抗菌薬であるため、
-
投与時間を延長したり、持続投与とすることにより、MIC以上の濃度を維持する時間(%fT>MIC)を最大化する戦略が推奨される。
-
-
さらに、ARCを考慮したPKモデルが整備されてきており、
-
MIPD(Model-informed Precision Dosing) によって、患者個々のCrCl4hやリスク因子を入力し、「最初の1回の用量から最適化」することが可能になりつつある。
-
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著者らは、ARCリスク患者ではMIPDを活用した「ファーストドーズ・ライト」が有用であると結論づけている。
-

Why should I think of ARC?(なぜARCを意識すべきか)
・実は頻度が高い:ICU全体で20〜65%、外傷性脳損傷では最大85%といった高い発生頻度
・腎排泄薬物のunder doseを招く:βラクタム系やバンコマイシンなど腎排泄型抗菌薬のクリアランスが亢進し、標準投与ではPK/PD目標(fT>MIC、AUC/MICなど)に到達しない
・治療失敗・耐性化のリスク:目標曝露に達しないことは、感染の遷延や耐性菌出現と関連しうる
How can I identify ARC?(ARCをどうやって見つけるか)
・eGFRでは不十分:Cockcroft–Gault式やCKD-EPIなど血清Crベースの推算GFRは、ARCを過小評価する ※個人的にはスクリーニングとして使ってはいます(正常腎機能として見逃されやすい)
・CrCl測定が鍵:ゴールドスタンダードは 24時間尿クレアチニンクリアランス(CrCl24h)だけど、実務上の観点から4時間尿採取によるCrCl4hも紹介されている
・予測モデルの利用:ARCTICスコア、ARCスコア、ARC predictor などの リスクスコア/オンライン予測ツール を用い、高リスク患者をベッドサイドでスクリーニングする
When should I think of ARC?(いつARCを疑うべきか)
・患者背景からみるタイミング:若年(<50歳)、外傷・外傷性脳損傷、敗血症、SIRS、妊娠、熱傷、血液悪性腫瘍、術後など、「一見腎機能が良さそう」な重症患者
・時間的な推移:ARCは動的な現象であり、約半数が ICU入室後3日以内 に出現、多くが 1週間以内 に発生。
・経時的なCrCl(特にCrCl4h)の測定で、発症タイミング・持続期間をフォローすべき(実際にやるかは別にして)
・薬物反応から逆算するタイミング:腎排泄型薬剤(特に抗菌薬)で、想定どおりの用量を投与しているのに効果が乏しい場合、TDMで「どうしても濃度が上がらない」場合
What should I do with ARC?(ARCをどう扱うか/どう対応するか)
・ARCリスクの認識・共有:集中治療医・ICU薬剤師・感染症専門医などチームでARCを共通認識として持つ。
・CrCl測定と継続的なモニタリング:リスク因子を持つ患者では、早期から CrCl4hを測定 し、その後も一定間隔で再評価してARCの発症・消退を追う。
・薬物投与量の調整:腎排泄型薬物、とくに βラクタム系抗菌薬・バンコマイシン について、標準用量では足りない可能性を前提に、高用量レジメン を検討。 βラクタムは延長点滴・持続点滴により、%fT>MICを確保する。 同時に、βラクタムの 神経毒性 やバンコマイシンの 腎毒性 を避けるため、βラクタム:濃度が >8×MIC を超えないよう注意、バンコマイシン:AUC/MIC>600 mg·h/L を超えないように調整・TDMとMIPDの活用:TDM(治療薬物モニタリング)を行い、実測濃度に基づいて適宜用量を微調整する。
・ARCリスクが高い患者では、最初から高めの用量+延長/持続点滴を選択することが正当化されうる