りんごの街の救急医

救急科専門医によるERで学んだことのまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

救急医のEvidenceブックマーク Weekly #9(20260117-20260123)

今週は循環器内科系統に傾きました。

・ER診療でACSを疑ったときにどう動くか?

・敗血症性心筋症を疑ったときにどのようにマネジメントするか?

 

そして、日本集中治療医学会雑誌に掲載された

「不可逆的全脳機能不全患者の集中治療マニュアル2025」

も必見です。

以前お世話になった聖隷浜松病院の当時の救急センター長の渥美先生が委員の1人でした!

 

 

循環器

ACS

Evaluating patients with chest pain in the emergency department

BMJからの、ERにおける胸痛患者の評価に関する総説。

疫学(Epidemiology)

  • 米国・欧州のデータを中心に、胸痛は救急外来受診理由の数%を占める。
  • しかし、胸痛で受診したすべての患者のうち、急性冠症候群である割合はその一部に過ぎない。
  • 入院率、ACSの頻度、予後などの疫学データが示され、
    • 多くの患者が「非心原性胸痛」あるいは「心筋障害だがタイプ1心筋梗塞ではない」カテゴリーに属する
    • にもかかわらず、医療現場ではしばしば過剰検査・過剰入院が行われている

鑑別診断

  • 鑑別診断は大きく
    • 心血管(ACS、心膜炎、大動脈解離など)
    • 呼吸器(肺塞栓、気胸、肺炎など)
    • 消化器(胃食道逆流症、食道破裂、胆道疾患など)
    • 筋骨格・神経障害
    • 心因性
      などに分類されている。
  • まず生命に関わる疾患を最優先で除外し、その後に頻度の高い良性疾患を考慮するというアプローチがよい

初期評価(Initial evaluation)

病歴と身体診察

  • 病歴では、
    • 痛みの性状(圧迫感、焼けるような痛み、鋭い痛みなど)
    • 部位と放散(左腕、顎、背部など)
    • 持続時間と誘因(労作、安静時、呼吸による変化)
    • 既往歴(冠動脈疾患、糖尿病、高血圧、喫煙など)
    • 危険因子(家族歴、脂質異常症など)
      を系統的に聴取する。
  • ただし、症状だけでACSを完全に鑑別することは困難であり、典型的な症状がなくてもACSである可能性は残る。
  • 身体所見は心不全徴候、血圧左右差、心雑音、胸壁圧痛、呼吸音異常など、緊急性の高い病態を示唆する所見に注目する。
カテゴリ / 項目 急性冠症候群を支持する 陽性LR(95%CI) 急性冠症候群ではないことを支持する 陰性LR(95%CI)
危険因子(Risk factors)    
既往の異常負荷試験 3.1(2.0〜4.7)  
末梢動脈疾患 2.7(1.5〜4.8)  
冠動脈疾患 2.0(1.4〜2.6) 0.75(0.56〜0.93)
既往心筋梗塞 1.6(1.4〜1.7)  
糖尿病 1.4(1.3〜1.6)  
脳血管疾患 1.4(1.1〜1.8)  
男性 1.3(1.2〜1.3) 0.70(0.64〜0.77)
高脂血症 1.3(1.1〜1.5) 0.85(0.77〜0.93)
高血圧 1.2(1.1〜1.3) 0.78(0.72〜0.85)
喫煙 1.1(0.9〜1.3)  
冠動脈疾患の家族歴 1.0(0.9〜1.2)  
胸痛の特徴(Chest pain characteristics)    
両上肢への放散 2.6(1.8〜3.7)  
既往の虚血時と類似する痛み 2.2(2.0〜2.6) 0.67(0.60〜0.74)
24時間以内のパターン変化 2.0(1.6〜2.5) 0.84(0.79〜0.90)
典型的胸痛 1.9(0.94〜2.9) 0.52(0.35〜0.69)
労作で増悪 1.5〜1.8 0.66〜0.83
頸部または顎への放散 1.5(1.3〜1.8)  
同様の痛みの最近のエピソード 1.3(1.1〜1.4) 0.80(0.71〜0.90)
左上肢への放散 1.3(1.2〜1.4)  
発汗を伴う 1.3〜1.4  
呼吸困難を伴う 1.2(1.1〜1.3)  
ニトログリセリンで改善 1.1(0.93〜1.3)  
いずれかへの放散あり(総称) 1.0〜5.7 0.78〜0.98
胸膜炎様胸痛(吸気・体位で増悪)   0.35〜0.61
身体所見(Physical exam)    
低血圧(収縮期血圧<100 mmHg) 3.9(0.98〜15)  
肺ラ音 2.0(1.0〜4.0)  
頻呼吸 1.9(0.99〜3.5)  
圧迫で再現される胸痛   0.28(0.14〜0.54)

心電図(ECG)

  • 受診後できるだけ早期に、12誘導心電図を記録することが推奨される。
  • STEMIの診断基準(持続するST上昇、あるいは新規左脚ブロックなど)は知っておくこと
  • NSTE-ACSでは、
    • 一過性のST低下
    • T波陰転
    • 非特異的変化
      などが見られうるが、正常ECGだからといってACSを否定できない点に注意

高感度心筋トロポニン(hs-cTn)

  • 高感度トロポニンアッセイの技術的定義と指標は以下の通り
  • hs-cTnアッセイにより、健常者の多くで測定可能な低濃度トロポニンを捉えられるようになり、
    • 早期のルールアウト
    • 低リスク患者の早期退院
      が可能となった。
  • 一方で、多様な非虚血性疾患でもトロポニンが上昇するため、「ACSかどうか」は臨床文脈と合わせて解釈する必要がある。

トロポニン上昇原因の分類

  • トロポニン上昇の原因として:
    1. 急性心筋梗塞(タイプ1)
    2. 心筋虚血によるがプラーク破綻ではないタイプ2心筋梗塞
      • 冠血流供給の低下:冠攣縮、微小循環障害など
      • 酸素需要増大:頻脈、重度貧血、高血圧性危機など
    3. 非虚血性心筋障害
      • 心不全、心筋炎、心筋症
      • 肺塞栓、敗血症、腎不全
      • 侵襲的手技や心臓手術後、電気ショック後など
  • これらを踏まえ、「トロポニンが上がった=即ACS」ではなく、「心筋障害の存在」としてまず捉えることが重要。

 

※トロポニンの解釈には、検査に使う用語を知らないと解釈できないので、Box 1より

用語 略語 定義・内容(要約)
変動係数 CV(coefficient of variation) 一定レベルの検体を繰り返し測定したときの再現性を表す統計学的指標。アッセイの一貫性を示す。
ブランク限界 LoB(limit of blank) 実際にはトロポニンを含まないブランク試料を繰り返し測定したときに得られる「見かけ上の」濃度の最大値。この値まではトロポニンがなくても測定結果として出得る。
検出限界 LOD(limit of detection) トロポニンが「検出された」と信頼してよい最小濃度。常に LoB より高い。
定量下限 LOQ(limit of quantification) CV が 20%以下となる最小濃度。常に LOD より高い。LOD では精度が十分でないことがあるが、LOQ では精度(例:CV ≤20%)が保証されるため、一部の規制当局では LOQ 未満の値は報告不可。
99パーセンタイル/上限基準値 99th percentile, URL(upper reference limit) 健常基準集団で測定値の 99%がこの値より下にあるカットオフ。これ(URL)を超える値は異常とみなされる。
高感度心筋トロポニンI hs-cTnI high-sensitivity cardiac troponin I を指す。
検出可能だが高値ではない hs-cTn 値が LOQ より高いが、99 パーセンタイル URL 未満の hs-cTn。
hs-cTn の相対変化 相対Δ(relative change Δ) 連続測定間の hs-cTn の百分率変化。20%以上の変化は急性心筋障害を示唆しうる。基準区間の 50%を超える変化は生物学的に有意。99 パーセンタイル近傍の低濃度域では、相対Δより絶対Δの方が急性障害に対して特異度が高い。
hs-cTn の絶対変化 絶対Δ(absolute change Δ) 連続測定間の hs-cTn の変化量を ng/L で表したもの。99 パーセンタイル URL 近傍およびそれ未満の低濃度では、相対Δではなく絶対Δを用いることが推奨され、退院可否などの診断アルゴリズムでも絶対Δの使用が推奨される。

非侵襲検査と画像診断

一般的な検査オプション

  • よく用いられる解剖学的・機能的検査は以下
    • 冠動脈CT(CCTA)
    • ストレス心エコー
    • 核医学ストレスイメージング(SPECT、PET)
    • 負荷心電図
  • CCTAは中間リスク患者で冠動脈狭窄の有無を迅速に評価できるが、石灰化の強い患者や頻脈では限界があること、ストレスイメージングは虚血の機能的意義を評価できることなど、利点・欠点がある。
検査 選択基準 考慮事項 注意点・禁忌
心電図負荷試験(運動) ・年齢予測最大心拍数の≧85%まで運動可能・安静時心電図が正常 ・左室肥大・早期興奮・非特異的ST/T変化などがある場合は画像検査追加を検討・ジギタリス内服中・血行再建術の既往・虚血局在/心筋生存能評価が目的なら画像検査を併用 ・不安定な急性冠症候群・重度高血圧(安静時SBP>180mmHg)
ストレス心エコー(運動) ・年齢予測最大心拍数の≧85%まで運動可能 ・安静時に広範な左室壁運動異常がある場合は薬理ストレスを検討 ・ピーク運動後にトレッドミル→左側臥位へ素早い体位変更が必要・移動能力が乏しい患者では他の検査を検討
ストレス心エコー(薬理) ・十分な運動負荷ができない ・薬剤:ドブタミン±アトロピン・心筋生存能評価の第一選択となりうる ドブタミン禁忌:・心室不整脈の既往・過去2〜3日以内の心筋梗塞・不安定狭心症・有意な心室流出路閉塞・大動脈解離・重度全身性高血圧(安静時SBP>180mmHg)
ストレスSPECT(運動) ・年齢予測最大心拍数の≧85%まで運動可能 ・左脚ブロックまたは心室ペーシングがある場合は薬理ストレスを検討 ・特記すべき禁忌なし
ストレスSPECT(薬理) ・運動負荷ができない、または運動禁忌あり ・薬剤:レガデノソン(血管拡張薬)・検査48時間前からテオフィリン中止・検査12時間前からカフェイン中止 血管拡張薬禁忌:・気管支攣縮性呼吸器疾患・低血圧・洞不全症候群・高度房室ブロック/経口ジピリダモール治療中・けいれん性疾患※禁忌の場合はドブタミン負荷に代替可
ストレスPET(運動) ・年齢予測最大心拍数の≧85%まで運動可能 ・左脚ブロック、心室ペーシング、または広範な壁運動異常がある場合は薬理ストレスを検討 ・特記すべき禁忌なし
ストレスPET(薬理) ・心筋生存能および微小血管疾患の評価が必要 ・薬剤:レガデノソン(血管拡張薬)・検査48時間前からテオフィリン中止・検査12時間前からカフェイン中止 血管拡張薬禁忌:・気管支攣縮性呼吸器疾患・低血圧・洞不全症候群・高度房室ブロック/経口ジピリダモール治療中・けいれん性疾患※禁忌の場合はドブタミン負荷に代替可

検査の位置づけ

  • hs-cTnとリスクスコアによる評価で低リスクと判断された患者では、非侵襲検査を省略することも可能。
  • 一方で、
    • 中間リスク
    • 持続する症状
    • 既知の冠動脈疾患
      を有する患者では、これらの検査が予後予測と治療方針決定に役立つ。

ルールイン/ルールアウト・アルゴリズム

  • 高感度トロポニンの臨床的解釈アルゴリズムに沿って診療する。
    • 初回値が非常に低く、症状発現から一定時間経過している場合 → 即時ルールアウト
    • 初回値が高値、またはダイナミックな変化(Δ値)が大きい → ACSルールイン、入院・侵襲的評価を検討
    • 中間的な値・変化 → 追加採血(1時間後、2〜3時間後)や非侵襲検査でリスク評価
  • 各種連続トロポニン戦略(0/1時間、0/2時間、0/3時間など)の感度・特異度は以下の通り
    • いずれも短期の心筋梗塞・死亡に対して高い陰性的中率を持つことが示されている

 

アルゴリズム トロポニン サンプルサイズ(n) 感度(95%CI) 特異度(95%CI) 追加所見
Nomura ら 0/1 h hs-cTnI 7,235 99.3%(98.5〜99.7) 90.1%(87.0〜95.2) hs-cTnT を用いた戦略と診断能は同等。
European Society of Cardiology(ESC)0/1 h hs-cTnT 9,188 99.3%(96.0〜99.9) 91.7%(83.5〜96.1) 非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)のルールイン/ルールアウトに有効。
Burgos ら 0/1 h 各種 hs-cTn 19,213 99%(98〜99) 91%(91〜92) 尤度比:陽性 +11.6(95%CI 8.5〜15.8)、陰性 −0.02(0.01〜0.03)。AMI 有病率 11.3%。30日AMI 0.08%、死亡率 0.11%(ルールアウト群)、ルールイン群では死亡率 2.8%。
Engstrom ら 0/1 h vs 0/2 h 各種 hs-cTn 710 98.2% 特異度 96.3%(0/1 h)対 97.4%(0/2 h) AMI 発症率 7.9%。0/2 h アルゴリズムは 0/1 h より多くの患者をルールアウト(69.3% vs 66.2%)。ルールインでは、0/2 h の方が陽性的中率(73.4% vs 65.2%)と特異度(97.4% vs 96.3%)が高かった。
Ashburn ら 0/1 h ESC hs-cTnT 1,430 30日死亡またはMIに対する感度:CAD あり 93.2%、CAD なし 92.6% 30日死亡またはMIに対する特異度:CAD あり 90.0%、CAD なし 95.1% 患者の 31.4%がCADあり。30日死亡またはMIは全体で12.8%。CAD ありでは19.6%、CAD なしでは9.7%(p<0.001)。ルールアウト群では30日心血管死またはMIが、CADあり3.4%、CADなし1.1%(p<0.001)。30日心血管死またはMIのNPVは、CADあり96.6%(95%CI 92.8〜98.8)、CADなし98.9%(97.8〜99.6)(p=0.04)。
Chiang ら 0/1 h, 0/2 h, 0/3 h 各種 hs-cTn 30,066 0/1 h:感度 99.1%(98.5〜99.5)、NPV 99.8%(99.6〜99.9)でAMIをルールアウト。0/2 h:感度 98.6%(97.2〜99.3)、NPV 99.6%(99.4〜99.8)。0/3 h:感度 97.3%(97.4〜97.0?※原文どおり)、NPV 98.7%(97.7〜99.3)。 ―(3つのアルゴリズム間で特異度および陽性的中率はほぼ同等) 3つのアルゴリズムはいずれもAMIのルールインにおいて特異度・陽性的中率が類似していた。

 

リスクスコアと臨床意思決定パス(CDP)

リスクスコア

  • 代表的なリスクスコアは以下
    • HEARTスコア(History, ECG, Age, Risk factors, Troponin)
    • EDACS(Emergency Department Assessment of Chest Pain Score)
    • TIMIスコア、GRACEスコア など
  • 低スコア(例えば HEART 0–3点など)の患者は短期リスクがきわめて低く、外来フォローを前提とした早期退院が安全に行える。
項目 TIMIスコア(Thrombolysis in Myocardial Infarction) HEARTスコア(History, ECG, Age, Risk factors, Troponin) EDACS(Emergency Department Assessment of Chest pain Score) T-MACSスコア(Troponin-only Manchester ACS score)
計算項目 各項目1点・年齢 ≥65歳・冠動脈疾患の危険因子 ≥3 個・既知の冠動脈疾患(狭窄 ≥50%)・過去7日以内のアスピリン使用・重症狭心症(24時間以内に2回以上の発作)・心電図ST偏位 ≥0.5mm 各項目 0〜2点病歴: 非常に疑わしい 2点、やや疑わしい 1点、少し疑わしい 0点心電図: ST偏位 2点、非特異的再分極異常 1点、正常 0点年齢: ≥65歳 2点、45〜64歳 1点、≤45歳 0点危険因子: 冠動脈疾患危険因子 ≥3個または動脈硬化性疾患の既往 2点、危険因子1〜2個 1点、危険因子なし 0点hs-cTn: 99パーセンタイルURLの ≥3倍 2点、1〜3倍 1点、≤URL 0点 加点方式・年齢(2〜20点;高齢になるほど高得点)・男性 +6点・冷汗(発汗) +3点・痛みが腕・肩・頸部・顎へ放散 +5点・吸気で増悪 −4点・触診で再現される痛み −6点(※原法では、年齢・性別・危険因子・胸痛性状を合算してスコア化) ロジスティック回帰に基づく加点・心電図虚血所見 +1.828点・増悪する/クレッシェンド狭心症 +1.54点・腕/肩への放散痛 +0.849点・嘔吐を伴う痛み +1.783点・冷汗 +1.878点・低血圧 +1.412点・hs-cTn濃度(ng/L)を連続変数として加味急性冠症候群の確率: n を得点合計とすると、1 / {1 + exp[−(n − 4.65)]} で計算
hs-cTn検査要件 0–1時間または0–2時間でシリアル測定 単回測定のみ(単なる HEART スコア)または 0–3時間までのシリアル測定(HEART pathway) 0–2時間でシリアル測定 単回測定
ルールアウト基準(低リスク) スコア 0〜1 スコア 0〜3 EDACSスコア <16 かつ心電図で新たな虚血所見なし、hs-cTnが0時間・2時間とも正常 計算されたACS確率 <2%
ルールイン/高リスク基準 スコア 4〜6 スコア 7〜10 該当なし(明確な高リスク閾値は設定されていない) 計算されたACS確率 ≥95%
ステマティックレビューからの感度(%、ルールアウト目的) 30日〜6か月のMACEに対する感度:約97%(95%CI 96〜98%台) 短期MACEに対する感度:約96%(95%CI 94〜98%台) 30日MACEに対する感度:約96%(95%CI 89〜98%) 急性心筋梗塞に対する感度:約98%(95%CI 98〜99%)/30日MACEに対して約96%(95%CI 94〜98%)
救急外来から早期退院となる割合など 低リスクと判定され退院可能となる割合:約22% 低リスク判定で退院可能となる割合:約40%(報告により28〜64%の幅) 低リスク判定で退院可能となる割合:約55% メタ解析でのプール特異度:36.2%(退院割合というより診断特異度が報告されている)

 

クリニカルディシジョンパス

  • hs-cTnアルゴリズム、HEARTスコアやEDACSを組み合わせた臨床意思決定パス(CDP)があるのでこれを使用するとよい。
  • 典型的な流れ:
    1. 初診時 ECG・hs-cTn採血
    2. STEMIなら迅速な再灌流療法
    3. 非ST上昇だがトロポニン高値/動的変化あり → 入院・侵襲的評価
    4. トロポニン正常~軽度上昇で動きも少ない → リスクスコアで層別化
    5. 低リスク → 早期退院+外来フォロー
    6. 中間リスク → 非侵襲検査や追加トロポニン
  • こうしたCDPの導入により、安全性を担保しながら不要な入院や検査を減らせることが、複数のコホート研究で示されている。

 

 

 

心筋症

Septic cardiomyopathy: Diagnosis and management

「エコーがgold standard」「反復評価が必須」「LVEFのload依存」「GLSが有用になり得る」「管理(輸液・昇圧・モニタ・強心薬は不確実)」など,ER/ICUの実務に落としやすい名レビュー。

病態生理(Pathophysiology)

SCM は単一のメカニズムでは説明できず、複数の経路が相互作用して心筋収縮性低下をもたらす。

炎症性サイトカインと免疫応答のアンバランス

  • PAMP(LPSなど)と DAMP(ヘパラン硫酸断片、ヒストン、HMGB1 など)が TLR を介して活性化され、TNF-α や IL-1 といった 炎症性サイトカインの産生を促進する。

  • これらサイトカインは心筋収縮性低下・臓器不全と関連している。

  • 一方、IL-17/IFN経路や VEGF といった「修復・適応」に関与する因子は、敗血症の回復と生存率の高さと関連し、炎症型と修復型の免疫応答バランスの破綻が一部の患者で心筋障害を促進すると考えられる。

一酸化窒素(NO)と一酸化窒素合成酵素

  • 内皮型・誘導型NO合成酵素が活性化され、NO過剰により

    • 前負荷・後負荷の変化(血管拡張)

    • β受容体シグナルのダウンレギュレーション

    • ミオフィラメントの Ca2+ 反応性低下

    • ミトコンドリア透過性亢進
      などを通して心筋収縮性を低下させる。

ミトコンドリア機能不全と酸化ストレス

  • 敗血症では

  • 抗酸化能低下により酸化ストレスが増大し、Ca2+濃度や遊離脂肪酸増加も相まって心筋収縮性を障害する。

Ca2+ハンドリングの異常

  • 心筋細胞内の Ca2+輸送体の機能異常が動物モデルで示されており、ECカップリング破綻を通じて収縮低下に寄与する。

交感神経過活動とカテコラミン毒性

  • 敗血症では交感神経が過剰に賦活化し、

    • 頻脈

    • 拡張期短縮

    • 左室充満障害
      を来すほか、

    • 受容体の Gタンパク質カップリングが刺激性から抑制性へ変化

    • β受容体のダウンレギュレーション
      によりカテコラミン抵抗性を生じる。

  • 内因性・外因性カテコラミン負荷は、タコつぼ型心筋症類似のストレス性心筋障害を起こしうる。剖検例では、筋細胞融解、間質線維化、収縮帯壊死、単核球浸潤、浮腫 などが高頻度に確認されている。

内皮障害とグリコカリックス破壊

    • 敗血症性内皮障害によりグリコカリックスが分解され、微小循環レベルで灌流不均一・毛細血管リークが生じ、心筋浮腫や微小循環障害を介して心機能を障害する。

→ これらのメカニズムは患者ごとに程度が異なり、「どの程度が適応的(防御的)な変化で、どこからが真の病的心筋障害なのか」という線引きは現在も議論中である。

定義(Definitions)

  • 現時点で 統一された SCM の定義は存在しない。

  • 多くのレビュー・専門家意見は次のような要素で概ね一致している:

    1. 急性発症(敗血症の経過中に出現)

    2. 非虚血性(冠動脈病変によらない)

    3. 左室/右室の収縮・拡張機能障害のいずれかを含む

    4. 多くの場合 可逆性とされる(ただし早期死亡例では評価困難)

  • 左室拡張障害のみ、あるいは右室単独障害を SCM に含めるかは意見が分かれている。

  • Geri らは septic shock をエコー・臨床指標に基づく 5つの血行動態クラスターに分類:

    • LV systolic dysfunction

    • LV hyperkinesia

    • hypovolemia

    • RV failure

    • well-resuscitated
      だが、明確な「拡張障害クラスター」は同定されず、拡張障害はほぼ全クラスターに分散していた。

発生頻度(Incidence)

  • SCM の頻度は調査によって大きく異なる。

    • Boissier ら:24時間以内のエコーで LV障害 22%、25–72時間の再評価でさらに 9.8% に新規出現。

    • Vieillard-Baron ら:6時間以内の評価で 18%、72時間では 60% に LV障害。

  • この違いは

    • エコー評価時点

    • resuscitation 前後(輸液や昇圧薬導入による前後負荷変化)

    • 対象患者(重症敗血症 vs 敗血症性ショック、人工呼吸器の有無)
      などの差に依存する。

    • ⇒ 心エコー所見は負荷条件に大きく左右されるため、時間をおいた繰り返し評価が必須

臨床像(Clinical Presentation)

  • L’Heureux らがまとめた SCM を疑うべき臨床像:

    • 敗血症でありながら 四肢が冷たい(cool extremities)ショック表現型

    • 前負荷負荷試験に反応しない(輸液に対する反応不良)

    • 不整脈(特に心房細動)

    • 昇圧薬を用いても持続する血行動態不安定

  • こうした所見を認める敗血症患者では、特に敗血症性ショックで昇圧薬を要する場合、SCM を常に鑑別に入れるべきとされる。

診断(Diagnosis)

エコー全般

  • 診断の第一選択は ベッドサイド心エコー(critical care echocardiography)。

  • 不安定な重症患者は全例エコーを行い、

    • 心機能(左室・右室)

    • 前後負荷

    • 合併症(心タンポナーデ、心膜液、重度弁膜症など)
      を評価するべきとされる。

左室収縮障害(LV systolic dysfunction)

  • 初期の SCM 研究では LVEF低下と LV拡張(拡張末期径・容量増加)が特徴とされた。

  • LVEF(Simpson 法や LV fractional area change)は簡便だが、

    • 前後負荷の影響を強く受けるため、

    • 真の心筋収縮性の指標としては不十分。

  • 敗血症では早期に後負荷(SVR)が低下しており、初期 resuscitation 後に再評価しないと LV機能を誤認する。

    • ⇒「心筋機能」は心室‐動脈カップリングの文脈で解釈すべき

TDI(Tissue Doppler Imaging)

  • 僧帽弁輪の S’波(peak systolic velocity)は LVEFより負荷依存性が低い可能性があるが、

    • メタ解析では S’値と死亡率に有意差なし。

    • 角度依存性が高く、評価は一方向(縦方向)のみで、

    • 重症患者では可視化率が 62% 程度と低い。

Speckle tracking echocardiography(GLS)

  • GLS は「収縮期の長さ変化率(縦方向)で表す心筋変形」で、

    • 角度依存性が低く、

    • 負荷依存性も LVEF より小さいとされる。

  • 一般には正常GLSは約 20%(絶対値)前後。

  • 敗血症性ショック患者では、

    • LVEFで収縮機能障害が検出されたのは 32% に対し、GLSでは 70% に障害を検出したと報告されており、GLSの方が SCM検出に鋭敏と考えられる。

    • day1 の GLS低下は、day2–3 の LVEF低下を予測した。

  • ただし、GLS測定には良好な画像・高フレームレートが必要で、敗血症ショック患者では測定可能率が LVEF 97% に対して GLS 42% とかなり低い。

左室拡張障害(LV diastolic dysfunction)

  • 敗血症性ショックでは拡張能障害が高頻度に見られ、呼吸困難や呼吸器離脱困難の一因となる。

  • TDI の e’波、E/e’比を用いた簡便定義では、重症敗血症/敗血症性ショックの 87% に拡張障害が検出された報告もある。

  • ただし

    • 中隔 e’波は拡張障害を過大評価しうる

    • 側壁 e’波の方が前負荷依存性が低く予後との関連も強い
      とされる。

  • ASE/EACVI 2016 ガイドラインでは、正常LVEF患者の拡張障害を

    • TR速度 >2.8 m/s

    • 左房容積 >34 mL/m²

    • lateral e’<7 cm/s, septal e’<10 cm/s

    • lateral E/e’>13, septal E/e’>15
      などのうち複数を満たすことで定義するが、ICU ではすべて適用しづらく、
      実務上は e’とE/e’ が最も使いやすい。

  • 洞調律でない(心房細動など)場合や頻脈では評価が困難であり、
    また既存の拡張障害がどの程度あったか不明なことも多い。

右室機能障害(RV dysfunction)

  • 敗血症における右室障害は、

    • 低酸素血症・高二酸化炭素血症

    • 人工呼吸(特に ARDS 合併)
      によって悪化し、急性肺性心(acute cor pulmonale)を来しうる。

  • 重症敗血症/敗血症性ショックでは、後ろ向き研究で 約 50% に右室機能障害が報告され、その約半数では左室障害を伴わない「右室単独障害」であった。

  • 定義には TAPSE <16 mm、TDI S’<15 cm/s、RV FAC <35% など ASE推奨指標が用いられるが、

    • RVの形状が複雑で幾何学的評価が難しい

    • TAPSEやS’は縦方向成分しか見ていない
      といった限界がある。

  • 別の研究では

    • RV/LV拡張末期面積比 >0.6

    • CVP ≥8 mmHg
      を満たすものを「RV failure」と定義し、この基準では 42% の敗血症性ショック患者が該当したが、その 63.5% は TAPSE が正常であった。
      ⇒ TAPSEのみでは RV failure を見逃す可能性がある。

  • STE による RV strain は有望だが、現時点では負荷条件の影響や他指標との関連は十分解明されていない。

 

 

侵襲的モニタリング(ACP, ventriculo-arterial coupling)

  • Afterload-related cardiac performance(ACP)

    • CO が正常でも SVRが極端に低いと「見かけ上正常」に見えるため、SVRを加味した指標として ACP = 測定CO / 予測CO ×100% が提案されている。

    • 予測COは SVR の関数(CO_pred = 394.07 × SVR^-0.64)で求める。

    • 80%以上を正常とし、低ACPは死亡率と関連する報告がある。

  • 心室–動脈カップリング
    • LV end-systolic elastance / arterial elastance で評価されるが、本来はPVループが必要。

    • エコーを用いた近似でも、sepsis では decoupling が LVEF と相関しないとの報告があり、収縮性と血管系双方を考慮した評価の必要性を示している。

バイオマーカー(troponin, natriuretic peptides)

  • トロポニン
    • 敗血症では頻繁に上昇し、メタ解析では死亡率上昇と関連。

    • ただし、ICU入室患者では原因を問わず高値になりえ、高感度アッセイの普及で微小な上昇も検出されるようになり、共変量で調整すると独立した予後因子としての力は弱まる。

    • 上昇の機序は主に 膜透過性亢進やアポトーシス であり、冠動脈血栓によるネクローシスとは異なる。

    • RV拡張やLV拡張障害の程度とも相関しうる。

  • BNP/NT-proBNP
    • 心室壁ストレスを反映するが、腎機能障害など他要因でも上昇しうる。

    • 敗血症では clearance が低下し、レベルが高値にとどまることがある。

  • 総じて、これらのバイオマーカーは SCMの診断には特異的ではないが、重症度・予後の指標として有用とされる。

予後(Prognosis of SCM)

  • 初期の研究では「LVEF低下や心係数低下を認める患者の方が死亡率が低い」という逆説的な結果もあり、

    • これは LVEF低下が「心室拡張を伴う適応的反応」である可能性や、

    • LVEF高値・過収縮が「強い血管拡張(vasoplegia)が残存しているサイン」である可能性が示唆されている。

  • メタ解析や複数の研究では、

    • LVEF や S’波と死亡率には一貫した関連が見られない とされる一方、

    • GLS低下 は死亡率上昇と独立して関連するとの報告が多い。

  • 拡張障害に関しても、複数の研究・系統的レビュー・メタ解析で

    • 拡張能障害(特に lateral e’やE/e’)と死亡率の関連が指摘されている。

  • 右室機能に関しては、

    • 「右室単独障害」がある患者では生存率が低く、

    • RV dysfunction の存在自体が予後不良因子であることが示唆されている。

  • さらに、敗血症からの生存者では、持続する全身炎症や心筋障害によって長期的な心血管イベントリスクが増加する可能性が示されており、
    sepsis 中の LV strain異常(低すぎても高すぎても)と長期心血管イベントとの関連も報告されている。

治療(Management)

左室収縮障害

  • SCM の存在だけをもって直ちに強心薬を投与するのではなく、

    • 臓器低灌流徴候(乳酸高値・乏尿・意識障害など)

    • 他の循環パラメータ
      を総合的にみて判断すべきとされる。

  • ノルアドレナリン
    • 2016–2018 Surviving Sepsis Campaign では第一選択昇圧薬として強く推奨。

  • ドブタミン
    • 適切な輸液・昇圧薬にもかかわらず低灌流が続く場合に追加を「弱く推奨」。

    • RCT(Hernandez ら)では、ドブタミンによる心拍数・心係数・LVEF増加にもかかわらず、微小循環指標の改善は認められなかった。

  • カテコラミンの問題点とレボシメンダン
    • 敗血症ではβ受容体感受性低下があり、カテコラミンに対する反応性が落ちている可能性。

    • カテコラミン自体が不整脈・心筋毒性を惹起する。

    • Ca感受性増強薬レボシメンダンは初期小規模試験で有望視されたが、
      大規模試験では死亡率改善効果は認められず、副作用やコストも問題となり、ガイドラインでは 使用を推奨しない。

  • VA-ECMO
    • 血管拡張が是正された後も重篤な心原性ショックが持続する症例に限り、
      早期の VA-ECMO 導入が選択肢となる。

左室拡張障害・頻脈(LV diastolic dysfunction and tachycardia)

  • 頻脈は拡張期短縮により拡張障害を悪化させる。

  • これを是正する目的で、

    • 短時間作用型β遮断薬(エスモロール、ランジオロール)による心拍数コントロール試験がいくつか行われており、一部では死亡率低下の可能性も示唆されている。

  • しかし

    • 試験の多くは「収縮能が保たれた患者」が対象であり、明らかな収縮障害・心原性ショックを伴う症例は除外されている。

  • ごく少数例の研究では、超早期の「頻脈・高心拍出性ショック」にエスモロールを用いたところ、血圧悪化・心係数低下が生じたという報告もある。

  • ⇒ 著者らは、

    • SCMによる収縮障害がある患者では β遮断薬は原則禁忌

    • 適応するとしても、超選択的・慎重な症例選択と厳重なモニタリングが必要
      と結論づけている。

  • β遮断に伴う「代償性頻脈遮断による循環破綻リスク」を見極める指標として、

    • 動脈波形から得られる 収縮期–切痕(dicrotic notch)差や dP/dt max が提案されている。

  • イバブラジン
    • Ifチャネル阻害により、陰性変力作用をほとんど伴わずに心拍数を低下させる薬剤。

    • 敗血症性ショックでの RCT が進行中であり、β遮断薬より安全な心拍数コントロール手段となるか注目されている。

右室機能障害

  • RV拡張・うっ血を伴う敗血症性ショック患者では、

    • 輸液による前負荷増加が必ずしも有益でなく、

    • 30% しか輸液反応性を示さなかったという報告がある。

  • このため、

    • 初期resuscitation後の「遷延期」では、RV dysfunctionを伴う症例には輸液を慎重に行い、CVPやエコーを用いて 過剰前負荷→RVうっ血悪化を避けるべきとされる。

 

How to Do Echo in Septic Cardiomyopathy: A Consensus Statement of the Italian Society of Echocardiography and Cardiovascular Imaging

エコーで見える循環フェノタイプ(クラスター)の話が軸で,輸液・昇圧のやり過ぎを避けるという管理の示唆が強いレビュー。

敗血症性心筋症(SCM)の定義・歴史・疫学

  • 1921年に「septic acute myocarditis」として記載され、1967年に敗血症の一部としての心不全(低心係数)概念が整理され、1984年にParkerらがLVEF<40%、左室拡張末期容量の増加、急性冠症候群を除外し、2週間以内に可逆という実用的定義を提示している。
  • 現在は、
    • 敗血症の経過中に発現する
    • 可逆性の心室収縮・拡張障害(LV/RV、あるいは両方)
    • 心室拡張とコンプライアンス増大を伴い、充満圧は正常〜低値
    • 既存の心疾患では説明できない
      という特徴を持つ病態として整理されている。
  • 有病率は報告によって20〜50%以上とばらつくが、診断基準や評価タイミングが統一されていないことが理由と述べられている。
  • リスク因子として、男性、高齢、入室時の高乳酸、既存心疾患が挙げられ、存在すればSCMを疑う閾値を下げるべき

バイオマーカーと画像診断

  • バイオマーカーでは、
    • NT-proBNPは約97%
    • トロポニンは約85%
      で上昇し、LV機能障害の程度、敗血症の重症度、死亡率と関連する。
  • 心臓MRIは、
    • 浮腫・炎症を示唆する所見
    • 一方で遅延造影における局在性線維化を認めない
      という、炎症性・可逆性の筋障害としてのSCMの性格をよく反映する。
  • しかし、検査時間や患者の状態(血行動態不安定)からICU日常診療に広く用いるのは困難であり、簡便・反復可能なエコーが主役

敗血症ショックにおけるエコー心血行動態フェノタイプと“Good/Bad/Ugly”統合

  • 近年のクラスター解析から、敗血症性ショックにおいて5つのエコーパターンが提案されている。
    1. 心機能障害なし
    2. 左室収縮障害
    3. 高拍出・過動態でLVEF保たれる/亢進、血管拡張型ショック
    4. 右室不全
    5. 持続する低容量状態
  • 右室不全クラスターでICU死亡率が最も高く、右室機能評価の重要性が強調されている。
  • Messina & Vieillard-Baronの**“good – bad – ugly”**モデルとSatoらの4パターンを組み合わせ、
    • 「Good」:典型的高拍出・血管拡張型ショック(エコーではLV機能保たれる、高CO・低SVR)。
    • 「Bad」:
      • 新規LV収縮障害による低CO・高充満圧
      • 過度な高拍出+高度血管拡張で、昇圧薬に抵抗性のショック
    • 「Ugly」:既存の心機能障害(心筋症や弁膜症など)に敗血症が重なった病態。
    • さらに「一次性心原性ショックに敗血症が合併したprofile」を区別
    • 既存心機能障害合併では「輸液制限+うっ血モニタリング」が強調される
プロファイル 主要エコー/血行動態所見 病態生理 ベッドサイドでの主な治療
Hyperdynamic vasoplegic septic shock(高拍出・血管拡張性敗血症性ショック)(“Good” ↔ Profile 1) ・左室収縮能は保たれる(EF正常)・心拍出量(CO)正常〜高値・全身血管抵抗(SVR)低下 ・収縮機能・収縮性は保たれているが、血管拡張(vasoplegia)が強いため、EFが正常でもCOが不十分となりうる ・抗菌薬・昇圧薬(ノルアドレナリン等)・少量ボーラスで慎重な輸液+都度再評価
Hyperkinetic with vasoplegia, normal LVED size(高拍出+血管拡張、LVED正常 “kissing LV”)(“Bad”の一部) ・左室過動態(hyperkinesia)・血管拡張(vasoplegia)が持続・左室拡張末期径(LVED)は正常 ・左室は著明に過収縮・過動態・LVESV低下、前負荷が保たれていればCO↑・見かけ上の「肥大型(pseudohypertrophy)」で、血管拡張を反映していることが多い ・抗菌薬・昇圧薬・輸液は中止(Stop fluids)
Under-resuscitated hyperkinetic small LV(アンダーレスシチュエーションの高拍出・小さなLV)(“Bad”の一部) 小さなLVED径を伴う左室過動態・± LVOT閉塞(LVOTO) ・LV過動態+LVOT閉塞により、僧帽弁前方運動・流出路狭窄をきたす・EFは高いにもかかわらず、COは著明に低下 ・抗菌薬・慎重に滴定した輸液(少量ずつ反応を見ながら)・必要に応じて昇圧薬
SCM(“Bad” depressed LV ↔ Profile 2)(新規/増悪した左室機能低下を伴うSCM) ・新規または増悪したLV収縮障害・心係数(CI)低下・充満圧上昇・乳酸高値 ・左室収縮機能障害・収縮性低下、LVESV↑、CO↓・後負荷が低いとEFは正常に見えることもある・左室拡大を伴うことがある ・抗菌薬・昇圧薬・十分な輸液後もCI低下が続く場合はイノトロープ(ドブタミンなど)を考慮早期エコー+肺動脈カテーテル(PAC)併用を検討
LV diastolic dysfunction in sepsis(敗血症における左室拡張障害)※全パターンに重なりうる ・弛緩障害(relaxation impaired)・左室充満低下 ・左室拡張障害・弛緩低下、LVEDV↓、CO↓ ・抗菌薬・昇圧薬・輸液過剰を回避(CCEで前負荷を評価しつつ調整)
Septic shock with pre-existing LV dysfunction(既存LV機能障害を伴う敗血症性ショック)(“Ugly” or Profile 3) ・慢性心筋症/弁膜症などの既存心疾患・急性変化と慢性変化が重なった状態 ・慢性のLV収縮・拡張障害が混在・EFはしばしば低下し、COは症例により様々 ・抗菌薬・昇圧薬・うっ血をモニタリングしつつ、制限的な輸液管理
RV dysfunction in sepsis(敗血症における右室機能障害)※全パターンに重なりうる ・右室収縮性低下・RVESV↑、右室拡大・心室相互依存性によりLV充満低下 ・右室機能障害・収縮性低下、右室拡大、LVEDV↓、CO↓ ・抗菌薬・昇圧薬・右室前負荷・後負荷の最適化・重症例では肺血管拡張薬も考慮
Primary cardiogenic shock + superimposed sepsis(一次性心原性ショック+敗血症合併)(Profile 4) ・一次性ポンプ不全(AMIや重症弁膜症など)に感染が上乗せされた状態 ・左室収縮障害(±右室障害)を基盤とする重症ポンプ不全に、敗血症性ショックが加わる ・感染源コントロール・昇圧薬+イノトロープ・機械的循環補助(MCS)の早期導入を検討

※「高拍出+小さいLVED」=アンダーレス → 輸液 carefully、「高拍出+LVED正常、“kissing LV”」=前負荷はもう十分 or むしろ多め → Stop fluids

と明確に分類されている。kissing LVでは、vasoplegiaの影響が大きくSVR低下が主体、LVEDが正常サイズのときには前負荷不足とは考えていない。似たような分類にunder-resuscitated hyperkinetic small LVがあるが、こちらはLVEDが小さく、±LVOTOがありえる。この場合には揖斐を慎重に行うことがよい。左室拡張末期径で使い分けろとされている。実務上は40mm前後がカットオフになるでしょうか。

 

エコーで見るべき具体的指標とカットオフ

カテゴリー パラメータ カットオフ・内容
ベッドサイドエコーの実施方法 患者体位 仰臥位または 30°半座位
  プローブ 2–5 MHz の低周波フェーズドアレイプローブを使用
  取得すべきビュー PLAX(傍胸骨長軸)、PSAX(傍胸骨短軸)、A4C(心尖部4腔)、心窩部4腔(他のビューが困難な場合)、IVCビュー(下大静脈心窩部長軸)
左室収縮機能 視覚的 EF(“eyeballing”) 2D像からの主観的評価
  EPSS EPSS >7 mm で EF低下を示唆
  短縮率(Fractional shortening) <25%:収縮障害を示唆、>45%:まれであり、早期敗血症・貧血・甲状腺機能亢進症などの過動態状態を反映しうる
  S′(TDI) S′ <6 cm/s を収縮機能低下の所見とみなす
  GLS(global longitudinal strain) GLS が −18% より“絶対値が小さい”場合(例:−14%、−12%)→サブクリニカルな収縮障害を示唆
左室拡張機能 左房容積 左房容積 >34 mL/m² で拡張障害を示唆
  三尖弁逆流速度(TR Vmax) >2.8 m/s
  TDI E′速度 側壁 E′ <10 cm/s, 中隔 E′ <7 cm/s
  E/e′ 比 側壁 E/e′ >13, 中隔 E/e′ >15
右室機能 TAPSE <16 mm で右室機能低下
  RV FAC <35%
  RV:LV径比 >1 を右室拡大(RV dilatation)とみなす
  TDI S′波 S′ <15 cm/s で右室収縮機能低下を示唆
容量状態(前負荷)・IVC IVC径と虚脱率 IVC径 >2.1 cm かつ吸気時虚脱 <50% → 右房圧高値(high RA pressure)
    IVC径 <2.1 cm かつ虚脱 >50% → 右房圧低値(low RA pressure)
心嚢液 心嚢液の有無 心臓周囲の エコーフリースペースの有無を確認
LVOT VTI LVOT-VTI LVOT-VTI <14 cm で低心拍出状態を示唆

 

基本プロトコール

  • 体位:仰臥位または30°半座位。
  • プローブ:2–5 MHzの相互型プローブ。
  • 撮像断面:PLAX、PSAX、A4C、心窩部4腔、IVC長軸。

LV収縮能

  • eyeballingでのLVEF評価に加え、
    • EPSS > 7 mm でEF低下を示唆。
    • 心室短縮率 < 25%で収縮障害、>45%は過動態(早期敗血症、貧血、甲状腺機能亢進症など)を示唆。
    • TDI S’ < 6 cm/s はEFが保たれていても収縮能低下を示す。
    • LV GLSが –18%より「絶対値が小さい」(例 –14%や –12%)ならサブクリニカルな収縮障害を疑う。

LV拡張能

  • 左房容積 > 34 mL/m²、TR Vmax >2.8 m/s、E’ lateral <10 cm/s、septal <7 cm/s、E/e’ lateral >13、septal >15 など、拡張障害およびLV充満圧上昇の指標を挙げている。

RV機能

  • TAPSE <16 mm、RV FAC <35%、RV:LV径比 >1(RV拡大)、TDI S’ <15 cm/s などを基準とし、
    • 右室障害は敗血症患者の約半数で認め、28日死亡率を約3倍にすると紹介。
  • ARDSや肺高血圧を伴う症例では特に重要な評価ポイントである。

容量状態評価と他の指標

  • IVC径 >2.1 cmかつ吸気虚脱<50% なら右房圧高い、
    • 逆に IVC径<2.1 cmかつ虚脱>50%なら低容量状態を示唆。
  • LVOT-VTI <14 cmは低心拍出を示唆する指標。
  • 心嚢液の有無もチェックし、ショックの別の原因(心タンポナーデなど)を除外する。

SCMに特徴的な所見と治療とのリンク

典型的エコー像

  • 左室拡大+拡張末期容量増加、しかし充満圧はそこまで高くならず、コンプライアンス増大を反映
  • 左右心室のびまん性収縮低下であり、区域性壁運動異常を欠くことが虚血性心疾患やTTSとの鑑別に重要。
  • 右室障害は50%以上でみられ、孤立性RV障害も多い。右室障害は死亡率の独立した予測因子とされる。
  • 高拍出・過動態例では、hypovolemia+高カテコラミン状態+強心薬投与を背景にLVOTOが22–30%で出現しうる。これは輸液反応性のサインでもあるが、同時に死亡率上昇と関連する。

エコーに基づく治療アルゴリズム

  • 全ての敗血症性ショック患者において、早期にベッドサイドエコーを行い、
    • 左右心室機能
    • 充満圧
    • 容量状態
      を評価することを推奨。
  • その結果に応じて、
    • LV収縮障害なら十分な輸液後も低灌流が続けば強心薬追加を検討。
    • RV障害なら前負荷最適化+過剰輸液回避+肺血管抵抗低減を図る。
    • 収縮能保たれつつ血管拡張主体なら昇圧薬を優先し強心薬は極力避ける
  • 経時的なエコー(状態変化のたび、少なくとも急性期7-10日間)を行い、SCMの可逆性と治療反応性を確認することが強調される。

鑑別:虚血性心筋症・たこつぼ症候群とGLSパターン

虚血性心筋症(ICM)

  • 冠動脈支配に一致した区域性壁運動異常。
  • GLSでは、冠動脈錐体に対応した不均一な低下パターンを示す(図5中央のブルズアイ)。

たこつぼ症候群(TTS)

  • 典型的には心尖部バルーニング+基部の過収縮
  • GLSでは心尖部のstrain低下が目立ち、基部は保たれる「ドーナツ状」のパターン。
  • 一般に右室機能は保たれることが多く、この点でもSCMと異なる。

SCM

  • 冠動脈灌流域を超えて、左室全周のGLSが均一に低下したパターン。
  • びまん性+可逆性の障害であり、エコー・GLSパターンと経過から病態を推測できる。

著者らは、GLSと区域性/びまん性の違いを把握することが、ECGやトロポニン所見と並んで、ICMやTTSとの鑑別に極めて有用であると強調している。

 

Sepsis-induced cardiomyopathy

臨床像→診断(反復評価含む)→管理の考え方をまとめて把握するための(ちょっと循環器寄りの)総説。

疫学

  • 頻度と発症タイミング
    • 敗血症性ショック患者をICU入室24時間以内にエコー評価すると、
      • 新規のLVEF低下(カットオフ<40〜50%)を満たすSICMの頻度は18〜60%と報告されている。
    • ICU入室時にLVEFが保たれていても、2〜3日目に新規の収縮能低下が出現する症例が10〜20%程度存在する。
    • これは、初期の低血容量・血管拡張による低後負荷状態ではLVEFが保たれ、循環が補正されることで潜在的な収縮能低下が表面化することを示唆する。
  • 危険因子
    • 若年男性や既存の心不全を持つ患者でSICMの頻度が高いとの報告がある。
    • 大規模データベース(MIMIC-III)の解析では、年齢、男性、併存症、低ヘモグロビン、糖尿病、初日からの人工呼吸管理などがSICM発症と関連した。
    • しかし、研究の多くは後ろ向き単施設研究であり、因果関係の推定には限界がある。

他の急性心筋症との鑑別

  • SICMの特徴:
    • 左室拡張期圧は正常〜低値であることが多く、肺うっ血は必須所見ではない。
    • 左室はやや拡大しコンプライアンスが増加するが、心膜の制約によりEDVは正常範囲にとどまることも多い。
    • 敗血症性ショックの早期に出現し、生存例では数日以内に回復する。
  • タコツボ症候群:
    • 典型的な局所壁運動パターンを示し、しばしばカテコラミン急増を契機に発症。
  • 劇症心筋炎:
    • 高度の心筋浮腫・遅延造影、完全房室ブロックや重度不整脈などを伴うことが多く、経過・治療戦略が異なる。

臨床評価

  • トリガーとなる所見
    • 持続する低血圧、乳酸高値・クリアランス不良、尿量減少、皮膚モットリング、意識障害など組織低灌流の所見。
    • フルイドチャレンジや血管作動薬への反応性不良、機械換気設定変更の耐容量など。
  • 心電図・バイオマーカー
    • 特異的な心電図所見はなく、洞性頻脈と心房細動が最多。
    • 発熱による一過性のBrugada様パターンはACSと誤認されうる。
    • トロポニン・BNPはしばしば上昇するが、SICM特異的ではなく、「心筋障害の存在」「重症度」を反映する程度。
  • 侵襲的モニタリング
    • Swan-Ganzカテーテルや熱希釈法は、肺動脈楔入圧・心拍出量などを提供するが、
      • 低充満圧であるSICMでは、肺うっ血の有無の判定に限界がある。
      • 右室機能障害の診断は間接的であり、精度に課題がある。
    • そのため、ベッドサイド心エコーが中心的役割を担い、体液反応性評価・LV/RV機能評価・肺エコー(B-lines)を組み合わせて総合的に判断する。

心血行動態フェノタイプ

  • 360例の敗血症性ショック患者(全例人工呼吸管理、ICU入室24時間以内)を対象としたクラスタ解析では、以下の5群が同程度の頻度で認められた:
    1. 左室収縮不全型
      • 低LVEF・低心拍出・低ストロークボリューム。
      • しかし左室充満圧は低く、動的指標で体液反応性は乏しい。
    2. hyperkinetic型
      • 高LVEF・高心拍出・高ストロークボリュームだが、重度の血管拡張(低SVR)を伴う。
    3. 右室不全型
      • 著明なRV拡大(RV/LV面積比↑)、LVEFは保たれる。
      • 体液反応性は乏しく、しばしばARDS・陽圧換気・肺高血圧が背景。
    4. 持続する低血容量型
      • 既に大量輸液されていてもなお、動的指標でフルイドレスポンシブであり、LVEFはむしろ高め。
    5. 顕著な異常なし
      • 上記いずれの特徴も示さない「一見正常」な循環動態。
  • 臨床的課題は、どの変化が「適応的(防御的)」で、どこからが「病的で介入すべき」かを見極めることである。
カテゴリ パラメータ 閾値 利点 限界 コメント
輸液反応性 最大 LVOT 速度の呼吸性変動 ・≥10% で輸液反応性あり・≥18% で特異度 90% ・再現性が高い ・機械換気(MV)かつ洞調律が必須・右室不全では偽陽性・一回換気量が少ない/肺コンプライアンス低下では精度低下 ・動脈カテーテルで測定する pulse pressure variation を反映する指標
輸液反応性 上大静脈径の呼吸性変動 ・≥21% で輸液反応性あり・≥31% で特異度 90% ・非洞調律でも使用可能・右室不全でも偽陽性が出にくい ・機械換気と経食道心エコー(TEE)が必須 ・上大静脈の虚脱率(collapsibility index)を測定する
輸液反応性 下大静脈径の呼吸性変動 【機械換気下】・変動 ≥8%・変動 ≥18% で特異度 90%【自発呼吸下】・虚脱率 ≥40–48% ・取得が容易・非洞調律でも使用可能・自発呼吸患者にも使用可能 ・右室不全や腹腔内圧(IAP)上昇時は不正確 ・人工呼吸患者では「伸展指数(distensibility index)」として評価・自発呼吸患者では吸気時虚脱を評価・人工呼吸患者における動的指標としては精度が最も低い部類
輸液反応性 受動的下肢挙上時の LVOT VTI 変化 【機械換気下】・PLR 中 VTI ≥10% 増加【自発呼吸下】・PLR 中 VTI ≥12% 増加 ・PLR は約 300 mL の一過性輸液負荷を模倣(可逆的)・自発呼吸患者にも使用可能 ・PLR 禁忌症例では使用不可・IAP 上昇時は偽陰性となりうる ・静脈還流増加の最大効果は 1 分以内に出るため、そのタイミングで測定が必要
左室収縮 LVEF(左室駆出率) ・<50% または ≤40%(定義による) ・施行容易(フィージビリティ高い)・「目測(eye-balling)」を含め迅速評価が可能・再現性あり ・前負荷・後負荷など負荷条件に強く依存・固有の心筋収縮性を直接は反映しない ・左室と大動脈のカップリング(LV/aortic coupling)を反映する指標として解釈できる
左室収縮 LV fractional area change ・<45% ・LVEF の代替指標として使用可能 ・左室心尖部を評価できない ・主な冠動脈灌流領域を反映する
左室収縮 MAPSE(僧帽弁輪収縮期移動量) ・<1.2 cm ・2D 画像品質がやや不良でも測定可能 ・角度依存性が強い・長軸方向短縮のみ評価・局所壁運動異常(RWMA)があると適用不可・妥当性を検証した研究が少ない
左室収縮 TDI による僧帽弁輪 s′(最大収縮期速度) ・中隔側 <8.1 cm/s・外側 <10.2 cm/s・平均 <9.2 cm/s (明確な利点記載なし) ・角度依存性が強い・長軸方向短縮のみ評価・RWMA があると適用不可・妥当性検証研究が少ない
左室収縮 Global longitudinal strain(GLS) ・< −20%(※正常はより負の値) ・角度非依存・LVEF より感度が高い・セグメントごとの評価が可能 ・全施設で利用できるわけではない・2D 画像品質に強く依存・ベンダー依存性あり ・全体および局所の収縮機能評価として従来指標より高感度
左室拡張 僧帽弁 E/A 比 ・<0.8(低い)・>2(高い) ・左室充満圧をおおまかに反映するグローバル指標・再現性良好 ・左室拡張能と無関係な要因にも左右される ・血液量(volemia)など心臓負荷条件も反映する
左室拡張 僧帽弁中隔側 e′ ・<7 cm/s ・2D 画像品質がやや不良でも測定可能・再現性良好 ・角度依存性・前負荷変動の影響・RWMA があると不適 ・従来の循環器ガイドラインの診断基準は ICU 患者にはそのまま適用しにくい
左室拡張 僧帽弁外側 e′ ・<10 cm/s ・2D 画像品質がやや不良でも測定可能・再現性良好 ・角度依存性・RWMA があると不適 ICU 患者では循環器ガイドラインの基準がそのまま適用しにくい・前負荷変動の影響は中隔側 e′ より小さい
左室拡張 平均 E/e′ ・>14 ・左室充満圧の簡便な代替指標 ・中間値(8–13)の場合、左室充満圧を正確に評価できない ICU 患者では循環器領域の基準がそのまま使いづらい
右室機能 TAPSE(三尖弁輪収縮期移動量) ・<17 mm ・2D 画像品質がやや不良でも測定可能 ・長軸方向短縮のみ評価 ・重度の右室圧負荷があっても TAPSE は保たれている場合がある
右室機能 三尖弁輪外側 s′(TDI) ・<9.5 cm/s ・2D 画像品質がやや不良でも測定可能 ・角度依存性・長軸方向短縮のみ評価・妥当性検証研究が少ない
右室機能 RV fractional area change ・<35% ・右室の円周方向短縮をよりよく反映 ・自由壁の描出が良好でないと測定困難・正常値の幅が大きい
右室機能 右室拡大(RV/LV 面積比) ・右室/左室拡張末期面積比 >0.667 フィージビリティ高い・「目測」による迅速評価が可能・多数の研究で検証済み (明示的記載なし) ・右室機能障害(後負荷上昇・収縮性低下)の早期指標・RV/肺動脈カップリング破綻の指標にもなる

 

管理(治療戦略)

体液管理と血管作動薬

  • SICMの初期には、左室充満圧は正常〜低値であることが多いが、
    • 盲目的な大量輸液は肺水腫・右心負荷・陽圧換気増悪を通じて予後不良となりうる。
  • したがって、輸液反応性の評価を繰り返し行いながら、必要最小限の輸液を行うことが重要である。
    • LVOT VTI変動、IVC/SVC径変動、PLRテストなどが推奨されている。
  • 重度の血管拡張を伴うhyperkinetic型では、

強心薬・機械的補助

  • ドブタミン
    • 低心拍出+組織低灌流が残存するSICMでは、ドブタミン5 µg/kg/min程度の低用量でストロークボリューム増加が示されている小規模研究がある。
    • しかし、カテコラミン負荷による心筋傷害・不整脈リスクを考えると、さらに大規模な試験(現在進行中)での検証が必要である。

※Andromeda-shock2試験でもDOB5γ開始だった。

  • レボシメンダン・ミルリノン
    • レボシメンダンは複数のRCTで死亡率低下を示せず、現行ガイドラインでは推奨されていない。
    • ミルリノンに関してはエビデンスが乏しく、現時点では routine には推奨されない。
  • VA-ECMO
    • 心拍出が著明に低く、血管抵抗は正常〜高値という「低心拍出型敗血症性ショック」では、VA-ECMOが救命的となりうるが、非常に稀で高度に選択された症例に限られる。

心拍数コントロール

  • 頻脈は心筋酸素消費を増加させ、拡張期時間の短縮から冠血流も減少しうるため、SICM増悪因子と考えられる。
  • 短時間作用型β遮断薬(エスモロールなど)やイバブラジンによる心拍数コントロールは、
    • 初期の小規模研究では有望な結果もあったが、
    • その後のRCTでは一貫した死亡率改善は示されていない。
  • 重要なのは、循環フェノタイプを同定した上で、どの患者に心拍数低下が許容・有益かを選別することである。

予後と長期転帰

  • 短期予後
    • 低LVEFそのものは、メタ解析では死亡率と明確な関連は示さなかった。
    • むしろ、極端なLVEF(高度低下と高度亢進の両端)が、特に高用量ノルアドレナリン使用下では予後不良と関連する。
    • 右室機能障害や急性肺性心を伴うARDS合併例は、28日死亡率が高い。
    • 左室拡張能障害の予後予測能については報告が割れており、評価法の標準化が急務とされる。
  • 長期予後
    • 大規模疫学研究では、敗血症生存者は心筋梗塞心不全脳卒中などの主要心血管イベントと死亡率が増加することが示されている。
    • 敗血症急性期の高感度トロポニン上昇は、その後1年間の死亡率を独立して予測するとの報告もあり、外来での心血管フォローアップ対象を選別する指標となりうる。
    • 一方で、MRIでは一部症例で28〜49日目にも心筋浮腫やsubepicardialなリモデリングが残存する例があり、SICMが必ずしも完全に「跡形もなく」回復するとは限らないことが示唆される。

 

蘇生

ショック

PCAS

https://www.jsicm.org/news/upload/pub_com_fukagyakuteki_zemnoh_kinohfuzen_manyuaru.pdf

日本集中治療医学会雑誌に掲載された「不可逆的全脳機能不全患者の集中治療マニュアル2025」。

不可逆的全脳機能不全の病態生理

  1. SIRSと臓器障害の共通基盤
  • 重症脳障害ではSIRSが生じ,白血球動員,炎症性メディエータ・活性酸素の増加,血管透過性亢進を介して全身臓器障害が進行する。
  • このうえで病態は「興奮期」と「不可逆的全脳機能不全期」の2期に分けて理解される。
  1. 興奮期
  • 不可逆的全脳機能不全となる直前の短時間に見られる。
  • 脳損傷進行→頭蓋内圧亢進→脳循環障害→脳幹を含む脳全体の虚血が進行。これにより視床下部の自律神経系が過剰に活性化し、カテコラミン急増=交感神経性ストームを来す。
  • 交感神経性ストームは脳・冠血流維持のための生理的反応だが、
    • 一過性の後負荷増大と高血圧(クッシング反射第1相)、
    • 全身酸素消費量増大、頻脈・頻脈性不整脈、臓器低灌流と虚血性障害、
    • 心筋虚血やたこつぼ型心筋症などの心筋障害を引き起こす。
  • 肺では、左房圧上昇+肺血管収縮+SIRSによる肺胞上皮障害・血管内皮障害→肺血管・肺胞透過性亢進→DICを伴う神経原性肺水腫に至る。
  1. 不可逆的全脳機能不全期
  • 残存脳幹機能が完全に喪失すると,
    • 心血管系調節、圧・化学受容器反射、呼吸中枢、視床下部–下垂体軸の調節が失われ、全身の循環・呼吸・内分泌が制御不能となる。
  • 延髄の交感神経系アドレナリン作動性刺激の喪失により、末梢血管緊張が失われ、副交感神経優位となって低血圧・心収縮力低下・徐脈(クッシング反射第2相)が生じ,体位変換時の循環破綻にも注意が必要となる。
  • 肺は機械的・虚血再灌流ストレスに脆弱化し,炎症性メディエータ増加や好中球浸潤,膜脂質過酸化により肺胞出血を来し得る。また咳嗽反射消失により喀痰貯留→無気肺・肺炎が起こる。
  • 代謝活動低下によりCO₂産生が減少し、低二酸化炭素血症となる。
  • 視床下部–下垂体軸の破綻により中枢性尿崩症(低K血症・高Na血症),著明な末梢血管拡張,循環血液量減少,体温調節喪失による低体温などが生じる。

不可逆的全脳機能不全患者の集中治療の基本方針

  • 不可逆的全脳機能不全に陥った患者は,本人・家族の意思により脳死下臓器提供となる可能性があるため,法的脳死判定前から集中治療を継続することを念頭におく。
  • 臓器提供が希望された場合,法的脳死判定が適切に行われ,提供臓器が十分な機能を維持できるように集中治療を継続する。
  • 法的脳死判定とその前後の全身管理はICU/PICUなどの重症患者管理部門で行う。
  • 主治医(脳外科医・救急医等)とは別に,集中治療専門医や小児集中治療医が全身管理を担うことが望ましいとされる。
  • 患者の全身状態の安定化と並行して,患者家族と密にコミュニケーションを取り,患者の想いに寄り添った治療方針を医療チームと家族で共に決定していくことが強調される。

モニタリングパラメータと管理目標

  • 重要ポイント:
    • 血圧:成人でsBP≧90 mmHgまたはMAP≧60 mmHg,小児は年齢に応じたsBP/MAP基準。
    • 深部体温:成人36–37℃,小児36–38℃の維持。
    • 尿量:0.5–2.0 mL/kg/hr。
    • 血清Na/K:Na 135–145 mmol/L,K 3.5–4.5 mmol/L。
    • 血糖:成人120–180 mg/dL,小児60–180 mg/dL。
    • Hb:1歳以上で≧7 g/dL(Ht≧20%),1歳未満で≧9 g/dL。
  • 循環が不安定な場合には心係数やSVVなど高度な指標の測定も追加する。

循環管理

  1. 評価
  • 尿量,経胸壁心エコー,血中乳酸値,混合静脈血酸素飽和度などを組み合わせ,目標値との乖離から総合的に循環を評価する。
  • 経胸壁心エコーによる左室収縮能と血管内容量の評価は必須であり,興奮期の一過性心機能低下を見逃さないよう繰り返し評価する。
  • 必要時には経食道心エコーでより詳細に弁・左房・肺動脈・肺静脈などを評価する。
  1. 介入方針
  • 興奮期の高血圧・頻脈・心筋酸素消費増大には,短時間作用性降圧薬やβブロッカーで交感神経性ストームを抑制。
  • MAP<60 mmHgでは等張晶質液を第一選択として十分な輸液を行い,小児では年齢に応じた介入目標を設定。
  • 多量の晶質液が必要な場合は,高Cl性アシドーシスを避けるため調整リンゲル液を推奨し,アルブミンの併用を考慮するが,HESは腎障害リスクのため避ける。
  • 血管収縮薬使用時には高頻度で下垂体性尿崩症を伴うことを念頭にバソプレシン(ADH)を積極的に使用し,ノルアドレナリン高用量使用を避ける方向が推奨される。
  • それでも血管分布異常性ショックが遷延する場合はノルアドレナリンを追加,心収縮力低下があればドブタミン/アドレナリンを併用し,LVEF<45%では甲状腺ホルモン投与も検討する。
  • 十分な輸液・ADH・カテコラミンにも反応しない循環不全には副腎皮質ホルモン(低用量ステロイド)を考慮。

内分泌機能不全とホルモン補充療法

5-1.ADH(バソプレシン/デスモプレシン)

  • 下垂体後葉障害によりADH分泌不全が起こり,多尿・希釈尿・高Na血症・低血圧を来す。
  • 中枢性尿崩症診断基準未満でも,血圧低下や有効循環血漿量減少に対するADH分泌が起こらないケースが報告されている。
  • ADH投与は移植臓器の良好な機能と独立して関連するとの報告があり、全例で投与検討が推奨される。

バソプレシン(静注)

  • 成人:0.01–0.04 U/kg/hr持続静注(保険適応外)。循環不安定時には0.02 U/kgの静注ボーラスも検討。
  • 小児:0.2–10 mU/kg/hr持続静注(単位に注意),不安定時には0.3–2.5 mU/kg/min持続静注。

デスモプレシン(点鼻/経口)

  • V1作用が弱く血圧への影響が少ないため、血圧低下を伴わない中枢性尿崩症に用いる。
  • 本邦では静注製剤がなく、点鼻5–10 μgを1日1–2回、あるいは口腔内崩壊錠を最小量から開始。小児は吸収が不安定なため点鼻は推奨されず、口腔内錠を慎重に用いる。
  • 尿量・尿浸透圧・血清Naを見ながら追加投与し、効果不十分なら速やかに静注バソプレシンへ切り替える。

5-2.副腎皮質ホルモン

  • 下垂体前葉からのACTH分泌障害により副腎皮質ホルモン欠乏が生じうる。
  • 副腎皮質ホルモン補充は循環動態安定,肺保護,過剰な炎症反応抑制に寄与すると考えられ,観察研究では肺提供率・グラフト生着率・レシピエント生存率の改善も報告されているが、メタ解析では有効性は確立していない。
  • 実臨床では輸液・ADH・循環作動薬に不応なショックに対し、低用量ヒドロコルチゾン200–300 mg/day持続静注(例:50 mg静注後10 mg/hr)を行うことが推奨される。
  • 高用量メチルプレドニゾロン(15 mg/kg〜1,000 mgなど)の有効性は限定的であり,小児では15–30 mg/kgを用いる報告があるがエビデンスは乏しい。

5-3.甲状腺ホルモン

  • 甲状腺ホルモン(T4/T3)補充の有効性は確立していないが,ADH・副腎皮質ホルモンとの併用で移植可能臓器数増加を報告した後方視的研究がある一方,メタ解析やRCTでは限定的効果とされる。
  • 実務上はドナーの循環動態不安定またはLVEF≦45%の場合に投与を検討する,という折衷的なスタンスが示されている。

体外式膜型人工肺(ECMO)

  • ECMO中でも各臓器への血流維持が最重要であり,特にVA ECMOでは自己心拍とポンプ血流のmixing zoneを意識して血行動態を調整する。
  • 管理目標(血圧・尿量・ガスなど)は基本的にTable 1と同様だが,VA ECMOでは循環,VV ECMOではガス交換の目標達成が困難な場合があるため,状況に応じて柔軟に設定する。
  • ECMOは循環不安定例で臓器灌流を維持するうえで必須となり得るが,心肺機能が回復し離脱条件を満たした場合にはECMO離脱を検討すべきとされる(ECMO装着中の法的脳死判定が複雑なため)。
  • ECMO補助中/補助後のドナーからは肺・心臓の提供が困難なことが多いが、症例によっては提供可能であり、個別に慎重な判断が必要。
  • 臓器摘出時にECMOをどの時点まで継続するか,送血管・脱血管の処理をどうするかは,管理担当医・麻酔科・摘出チームで事前に協議しておく。

呼吸管理

  • 目標は肺グラフト機能の改善と維持である。
  • 興奮期の全身炎症に伴いARDSを生じ得るほか,不可逆的全脳機能不全期には咳嗽反射消失→喀痰貯留→無気肺・肺炎が問題となる。

主な介入:

  1. 水分管理
  • 組織灌流を損なわない範囲で過剰輸液を避け,水分制限により他臓器を悪化させずに肺グラフト機能改善が可能とされる。
  1. 肺保護換気
  • 一回換気量:6–8 mL/kg(理想体重)
  • PEEP:8–10 cmH₂O
  • プラトー圧:<30 cmH₂O
  • 駆動圧:<14 cmH₂O
  • FIO₂:可能な限り低値
    という一般的な肺保護戦略を基本とし,症例に応じて調整する。
  1. ステロイド投与
  • 脳死患者へのステロイド投与により酸素化改善・肺提供数増加が報告されており、低用量ヒドロコルチゾン持続(200–300 mg/day)か高用量メチルプレドニゾロン単回(15 mg/kg)など複数レジメンがあるが、肺保護目的では低用量持続投与が推奨される。
  1. 無気肺予防と気道ケア
  • 腹臥位管理は酸素化を改善し肺提供数を増加させる。必要に応じて前傾側臥位や完全側臥位なども用いる。
  • 気管支鏡による吸痰を可能であれば1日2回行う。小児で挿入困難な場合には体位変換を頻回に実施する。
  • 無呼吸テストや陽圧解除後にはリクルートメント手技を行い,人工呼吸回路は加温加湿器,閉鎖式吸引,去痰薬投与などで粘稠痰を防ぐ。
  1. 感染対策
  • 可能であればカフ上吸引ポート付きチューブを用い,肺炎では喀痰培養に基づき適切な抗微生物薬を投与する。

肝臓の管理

  • 基本方針
    • 肝グラフトを守るには,まず全身循環を安定化させることが前提とされる。低血圧や循環血液量減少があれば是正し,臓器灌流を保つことが重要である。
  • 経腸栄養の意義
    • 経管栄養を継続することで,胆汁うっ滞や脂肪肝が改善する可能性があるとされており,肝機能維持のためにも「経腸栄養の禁忌がない限り続行」が推奨される。
  • 薬剤性肝障害への配慮
    • 肝障害を来し得る薬剤(多くの抗菌薬,抗けいれん薬など)については,可能な範囲で減量や薬剤変更を検討し,薬剤性肝障害を悪化させないように調整することが求められる。
  • 電解質管理(Na)
    • 血清Na値は 135–145 mmol/L の正常範囲内に保つよう管理することが推奨されている。高Na血症は中枢性尿崩症と絡んで臓器への悪影響が懸念されるため,ADH補充や輸液組成の調整で是正する。
  • ビリルビンの扱い
    • ビリルビン上昇がグラフト生着率に悪影響を与えるという報告と,予後には影響しないとする報告があり,見解は一致していない。
    • 値が明らかに高い場合には,肝移植医や移植コーディネーター(メディカルコンサルタント)に相談し,臓器提供の可否や利用臓器の選択を検討することが推奨されている。

腎臓の管理

  • 尿量・水分バランスの目標
    • 水分バランスを「過不足なく」保つことが重要で,尿量の目標は 0.5〜2.0 mL/kg/hr とされている。
  • 腎毒性薬剤の回避
    • 造影剤,一部のアミノグリコシド系抗菌薬,NSAIDsなど腎毒性のある薬剤は可能な限り避ける。やむを得ず使用した場合も,投与量・投与回数を最小限にすることが求められる。
  • 高リスクドナーでの軽度低体温療法
    • 60歳以上,あるいは50歳以上で
      1)高血圧の既往,
      2)Cr > 1.5 mg/dL,
      3)脳血管障害による脳死
      の 3 項目のうち 2 つ以上を満たすドナーでは,脳死判定後〜臓器摘出までの間に深部体温 34〜35℃ で管理することで,レシピエントの「1週間以内の透析離脱」が増えたという報告が紹介されている。
    • ただし,低体温は不整脈や感染リスクを増やす可能性があるため,循環動態や感染状況に問題がない場合に限って検討する,という慎重な姿勢が強調されている。

栄養管理

  • 経腸栄養の継続
    • 経腸栄養の禁忌(腸閉塞,重度の腸虚血など)がなければ経腸栄養を継続することが推奨される。肝機能にも良い影響が期待されるため,全身管理の一環として重要視されている。
  • エネルギー必要量の特徴
    • 重症頭部外傷,心停止蘇生後,頭蓋内出血などを背景とし,48時間後に「脳死」となる患者とそうでない患者を比較した研究では,脳死患者の安静時エネルギー消費量は非脳死患者より低いと報告されている。
    • そのため,「通常の重症患者のつもりでフルボリューム投与」すると過栄養になる可能性もあり,エネルギー量をやや控えめに設定しつつ,栄養不足にもならないようなバランスが求められる,というニュアンスで記載されている。

血糖管理

  • 成人の血糖目標
    • 血糖値 120〜180 mg/dL を目標とし,インスリン持続静注と頻回の血糖測定で管理する。
    • 厳格なコントロール(100 mg/dL未満など)は低血糖リスクが高く,ドナー管理としては推奨されていない。
  • 小児の血糖目標
    • 小児では 60〜180 mg/dL を目標とする。
    • 低血糖は脳・その他臓器に悪影響を及ぼすため,特に下限(60)を大きく下回らないよう注意が必要である。

体温管理

  • 通常の目標体温
    • 成人では深部体温 36〜37℃ を目標に管理する。
    • 小児では 36〜38℃ を目標とする。
  • 低体温療法との関係
    • 一般には低体温を避けるべきとしつつも,「移植後の腎機能低下リスクが高い」と判断される場合には,前述の腎臓管理で示されたような 34〜35℃ の軽度低体温療法を検討することが提案されている。

貧血と血液凝固管理

  • 総論
    • 十分なエビデンスはまだ乏しいものの,手術前に一定の値を満たすように輸血や凝固因子製剤を用いて補正することが,現場の一般的な実践として記載されている。
  • Ⅰ.赤血球
    • 原則として Hb 7 g/dL 以上を維持することが推奨される。1歳未満では 9 g/dL 以上を目標とする。
    • 実際には,臓器摘出術を控えた段階で Hb 10 g/dL 程度まで上げるよう求められることも多いと説明されている。
    • 赤血球輸血のタイミングや量は,「一律ではなく」,患者の全体の治療戦略と個々の臨床状況に応じて決定されるべきと明記されている。
  • Ⅱ.血小板
    • 少なくとも Plt 50,000/μL 以上を維持することが推奨される一方,100,000/μL 以上を維持するべきだとする報告も紹介されている。
  • Ⅲ.血液凝固系
    • PT-INR は 1.5 未満を目標として管理する。
    • DICや深部静脈血栓症の存在には注意が必要だが,「それだけをもって臓器提供の禁忌とはしない」と明記されている。
    • アンチトロンビンや遺伝子組換えトロンボモデュリン等の補充療法については,この場面での有効性はまだ検証されていないとされる。

抗微生物薬の使用と感染症への対処

14-1.総論・基本原則

  • 感染症の管理は「一般の患者と原則は同じ」であり,まず症状・身体所見・血液検査・尿検査・画像を含めて評価し,必要な培養(血液・喀痰・尿など)を採取してから適切な抗微生物薬を開始することが強調される。
  • 抗菌薬の「予防的な乱用」は推奨されず,明らかな感染症がある場合には十分な期間の治療を行う。ドナーの感染症が制御されていれば,レシピエント側に同じ薬剤を予防投与することも検討される。

菌血症(bacteremia)

  • 一般的に,原因菌が同定され,感受性のある抗菌薬治療が開始されており,かつ臨床的に改善傾向であれば,臓器提供は可能とされる方向性が提示されている(米国・欧州のガイドラインの引用)。
  • その際,レシピエント側ではドナー菌と同じスペクトラムをカバーする抗菌薬を数日〜1〜2週間程度投与することが推奨される。

細菌性髄膜炎

  • 英国SaBTO(2024)のガイドラインを引用し,
    • 感染が中枢神経に限局しており,
    • 原因微生物に対して適切な治療が行われ,
    • 提供予定臓器に感染が及んでいない
      場合には臓器提供が可能とされる
  • ただし,
    • Mycobacterium tuberculosis
    • Staphylococcus aureus
    • Pseudomonas aeruginosa
    • Salmonella spp.
      などによる髄膜炎,あるいは原因不明の髄膜脳炎は,「臓器提供を行わない」とされている。
  • 原因不明の髄膜脳炎で不可逆的全脳機能不全に至った場合,細菌性髄膜炎であると臨床的に判断されている/事前の抗菌薬で培養陰性になったと推定される/ドナーに適切な抗菌薬が投与されている/感染症専門医の助言が得られるといった複数の条件をすべて満たした場合のみ例外的に臓器提供を検討すると規定されている。

髄膜脳炎脳炎(とくにウイルス性を含む)

  • 原因不明の脳炎・脳症は,多くのガイドラインでドナー不適格とされている。米国ガイドラインは「原因微生物が同定されない脳炎の場合はドナーとして避ける方が良い」と明記する。
  • 英国SaBTOでは,「中枢神経感染で原因不明の場合,髄液リンパ球が80%以上ならドナー不適格(reject)」とし,それ以外のケースでも慎重な検討を要求している。また,HSV以外のウイルス性脳炎も原則不適格とされる。
  • これらを踏まえ,本稿では「感染性脳炎・脳症が疑われる症例」では可能な限り髄液の多項目PCRHSV, VZV, CMV, EBV, HHV-6/7, インフルエンザ,アデノウイルス等)で原因検索を行うべきと強調されている。
  • HSVやVZVによる中枢神経感染症の場合は,全身(播種性)感染となっている可能性があり,原則として臓器提供は行わない。一方で,皮膚や粘膜など局所感染(口唇ヘルペス帯状疱疹など)が7日以上適切な抗ウイルス薬で治療されていれば,臓器提供可能とされる。

インフルエンザ

  • インフルエンザウイルス感染は,NAAT(核酸増幅検査)で診断し,オセルタミビル,ザナミビル,ペラミビル等による治療を5〜10日間程度行うことが推奨されている(IDSAガイドラインを引用)。
  • 経口投与ができない場合は静注ペラミビルを用いるが,通常の投与期間は1日としつつ,患者状態に応じて延長を考慮するとされる。
  • 臓器提供に関しては,肺や小腸を除き,適切な治療が行われていれば一般的には提供可能と考えられており,肺・小腸移植では個々のケースで慎重な検討が必要と説明されている(本文中で,海外ガイドラインを引用する形)。

COVID-19

  • 日本移植学会「新型コロナウイルス感染症の移植医療における基本方針」第6版に準拠した整理がなされている。
  • ドナー評価
    • 病歴・症状・検査結果からCOVID-19リスクを評価し,必要と判断した場合(肺移植では必須)にSARS-CoV-2 NAATを咽頭および下気道から行う。実施の有無は施設判断に委ねられる。
  • 既感染ドナーからの提供
    • COVID-19罹患後のドナーでは,発症後少なくとも10日が経過し,症状改善を確認できる場合に臓器提供を検討することが望ましいとされる。
  • 感染中ドナーからの提供
    • 肺以外の臓器に関しては良好な短期成績が報告されているが,長期予後は不明なため適応は慎重に検討する必要がある。
    • 肺の提供に関しては,依然としてウイルス伝播リスクが高く,ドナーの状態・レシピエントの緊急度等を総合的に考慮して判断する
    •  
ドナー条件・検査状況 肺の移植可否 肺以外の臓器の移植可否
脳死ドナー、下気道検体が NAAT 陽性 移植を行わない。 ―(肺以外に関しては本表ではなく、下記の「上気道/下気道陽性」の条件で判断)
脳死ドナー、上気道または下気道検体が NAAT 陽性で、初回陽性から10日未満 初回陽性日から10日未満であれば、肺以外の臓器も移植しない。
脳死ドナー、下気道検体が陰性 初回陽性から21日以内、または21日を超えても症状や肺障害が続いている場合には、肺移植は行わない。
脳死ドナー、上気道または下気道検体が陰性で、重症COVID-19で初回陽性から10〜21日以内 重症例で10〜21日以内の場合、肺以外の移植も行わない。
脳死ドナー、上気道または下気道検体が陰性で、初回陽性から22日以上経過し、症状や肺障害が残存していない 条件を満たせば肺移植を検討し得る(本文では慎重な判断が必要とされている)。 初回陽性から22日以上経過し、全身状態が許せば肺以外は「移植を行う」とされる。
病歴が不明で、臓器摘出時のNAATが陽性 肺移植は行わない方向が望ましい(明確な期間情報がないためリスクが高い)。 SARS-CoV-2が陽性であることから、肺以外の臓器も「慎重に個別判断する」とされる。

 

小児で配慮すべき感染症の点(小児特有の補足)

  • 小児ではインフルエンザやアデノウイルスなどのウイルス感染症を伴っていることが多く,ドナー適格基準は明確ではないが,少なくとも「活動性感染ではない状態」(解熱し,症状が消失している等)が必要とされる。
  • 呼吸器ウイルスが検出されている小児ドナーからの肺移植については,小児感染症専門医と移植医が相談し,個々の症例ごとに判断することが求められる。
  • インフルエンザやHHV-6などウイルス性脳炎・脳症を背景とする小児ドナーについては,国ごとに基準が異なり,明確な普遍的基準はないとされる。
  • 本稿では,
    • 全身性の活動性感染ではないこと(解熱後時間経過,提供予定臓器の機能回復など),
    • 移植医・感染症専門医との協議
      を前提に,個々の症例で総合判断することが推奨されている。

 

以下、マネジメントのまとめになる表の整理。

項目 管理目標(成人・小児) 推奨される測定頻度
血圧 成人(13歳以上):収縮期血圧 ≥ 90 mmHg または 平均血圧 ≥ 60 mmHg小児:・1歳未満:収縮期血圧 ≥ 65 mmHg・1〜13歳未満:収縮期血圧 ≥(年齢×2)+65 mmHg または 平均血圧 ≥(年齢×1.5)+40 mmHg 連続モニタ
心拍数 成人:70〜100 /min小児:70〜160 /min 連続モニタ
深部体温 成人:36〜37 ℃小児:36〜38 ℃ 連続モニタ
尿量 0.5〜2.0 mL/kg/hr 1時間ごと
経皮的動脈血酸素飽和度(SpO₂) 95%以上(先天性チアノーゼ性心疾患では個別に目標設定) 連続モニタ
動脈血液ガス pH 7.35〜7.45PaCO₂ 35〜45 mmHgPaO₂ 80〜100 mmHg 2〜4時間ごと(必要に応じて)
血清ナトリウム 135〜145 mmol/L 2〜4時間ごと(必要に応じて)
血清カリウム 3.5〜4.5 mmol/L 2〜4時間ごと(必要に応じて)
血糖 成人:120〜180 mg/dL小児:60〜180 mg/dL 2〜4時間ごと(必要に応じて)
ヘモグロビン / ヘマトクリット 1歳以上:Hb ≥ 7 g/dL かつ Ht ≥ 20%1歳未満:Hb ≥ 9 g/dL 6時間ごと(必要に応じて)
血小板数 ≥ 50,000 /µL 必要に応じて
心エコー 左室駆出率(LVEF) LVEF ≥ 45% 必要に応じて(循環評価の際に施行)

 

ホルモン / 薬剤 投与量・方法
バソプレシン(成人) 0.01〜0.04 U/kg/hr で持続静注(本邦では保険適用外)*循環が不安定な場合:0.02 U/kg を静注ボーラスとして追加を考慮
バソプレシン(小児) 0.2〜10 mU/kg/hr で持続静注(単位に注意、保険適用外)*循環が不安定な場合:0.3〜2.5 mU/kg/min で持続静注(単位に注意)
デスモプレシン(成人) 1回 5〜10 µg(2〜4噴霧)を、1日1〜2回 鼻腔内噴霧
デスモプレシン(小児) 口腔内崩壊錠を最小量から開始し、臨床効果と検査値を見ながら増減**

 

ホルモン / 薬剤 投与量・方法
ヒドロコルチゾン(成人・レジメン例1) 200〜300 mg/day を持続静注
ヒドロコルチゾン(成人・レジメン例2) 50 mg を静注後、10 mg/hr で持続静注
ヒドロコルチゾン(小児) 50 mg/m² を静注し、その後 50〜100 mg/m²/day で持続静注
メチルプレドニゾロン(成人・レジメン例1) 1,000 mg を単回静注
メチルプレドニゾロン(成人・レジメン例2) 15 mg/kg を静注
メチルプレドニゾロン(成人・レジメン例3) 250 mg を静注後、100 mg/hr で持続静注
メチルプレドニゾロン(小児) 15〜30 mg/kg を静注(最大投与量 1,000 mg)

 

ホルモン / 年齢 投与量・方法
レボチロキシン(成人) 20 µg を静注後、10 µg/hr で持続静注
レボチロキシン(小児 0〜5か月) 5 µg/kg を静注後、1.4 µg/kg/hr で持続静注
レボチロキシン(小児 6〜12か月) 4 µg/kg を静注後、1.3 µg/kg/hr で持続静注
レボチロキシン(小児 1〜5歳) 3 µg/kg を静注後、1.2 µg/kg/hr で持続静注
レボチロキシン(小児 6〜11歳) 2.5 µg/kg を静注後、1.0 µg/kg/hr で持続静注
レボチロキシン(小児 12〜16歳) 1.5 µg/kg を静注後、0.8 µg/kg/hr で持続静注