narrow QRS tachycardiaの鑑別を必要とすることが多かったので、
久しぶりにこのあたりの話をまとめてみることにします。
医学書院の連載で書いたのが3年前ですね…。
特に今回はPSVT(paroxysmal supraventricular tachycardia)のマネジメントについて一緒に見ていきましょう!
頻脈の患者を見たら、、、
血行動態を評価する
頻脈の患者が来たら、まずはバイタルサインのチェックとともに
「血行動態が安定しているのか、不安定なのか」
を判断しましょう!
合言葉は「いしきしんぱい」です。
| 意味する症状・所見 | |
|---|---|
| い | 息切れ |
| し | ショック |
| き | 胸痛 |
| 意識 | 意識障害 |
| しん | 心不全、心筋梗塞 |
| ぱい | 肺水腫 |
どれも重要な臓器への灌流が低下している所見です。
冠動脈灌流が下がれば胸痛、脳への灌流が下がれば意識障害になります。
「血の巡りがわるくないだろうか」と評価するようにしてください。
4つのカテゴリーに分類して考える
頻脈性不整脈は、4つのカテゴリーに分類して考えることが一般的です。
| narrow QRS | wide QRS | |
|---|---|---|
| regular |
・洞頻脈 ・PSVT ・AT ・AFL |
・VT ・伝導障害+PSVT |
| irregular |
・AF ・AFL ・MAT |
・伝導障害+AF ・WPW症候群+AF ・多形性VT |
循環器内科によくわからなくてコンサルトするときには、
「narrow vs wide × regular or irregular」
の頻脈だと伝えれば、最低限は伝わるはずです。
今回取り扱うPSVTは“narrow QRS×regular tachycardia”に分類されます。
鑑別は大きく洞頻脈、PSVT、AT(心房頻拍)、AFL(心房粗動)に絞られます。
即座に診断がつかないことも多いですが、
それぞれの特徴を私見も交えて表にしました。
| 不整脈 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 洞頻脈 |
・I、II、III、aVFで上向きのP波が明瞭 ・P–QRSが1:1で規則的 ・心拍数は(220−年齢)/分を超えない ・疼痛、発熱、脱水、貧血など原因が説明できる |
| PSVT(AVNRT/AVRT) |
・突然発症・突然停止 ・P波は見えない、またはQRS直後に埋没 ・心拍数150〜250/分 ・若年、基礎疾患なしが多い |
| AT(心房頻拍) |
・P波がQRSの前に見えるが、洞性とは形が異なる ・PP間隔は規則的だが洞頻脈より固定的 ・RR間隔の半分よりRP間隔が長い ・心拍数100〜250/分(PSVTとオーバーラップ) ・基礎心疾患、術後、薬剤(カテコラミンなど)が背景にあることが多い |
| AFL(心房粗動) |
・心拍数150/分前後で固定なら強く疑う ・鋸歯状波(f波)が見えることあり(心房拍数約300/分) ・2:1房室伝導が典型だが、変動することもある |
血行動態が不安定なとき
すぐに電気ショックの準備をしましょう!
・ルートを2本確保して輸液開始
・最大量の酸素投与
これから鎮痛・鎮静をしてから電気ショックの流れになるため、
それに耐えられるように少しでも蘇生をしておきます。
PSA(処置時の鎮痛鎮静)をどうするか?
処置時の鎮痛鎮静のことをPSA(Procedural Sedation and Analgesia)と言います。
血行動態が不安定なときのPSAは悩ましいですが、個人的には
・フェンタニル0.5-1mcg/kg + ミダゾラム0.05mg/kg iv
または
・ミダゾラム0.05mg/kg iv
でのPSAを検討します。
血行動態が不安定になるリスクが高まります。
そのため、血行動態に応じて、
逆行性健忘を期待してミダゾラム単独少量投与は選択肢としています。
また、ケタミンを鎮痛+鎮静として用いることも可能ですが、
頻脈を誘発する可能性のある薬剤なので、電気ショックとはやや相性が悪いかもしれません(使えないわけではありませんが)。
どのくらいのエネルギーで電気ショックするか?
いつもほとんど適当になってしまうので、ガイドラインを見ておきます。
ERC2025:PSVT(やAFL)に対しては、70-120Jでの電気ショックを推奨
European Resuscitation Council Guidelines 2025 Adult Advanced Life Support
AHA2025:使用している除細動器の推奨に従う、それがわからない場合には最大設定で電気ショックを行う
Vol 152, No 16_suppl_2 | Circulation
ガイドラインによって言っていることは違いそうです。
経験的にはPSVTであればそこまで高いエネルギーでなくとも洞調律に戻る印象なので、
「50-100Jくらい」
でよいと考えています。
血行動態が安定しているとき
血行動態が安定しているときには、
洞調律を目指すにあたってさまざまな手法があるので、
患者さんの状態に合わせていろいろ試してみましょう。
なるべく薬剤を使わない方法① modified Valsalva法
従来のValsalva法はあまり効果がありませんが、
修正Valsalva法はなかなか効果的です。
報告と同様に、おおよそ半数の症例に効果的な体感があります。
Pursuit of Optimal Vagal Maneuvers in Stable Supraventricular Tachycardia: A Network Meta-Analysis

シリンジ1つで頻脈対応 魔法のようなPSVTマネジメント(徳竹雅之) | | 記事一覧 | 医学界新聞 | 医学書院
いっつもあんまり効果がないんだよな~という場合には、
以下の方法を試してみてください。
効果が出ないときの対策① しっかり息こらえさせる
この手技が成功する機序を知っておくとよいでしょう。
※Valsalva法が効く機序
息こらえをすることによって、胸腔内圧が上昇する
→ 静脈還流量が減少する
→ 1回拍出量が減少することで、血圧は一過性に低下して頻脈になる
→ 息こらえを開放すると、一気に静脈還流量が増えて心臓が引き延ばされる
→ 1回拍出量が増大して、頸動脈洞圧が上昇する
→ 迷走神経刺激が起こり、反射的に徐脈が引き起こされる
いちばん大事なところは、
しっかり息こらえをしてもらって静脈還流量を減らすことです。
そのため、15秒間または限界に達するまで、
しっかりシリンジに向かって息を吐いてもらいましょう。
原著では40mmHgの圧をかけると書いてあります。
ベッドサイドの横につけて、
「ほらっ、もっと限界まで頑張ってみてください!!!」
なんて励ましながらやっています。
また、10mlシリンジを吹いてもらったときに、
シリンジのプランジャーが最大限まで動くことを目標にするように話しています。
(これって結構つらいんですよ)
あんまり負荷が強すぎると心が折れるので、
事前にプランジャーを何度か用手的にピストンしておくと、
すべりが良くなって完遂できる患者さんが多いように思います。
効果が出ないときの対策② しっかり下肢を挙上させる
ここでの「しっかり」は空間的かつ時間的にです。
※Valsalva法が効く機序 には続きがあります。
息こらえを開放したあとに、静脈還流量が増えることがキーです。
下肢を上げるとただ仰臥位でいるよりもたくさんの血液が心臓に返ってきます。
より静脈還流量が増えることになるので、その後の反射性徐脈が起こりやすくなるという寸法です。
なので、
下肢はなるべく高めに持ち上げます(空間的)。
そして、なるべく1分程度は持ち上げておくことがよいかと思います(時間的)。
この時間的しっかりができていないことが多い印象を受けます。
10秒くらい持ち上げてみて「やっぱ効かないか~」は早すぎます。
原著では、効果判定は1分後となっていますので、
最低でも30秒、最大1分間は下肢を挙上させて待つようにしてください。
効果が出ないときの対策③ 静脈還流量を増やすために…
Valsalva法が効くためのキーは、静脈還流量が増えることにあります。
なので、事前の準備として輸液をしておくと多少効果的かと考えています。
ルートもとらないでmodified Valsalva法だけやってスッキリよくなって帰宅する患者もいますが、
もし効果がない場合には輸液をしてからリトライはいい作戦だと思います。
(素直にATP静注に移ってもいいですが、患者によっては「あの薬は死ぬ思いしたからいやだ」なんて言う人もそれなりにいるので)
なるべく薬剤を使わない方法② reverse Valsalva法
こちらはもっと簡単にできます。

シリンジ1つで頻脈対応 魔法のようなPSVTマネジメント(徳竹雅之) | | 記事一覧 | 医学界新聞 | 医学書院
これはとある国の救急医が、自らのPSVTに対して適用してみたら効果的だったということで発表された方法です。
RCTや大規模研究はありませんが、
これの最大のメリットは自宅でも簡単にできることにあります。
患者さんが動悸を感じたときに試してもらうように教えておくとよいでしょう。
ATP静注も必要なシリンジは1つだけ!single syringe法をマスターしよう
Valsalva法で止まらない症例や、それが使えない症例に対しては、
薬物による治療を行います。
薬物治療の第一選択薬はATP(アデホス®)です。
投与前には禁忌がないか評価してください。
ATPには気管支攣縮作用があるため、気管支喘息の既往がある場合には使用を避けるべきです。
そして、投与前に説明を処方する必要があります。
ATPの副作用として、
顔面紅潮や呼吸困難、頭痛、嘔気嘔吐、不安や恐怖心の出現などがありえます。
これを説明せずにやってしまうと、金輪際ATPによる治療を忌避されてしまうことにつながってしまいます。
さて、ついにATPの投与です。
ATPはちょっと特殊な薬剤で、
血管内に入ると赤血球や血管内皮細胞により即座に代謝されてしまいます。
半減期が10秒以下と非常に短いのが特徴です。
そのため、
・ルートはなるべく近位部に確保しておきます
血管内に入ったATPがなるべくはやく心臓に到達するように
・ATPは急速静注します
この急速静注の方法として、
なぜか慣習的に2つのシリンジを使って行われています(double syringe法)。
生食とATPが入った別々のシリンジをルートにつなぎ、
それぞれ三方活栓を操作してATPを生食で急速に後押しするというおなじみの方法です。
でも、これってムズカシイですよね。
そのため、「single syringe法」をオススメしています。
ATPは生食と混注しても安定していますので(あたりまえですけど)、
1つのシリンジにATPと生食20mlを入れて急速静注します。
Single-syringe Administration of Diluted Adenosine
現時点の臨床データでは、
・single syringe法は少なくとも従来のdouble syringe法に劣らず、
・研究によっては 「初回6mg(日本の規格では10mg)で止まりやすい」
可能性が示唆されています。
ただし 研究規模が小さく、決定的な優越はまだ言い切れません。
スタッフが少ないとか、三方活栓に不慣れで切り替えに時間がかかりそうとか
そういう環境ほどメリットが大きくなりそうです。
なので、個人的にはsingle syringe法がオススメです!
ATPの効果が乏しいことって予見できる???
ATPは効果的かつ症例を選べば比較的安全に実施できる優秀な初期治療です。
しかし、患者のなかには「もう二度とやりたくない」という強い拒否感を抱いている方がいるのも事実です。
まるで“あの世に連れて行かれそうな感覚”があるのだとか…。
そんな患者に対してATPをむやみに打つ前に、
「この患者は効きづらいかも?」と予測できれば、別の手段を考えるきっかけになるかもしれません。
私が実臨床で気にしているのは2つです。
① イオン化カルシウム(iCa)値
iCa値が1.14mmol/L未満の場合には、
ATPによる洞調律復帰の成功率が低くなる傾向があるとされています。
このカットオフでの洞調律復帰の予測精度は、
感度65%、特異度88%という報告があります。
② カフェイン摂取歴
カフェインにはアデノシン受容体拮抗作用があります。
ATP(アデノシン)の効果を打ち消してしまう物質なんですね。
実際に、2~4時間以内にカフェインを摂取した患者では、
ATPによるPSVT停止率が有意に低下するというデータがあります。
ほとんど24時間カフェインの絶えない私にはATPは効かないんでしょう…。
カフェイン摂取が疑われるケースでは、
初めから高用量のATPを使うか、
別の手段(たとえばCa拮抗薬や電気ショックなど)に切り替えるという判断もアリだと思います。
ATPでも止まらない頑固なPSVTにはCa拮抗薬
ATPでも止まらない頑固なPSVTには、Ca拮抗薬を使用します。
房室伝導を抑制する目的でベラパミルやジルチアゼムの出番となります。
PSVT停止率はATPとおおむね同等です。
これらの薬剤は緩徐に投与することがポイントです。
ベラパミル:1 mg/分
ジルチアゼム:2.5 mg/分
の速度で投与してください。
効果はそのままで低血圧発生率を1%未満に抑えられます。
ベラパミル5mgを5分かけて
ジルチアゼム10mgを4分かけて
投与することで安全性が担保されます。
生食50mlに溶いて全開投与くらいにしておくと大体よいでしょう。
実際には、この半量程度の投与量にしておくことが多いですが、
それなりに効果があり、より安全性が担保されると考えています。
これらの薬剤は陰性変力作用が強く出ることがあるため、
心不全への投与は避けなければなりません。
不安であればCa拮抗薬の使用を避けるか、
どちらかと言えば陰性変力作用の弱いジルチアゼムを使用しましょう。
それでも止まらない場合にはI群抗不整脈薬やアミオダロンの使用、電気ショックも検討されますが、無理せず専門科へ相談しています。