今週はちょっとニッチな内容が多かったようです。
(尿閉解除後利尿、経鼻胃管症候群、CRPS、リウマチ関連肺疾患など)
Annals of Internal Medicineから最新の低Na血症に関する総説は必読です。
また、European Society of Urogenital Radiology(ESUR)からの造影剤使用に関するガイドラインも出ています。救急外来でのマネジメントに直結する内容は少なめでしたが、造影剤を使用する医療従事者は必見だと思います。

腎臓・泌尿器
尿閉解除後利尿
尿閉解除後のPOHDに関する頻度・リスク因子・管理法・合併症の報告を系統的に整理した総説。
POHDの定義:2時間連続で尿量 ≥200 ml/h、もしくは24時間尿量 >3 Lで定義される。
多くの患者では、POHDは体液・溶質の恒常性が回復することで自然に収束するが、一部では、恒常性が是正された後も「水・溶質の過剰排泄」が持続し、重篤な脱水、電解質異常、低血圧、さらには死亡に至る可能性もあることが指摘されている。尿細管障害に伴うナトリウム再吸収低下、急性腎不全後の体液過剰、各種生化学的・免疫学的因子などが関与するとされ、結果として、「水と電解質の排泄が過剰に続く」状態がPOHDである。
原因疾患:前立腺肥大(benign prostatic enlargement) が最も多く 11%(70人)、前立腺癌 5%(36人)、その他:尿路感染症、尿道狭窄、膀胱癌、神経因性膀胱などが報告される。
尿閉解除時の膀胱容量とPOHDの頻度・持続期間:減圧時の平均膀胱容量は研究ごとに 1~2.4 L と幅があり、加重平均では 1.3 Lと報告される。POHDの発生率は研究間で 15~78% と非常にばらつきが大きい。Vaughanらの古い研究はPOHD患者のみを対象としているため発生率は必然的に100%だが、Shapiroら、Boettcherら、Jonesらの3編はPOHD発生率を明示していない。POHDの持続期間は、報告のある2編では平均 2日と5日、個々の症例レベルでは 1~13日 の範囲が示されている。
尿閉解除前の腎機能・併存疾患:Cre>1.4mg/dLを腎機能障害と定義した場合には、58%が腎機能障害を認めた。減圧後に82%の症例で完全な腎機能の改善が得られている。ほか、39%に高血圧を認めた。臨床所見として、意識障害を呈することがあるがいずれも減圧後に完全に回復。末梢浮腫、うっ血性心不全、低ナトリウム血症、高カリウム血症なども減圧前に観察され、多くは減圧により可逆的であった。
合併症(血尿・低血圧・低Na血症など)
・血尿(post-obstructive hematuria):発生率は研究により 11~55%。Ahmedらの研究によれば、すべての血尿が24時間以内に自然消失し、輸血や外科的介入は不要であった。BoettcherらのRCT(急速 vs 徐々の減圧)では、血尿発生率は 11.3% vs 10.5% と差がなく、急速群で6例、徐々群で4例に追加介入が必要だったが、出血の頻度・重症度・タイミングに有意差はなかった。
・低血圧(post-obstructive hypotension):1編で 9%(2人) の発生が報告された。有意な血行動態変化がある症例には静脈内補液を行い、それ以外は経口補水で管理。2編では低血圧は発生せず、他の研究では報告がない。
・低ナトリウム血症:Na <135 mmol/L を低Na血症と定義した2編で、発生率は22%と28%。1編では、低Na血症患者の 25%(4人) にNa補正治療が行われた。もう1編では、Na <125 mmol/L の重症例を含め全例が48時間以内に自然改善しており、治療としては、原因薬剤(低Na血症を起こしうる薬)の中止などが行われた。
POHDのリスク因子:有意な独立リスク因子として、血清クレアチニン >1.2mg/dL(OR 4.83, 95%CI 1.14–20.44, p = 0.032)、膀胱減圧時の尿量が多いこと(100 ml増加ごとに OR 1.21, 95%CI 1.06–1.40, p = 0.006)が挙げられる。他に候補として挙げられているが、統計的には検証されていないものとして、高血圧・血清尿素上昇・末梢浮腫・うっ血性心不全・精神状態の変容(混乱など)がある。
管理(マネジメント)と減圧方法:Vaughanらの古典的研究では、尿量の67%を補液で置き換える戦略が提案され、そのうち 65%を静脈内、35%を経口から投与する方法が示されている。ICU入室率やPOHDに伴う死亡率など、重症度に関するアウトカムは、いずれの研究でも明瞭には報告されていない。急速減圧(rapid decompression) vs 徐々の減圧(gradual decompression)に関して、BoettcherらのRCTによれば血尿、低血圧などの合併症発生率に有意差はなく、減圧方法の違いは合併症リスクに大きく影響しないと結論づけられている。
Obstructive uropathy - acute and chronic medical management
閉塞性尿路障害に対して、減圧後の水分・電解質管理から長期CKDフォローまでを一気通貫で整理した“実践的ハウツー総説”。
尿はつくられ続けるため、閉塞部位より近位側で圧が上昇し、腎盂・尿管の拡張(水腎・水尿管)を生じる。高圧により、糸球体ろ過圧低下と腎血流低下が起こり、虚血性障害・炎症・尿細管萎縮・間質線維化が、完全閉塞では2時間以内に始まる。腎盂圧が一定閾値を超えると尿が腎実質・リンパ路へ逆流するため、腎盂破裂はまれ。尿濃縮・酸性化能が障害され、「低張尿(hyposthenuria)」となり、電解質異常や多尿に至る。放置すれば日〜数か月で瘢痕化・無緊張となり、終末期腎不全に至る。動物実験では、尿管結紮後2週間まではある程度腎機能が残るが、4週を超えるとほぼ不可逆とされる。減圧によりこの機序は反転し、機能が残っているネフロンの代償性肥大により速やかに回復することもあるが、完全な回復とならない症例も多いよう。
慢性膀胱過伸展例では、減圧後にdecompression haematuriaが約10%で生じるが、多くは軽度・一過性であり、必要なら膀胱洗浄で対応可能。かつては「徐々に排液すべき」という考えがあったが、小規模RCTでは急速排液と徐々の排液で血尿リスクに差はないと報告されている。
生理的多尿と病的POD:減圧後、約2/3の症例で「生理的」多尿が出現するが、通常は 24時間以内に改善する。一方で、尿量 >200 mL/h が2時間以上、あるいは 24時間尿量 >3 Lを満たす状態をPODと定義し、多くは48時間以内に収束する。完全・慢性閉塞、著明な血清Cr上昇、減圧前の膀胱容量 >1500 mL などがリスク因子とされる。
軽度で短期間の多尿は、外来での経口摂取(1日2 L程度を目安に「喉の渇きに応じて」)で十分なことが多い。POD や2日以上続く多尿、血圧低下を伴う場合は入院管理が推奨される。バイタル・体重・尿量(時間尿)・血圧(臥位・立位)の綿密なモニタリングが必要である。カテーテルはクランプせず自由排液とし、尿量を正確に把握すべきであり、「急速減圧が有害」というエビデンスは乏しいことに留意。
具体的な輸液戦略:エビデンスに基づく定説はなく、個別化が必要とされるが、著者らの推奨として、volume-overload phaseでは直前1時間の尿量の50%を目安に輸液速度を設定し、徐々に体重を減少させつつdiuresisを落ち着かせる方法を提案している。輸液は晶質液を基本とし、血清電解質に応じて選択する。その後volume-depleted phaseに移行した場合は通常の急性循環不全に準じた輸液で、欠乏量・維持量・喪失量を勘案して補正する必要がある。
電解質補正について:閉塞性尿路障害では、閉塞前後でナトリウム・カリウム・HCO₃⁻・Mg・Ca・リンの尿細管ロスが起こり、進行するとこれに加え、カリウム・水素イオン・Cl・アンモニウムの貯留が加わる。近位・遠位尿細管性アシドーシスの原因となることもありうる。
・低Na血症:程度の軽い低Na(130–135 mmol/L)は無症状であり、通常は「水分摂取のし過ぎを避ける」程度で特別な治療は不要。重度(<120 mmol/L または神経症状あり)では、Na欠乏量の推定・適切な補正速度の設定・頻回採血によるモニタリングが必須であり、一般的な低Na治療に準じた慎重な補正が必要。
・高Na血症:POD に伴う希釈尿の排泄が続くと、脱水+高Na血症となりうる。発症頻度は不明だが、発生すれば予後不良因子であり、5%ブドウ糖などの低張液を用いて、安全な速度で Na 145 mmol/L 程度まで是正することが推奨される。
・低K血症:POD の約30%で低K血症が生じるとされ、もっとも頻度の高い電解質異常。1 mmol/L の低下あたり約 200 mmol の K 欠乏とみなし、軽症なら経口補充(錠剤1錠中8–14 mmol 程度)で対応する。血清 K<2.5 mmol/L では心電図モニタリング下での静注補正が必要であり、総投与量は1日400 mmolを超えないようにすべき。
・高K血症:閉塞にともなう高度腎不全や遠位尿細管障害で生じ、透析導入例ではしばしば見られるが、減圧後は速やかに是正されることが多いため、通常の高K治療を行えばよい。閉塞性腎障害での急性入院のうち、透析が必要となるのは15%未満。
周術期薬物管理・特異的薬物治療:NSAIDsは腎血流自己調節への影響や AKI リスクのため、急性・慢性腎障害では極力避けるべき。降圧薬に関して、閉塞時には容量負荷・レニン/エリスロポエチン増加により高血圧を来しうるが、減圧後は比較的速やかに改善しうるため、降圧薬は慎重に調整する必要がある。ACE阻害薬/ARB は長期的には腎保護的だが、閉塞解除直後の腎前性AKIや高K血症を増悪しうるため、導入タイミングに注意が必要。閉塞+感染(urosepsis)は侵襲性が高く、広域で組織移行性の良い薬剤(アンピシリン、セフトリアキソン等)を静注で早期投与し、その後培養結果に応じて調整することが推奨される。
閉塞期間・完全性・感染の有無が腎予後に最重要であり、1週間未満の閉塞 → 多くが完全回復、6〜8週間以上の高度閉塞 → 不可逆とみなされることが多い。それでも、適切なケアがあれば CKD としての長期経過は比較的穏やかであり、10年で透析に至るのは約3%に過ぎない。感染を伴う閉塞腎を減圧しない場合、死亡率は約40%に達するが、減圧すれば5%未満まで低下するとされ、緊急減圧の重要性が強調される。一方、生命予後については高齢・悪性閉塞で不良であり、12か月生存率は悪性閉塞で約40%、非悪性閉塞で約90%とされる。
Postobstructive diuresis: pay close attention to urinary retention
尿路閉塞解除後に生じうるpostobstructive diuresis(POD)の診断と治療について、プライマリケア医に教育することを目的としたレビュー。
PODの病態生理:長期閉塞中の血流変化により髄質の高浸透圧勾配が失われ、Na輸送体もダウンレギュレーションする。糸球体濾過率低下と髄質ネフロン喪失により、再吸収力も低下。集合管のADH反応性低下により腎性尿崩症様の状態となり、希釈尿が大量に出る。実際にはこれら複数の機序が重なってPODが生じるとされる。
PODを発症した場合には、尿Na・K・浸透圧を測定し、尿素利尿か塩利尿かを判定する。尿素利尿:閉塞中に貯留した高BUNが原因で、一般に自己限定的。塩利尿:Na喪失が強く、病的PODへ進行しやすい。スポット尿Na >40 mEq/L は腎尿細管障害と持続的Na喪失を示唆し、病的PODリスクが高い。尿比重による簡易評価も可能で、1.010:血漿と等張(iso-osmotic)で、腎が濃縮せずに排泄している → 多くは生理的PODで自己限定的。1.020:腎が尿を濃縮し始めており、PODがほぼ解消。1.000:血漿より低張で濃縮不能 → 塩喪失型の病的PODのサインで、厳重な監視が必要。
補液の原則として、目標はやや負の水バランスを目指し、過剰輸液によりPODを長期化させないようにすること。前1時間の尿量の75%を補液量の目安とすることが推奨される。認知機能が保たれていれば経口補水を優先し、認知機能障害があれば0.45%生食の静注を用いる。病的PODに進展した場合には、euvolemiaに達しても多尿が持続し、低Na・低K・低Mg、代謝性アシドーシスなどの異常を来す。循環血液量の低下やショックのリスクが高く、集中管理レベルの厳格なモニタリングと、腎臓内科コンサルトが必要。認知機能の有無にかかわらず全員に静脈内補液を行い、電解質・酸塩基平衡に合わせたきめ細かい補正を行う。
※尿閉解除後利尿への介入としてDDAVPは入っていないが、血清Na値が過度に上昇するような状況ではDDAVPが過補正のブレーキとして有効性があるかもしれないという最近の症例報告がある。
※また、尿素補充や高たんぱく食も効果があるのではという症例報告もある。
As The River Flows: A Case Report of Post Obstructive Diuresis
腎髄実は腎皮質よりも浸透圧が高い状況になっている(濃度差=勾配)ために、集合管で水を再吸収して尿を濃縮することができている。この勾配を作っているのが尿素(とNaCl)。尿閉の際には尿細管内圧上昇・GFR低下・髄質血流増加・尿素やNaClが髄質からwashout(medullary washout)といったことが起きている。尿閉が解除されると、髄質の浸透圧は低いままになっており、いくらADHが働いたとしても水を引き込むことができない(=腎性尿崩症様と表現される)。この状況で髄質の浸透圧を形成する材料である尿素を投与すると、血中尿素上昇→集合管から尿素が再吸収される→髄質間質に尿素が蓄積→髄質浸透圧上昇が起きて水の再吸収ができるようになる。このため、尿素投与や高たんぱく食は効果的なのだろうと考えられている。この状況が整ってからDDAVPを行うとより利尿を抑制できる可能性がある。
低ナトリウム血症
Annals of Internal Medicineから最新の低Na血症に関する総説。悩ましい診断に対する筆者自身のアルゴリズムや新規の治療などについて概説されている。
病態生理:低Na血症は「Naの欠乏」そのものではなく、「体内水分量に対するNa濃度の低下」=水バランスの異常として定義される。血漿Naは「細胞外Na+細胞内Kの総量 ÷ 体内総水分量」で決まる。健常人では、腎が十分に希釈尿(低浸透圧尿)を大量に排泄できるため、1日20 L近い水摂取でも低Na血症にはならない。この最大尿量には、正常腎機能・十分な尿素/Na供給・尿希釈能・低Na時のAVP分泌抑制が必要である。腎で排泄される自由水量は、尿量と尿Na+K濃度の和と血漿Na濃度の関係で決まり、尿Na+K<血漿Naであれば自由水が排泄されていると考えられる。腎機能低下、利尿薬、低溶質摂取(低タンパク・低Na食)、非浸透圧性AVP分泌(痛み・ストレス・低血圧など)により自由水排泄能が低下した状態で水分摂取が排泄能力を超えると低Na血症が生じる。
低Na血症の予防策:長期コホートでは、低Na血症の累積発生率は10年で30%、2年で4%など幅があるが、薬剤性が大きな割合を占める。サイアザイド系利尿薬は、非使用に比べ低Naリスク約5倍(HR 4.95)、軽症4.5倍、重症〜中等症は8倍と報告される。サイアザイド開始後の入院リスクもOR 2.9と有意に上昇し、高齢・低体重・低K血症が危険因子である。個人的にもサイアザイドにやられた経験は数知れない。他に、SSRI/SNRI、カルバマゼピン、オキスカルバゼピンなどが尿希釈能を妨げ、SSRI開始後の低Na入院リスクはOR 2.1と推定されている。マラソンやトライアスロン参加者の最大13%に低Na血症が認められ、その一部はNa<120 mmol/Lの重症例である。統合失調症など精神疾患患者では、多飲・薬剤(SSRI等)・低溶質食などが重なり低Na血症を起こしやすい。慢性腎臓病(eGFR平均50 mL/min/1.73m²程度)では、ベースラインで13.6%、5.5年の追跡で26%が1回以上低Na血症を経験しており、CKD自体が水排泄能を制限する。
臨床症状:症状は無症候から悪心・頭痛・混乱・痙攣・呼吸停止まで非常に幅広い。サイアザイド誘発低Na(Na<135)の研究では、軽症例でも倦怠感・嗜眠:49%、めまい:47%、嘔吐:35%といった神経症状が多く、脱水所見が乏しいことも多い。Na<115 mmol/Lでは混乱が高頻度となり、さらに進行するとせん妄・意識障害・痙攣・呼吸停止など重篤な症状を来す。中等度〜高度の低Na患者を対象にした研究では、認知機能・運動機能・気分安定が有意に障害されており、慢性軽症低Naでも骨粗鬆症・転倒・大腿骨骨折リスクが増加する。
volume statusによる大分類と主な原因:それぞれでNa総量と総水分量の増減のバランスが異なり、治療方針にも直結する。 ※でも個人的にはあまり自分の評価の正当性を信じていないところ。
・低容量性低Na:腎外Na喪失(嘔吐・下痢等)では、体液量減少により非浸透圧性AVP分泌が亢進し、尿Na<30 mmol/L・尿浸透圧高値となる。嘔吐では尿Naが高く見えても、尿Cl<30 mmol/Lとなることが特徴。腎性Na喪失では尿Na>30 mmol/Lとなり、利尿薬・CSW・Addison病・浸透圧利尿などが該当する。CSWでは、近位尿細管でのNa再吸収障害と尿素・尿酸再吸収低下→大量のNaと水が尿中に喪失し、体液量減少→AVP分泌亢進→低Na血症となる。術後の大きな陰性バランスが警鐘となる。Addison病(原発性副腎不全)では、アルドステロン欠乏による腎Na喪失と、コルチゾール欠乏によるAVP分泌亢進が合併し、低Na・高K・代謝性アシドーシス(HCO₃↓)・尿Na高値の組み合わせを呈する。
・等容量性低Na:SIADの頻度が最も高い。軽度のNa総量減少+水分量増加→臨床的には浮腫のないeuvolemiaを呈し、実験室的には尿酸低値・BUN/Cr比低値など軽度の「相対的過容量」の所見を示す。SIADの原因を検索する必要がある。
高容量性低Na:心不全・肝硬変・ネフローゼ症候群・CKDでは、それぞれ機序は異なるが、共通して「循環有効血漿量の低下」とそれに続くRAAS亢進・交感神経亢進・AVP分泌促進→Naと水の貯留→相対的水過剰という流れで低Naを生じる。
診断アルゴリズムを使用する際のポイント:
①まず血漿浸透圧(Na・糖・BUNから計算)を評価:>295 mmol/kg:高張性低Na(主に高血糖・マンニトールなど)、275–295:偽性低Na(高脂血症・高蛋白血症・膀胱灌流液の吸収など)、<275:真の低張性低Na
②低張性が確認されたら、尿浸透圧を評価:<100 mmol/kg:AVPが抑制され最大希釈尿が出ている → 多飲/低溶質摂取(ビールポトマニア、tea-and-toast diet など)が主因。100–200:多飲+他の要素(利尿薬・軽度の容量減少・薬剤性SIAD)が重なっている可能性。>200:AVPが分泌されている状況 → 容量状態と尿Naでさらに分類。
③容量状態(低容量・等容量・高容量)と尿Na/Clで絞り込む
既存アルゴリズムが容量評価の困難さと副腎不全・甲状腺機能低下の見落としにより診断精度が低いことを指摘しており、以下のようなアルゴリズムを提案している。

既存のアプローチと大差はないように見えるが、真の低張性低Na血症を判断したあとにすぐに体液量評価に移るのではなく、尿浸透圧で分類を進めるのが特徴的。その後、尿浸透圧>200の場合に体液量を考えるというアプローチ。

さらに、hypovolemiaと判断した場合には、尿Naを評価。
・まず利尿薬使用中ならいったん中止してNaが正常化しない場合には他の原因を精査
・尿Na<30:腎外喪失を疑う(嘔吐、下痢、膵炎、発汗、小腸閉塞など)
・尿Na>30:腎性喪失を疑う(浸透圧利尿、塩類喪失、Addison病、CSWなど)
0.9%生食投与後の反応で、
・Naが正常化し尿浸透圧が低下 → 単純な低容量性低Na
・正常化しない/尿浸透圧変化なし・尿Na高値 → 塩枯渇型SIADなどを疑う。
※経験的な生食投与はしばしばしてみることがある

euvolemiaと判断した場合にも、尿Naで分類する。
・尿Na<20:hypovolemia疑い
・20<尿Na<40:hypovolemiaまたはeuvolemia
・尿Na>40:たぶんeuvolemia→コルチゾール欠乏・甲状腺機能低下を先に除外し、それでも不明ならこのアルゴリズムでSIADと判断
hypovolemiaかeuvolemiaか判然としない場合、0.9%生食を1–2 L投与し、
・血清Naが上昇/尿浸透圧低下 → hypovolemia
・Naが低下or不変/尿Na増加 → SIAD
と判定する。
※個人的にもこのアルゴリズムに賛成。実際にはhypoなのかeuvolemiaなのかわからないことは多いので、それを入り口に使うのはあまりよろしくない。appendix 1のようにまずは尿浸透圧で分類→その後は尿Naをみつつも、明らかな分類ができないことが多いので生食を80ml/hrで24時間投与して反応を見るのがリーズナブルだと思っている。

もしhypervolemiaと判断した場合には、
・尿Na>30:CKDなど
というように判断する。
治療方針
急性 vs 慢性・重症度の定義:発症から48時間未満が「急性」、不明または48時間以上が「慢性」。ガイドラインではやや差はあるが、軽症:Na 130–135、中等症:120–129(欧州:125–129)、重症:Na<120(欧州:<125)とされ、ほとんどの専門家がNa<120 mmol/Lを重症低Naとみなしている。
急性・重症症状時の高張食塩水投与:急性低Na(術後、エクスタシー、精神疾患の急性多飲、内視鏡前処置、運動後水中毒など)は脳浮腫・脳ヘルニアのリスクが高く、迅速なNa補正が生命予後に直結する。3%食塩水のボーラス投与(例:100 mLを10分で投与×最大3回)により、まずNaを4–6 mmol/L上昇させ、症状改善とヘルニア回避を図るのが推奨される(米国)。欧州ガイドラインでは、重症/中等症で150 mLの3%生食を20分かけて投与し、Na 5 mmol/L/日程度の上昇を目標としつつ、24時間で+10、以後24時間ごとに+8を超えないよう制御する。
慢性低Naにおける許容補正速度とODS:慢性低Na患者では、脳が数日かけて浸透圧性物質を喪失して細胞容量を正常化しているため、急激なNa上昇で細胞が脱水→橋中心髄鞘崩壊症候群(ODS)を起こし得る。ODSは、補正後2〜6日で出現する構音障害・嚥下障害・四肢麻痺・意識障害・昏睡などで特徴づけられ、Na 24時間で10 mmol/L以上、48時間で18 mmol/L以上の上昇と関連する。大規模コホートでは、急速補正(>8 mmol/L/日)は約18%に起こるが、ODSは0.2%程度と稀であり、アルコール依存・低K・低栄養・肝疾患・Na≦105などの危険因子を有する症例に集中していたと報告されている。著者はリスクなし:1日10–12 mmol/Lまで、最低でも8–10 mmol/Lは上げる、リスクあり:1日最大8 mmol/L、最低6–8 mmol/Lを推奨しており、過補正はD5W+デスモプレシンでほぼ常に戻せるが、補正不足は致命的になりえるとしている。
過補正リスクの高い患者とデスモプレシン戦略:過補正は、原因が急速に取り除かれたとき(水多飲の中止、低溶質状態の改善、体液量減少の補正、副腎不全のステロイド補充、薬剤性SIADの中止など)に、突然水利尿が出現することで生じやすい。そのためデスモプレシンを使った3つの戦略が紹介されている:
A) プロアクティブ:高張食塩水投与開始と同時にデスモプレシンを定期的に投与し、尿量を一定に保つことでNa変化を「制御しやすい系」にする。
B) リアクティブ:尿量増加やNa上昇が期待より速い段階でデスモプレシンを追加し、過補正を未然に防ぐ。
C) レスキュー:すでに24時間で10 mmol/L以上など、補正上限を超えてしまった場合に、D5W+デスモプレシンでNaを引き下げる。
※個人的にはリスクが高い場合にはA) プロアクティブな治療をしている。
高容量性低Naの治療:
・心不全:水・Na制限とループ利尿薬が基本。収縮不全型心不全ではACE阻害薬が心拍出量を増加させ、ノルエピネフリン・全身血管抵抗・左室拡張末期圧を低下させることで、非浸透圧性AVP分泌を抑制し自由水排泄を増やす。急性心不全に対し「高張食塩水+フロセミド」を用いたメタ解析では、Naが平均6.8 mmol/L上昇し、Crが0.41 mg/dL低下するなど腎機能にも良い影響が示されている。
・肝硬変+腹水:最も有効なのはアルブミン静注で、ある研究では85%で低Naが改善し30日生存率も向上、さらに別試験では低Na発生率の低下・認知機能とQOLの改善も示されている。
・ネフローゼ症候群:アルブミン<1.7 g/dLの「underfill」ではアルブミン+利尿薬、>1.7 g/dLの「overfill」では利尿薬主体。
・CKD:水・Na制限、体液過剰があればループ利尿薬を用いる。尿濃縮・希釈能が障害されているため、SIADというラベルは付けず、CKDとして別枠で扱うことが重要。
慢性・無症候性低Naの治療
| 病態(Condition) | 主な治療方針 | 補足・注意点 |
|---|---|---|
| 消化管喪失・発汗などによる低容量性低Na | 0.9%生理食塩水で循環血液量とNaを補う。 | 体液量が急速に回復すると水利尿が一気に出てNaの過補正リスクがあるため、補正速度をモニターし、必要ならデスモプレシン+5%ブドウ糖液(D5W)でNaを再び下げることを検討する。 |
| 利尿薬による低Na | 原則として原因の利尿薬を中止する。改善しない場合は等張食塩水を慎重に補液する。 |
利尿薬中止だけでNaが戻ることも多い。 Naが上がり始めたら、過補正にならないよう頻回に血清Naを確認する。 |
| Addison病(原発性副腎不全)/グルココルチコイド不足 | 0.9%生理食塩水で補液しつつ、ステロイド補充を行う。 | Addison病では、グルココルチコイド+ミネラルコルチコイドの両方を補う。二次性副腎不全などコルチゾールのみ不足している場合は、グルココルチコイド補充が中心となる。 |
| 原発性多飲/低溶質摂取 | 水制限を基本とし、必要に応じて食事中のタンパク・電解質摂取を増やす。 | 利尿薬やSIADを起こす薬剤があれば中止する。低容量や低溶質が強い場合、等張食塩水を少量ずつ補うことがあるが、その際は急激な水利尿→Na過補正に注意し、場合によりデスモプレシン併用も検討する。 |
| 心不全・肝硬変・ネフローゼ症候群・慢性腎臓病に伴う高容量性低Na | 水とNaを制限し、体液過剰があればループ利尿薬を用いる。 | 肝硬変やネフローゼでは、病態に応じてアルブミン投与+利尿薬が有用な場合がある(特に“underfill”タイプのネフローゼ)。CKD では尿濃縮・希釈能が障害されているため、SIADとして扱わず、CKD由来の水バランス異常として別枠で考える。 |
| SIAD | まず原因薬剤・誘因の中止を行い、水制限(目安 1 L/日程度)を第一選択とする。 |
食塩は原則制限しない。 水制限だけで不十分な場合には、①経口尿素、②SGLT2阻害薬、③ループ利尿薬+食塩錠などを追加することがある。 V2受容体拮抗薬(トルバプタン等)は過補正リスクと高コストがあり、FDA勧告に従い原則1か月以内・他の治療が難しい症例に限定して使用するのが望ましいとされる。 |
慢性低Naに対する新規/補助療法:尿素は浸透圧利尿により自由水排泄を増やすことができる。最近は味が改善された製剤があり、1包15 g(約250 mmol)で3ドル程度と安価らしく、ルバプタンと同程度の有効性が報告されている。副作用はBUN上昇が主体で、通常は無症候。過補正は起こり得るが、これまで尿素によるODS症例は報告されていない。SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)により、近位尿細管でのブドウ糖再吸収を抑制し、浸透圧利尿を誘導する。4日間投与でプラセボに比べNa上昇が+3 mmol/L多い(10 vs 7)、4週間ではプラセボと比べ4 mmol/Lの上昇などが示される。ただし体液量減少、尿路/会陰部感染(Fournier壊疽を含む)、euglycemic DKAなどのリスクがあり、著者はNa>130 mmol/Lで水制限+尿素療法が奏功しない症例に限って長期療法候補として検討するという慎重な姿勢を示している。デメクロサイクリンは、米国専門家の一部により慢性SIADの治療として推奨されているが、発現遅延と急性腎不全・光線過敏・消化器症状などの副作用のため、欧州ガイドラインは推奨せず、著者自身もより安全な尿素・SGLT2阻害薬がある現状では使用を勧めないと述べる。トルバプタン(V2受容体拮抗薬)の効果として、SIAD・心不全・肝硬変などでNa上昇効果は明確だが、過補正が13.1% vs 3.3%(OR 5.72)と有意に多い。ODS症例は報告されていないものの、高コスト(1錠300ドル程度)、入院下での開始が望ましい、長期使用での死亡率改善なしといった制約がある。そのためFDAは使用期間を最大30日に制限している。
造影剤
https://www.esur.org/esur-guidelines-2025/
European Society of Urogenital Radiology(ESUR)Contrast Media Safety Committee(CMSC)による「ESUR Contrast Media Safety Committee Guidelines 2025」。あまり救急外来でのアセスメントに有用な内容ではないかも。
造影剤過敏反応
定義と分類:
即時型は投与後1時間以内(稀に〜6時間)発症するもの、遅発型は1時間〜1週間(稀に8週間)以内に発症するものを指す。
重症度分類として、ACR分類:軽度・中等度・重度やRing & Messmer分類:Grade 1〜4がある。鼻閉、限局じんましんなどは軽度/Grade1、広範じんましんや軽度気管支痙攣は中等度、喉頭浮腫・重度気管支痙攣・ショックは重度/Grade3–4。
急性反応のマネジメント:既往歴から造影の必要性と代替検査の有無を評価。過敏反応歴がある場合は原因造影剤名を特定し、やむを得ず投与する場合は別製剤を選択。日中で人員の多い時間帯、可能なら病院内CT/MRIで施行。蘇生カート・酸素・輸液・アドレナリン1 mg/mL、静注用抗ヒスタミン、β₂刺激薬吸入、抗けいれん薬などを検査室に常備。
急性期対応(全例):ABCDEアプローチで評価・安定化。造影剤投与を中止し、IVを晶質液に切り替え。呼吸困難/喘鳴:座位、低血圧:臥位+下肢挙上。可能なら4時間以内に血清トリプターゼ採血。
急性期対応(重症):心停止・呼吸停止では即刻CPRチーム招集、蘇生開始。アナフィラキシーやstridorを伴う場合には、酸素 10–15 L/min(リザーバーマスク)、アドレナリン 0.5 mg IM(大腿外側:必要に応じて反復)、10分で500 mLの晶質液ボーラス(必要に応じ追加)、β₂刺激薬サルブタモール吸入、抗ヒスタミン(クロルフェニラミン20 mgまたはクレマスチン2 mg IV)、コルチコステロイド(例:プレドニゾロン50 mg IV)を追加して遷延・2峰性反応予防を図る。
※このESURガイドラインの中で明示されているステロイド投与の「根拠」は、「重症アナフィラキシー症例において遷延または二相性反応を予防し得るかもしれない」という病態生理+従来の慣行に基づいた弱い推測的根拠であり、強固な臨床試験エビデンスに基づくものではないことに注意。
急性期対応(中等症~軽症):軽度気管支痙攣があればサルブタモール少量から開始し、悪化時はアドレナリンIMを追加。顔面浮腫・広範じんましん・紅斑に対しては静注抗ヒスタミンを投与し、気道近くの浮腫や低血圧を伴えばアナフィラキシーとして治療。軽度反応では観察と必要なら経口の非鎮静性抗ヒスタミン(セチリジン等)で十分。
観察期間:軽度の場合には症状消失まで観察(最低30分)でよい。より重いが生命の危険がない場合には4–6時間、生命の危機に瀕するような症例では入院による経過観察が望ましい。
遅発型反応:主に皮疹(薬疹様)で、軽症なら経過観察や局所/経口ステロイド。重症皮膚有害反応(SCAR:広範膿疱、水疱形成、粘膜病変、高熱など)は皮膚科紹介とし、同系統造影剤の再投与禁止。
再発予防:ヨード造影剤のうち N-(2、3-hydroxypropyl)-carbamoyl側鎖を持つもの同士、マクロサイクリックGd製剤同士で交差反応が起こりやすい傾向がある。
※N-(2,3-dihydroxypropyl)-carbamoyl側鎖を持つ造影剤:
Iohexol(イオヘキソール);オムニパーク
Iomeprol(イオメプロール);イオメロン
Ioversol(イオベルソール);オプチレイ
Iodixanol(イオジキサノール);ビジパーク
Iopromide(イオプロミド);イオプロミド注 / プロスコープ / ウルトラビスト系
※N-(2,3-dihydroxypropyl)-carbamoyl側鎖を持たない造影剤:
Iopamidol(イオパミドール);イオパミロン / 各種シリンジ製剤
造影剤関連急性腎障害(CA-AKI)予防(ヨード造影)
定義とリスク層別化:
CA-AKI:造影剤投与後48–72時間以内の血清Cr >0.3 mg/dL(>26.5 µmol/L)増加、またはベースラインの1.5倍以上。
IA first pass:腎に希釈されない形で到達(左心系、上腹部大動脈、腎動脈)。
IA second pass / IV:肺・末梢循環で希釈後に腎へ到達。
患者リスク因子:主にeGFRで規定され、eGFR <45:IA first passやICU患者、eGFR <30:IVまたはIA second passとされる。
補液プロトコル(選択例):
・IV/IA second pass:① NaHCO₃ 1.4%:3 mL/kg/hを投与1時間前または② 生食0.9%:1 mL/kg/hを投与3–4時間前〜4–6時間後まで。
・IA first pass:NaHCO₃ 1.4%:投与前1時間 3 mL/kg/h、続いて4–6時間 1 mL/kg/hまたは生食0.9%:3–4時間前〜4–6時間後に持続。うっ血性心不全NYHA III–IVや終末期腎不全(eGFR <15)では補液量を個別調整。経口補水のみの予防は推奨されない。
造影剤量と検査時の注意:低/等浸透圧造影剤を使用し、診断可能な最少量にする。IA first pass検査では(濃度350 mgI/mL想定):総ヨード量(g)/ eGFR(mL/min) <1.1、造影剤量(mL)/ eGFR(mL/min/1.73 m²) <3.0 を推奨する。
多発性骨髄腫・メトホルミン・透析など特定病態
多発性骨髄腫:正常腎機能+良好な水分管理+低/等浸透圧ヨード造影剤使用であれば、CA-AKIリスクは上昇しない。実際には腎機能低下・高Ca血症が多いため、造影前に高Ca是正を血液内科と協議。
透析患者:すべてのヨード・Gd造影剤は透析で除去可能だが、造影剤関連腎障害やNSF予防のエビデンスはないため、造影剤除去目的の追加透析は推奨されない。
血液透析:ヨード造影では透析スケジュールの調整や追加透析は不要。線形Gd製剤使用時のみ直後+翌2日透析を推奨。CAPD:ヨード造影で追加血液透析は不要。線形Gd使用時はNSFリスクと一時的血液透析導入リスクを比較検討。
メトホルミン:eGFR ≥30かつIV/IA second passの場合、メトホルミン継続可。eGFR <30、IA first pass、急性腎障害の場合、造影投与時にメトホルミン中止、48時間後にeGFR測定し、腎機能に変化なければ再開。
造影剤血管外漏出(Extravasation)
単純な腫脹・違和感が大半だが、まれに皮膚潰瘍・軟部壊死・コンパートメント症候群を起こす。
リスク:下肢や末梢細静脈、造影剤高粘稠度、大量投与、コミュニケーション困難、静脈脆弱、リンパ/静脈還流障害、肥満など。
予防:上腕の適切な静脈に正確な留置針(流量に見合う太さ)を確保し、生食テスト注入で確認。ヨード造影剤の加温により粘稠度低下&漏出リスク軽減が期待される。
対応:即座に注入停止、責任医師に連絡、範囲をマーキング。軽度の場合には、患肢挙上+アイシング、2–4時間ごとに改善を確認し改善あれば帰宅。中等度/重度では、X線またはCTで広がりを評価、150 mL以上や神経血管障害を疑う場合は早期に外科コンサルト。
NSF予防とGd製剤リスク分類
NSFは高度腎機能低下・透析患者に線形Gd製剤が投与された際に多く報告されてきた線維増殖性疾患で、皮膚硬化〜内部臓器障害まで起こりうる。高リスク:ガドジアミド、ガドペンテテート、ガドベルセタミド(いずれも線形キレート)。これらの静脈使用は欧州で中止/撤退。中間リスク:肝特異的線形製剤(ガドベン酸ジメグルミン、ガドキセト酸ジナトリウム)は肝胆道イメージングに限定。低リスク:全マクロサイクリックGd製剤(ガドピクレノール、ガドブトロール、ガドテレート、ガドテリドール等)。腎機能検査は必須ではないが、GFR <30 では通常のリスク・ベネフィット評価で慎重投与とする。
妊娠・授乳・小児
妊娠中のヨード造影:例外的に必要な場合のみ使用し、出生後1週以内に新生児の甲状腺機能検査を行う。
妊娠中のMRI:強い適応がある場合に限り、最小有効量のマクロサイクリックGd製剤使用可とするが、新生児の特別な検査は不要。
授乳:ヨード造影・マクロサイクリックGdいずれも授乳継続可。Gd投与後24時間母乳を破棄する必要はないが、希望があれば相談して決める。
小児:年齢・体重に応じた用量調整、年齢別正常Cr値を使用し、eGFRはSchwartz式を用いる。児に適応のある造影剤がない場合はインフォームドコンセントの上でのオフラベル使用を可とするが、「禁忌」と明記されている造影剤は使用しない。
特定疾患別の注意点
バセドウ病・機能性多結節性甲状腺腫等ではヨード造影後の甲状腺機能亢進リスクが高く、原則ヨード造影は避ける。必要時はTSH測定や内分泌科での予防的治療とフォローを推奨。
PPGL(褐色細胞腫):IVヨード・Gd造影では特別な前処置は不要だが、IAヨード造影ではα/β遮断薬による準備を推奨。
重症筋無力症:低/等浸透圧ヨード造影IVで症状増悪が約5%未満に見られる可能性があり、使用時は24時間程度の症状悪化に注意。Gd製剤は安全とされる。
ガドリニウム残存
脳:線形Gd製剤を複数回使用すると、大脳基底核などのT1高信号として観察され、剖検組織でもGdが検出される。一方マクロサイクリック単独使用例では蓄積が少ない。臨床症状との関連は現在まで確立していない。
骨・肝・皮膚:線形製剤でより多く蓄積するが、骨・肝では症状は報告されていない。皮膚沈着はNSF様の紅斑と関連することがあるが、NSF以外の長期影響は不明。
未分類
経鼻胃管症候群
Nasogastric tube syndrome: A Meta-summary of case reports
成人経鼻胃管症候群の症例メタサマリー。
NGT は1790年に初めて記載され、消化管減圧や経腸栄養など、あらゆる医療現場で日常的に使用されている。一般的な合併症として、誤挿入・コイル形成・粘膜外傷・出血、長期留置では鼻翼壊死、副鼻腔炎、中耳炎、食道裂傷や GER 増悪による誤嚥性肺炎などが知られている。一方、NGT syndrome は、NGT留置に伴う後輪状軟骨部の潰瘍・壊死から生じる声帯外転障害(多くは両側)と上気道狭窄を特徴とする重篤な合併症である。1939年に Iglauer & Molt が初めて症例シリーズを報告し、1990年に Sofferman らが「NGT syndrome」という名称と三徴を提唱した。
NGT syndromeが起きる機序は複数提唱されている。
・機械的刺激・摩擦:嚥下や咳嗽に伴い、半剛性のNGTが動くたびに、動きの大きい喉頭の後壁(後輪状軟骨部)が持続的に擦過される。
・輪状咽頭筋による圧迫:常時収縮している輪状咽頭筋が、NGTを後輪状軟骨板に押し付けることで、局所の圧迫壊死や潰瘍形成を生じる。
・仰臥位での重力の影響:仰臥位が長く続くと、喉頭が重力により後方へ偏位し、NGTが硬い輪状軟骨と前頸椎の間に挟まれ、圧迫がさらに増強する。
・血流障害による虚血:NGTが後輪状披裂筋への栄養血管を圧迫することで虚血が起こり、この筋の機能障害(外転運動障害)を招く可能性がある。
これらにより、後輪状軟骨部に持続的な圧迫・外傷・虚血性壊死・感染が生じ、後輪状披裂筋の機能障害 → 声帯外転麻痺 → 吸気時の声門狭窄・上気道閉塞という経過をたどると考えられている。
発症リスク因子:発症中央値 73歳、81.5%が60歳以上と高齢者が多い。併存疾患では、糖尿病:10例(37.0%)、高血圧:9例(33.3%)、慢性腎臓病:2例(7.4%)、パーキンソン病:2例(7.4%)、冠動脈疾患:1例(3.7%)、免疫抑制状態(腎移植後など):3例(11.1%)に限定され、多くは一般的な内科的併存疾患を持つ高齢者。糖尿病が創傷治癒遅延や感染リスク増加を介して NGT syndrome の発症リスクを高める可能性が考えられている。さらに、GER や NGT による下部食道括約筋機能低下も後輪状部に酸性内容物が曝露されることで粘膜障害を増悪させるリスクと考察。
症状出現までの時間:中央値 14.5日(IQR 6.25–33.75日)。最短2日、最長2年(730日、760日の報告あり)と非常に幅広く、「短期留置なら安全」とは言い切れない。
Sofferman らの三徴の一つである咽頭痛は今回の集計で 26%にしか報告されておらず、意識障害や重症状態のために訴えられないケースが多いと推察される。一方で、ストライダーや喘鳴は 6割以上にみられ、NGT留置中に新規の喘鳴が出現した場合には NGT syndrome を強く疑うべき。
典型的には両側声帯外転麻痺を呈するが、片側性の“unilateral variant”も報告されている。喉頭内視鏡所見として、声帯浮腫・披裂部浮腫、後輪状部の潰瘍・壊死・膿瘍、両側声帯外転障害、あるいは一側の可動制限などが認められる。診断には直接喉頭内視鏡で声帯と後輪状部を観察することが必須とされるが、軽症例では侵襲性検査を行わないことも多く、診断率が低い可能性が高い。
主な治療はNGT抜去であり、ステロイドについては議論がある分野(炎症と浮腫を軽減して早期の症状改善に寄与する可能性はあり、重症例・気道狭窄が強い例においては、短期間・慎重な使用が妥当)。27例中 17例(63%)で気道確保のため気管切開が実施された。挿管チューブのままでは声帯の治癒が妨げられる可能性があるため、持続的な気道確保が必要な場合は気管切開を選好すべきと考えられている。
予後・後遺症:3週以内に改善:4例、4週で改善:2例、4週で部分改善:1例、5週で改善:2例、8週で改善:2例、4週時点で改善なし:1例、永続的声帯麻痺が残存:2例。全体として 死亡は3例(11.1%) であり、重篤だが適切な気道管理とNGT抜去により長期的な転帰は概ね良好。
見逃されやすい理由として、症状が非特異的(咽頭痛・嗄声・喘鳴など)で、しばしば喘息や感染症と誤診されることが挙げられる。また、多くの患者は重症疾患や意識障害のため、自覚症状を訴えられないことも問題。さらに、NGT挿入から発症までの期間が「2日〜2年」と大きく異なるため、時間的関連が意識されにくい。
予防策:必要最小限の期間に留置し、長期留置が必要な場合はより柔らかく細径のチューブを検討する(ただし小径でも発症例はあり、サイズとリスクの関係は未解明)。NGT留置中に新たにストライダーや喘鳴が出現したら、NGT syndrome を鑑別に入れて早期に喉頭評価を行う。声帯麻痺がある患者では、誤嚥防止の観点から経口摂取を避ける。
A rare but serious entity: nasogastric tube syndrome
経鼻胃管症候群を扱った総説。こちらの報告では、NGTSの発症は最短12時間と早め。
発症時期はNGチューブ挿入12時間後から、抜去後2週間までと非常に幅広く、明確な時間的関連性を示さない。
主な自覚症状の頻度:痛み:13例(62%)、ストライダー:9例(43%)、嚥下障害:6例(29%)、嗄声:5例(24%)、呼吸困難:3例(14%)、耳痛・発熱が各1例(5%)。
すべての症例で声帯麻痺(多くは両側)が認められ、喉頭鏡所見としては、輪状軟骨後面の潰瘍が7例(41%)、肉芽形成2例(12%)、膿瘍1例(6%)、輪状軟骨の正中裂(midline cleft)1例(6%)が報告されている。
治療としては気管切開が8例(47%)と高率に行われており、抗菌薬は7例(41%)、ステロイド4例(24%)、エピネフリン1例(6%)が使用された。
NGTSの病態機序として、可動性の喉頭構造が固定されたNGチューブと擦れ合うこと・仰臥位で輪状軟骨がチューブを脊椎側へ圧迫すること・輪状咽頭筋の緊張によりチューブが薄い輪状軟骨後壁粘膜に押し付けられることにより、局所の刺激・浮腫・潰瘍形成が起こり、声帯運動障害に至ると考えられている。
犬を用いた研究では、NGチューブが正中に位置する場合に輪状軟骨後部の炎症が強く、側方に位置する場合には炎症が軽微であることが示され、臨床でも100例の連続症例でチューブ位置をX線評価したところ、声帯障害と関連しうる「正中位置」にあったのは6%のみであったと報告。
NGTSの症状は、NGチューブ留置患者によく見られる非特異的症状(痛み、嗄声、呼吸困難など)と重なるため注意していないと見逃されやすく、しばしば重篤なストライダー・両側声帯麻痺を来してから診断される。
診断のためには、原因検索目的の頭頸部診察・喉頭ファイバー(nasolaryngoscopy)・場合により食道鏡検査や頸部CT/超音波が推奨される。明らかな潰瘍があれば、生検と培養で病原微生物を同定し、抗菌薬選択の指標にすべきとしている。
治療について明確なコンセンサスはないが、NGチューブ抜去・ステロイド・エピネフリン・抗菌薬・必要に応じた気管切開と栄養サポートが重要とし、特に気道確保目的の気管切開は半数近くで必要となっている。
声帯機能は全例で最終的に回復しており、回復までの期間は1日〜2か月(平均2週間)と幅広い。
NGTSは稀だが生命を脅かしうる合併症であり、NG挿入中または抜去後に痛み・嗄声・呼吸困難を訴える患者では必ず鑑別に挙げるべき。
循環器
VTE
Isolated distal deep vein thrombosis: Diagnosis and management
下腿遠位静脈に限局するDVTであるIDDVTの総説。
入院患者では、手術・外傷・長期臥床・併存疾患などによりリスクが著しく上昇し、ある研究では院内DVTのうちIDDVTが約60%を占める。
リスク因子:Virchow三徴(内皮障害・血流停滞・高凝固状態)を惹起する要因はすべてIDDVTのリスク因子となる。ただし、一般的なDVTと比べIDDVTは「一過性誘因」とより強い関連がある。OPTIMEV研究によれば、最近の手術、ギプス固定を伴う不動、長距離移動などの一過性誘因と有意に関連していたことが報告された。GARFIELD-VTE, RIETE, SWIVTERの各レジストリでも同様に、最近の手術、急性下肢外傷、ホルモン治療などとの関連が示された。その他のリスク因子として、静脈瘤、静脈不全、表在性血栓性静脈炎の合併が挙げられる。女性に多く、特に40〜49歳の女性でリスクが上昇。リスク因子の数が増えると血栓リスクは段階的に上がるが、多数のリスクが重なったときの定量的リスクは今後の検討課題。
IDDVT特異的なCPRは未確立だが、孤立性遠位筋静脈血栓に対する予測モデル(Yanxuら)が開発され、AUC 0.9以上と良好な性能を示したものの、まだ外部検証・普及はしていない。IDDVTでは最大約14.7%でD-dimerが偽陰性となり、陰性=完全否定ではない。
診断にはD-dimer+CUSの組み合わせが最も現実的で、感度・特異度とも85%超に向上。D-dimer陽性かつ初回CUS陰性の場合は1週間以内の再検査、または症状悪化時の再検査を推奨。無症候で6週連続エコーで所見不変かつD-dimer正常の場合は、慢性IDDVTの可能性を考慮。
IDDVTもPDVT同様に近位への進展、PE、再発、PTS、死亡と関連しうるため、「何もしない」という選択肢は推奨されない方向にある。一方で、すべてのIDDVTに抗凝固すべきかは未だ議論が残る。観察研究やそのメタ解析の要旨として、「抗凝固を行った群は、血栓の再発・進展やPEの発生が有意に低く、再開通率が高い。大出血は有意に増えないが、主に「臨床的に関連する非大出血」が増加する。3か月抗凝固は6週間より再発抑制効果が高い」。総じて、抗凝固はIDDVT患者にネットベネフィットをもたらすが、出血リスク・患者の希望・コストを考慮し個別に判断すべきである。
抗凝固を行うべき患者(適応):ガイドライン・エキスパートコンセンサスの共通項として、以下が抗凝固を強く考慮すべき群として知られる。
・D-dimer高値(他の原因で説明できない)
・血栓が「長い(>5 cm)」「太い(径 >7 mm)」「複数静脈に及ぶ」「近位静脈に近い」
・誘因のない(unprovoked)IDDVT
・活動性がん
・VTE既往
・高齢(>50歳)、男性
・長期にわたる可動性低下(臥床・ギプス・麻痺など)
・両側性IDDVT、popliteal trifurcation近傍など
一方、出血リスクが高い、誘因が一過性で既に解消されている、単一静脈に限局・軽症であるなどの場合は、エコー監視+理学療法・弾性ストッキングなど保存的管理も合理的とされる。
大規模観察研究(IDDVT 6509例)では、DOAC vs ワルファリンを比較すると、PE発症:DOAC群で有意に少ない、大出血:DOAC群で有意に少ない、死亡・PDVT・脳卒中・心筋梗塞は差なし。XALIAなどDVT全体を対象にした研究でも、リバーロキサバンは「再発VTE・臨床的に関連する出血・全死亡」の複合転帰で標準治療(ヘパリン+VKA)より優れていた。これらを踏まえ、ガイドラインはDOACを優先としているが、DOAC同士のhead-to-head比較はなく、最適な薬剤は不明。
抗凝固期間:メタ解析では、6週間超の方がVTE再発リスクが低く、大出血リスクは増えない。単一静脈のIDDVTでは6週間LMWHで十分という報告もあるが、複数静脈が関与する場合は6週間を超える治療が必要とするデータもある。リバーロキサバン12週 vs 6週で、12週の方が再発は少なかったが、PDVT/PEや出血リスクは大きく変わらないという報告もある。がん関連IDDVTを対象にしたONCO-DVT試験では、エドキサバン12ヶ月 vs 3ヶ月で、再発VTE/関連死は12ヶ月群で明らかに少なかった(1.0% vs 7.2%)。一方で出血も無視できないため、リスクとベネフィットのバランスが重要。現行ガイドラインでは、最低3か月の抗凝固を推奨(ACCP, ESVS)。それ以上の延長は再発リスク(unprovoked・がん・既往VTEなど)、出血リスク、患者希望・コストを踏まえ個別に決定。
蘇生
ショック
出血
外傷による出血性ショックではCABアプローチをすべし。
CAB(Circulation, Airway, Breathing)へのパラダイムシフトの背景:出血性ショックでは、末梢および内臓血流を強く収縮させることにより心臓・脳への血流を維持、カテコールアミンによる強い血管収縮を介して血圧を保とうとするという「正常な代償機序」が働いている。この状態で気管挿管+陽圧換気を行うと、静脈還流が急激に低下、代償性の交感神経緊張が途絶、結果として急激な血圧低下〜心停止(postintubation hypotension/cardiac arrest)が起こり得る。最近の多施設試験や観察研究では、循環を優先して挿管を遅らせる戦略により、24時間・30日死亡率や神経学的転帰が改善するとの報告が相次いでいる。したがって、少なくとも「exsanguinating injuries(致命的なレベルの出血性外傷)」では、従来のABCを機械的に適用するのではなく、CABへのシフトが妥当であると考えられるようになっている。
病院前診療:EMSを含むプレホスピタルでのケアは、止血と早期蘇生の連続体の起点である。CABの最初の要素である「C(Circulation)」は、四肢出血に対する止血帯(tourniquet)の迅速な適用、鼠径部などに対する止血デバイス、ガーゼや止血材による創部パッキング、圧迫不可能な体幹出血(Noncompressible torso hemorrhage)に対しては、搬送時間が長くなる場合にはREBOAを用いた一時的な大動脈遮断など。止血の後は、全血またはバランス輸血による血液量回復・酸素運搬能の改善、ショック指標や意識状態の改善により、結果として挿管そのものの必要性が減少する可能性がある。重要なのは、プレホスピタルの戦略と院内(ED/OR/IR)の戦略をCABで揃えることであり、そのためには血液製剤をプレホスピタルで使用できる体制、EMSと病院の事前連携とプロトコール整備が必要となる。
救急外来:ED到着後も、最優先は止血と循環動態の安定化である。従来、「GCS<8なら挿管」と教科書的に言われてきたが、出血性ショック下のGCS低下は「一次性脳損傷」ではなく、低灌流に伴う二次性低意識のことが多い。そのため、循環を是正すればGCSが改善する症例も少なくないため、一律のGCS基準で挿管すべきではない。
EDでのCAB実践の要点:止血+血液製剤による蘇生を即時開始、全血があれば第一選択、なければ1:1:1のRBC:FFP:PLT、結晶液はなるべく避ける(希釈性凝固障害・アシドーシス悪化のため)。挿管が不可避な場合の工夫として、誘導薬はケタミン・エトミデートなど循環抑制が少ない薬剤を優先させる(プロポフォールなどの強い血管拡張・心機能抑制を持つ薬剤は極力避ける)、筋弛緩薬は必要最小限量を用いる、可能な限り挿管前に血液製剤で蘇生を進めておくことで、挿管後の血圧低下リスクを減らすことができる可能性がある。
手術室・インターベンション(IR):CABの原則は手術室とIRにもシームレスに適用される。「Every drop of blood matters(失われる一滴一滴が致命的になり得る)」という発想が重要。循環が不安定な状況での早期挿管は、心停止を誘発しうるため、止血を優先して挿管を遅らせる。IRでは、深い鎮静+鎮痛のみで手技を行い、可能な限り自発呼吸を維持し、代償機序の破綻を防ぐという選択肢もあり得る。不可避に挿管する場合には、挿管前にREBOAで大動脈を遮断して中枢灌流を改善させた後に誘導薬投与・挿管を行うといった「事前の循環支援」が推奨される。手術室における手術戦略として、ダメージコントロールサージェリー(DCS)を徹底することが重要。蘇生戦略はED同様、結晶液を避ける、全血 or 1:1:1 のバランス輸血を中心にする、麻酔科と緊密に連携し、出血速度に見合った血液製剤投与を行う必要がある。
神経
CRPS(complex regional pain syndrome)
Complex Regional Pain Syndrome
CRPSの疫学・病態・診断・治療を体系的にまとめたNEJMによる総説。
CRPS は 末梢四肢の強い慢性痛と、圧痛・色調変化・腫脹など2つ以上の客観的異常所見を特徴とする。発症契機は、骨折などの外傷や手術が約90%で、通常は外傷後すぐ〜1か月以内に症状が始まる。大規模なプライマリケアレジストリ研究では、骨粗鬆症・喘息・月経関連障害・片頭痛・ACE阻害薬の長期使用 などが発症1年前の関連因子とされる。発症ピークは60歳代。約80%は単相性で、発症後18か月以内に自然軽快するが、それ以降に痛みが下がり始めることはほとんどなく、持続CRPSとなる。一部は痛み消失後も 筋力低下や冷感過敏などの「post-CRPS 症候群」 を残す。専門施設に紹介される患者は40〜50歳代が多く、18か月以上続く persistent CRPS 例が中心で、ADL 障害が高度である。他肢への波及は約5%とされる。

A:早期CRPSの典型所見として、腫脹(swelling)、網目状の赤紫色〜青色の皮膚変色(mottled reddish-blue discoloration)、手背の毛の増生(increased hair growth)、発汗亢進で皮膚が汗ばんだ様子(sweatiness)などがある。持続CRPSでは見た目の腫脹・色調変化・発汗などは弱まっていく一方で、痛み・運動障害・痛覚過敏が残存する、という臨床像が特徴的。
B:Early CRPS, Resolving曲線は約80%の患者が属する群。発症直後に痛み・腫脹などが急上昇し、その後 4〜15か月の間に痛みが自然に下がり始める。痛みが自然に低下し始めるのは通常4〜15か月であり、18か月を過ぎてから下がり始めることはほぼない。ただし、破線で示されるように、痛みは軽減してもある程度の運動障害や痛覚過敏が残る場合がある。Development of Persistent CRPS曲線は残り約20%の患者で見られる経過。視覚的な腫脹・変色・発汗などは徐々に減るのに対し、痛みと運動障害はほとんど減らない、むしろ悪化しうる ことを示す。この群では、時間とともに「皮膚の痛覚過敏(painful sensitivity)」が増強しうる。
病態生理の多くは省略。CRPSはICD-11 で慢性一次性疼痛に分類され、その主たる機序は nociplastic pain とされる。nociplastic painとは、末梢/中枢神経系の機能異常により痛覚処理が異常に増幅されているが、構造的損傷や神経系疾患では説明できない痛みを指し、手術で除去しても改善しない。
Budapest criteriaにより診断され、感度0.99・特異度0.68と報告される。
満たすべき主な条件:
A:3か月以上続く四肢の慢性疼痛
B:以下4カテゴリのうち少なくとも3カテゴリで症状(自覚)あり
感覚(痛覚過敏、アロディニア)
血管運動(温度左右差、皮膚色変化)
発汗/浮腫
運動/栄養(可動域低下、筋力低下・ジストニア・振戦、皮膚・毛・爪の変化)
C:診察時、同じ4カテゴリのうち少なくとも2カテゴリで徴候(他覚所見)あり
D:痛みが情動的苦痛または日常生活・社会参加の障害のいずれかを伴う
E:他の疾患ではより良く説明できない
CRPS 自体は症候の組み合わせで積極的に診断するが、同時に骨折遺残・感染・血栓・腫瘍・全身性炎症性疾患・末梢神経障害などの鑑別は必須とされる。そのために、単純X線・四肢MRI:骨折、骨壊死、感染、腫瘍などの評価、炎症マーカー:全身炎症疾患・感染のスクリーニング、神経伝導検査・脊椎MRI:神経損傷や根症状の評価などが症例に応じて行われる。加えて、痛みの医学的・心理社会的評価(biopsychosocial assessment) が推奨され、痛みの開始・強度・性状、身体意識、疲労感、睡眠、気分、ADL、対処行動、精神症状・社会背景・訴訟状況などを系統的に把握する。
CRPS管理の基本として、教育・疼痛緩和・身体リハ・心理的介入の4本柱が重要。
患者教育:「強い痛みのわりに組織損傷が軽い」「検査が正常」というギャップが、患者・医師双方に混乱や不信を生むため、神経機能異常による nociplastic pain であることを丁寧に説明すること自体が治療的であることを意識する。
疼痛緩和(薬物・侵襲的治療):橈骨遠位端骨折後のCRPS予防として、ビタミンC 500 mg/日を50日内服 すると発症リスクが約半減するというメタ解析がある。発症から18か月以内の治療として、ビスホスホネート:10試験のメタ解析で、100点満点の疼痛スコアで約10点の改善。ただし試験間の不均質性が大きく、主として発症4か月未満の早期症例で効果が見られ、12か月を超える症例では効果が乏しい。経口ステロイド:発症6か月以内を対象にメチルプレドニゾロン 100 mg から4日ごとに25 mg ずつ漸減するレジメンなどが用いられるが、エビデンスの質は低い。鎮痛薬一般として、NSAIDs・アセトアミノフェン・弱オピオイド:CRPS自体の痛みには軽度の効果にとどまるが、肩・股関節など二次的筋骨格痛には有用とされる。ガバペンチン:神経障害性疼痛薬として、灼熱痛・しめつけ・蟻走感などの症候に対して経験的に使用されるが、CRPS 固有のRCT はない。三環系抗うつ薬・SNRI:他の慢性一次性疼痛での有効性から、CRPS にも転用されている。痛みと睡眠の改善が期待されるが、こちらもCRPS特異的試験は乏しい。オピオイド:慢性一次性疼痛では効果が小さく、耐性と依存リスクが高いため、長期使用は推奨されず、必要なら短期・頓用に限定すべき。多くの薬剤は時間とともに効果が減弱しうるため、定期的に減量・中止を検討すべき(特にガバペンチン・抗うつ薬は漸減が必要)。交感神経節ブロック(星状神経節など)は短期的には有効なことが多いが、反復しても長期効果は乏しいとされる。脊髄刺激:小規模試験で約半数の患者が疼痛50%減少を得るが、その効果は5年かけて漸減する。後根神経節刺激:CRPS 膝限局例での患者選好などが報告されるが、長期RCTはない。低用量ケタミン静注:二つのRCTで痛み軽減が示されるも、活性プラセボが用いられておらず盲検性に限界がある。効果は時間限定で、恍惚感や幻覚などの副作用が問題となる。病態に免疫が関与する可能性にもかかわらず、レナリドミドや低用量IVIG のRCTでは有効性が示されていない。難治CRPSに対する切断は、機能・痛みの改善が得られる可能性があるものの、リスクと不確実性が大きく、現時点でルーチン推奨はできない。
身体リハビリテーション:外傷直後からの適切な肢位・早期動員が CRPS予防に重要であることが、臨床研究と動物モデルの双方で示される。診断後は、痛みを悪化させない「やさしい」「非徒手的」理学療法/作業療法が最も適切とされる。その目的は、過敏化した痛覚処理を徐々に鎮静化させること、運動回避や固定で悪化した筋力・関節可動域低下を改善すること、皮質表象異常を是正することである。具体的には、鏡療法や graded motor imagery などのイメージトレーニングが推奨され、 European Pain Federation の「CRPS Assist」アプリが理学・作業療法士の支援に利用できる。小児・思春期では同様の理学/作業療法が治療の主軸であり、多くで機能は回復するが、約半数で症状の一部は残存する。
心理支援・痛みマネジメントプログラム:発症前の心理的要因が CRPS の「原因」ではないとするエビデンスがある一方、発症後には うつ・不安・PTSD が高頻度にみられ、重症度と予後を悪化させる。そのため、CBT や ACT に基づく個別心理療法、心理教育と行動変容に重点を置いた多職種痛みマネジメントプログラムが推奨される。これらは痛みそのものよりも、機能・気分・自己効力感・恐怖回避行動の改善を主目標とする。観察研究では、持続CRPS患者の約3分の1で機能面の大きな改善が認められたが、痛み自体の完全消失は稀である。
呼吸器
関節リウマチ関連肺疾患
いろんな薬剤が使用されるRA-ILDに関する総説。自分にとってはなんでこの薬剤が入っているんだろうと後追いで考える用。
肺病変を以下の4つの解剖学的コンパートメントに分けて整理されている。
・気道:RAの気道病変は、閉塞性換気障害と残気量増加を示し、HRCTでは気管支壁肥厚・気管支拡張・air trapping・中心小葉性陰影として捉えられる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な病態 | 気管支炎、閉塞性細気管支炎、気管支拡張症、肺気腫 など |
| 主な自覚症状 | 慢性の咳、喀痰、喘鳴(ゼーゼー)、労作時息切れ |
| 身体所見 | 呼吸音減弱、wheeze(笛様音)など |
| 画像所見(HRCT) | 気道壁肥厚、気管支拡張、air trapping(含気のモザイク)、中心小葉性粒状影・陰影、モザイク減衰 |
| 呼吸機能検査 | 閉塞性障害(FEV1低下)、残気量増加(air trapping) |
| ポイント | 無症候性の「潜在性気道病変」が多く、RA気管支拡張症は非RAより感染・機能低下・死亡リスクが高いとされる |
・肺実質:RA 間質性肺疾患(RA-ILD)は拘束性+DLCO低下が特徴で、HRCTではすりガラス影・網状陰影・蜂巣肺など典型的なILD像を呈する。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な病態 | RA関連間質性肺疾患(RA-ILD):UIP, NSIP, OP など |
| 主な自覚症状 | 労作時息切れ、乾性咳、倦怠感、易疲労感 |
| 身体所見 | 下肺優位のfine crackles(捻髪音)、呼吸音減弱 |
| 画像所見 – X線 | 下肺野の網状影(進行例でのみ明瞭) |
| 画像所見 – HRCT(UIP) | 亜胸膜・基底部優位の網状影、牽引性気管支拡張、蜂巣肺(しばしば)、線維化が主体 |
| 画像所見 – HRCT(NSIP) | 両側性すりガラス影優位、比較的均一な線維化、蜂巣肺は軽度またはなし |
| 呼吸機能検査 | 拘束性障害(肺活量低下)、DLCO低下 |
| その他検査 | BALでリンパ球主体増多(非特異的)、UIPでは好中球増多もあり |
| ポイント | UIPパターンが頻度・重症度とも高く、予後不良。高疾患活動性・低DLCO・UIP・感染症が死亡リスクと関連 |

NSIPパターン:下肺優位の網状影(reticular opacities)、traction bronchiectasis(線維化に伴う牽引性気管支拡張)、すりガラス影は軽度または記載上は目立たず、honeycombing(蜂巣肺)は認めない。RA-ILDでは、UIPパターンが最も多いが、NSIPも重要なサブタイプであり、一般にUIPより予後が良好とされる。

実はUIPパターンらしい:肺末梢優位の軽度網状影、traction bronchiectasis、明らかな蜂巣肺は見られないが、全体としてUIPパターンに合致すると記載がある。
※実臨床では、分布(亜胸膜優位か、びまん性か)、病理、経過なども総合して NSIP / UIP を決めており、CT画像1枚だけで割り切れないグレーゾーンが多い。教科書的な定義と図の説明は異なるが、まぁそういうこともあるんでしょう。
・胸膜:RA の胸膜病変は胸膜炎・胸水として現れ、画像では胸膜肥厚と胸水貯留、機能的には拘束性変化や軽度の拡散能低下として表現される。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な病態 | 胸膜炎、胸水貯留(多くは小〜中等量、しばしば片側優位) |
| 主な自覚症状 | 胸痛、呼吸困難、咳、発熱(大量・活動性の高い胸膜炎時) |
| 身体所見 | 呼吸音減弱、濁音、摩擦音など |
| 画像所見 | 胸膜肥厚、胸水貯留(しばしば非対称)、慢性化すると胸膜線の肥厚 |
| 胸水の性状 | 滲出性、糖低値、pH低値、LDH高値、RF高値、単核球・マクロファージ主体 |
| 呼吸機能検査 | 胸水量が多いと拘束性障害(肺容量低下)、DLCO軽度低下 |
| ポイント | 感染性(細菌性・結核性)や悪性胸水との鑑別が重要。胸水穿刺と細胞診・培養を必ず行う |
・肺血管:血管病変は肺高血圧・肺出血・DVT/PE などとして現れ、画像では肺動脈拡大やモザイクパターンを呈し、拡散能低下が目立つ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な病態 | 肺動脈性肺高血圧症、慢性血栓塞栓性肺高血圧(CTEPH)、肺血栓塞栓症(PE)、肺胞出血・毛細血管炎 |
| 主な自覚症状 | 労作時息切れ、易疲労、失神・前失神、胸痛、突然の呼吸困難(急性PE)、血痰(肺胞出血) |
| 身体所見 | 肺高血圧の身体所見(第2音亢進、右心負荷所見など)、低酸素血症 |
| 画像所見 | HRCT・造影CTで肺動脈拡大、モザイクパターン、血栓像 など |
| 呼吸機能検査 | DLCO低下が主体。スパイロは軽微な変化であることも多い |
| ポイント | RA単独の肺高血圧は稀で、背景にRA-ILDや血栓性病変があることが多い。急性呼吸不全では肺胞出血・PEの除外が重要 |
報告間で肺病変の頻度が大きく異なるが、これは対象患者(早期RAか長期RAか、血清陽性か、喫煙歴など)、使用した検査(胸部X線のみか、HRCTを併用したか、PFTをどの程度施行したか)による。HRCTは最も鋭敏な検出手段であり、胸部X線で異常がない患者でもHRCTで高率に異常が検出される。早期RAでは気道病変が優位という報告(Wilsherら、Metafratziら)もあれば、実質病変優位とする報告もあり、病変の時間的推移・表現型には多様性がある。
RA-ILDのリスク因子:共通のリスク因子として高齢、男性、長期罹病、RA活動性高値、喫煙歴、RA結節、肺合併症、ステロイドやレフルノミドの使用、RF/ACPA高力価など。一部研究ではACPAは気道病変と、RFは実質病変とより強く関連すると報告される一方、逆の結果を示すものもあり一定していない。
古くから「MTXは肺毒性を持ち、ILDリスクを増加させる」という懸念があったが、多民族症例対照研究(Jugeら)、デンマーク全国レジストリ研究では、MTX使用とRA-ILD発症リスク増大との関連は否定され、むしろILD発症遅延の可能性が示唆された。一方、急性のMTX肺臓炎は別概念であり、MTX使用中に急速な呼吸症状悪化を認めた場合には速やかな中止と精査が推奨される。
診断スクリーニング戦略:スクリーニングの対象になるのは、3か月以上続く咳・息切れを訴えるRA患者、聴診でラ音・wheeze・呼吸音減弱など肺所見がある患者、明らかな症状がなくても喫煙者・高齢男性・RF/ACPA高力価・RA活動性高値などの高リスク例。スクリーニング方法はPFT、HRCT、肺エコー。
RA-ILDの治療戦略:
RA-ILD患者は、免疫抑制+ステロイド+既存肺病変により一般的感染症+日和見感染症のリスクが高い。したがって、治療前にワクチン接種(インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹、SARS-CoV-2など)・B/C型肝炎、結核などのスクリーニングを行い、治療中も定期的な診察・採血・PFT・画像フォローが必要になる。
ステロイド(CS):NSIP・OPパターンでは画像的改善と症状改善を期待できるが、UIPでは効果に乏しい。長期高用量は感染・骨粗鬆症・糖尿病などの副作用が大きく、できるだけ短期・最小限にとどめるべき。
MTX:RA治療のアンカードラッグ。急性のMTX肺臓炎は別概念として存在するが、RA-ILDの新規発症・悪化との直接因果関係は明確でなく、むしろ保護的とする報告もある。ただし、MTX中に新規呼吸症状が出現した場合は中止+ILD評価が推奨。
AZA・CP・MMFなど:AZA;RA-ILDでは有効性が乏しく、有害事象が多いとの報告もあり、第一選択ではない。CP;強力な免疫抑制薬としてSSc-ILDなどで用いられるが、RA-ILDでのRCTはなく、毒性も強いため慎重適応。MMF;SSc-ILDでの有用性が示されており、RA-ILDでも小規模ながらPFT改善・安定化の報告。AZAより生存率が良好だったという後ろ向き研究もあり、有効性と安全性のバランスが良い選択肢とされる。
TNF阻害薬:RA関節炎治療には極めて有効だが、ILD新規発症・増悪の報告があり、RA-ILD既存例では避ける/中止が好ましい、という流れが主流。
RTX:SSc-ILDなどでの有望なデータがあり、RA-ILDでもPFT安定・改善例が報告される。小規模ながら、AZA/MMF/RTXを比較した解析では、いずれも1年間でPFT改善がみられたが、RCTはない。
ABA(T細胞共刺激阻害)・IL-6阻害薬(TCZ, SAR):多くは後ろ向き・小規模だが、HRCT・PFTの安定または改善が6〜24か月のフォローで報告されている。ABA静注と皮下注を比較した研究では、いずれも約2/3の症例で肺病変が安定/改善。
JAK阻害薬:RA-ILDとRA非ILDを比較すると、RA-ILD群では生物学的製剤・JAK阻害薬の5年持続率は低いが、その中ではJAK阻害薬が最も高い持続率を示したとの報告。系統的レビューでは、JAK阻害薬はRTXやABAと同程度の安全性・有効性を持ち、RA-ILD治療の有望な選択肢。
抗線維化薬(ニンテダニブ、ピルフェニドン):進行性RA-ILDで、免疫抑制+生物学的製剤に上乗せする形で使用しうる。線維化進展抑制の可能性が報告され、ACR/CHESTガイドラインでも進行例での追加が推奨されている。