りんごの街の救急医

救急科専門医によるERで学んだことのまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

救急医のEvidenceブックマーク Weekly #4(20251213-1219)

今週はちょっと忙しくてあまり読めませんでした…。

 

冬らしくなってきましたね。

 

今週の目玉は

Current standard of care for septic shock | Intensive Care Medicine

でしょうか。

敗血症診療を基礎から見直せるためおすすめです。 

 

 

 

総目次はこちら👇

これまでに紹介したすべての総説をまとめて保管してあります。

appleqq.hatenablog.com

 

 

 

 

 

呼吸器

人工呼吸器

https://journals.lww.com/co-criticalcare/fulltext/9900/mechanical_ventilation_in_acute_brain_injured.327.aspx

急性脳損傷患者の人工呼吸を、脳・肺・横隔膜の三方よしで最適化せよ、という総説。

1) INTRODUCTION:なぜABIのMVが難しいか

ABIでは、換気設定がVILI回避だけでなく、CBF・ICPに影響するPaCO2/PaO2の安定化、誤嚥回避、気道確保まで含めて“脳保護”として成立する必要がある。急性期はCMVで自発呼吸を抑え、咳・非同調を減らし、必要なら深鎮静/筋弛緩で難治性頭蓋内圧亢進を制御する、という理屈である。一方で、長期の自発抑制には代償があり、横隔膜萎縮(VIDD)や鎮静増量→神経学的評価遅延につながる。

2) 肺保護戦略の“盲点”:CMV長期化と合併症

ICPやガス交換が落ち着いた後もCMVが続くと、横隔膜の廃用・萎縮→離脱遅延、抜管失敗、気管切開増に結びつく。さらに、依存部無気肺・酸素化悪化・VAPリスク増も問題として挙げている。

3) Low tidal volume ventilation:低VTはABIでも常に善か

一般ICUの“低VT(6–8 ml/kg PBW)中心”がABIにも広がり、VENTIBRAIN入室時VT中央値は約6.5 ml/kg PBWとかなり“強い保護設定”になっている。しかしVENTIBRAINでは、その「保護範囲内」でも、低VTが死亡率増と関連し、むしろPplatがアウトカムと強く関連した。PROLABIでは、低VT+高PEEPの“肺保護群”が、従来群(高VT+低PEEP)より死亡率が高い(約29% vs 15%)方向であった(ただし早期終了・非盲検など限界もある)。ABIでは「one-size-fits-all低VT」ではなく、VTのprotective windowを想定し、孤立性ABI:7–8 ml/kg PBW、肺障害合併:6–8 ml/kg PBWという再フレーミングを提示している。確かに、いわゆる肺保護換気の考えはARDSのときだけで、肺が悪くないのにあまりに制限的な換気設定はよくないのだろうと思う。

4) PEEP:肺に良くても脳に悪い可能性

PEEPはリクルートで酸素化に有利だが、胸腔内圧↑→脳静脈還流↓→ICP↑の懸念があり、特に頭蓋内コンプライアンス低下例では注意が要る。Zero PEEPの古いドグマは後退した一方、中等度PEEPは脳循環モニタ下で安全に適用可能。

5) Pplat・ΔP・Mechanical power:動的負荷指標の価値

ABI(非ARDS)でも、ΔPやMPが予後と関連し得る、という近年の観察研究がある。VENTIBRAINではPplat高値が死亡率と独立関連し、ΔP中央値は約9 cmH2Oだが施設差が大きく、換気方針の不均一性がある。MPに関しては、初週で高いほどアウトカム不良で、>17 J/min曝露が死亡リスク上昇と関連がある。

※Mechanical power(メカニカルパワー)については以下の記事でも少し触れられています。

救急医のEvidenceブックマーク Weekly #0(創刊準備号) - りんごの街の救急医

 

6) PaCO2・PaO2:脳にとっての“狭い至適域”

PaCO2は脳血管トーンの強力な調整因子で、低下→血管収縮/虚血リスク、上昇→血管拡張/ICP上昇につながる。よってARDSで許容されがちなpermissive hypercapniaはABIでは危険になり得る。目標として、PaCO2はおおむね35–45 mmHg(状況により32–45)の狭い帯域を推奨し、極端な低/高は死亡率と独立関連(U字)とする。酸素も同様に、低酸素は避けるべきである一方、ENIO二次解析ではPaO2 <92 mmHgと>156 mmHgが死亡率増と独立関連であり、低すぎても高すぎても良くない(U字)。

7) 循環動態:脳・心・肺の三角関係

換気で胸腔内圧が変わると、静脈還流や右心前負荷などを介して循環が揺れ、ABIではそれが脳静脈流出・ICP・CPPに波及する。高気道内圧の制御換気はCPPを損ね得る一方、自発努力は静脈還流・COを支えCPPに有利な場面があり得る。また、正の水分バランスは避けるべきで、ABI死亡率増と関連。

※自発呼吸により、患者の呼吸努力が強くなりすぎると胸腔内圧が大きく揺れ(スイング)、ICPスパイクが起こりやすい。高い陽圧をかけすぎる制御換気:MAP↓やICP↑を通じてCPP↓になり得る、適度な自発呼吸:循環を助けCPPに有利なことがある、過剰な自発努力:ICPスパイクなどで逆に危険になり得るので、呼吸力学と循環・脳モニタを統合して個別化せよというのがメッセージ。

8) Assisted ventilation:自発呼吸を“守る”が、暴走も危険

急性期以降は、自発活動を一定残すことが横隔膜保護や合併症減少に有利であり、補助換気は鎮静最小化・循環維持・感染リスク低下にも資する。ただしABIでは、脳幹ネットワーク障害や鎮静などで呼吸ドライブが低すぎ/高すぎの両方に振れ得る。評価として、侵襲なしでP0.1(occlusion pressure)などでドライブを見たり、努力(食道内圧スイング、補助筋、非同調)を合わせて見るとよい。さらにBRAVE試験として、closed-loopの自動化換気がPaCO2/酸素化の微小逸脱が脳血行動態に大きく響くABIでは、概念実証(proof-of-concept)として自動化は医療者の調整のばらつき・反応遅れを補い得る。

9) 離脱・抜管:失敗の主因は“肺”より“気道防御”

ENIOでは抜管失敗(48時間以内再挿管)が約20%で一般ICUより高い。失敗と独立関連したのは、TBI、咽頭反射/嚥下/強い咳の欠如、吸引頻回、運動GCS低値、発熱などであり、呼吸器系の古典的指標(RSBI等)は予測力が限定的。実務的には、cough peak flowのような客観的気道防御指標(例:AUC ~0.8で~63 L/min付近)や、STAGEスコア(嚥下・舌突出・気道反射・GCS)など複合評価が有望。

※cough peak flow:咳をした瞬間に、どれだけ強い呼気流量が出せるか(L/min)。カットオフ約63 L/minでAUC約0.8。一般的なICUであっても<60L/minであることは再挿管を強く予測(AUC0.9)。たしかに抜管前にはこれをよくやる。

※STAGEスコア:Swallowing(嚥下), Tongue protrusion(舌突出), Airway reflexes(気道反射), GCSを組み合わせた複合スコア。

10) 気管切開:必要性は高いがタイミングは議論継続

抜管が見込めない、咳や反射が乏しく長期MVが想定される場合に気管切開を考慮する。ENIOでは約21%が抜管トライなしで直接気管切開され、その群はMV期間が長くICU死亡率も高かった。早期気管切開(7–10日)はABIで多いが、実施は施設差が大きく、死亡率改善は一貫しない一方、リハビリ転帰など機能的アウトカムの観点が重要である。

 

Patient self-inflicted lung injury - does it really exist?

P-SILIってもう立証された概念だと思われているけど実はそうでもないという意見。

1) INTRODUCTION:P-SILI概念の登場とCOVID-19での急拡散

2017年のレビューで「強い自発呼吸が肺胞上皮傷害を起こしうる」とするP-SILI概念が提示されたが、当初から実在の決定的証拠は提示されていない。通常なら仮説は追加研究で検証されるはずが、COVID-19の出現で状況が一変し、当該“基礎論文”のダウンロードが2020年3–4月に爆発的に増え、先制挿管の正当化と結び付いた可能性がある。

2) DEBATE IN SCIENCE:立証責任という「議論の作法」

新しい主張をする側が十分な証拠を示す義務がある。「否定の証明」は不可能に近い(例:ネス湖の怪物)ため、既存知の側が“無罪推定”のように基準点である。

3) P-SILI AND CORONAVIRUS DISEASE:P-SILIが臨床を“急旋回”させた経路

P-SILIが「NIVの格下げ、先制挿管、神経筋遮断薬で患者産生の一回換気量を下げる」などの苛烈な対応の口実になった。先制挿管は、自然換気とガス交換を維持できる患者まで、生理学的正当性なく挿管し、重篤合併症の危険に晒すと批判している。WHO(2020/1/28)の文書が「ARDSの低酸素性呼吸不全は通常MVが必要」とし、HFNC/NIVを限定的に扱い、NIVのリスクとして「遅れた挿管・大きい一回換気量・傷害的経肺圧」を挙げた点をP-SILIへの明確な示唆として取り上げ、しかもその推奨自体が誤りである(ARDSでもNIV/酸素で維持できる例がある)と反論している。さらに、MERS経験を根拠にしているが、NIV失敗の理由データがない等の弱さを指摘し、加えて当時の施設報告ではHFNC/NIVがほぼ使われず、酸素化が比較的良いのに「全員挿管が妥当か」と疑義が呈された経緯がある。2020/4/24のMarini & Gattinoni(JAMA)が、P-SILIを背景に「遅い挿管がP-SILI vortexを生みARDS悪化」「非侵襲換気の価値は疑問」「挿管優先」「離脱は慎重」「自発試験は離脱の最後に」等を主張し、影響力が極めて大きかったと述べる。著者らはこれに反対し、未証明概念での方針転換の危険を論戦した。論戦中に「挿管率と死亡」の関係が報告され、英国ICNARCのデータで、生存/退院が増えた時期に挿管率が低下した(2020年2–3月:挿管75.3%→4–6月:42.6%)ことを示した。※ここでは因果ではなく並行推移として提示されている点に留意が要る。

4) 「根拠」として引用されがちな研究への批判

P-SILI実在の根拠としてよく引用されるのがMascheroni(羊で脳幹にサリチル酸塩→過換気→肺傷害)とCarteaux(NIV失敗群で一回換気量が高い)である。しかしMascheroni研究では、一回換気量は178→235mL(1.33倍)であり、人間換算で約501.6mL程度に相当し、妊婦の生理的範囲より小さい可能性すら示唆されるなど、P-SILIの「致傷的VT」の根拠として弱い。さらに、死亡が多いのに重篤な低酸素がない、サーファクタント性状が対照同等、適切な対照換気群欠如、神経原性肺水腫の扱いなど、方法論的欠陥がある。Carteaux研究はNIV失敗群がより重症(免疫抑制・SAPS II・P/F低値など)であり、挿管はVTより基礎疾患重症度で説明されやすく、VTは“周辺的予測因子”に過ぎない、ゆえに両研究はP-SILIの証明にならない。

5) 「測れない/閾値がない」問題:非挿管患者のVT評価の困難

VILIでは肺胞過伸展(VT、駆動圧/プラトー圧)が中核だが、非挿管患者では決定因子は自発VTである。ところがP-SILI推進者は、肺傷害を起こすVT閾値(700mLか800mLか等)を明確に述べていない。非挿管でVTを測るにはマウスピースが必要になり、マウスピース自体がVTを約20%増やす「観測による歪み」を生む。Respitrace等での代替も、切迫呼吸不全では較正が極めて難しく、結局「どう測るのか」が提示されていない。

6) 代替指標(P0.1・食道バルーン)への懐疑

P0.1でP-SILIリスクをみる提案について、安定COPDや離脱成功例でも同等値があり、しかも重症患者で変動係数が最大38%とノイズが大きく、個別判断の信頼性に疑義がある。食道バルーンで胸膜圧スイング>15cmH2Oなら緊急挿管、という提案も、実験データによる裏付けが提示されていない。加えて、挿入操作自体が呼吸困難患者の挿管リスクを上げ得る

7) 「低VT至上主義」批判:生理・快適性・苦痛(air hunger)

ARDSのVT 6mL/kg推奨はガイドライン化したが、著者らは「6mL/kgが11mL/kgより優れると示されたことはない」といった議論の流れや、最近の再解析でml/kg基準自体が問題視されてきた状況を踏まえ、VT固定化を批判的に扱っている。肺の炎症で呼吸ドライブと呼吸困難が増強し、PaCO2のわずかな上昇でも分時換気と強いair hungerが生じ、患者が低VTに反発して“ventilator fighting”が起きる、鎮静はair hungerを和らげず、神経筋遮断は行動サインを消して呼吸困難を悪化させ得る。著者らの研究として、離脱トライアル中の患者で「努力感」より「空気が足りない」が主であり、重要なのは呼吸困難群の設定VTがむしろ低い(480 vs 559mL)点だと述べ、VT標的でP-SILIを防ぐという発想が患者苦痛を増やす危険を示唆する。よってVTは一律に4–6mL/kgへ寄せるのでなく、プラトー圧が高いときは下げる一方、多くの症例でプラトー圧が20台前半なら“不自然に低いVT”は生理原則に反するとし、患者ごとに生理と快適性で調整すべきと主張。

8) 神経筋遮断薬の位置づけと「実体化(reification)」の警鐘

VTが傷害域に入らないように神経筋遮断薬を推す流れに対し、有害事象が大きく、主要RCTで死亡を下げないことが示されたと述べ、「キメラ(chimera)に対して危険薬を勧める」ことを危惧する。新概念が検証を経て“実体”として受容される(reification)には時間が要るのに、P-SILIは十分な異なる研究者による実験検証を経ておらず、かつて実在と信じられ今は否定された概念の例も挙げ、P-SILIの実在性が未確立であることを強調している。

全体的にかなり口調と主張が激しいが、個人的にはちょっとよくわからない(判断できない)。でも、こういう主張をする一派もあるんだな~

 

Patient self-inflicted lung injury an important phenomenon

AHRFにおいて、過剰な呼吸ドライブと吸気努力が肺損傷を増悪し得る現象をP-SILIとして整理する総説。

1) 目的(Purpose of review)と総論(Summary)

本総説の狙いは、AHRFにおけるP-SILIの機序・前臨床/臨床エビデンス・予防戦略を整理しつつ、同時に横隔膜機能を保つ介入を重視して統合する点にある。結論として、P-SILIは「過剰な吸気努力→肺と横隔膜にとって有害なストレスへ変換される」ことで成立し、予防は努力の抑圧ではなく整形として、急性期から離脱・リハまで連続的に組み立てるべきだとする。

2) 導入(INTRODUCTION):VILIに加えて「患者側」の傷害概念

近年のVILI認識により肺保護換気が標準となったが、重症ARFでは患者の過剰ドライブ/努力自体が損傷を悪化させ得るとしてP-SILI概念が登場した。状況によっては自発呼吸を制御/抑制することが、単なるサポート以上に「保護的」になり得る。

3) 機序と前臨床

AHRFでは「呼吸困難・低酸素の軽減」と「P-SILI/横隔膜損傷の回避」という二重課題がある。過剰努力は胸膜圧陰圧スイングを増大させ、局所の経肺圧ストレスと肺内ガス移動を増やし、intra-alveolar pendelluftにより、全体のVtや気道圧が許容でも依存部過伸展+非依存部の相対虚脱を生み得る。PEEPが低いまま努力が保たれると依存部にストレス/炎症が集中する一方、十分なPEEPは換気を均一化し胸膜圧勾配を鈍化させ、努力を「非傷害的」にし得る。また「努力が常に悪い」のではなく、ECMO下の低強度・頻呼吸浅呼吸では組織学的損傷が増えない可能性も示し、有害化は“vigorous”な努力で顕在化する。さらに近年の焦点として、損傷進展はstrain(変形量)だけでなくstrain rate(速度)も重要で、CPAPが吸気・呼気双方のstrain rateを低減し、横隔膜弛緩速度も改善し得る。加えてin-silicoのdigital twinでは、非侵襲換気成功は患者側driving pressureが約57%低下(努力の除荷)と整合し、酸素化だけ改善して努力が下がらないと肺ストレスが高止まりし失敗を予測し得る、という「努力制御の本質」がある。また気管チューブのjet/Venturi効果など流体力学的要因で、入口圧を上げてもpendelluftが残り得るため(入口圧=気道開口部の圧(ventilatorが作る圧)を上げれば、肺内の不均一が必ず均されるわけではない)、「サポートを上げれば解決」という単純図式ではない。呼気メカニクスも含めて測って管理すべき。

4) 臨床エビデンス

P-SILIは、過剰吸気努力(ΔPes)が傷害肺へ伝達され、損傷は依存(背側)に集中しやすい。経路は大きく、(i)全体/局所過伸展、(ii)肺血流増加、(iii)陰圧性肺水腫(血管壁の経壁圧上昇)、(iv)pendelluft。予後研究として、P0.1上昇、PMI/Pmusでの努力上昇、補助換気中のdriving pressure上昇が、ICU生存低下や人工呼吸長期化と関連する。ここで中核となるのがICEBERG概念である。気道側で見える圧(ΔPaw)は“氷山の一角”で、吸気筋が生む隠れた陰圧(ΔPes)が加わって総肺ストレスが決まるという考え方。実際、298例のAHRFで非生存者は、Vtやピーク圧などが同等でも静的/動的driving pressureが高かったとされ、転帰は努力そのものより「総ストレスへの変換」で規定される。小規模報告として、神経筋遮断で自発努力を抑えるとpneumomediastinumのような合併症を減らし、CTでMacklin effect(大きい経肺圧スイングによる肺胞破綻の所見)を伴う例があり、過剰努力→破綻という因果を示唆する。換気モードの問題として、PSV/APRV/BiLevelでもドライブと努力が高止まりし得て、「どの自発モードなら安全」というより、未制御ドライブがリスクを維持することになる。pendelluftについては、移行期ARDSで高振幅pendelluft(例:Vtの10%以上の再配分)が約37.5%に見られ、IL-8/IL-18/Caspase-1増加と関連したという報告がある一方、定義閾値のばらつきや依存因子の多さから独立機序か指標かは議論が残る。P-SILIは「過剰努力→有害な全体/局所ストレス」へ変換されたときに起こり、Vtやプラトー圧だけでは捕捉できないため、ΔPesと総driving pressure(総肺負荷)を中心標的と位置付けたほうがよい

5) 予防・介入

過剰努力が原因でも結果でもあり得る点、とくに横隔膜機能障害がP-SILIのドライバであり帰結でもあるという循環がある点が重要。したがって「努力を消す」のでなく「調節する」ことが中心となる。

(a) 鎮静と補助(Shaping effort):鎮静不足や補助不足は患者に強い努力を強い、P-SILIの温床となる。一方で深鎮静は努力を完全に抑え、受動化によりVILI(過圧・過容量)や横隔膜萎縮のリスクを増やし得る。propofolはP0.1/ΔPes/動的肺伸展圧を低減し得るが、効果はU字型で「浅すぎても深すぎても危険」。補助圧も同様で、少なすぎれば努力過大、多すぎれば準受動化してVt>8 ml/kgなどが起こり得る。

(b) 中枢性ドライブ調整(横隔膜を狙う介入):選択的な横隔膜制御として、両側横隔神経ブロックがΔPesを抑え、覚醒を保ちつつ過剰努力を止め得る症例報告がある。薬理学的には、5-HT3拮抗薬ondansetronで化学受容体由来ドライブを弱めるDRIVE試験(NCT05514483)が進行中。オンダンセトロンで!?

(c) 末梢メカニクス調整(PEEP/CPAP、腹臥位、NHF):
努力は横隔膜自体も損ね得る。PEEPを上げればpendelluftが必ず減るわけではなく、過伸展は残り得るという報告があり、鍵はpendelluftそのものより「総肺伸展圧(total lung-distending pressure)」。早期CPAPは肺胞安定化・FRC増加・陰圧スイング抑制(陰圧性肺水腫方向の力を減らす)で機序的に合理化され、小児の大規模コホートでは鼻bubble CPAPの高い有効性(多くが挿管回避)がある。成人でもCPAP/NIVは酸素化を改善し得るが、CPAPはNIVほど一貫して努力を除荷しない可能性も述べ、患者差を含めた運用がよい。腹臥位は換気・灌流の再配分でシャントを減らし、stress/strain分布を均一化して酸素化を改善し得る。またNHFは酸素化の改善が大きくなくても、鼻腔刺激(TRPM8/三叉神経経路)を介して呼吸困難とドライブ(P0.1)を下げ得るという「感覚入力の調整」がある。

6) 横隔膜機能温存(Preservation of diaphragm function)

P-SILI回避は「過使用損傷」と「不使用萎縮(VIDD)」の両極を避けるバランスである。離脱後のIMTは筋損傷バイオマーカー低下と呼吸機能/吸気筋力/握力改善が報告され、効率化により同一換気量でΔPesを下げる方向性が示される。肺を守るために患者の自発努力を抑えた結果、今度は横隔膜が“使われなくて弱る(萎縮する)”問題が起きるので、それを電気刺激で補うという手法もあるさらにECCO2Rは化学的ドライブを下げて努力負荷を軽減し、保護換気を維持しつつ横隔膜活動を完全には消さない支援として位置づけられる。

 

https://journals.lww.com/co-criticalcare/fulltext/9900/kidney_ventilator_interaction_and.323.aspx

IMVによる肺‐腎相互作用と腎保護的換気に関する総説。

ARDS→AKI:ARDSはAKIのオッズを大きく上げ、AKI発症率は概ね30–44%とされる。RMA試験ではIMV開始後早期(4日以内)にAKIが一定割合で発生し、ARDS単独よりARDS+AKIで死亡率が大きく上昇した。IMV→AKI:ARF/ARDSでIMVを受ける集団のAKIは25–60%程度と幅があるが、IMV自体がAKIリスク上昇と関連したとするメタ解析がある。COVID-19:パンデミック初期にIMVとRRTを要するAKIが多かったが、その後HFNC等の普及とともにAKI頻度が下がった観察があり、IMVとAKIの関連を補強する材料として扱われる。時間軸:AKIはIMV開始後1–3日に出やすいとされ、AKI合併は死亡率上昇、人工呼吸・ICU滞在延長、離脱遅延と関連する。乏尿は特に離脱困難・人工呼吸日数増と関連がある。

IMV/injurious IMV → AKIが起きるワケ:PEEP等で胸腔内圧が上がると、静脈還流低下→前負荷低下→CO低下となり、腎血流・GFR・尿量が低下し得る。さらに中心静脈圧上昇は腎灌流圧を下げ、腎うっ血・間質浮腫を助長する。低酸素血症はAngII/エンドセリン/ノルエピネフリン等の血管収縮を介して腎血管抵抗を増やし、腎血流を下げる。ARDSでは右心負荷から急性肺性心(一定割合)→腎静脈うっ血が悪化し得る。高二酸化炭素血症も腎血管収縮・尿細管酸素消費増を通じ腎虚血を助長し得る。胸腔内圧上昇で心房伸展や圧受容が変化し、SNS/RAAS活性化、ADH分泌↑、ANP抑制へ傾き、Na・水貯留と腎血流/GFR低下を通じ乏尿性AKIへ進む。高TVや高圧による肺胞過伸展・肺胞毛細血管バリア破綻(VILI:biotrauma/volutrauma/barotrauma/atelectrauma/myotrauma)が、サイトカインやDAMPsの全身流出を引き起こし、腎尿細管上皮細胞アポトーシス、内皮障害、透過性亢進などに波及する。IL群やTNF関連、NGAL等AKIバイオマーカー上昇、TLR4/NF-κB系の関与などが報告されている。

AKI → 肺障害が起きるワケ:非炎症性の機序では、尿毒素蓄積、体液過剰、代謝性アシドーシスが換気力学・ガス交換を悪化させ、プラトー圧上昇・コンプライアンス低下・ΔP上昇・P/F低下と関連する。炎症性/非静水圧性肺水腫として、単なる水分過剰だけでは説明できない「腎原性(非静水圧性)肺水腫」の概念がある。虚血再灌流モデル等で、炎症・酸化ストレス・炎症メディエーターのクリアランス障害が肺胞毛細血管障害を起こし、さらにENaCやNa/K-ATPase、AQP-5低下による肺胞液クリアランス障害が関与しえる。メディエーターとして、IL-6(予後・人工呼吸期間と相関)、IL-8、TNF-α、HMGB1、ミトコンドリアDNA、オステオポンチン等が列挙され、腎由来DAMPsが肺内皮の炎症・透過性を増やす方向に傾く。さらに近年の機序として、CXCL2とCCR2+単球活性化を介した肺毛細血管内の好中球滞留(neutrophil trains)による低酸素血症、という新しい実験的知見もあるとされる。

LPV(LUNG-PROTECTIVE VENTILATION)はVILIを減らす標準戦略であり、腎への波及(biotrauma低減、循環・炎症負荷の軽減)という観点で腎保護の可能性がある。ARMA試験では低TVが人工呼吸関連アウトカムに加えAKI関連指標(AKI-free days等)も改善した。一方、非ARDS集団では低TVがAKI悪化リスクを明確に下げない解析も紹介され、万能ではない。低TVの代償として高二酸化炭素血症許容/呼吸性アシドーシスが問題となり得る。補正としての重炭酸投与は理論的な懸念(CO2生成→細胞内pH等)もあるが、重症代謝性アシドーシス+AKIではBICAR-ICUが死亡率低下やRRT使用減少に関連した。PEEPは肺リクルートで酸素化改善し、状況により右心負荷や左心負荷の改善を通じCO改善もあり得る。ただし過剰なPEEPは胸腔内圧上昇→腎静脈うっ血→RBF/GFR低下(動脈圧が保たれても)を来し得て、神経体液性活性化で体液貯留・AKIを悪化させ得る。腹臥位療法について腹圧上昇による腎灌流低下が懸念されるが、小規模試験ではIAPは軽度上がってもRBF/GFR/尿量等への悪影響が乏しいこと、さらに大規模試験でRRT使用が非有意ではあるが少ない可能性が示唆されている。FACTTで保守的輸液は酸素化やVFDICU在室を改善し、循環が安定した症例では積極利尿がAKIを必ずしも誘発しない。FACTT Liteも含め、LPV+保守的輸液が肺と腎に相乗的に良い可能性がある

体外補助の役割:RRTの「強度」が人工呼吸期間や抜管成功に影響し得るという二次解析があるが、高強度のCRRTが必ずしも遅延と結び付かないという解析もある。高強度RRTでは低リン血症などが起こり、横隔膜収縮や酸素利用に影響し抜管を阻害する可能性がある。VV-ECMOは換気圧を下げ酸素化・CO2を改善し、cor pulmonale軽減などを通じ腎保護的に働き得る可能性が示唆される一方、現実にはECMO中AKIは高頻度でRRT併用も多く、炎症・溶血・凝固イベント等が腎を悪化させ得る。

 

※ADQIによる推奨(table 2)

1) ARF/ARDSでIMV中のAKIを減らす(modifiable risk factors)

・KDIGOガイドラインに沿ったAKIリスク/AKI管理を推奨(1C)。

・重症ARF/ARDSではCrを少なくとも毎日、尿量も定期的にモニターしてAKI検出(1B)。

・肺感染の早期スクリーニング→適切抗菌薬の早期開始(AKIリスク低下と関連、1C)。

・TVと換気圧を監視しLPVを適用して新規/増悪AKIを減らす(1C)。

・低血圧、静脈うっ血、右心不全、腹腔内圧(IAP)を監視・治療(1B)。

・可能なら、体液過剰・腎毒性・高用量iNOなどAKIに関連する介入を回避(2B)。

2) AKI患者の呼吸機能悪化を減らす(modifiable risk factors)

・KDIGOに沿ったAKI管理が肺アウトカム改善につながり得る(1D)。

・保守的輸液+選択的利尿薬/RRTで呼吸機能改善・IMV期間短縮を図る提案(2C)。

・特に酸塩基異常が換気に影響する場合、RRTで代謝性影響を緩和(1D)。

3) RRTが肺機能へ与える影響(COPDの代償性アルカローシスなど)

COPDで代償性代謝性アルカローシスがある場合、補正は許容範囲でゆっくり(2D)。

4) ECMOと腎、体外補助の組み合わせ

・ECMO中は溶血・凝固・炎症マーカーを綿密に監視(1C)。

・ECMO中の腎機能は、少なくとも毎日のCr測定と体液バランス評価でルーチン監視(1C)。

・ECMOに「予防的CRRT」をルーチン併用する利益はなく、CRRT開始は絶対/相対適応で判断(1D)。

・ECMO中に「炎症メディエーター除去だけ」を目的としたCRRT/吸着の推奨はしない(1C)。

 

敗血症性ショック

Current standard of care for septic shock | Intensive Care Medicine

敗血症性ショックの血行動態管理を「現場仕様」に整理した総説。

ポイント:

・目標は「組織低灌流の速やかな反転」である。敗血症性ショックはMAP≧65 mmHg+乳酸>2 mmol/L(十分な輸液後に昇圧薬必要)で定義される。

・初期輸液は晶質液が基本で、バランス型が等張食塩水より優位な可能性が高い34,685例の個別患者データメタ解析で、腎代替療法の新規開始を減らす確率が97.5%であった。

・「反応で調整」こそが血行動態蘇生の中心である。輸液、ノルエピネフリン(第一選択)、必要なら強心薬やステロイドを、診察・検査・モニタで反応を見て組み合わせる。

・CRT(毛細血管再充満時間)は“安くて強い”灌流モニタ/目標になり得る。CRT標的の個別化蘇生は28日複合エンドポイント(死亡、生命維持期間、在院日数の複合)を改善した。

・感染治療の主役は抗菌薬+感染源コントロールである。抗菌薬の遅れは死亡率上昇と関連し、一方で過剰診断は不適切抗菌薬や真の原因治療遅延を招くため、認識は「繊細なバランス」である。

NEWSは救急部でリスク同定の感度・特異度の組み合わせが最良とするメタ解析がある一方、qSOFAはスクリーニングとして感度不十分とされる。ショック原因が多様で、敗血症を過剰に決め打ちすると危険な患者(真の原因治療遅延、適応のない抗菌薬→耐性促進)。「敗血症認識のバランス」を強く意識すべきである。非侵襲血圧が信頼できないほど不安定な患者では、オシロメトリ法は不確実になり得るため、侵襲的動脈圧の適応を早めに検討する。

MAP目標はまず65 mmHg(ただし年齢、元の血圧、併存疾患で個別化を検討)。メタ解析の統合データは普遍的目標を明確にせず、SEPSISPAM再解析でも高/低目標による治療効果の不均一性は示されなかった。

輸液の種類:初期は晶質液、成人敗血症ではバランス型を推奨するガイドラインがある。HESは死亡増加と腎代替療法増加に関連し避ける。アルブミンは議論が残り、大量晶質液後に検討を示唆する一方、ESICMは基本「晶質液のみ」を推奨しつつ特定サブグループで検討余地としている。濃度(4% vs 20%)の最適も未決である。

輸液量:初期(高度モニタなし)に最大30 mL/kgを推奨し、頻回再評価で調整する。現実の投与量は20〜35 mL/kgが多いがばらつきが大きく、特定量を検証した研究はない。過剰貯留は不良転帰と関連し、低所得国ではプロトコール化高容量が死亡増加と関連した。一方、高所得国では初期後の制限/寛容戦略で有意差なしとする試験があり、寛容群でも「かつての標準より少ない」量であったとされる。最適化期は「監視下の個別化」を推す。

昇圧薬:第一選択はノルエピネフリン。末梢静脈から短期開始も可能で、中心静脈確保待ちの橋渡しとなる。製剤差を踏まえ、ノルエピネフリン“base”での統一報告が提案される。エスカレーションはbase 0.25〜0.5 μg/kg/minが目安として言及され、バソプレシンは通常第二選択。開始タイミングは未決だが、強化学習アルゴリズムではショック発症から早期(中央値[IQR] 4[1–8] vs 5[1–14]時間)かつ低用量ノルエピネフリン(0.20[0.08–0.45] vs 0.37[0.17–0.69] μg/kg/min)での使用が生存に有利と示唆された。また>3000例のエミュレート試験でノルエピネフリン<0.25 mcg/kg/minでの早期導入が有益とされたが、VANISH試験とは整合しない点があり、臨床試験の追加が必要とされる。ノルエピネフリン>0.5 μg/kg/minは不良転帰と関連するが、因果や単一閾値は未確立である。「難治性ショック」の定義(用量、期間、昇圧薬本数、バイオマーカー)も不明である。

強心薬:十分な輸液+血圧回復後も低灌流が持続し、特に心機能障害がある場合、ドブタミン追加またはエピネフリン単独を提案する。心機能障害は心エコーや心拍出量モニタで確認し、ScvO2低下やPCO2 gap増大から推定も可能である。ドブタミンはβ1受容体ダウンレギュレーションで効果が可変で、頻脈性不整脈や血管拡張、アドレナリン性心筋症の懸念がある。レボシメンダンは大規模試験で転帰改善を示せず、ミルリノンは敗血症性ショックで臨床試験がない。エピネフリンは乳酸アシドーシスや内臓低灌流、死亡増加の可能性が示される。

ステロイド:ショック反転は一貫して示されるが、死亡率改善は不明確である。ヒドロコルチゾン200 mg/日単独では死亡低下を示さず、フルドロコルチゾン併用がプラセボ比で死亡低下を示した試験がある。開始タイミングの決定的根拠はなく、ノルアドレナリン0.25 μg/kg/min到達で検討を推奨する。効果はサブグループで異なる可能性(市中肺炎由来で限定的など)が示唆され、エンドタイプにより利益/害が分かれる可能性も議論されている。

モニタリング:侵襲的動脈圧は不安定時の連続評価と迅速採血に有用で、脈圧・拡張期圧から「前負荷低下」か「重度血管麻痺」かの当たりを付ける。初期反応不十分例では心拍出量評価が重要で、心エコーが第一選択。経肺熱希釈はEVLW(肺血管外水分量)を測れ、肺血管透過性指数>3が毛細血管リークを示すとされる。輸液反応性は静的指標より動的指標が推奨だが、PPV/SVVは不整脈、低一回換気量、自発呼吸、腹腔内圧亢進などで破綻し得る。PLRなどの機能的テストを心拍出量/一回拍出量の連続計測で評価する。

長期回復:PSS(post-sepsis syndrome)として長期後遺症が問題となる。敗血症後1年で約1/3が死亡、1/6が重い身体/認知障害、回復が完全〜ほぼ完全は半数にとどまる。ICUフォローアップ外来などで評価、薬剤調整、リハ計画、支援導入を行うことが重要とされる。

Pitfall:

・「MAP 65を達成=蘇生完了」で止まる→ MAPは入口に過ぎない。意識・皮膚灌流・尿量、CRTを含む灌流所見で「組織低灌流が反転したか」を追うべきである。

・乳酸を“唯一のゴール”にして介入を引っ張る→ 乳酸は低灌流以外(アドレナリン刺激、クリアランス低下)も反映する複雑な指標であり、乳酸変化を標的化しても有効な蘇生誘導戦略とは示されていない。トレンドは予後情報として扱い、即時の微調整はCRTなどの速い指標を併用する。

・PPV/SVVだけで輸液反応性を判断する→ 不整脈、低一回換気量、自発呼吸、腹腔内圧亢進で破綻する。PLRなどの機能的テストを、心拍出量/一回拍出量の連続計測で評価する。

・輸液を「30 mL/kgだから」と機械的に完遂する→ 最大30 mL/kgは初期の目安であり、30 mL/kgより多い/少ない患者がいる。過剰貯留は不良転帰と関連し、特に心不全・腎疾患や低資源環境では慎重な再評価が要る。

・敗血症の過剰診断で“抗菌薬だけ先行”し、真の原因治療が遅れる→ 敗血症認識はバランスであり、病原体の蓋然性に基づく経験的治療と、可能なら早期の中止/デエスカレーションを同時に設計する。

・ノルエピネフリン高用量の“惰性増量”→ >0.5 μg/kg/minは不良転帰と関連するが因果は未確立であり、この局面では心拍出量・混合ショックの評価、強心薬、補助療法(ステロイド等)や高度モニタリングを同時に検討すべきである。

・CRTを測っているつもりで、測定法がバラバラ→ CRTは標準化と訓練が必要で、評価者間一致を高める工夫が要る。

 

Applied physiology at the bedside: using invasive blood pressure as a true monitoring tool

侵襲的動脈圧(SAP/DAP/MAP/PP)は、単なる「安全域の監視」ではなく、ベッドサイドでの生理学に基づく治療調整の操作可能な指標として活用できるという面白い切り口の総説。

解釈の前提として、表示されている数値を読む前に波形が信頼できるかを点検すべき。良好な波形の所見として、急峻な立ち上がり、二尖弁切痕(dicrotic notch)、拡張期下降相の滑らかさを挙げ、遅い立ち上がりはまずアーチファクトを疑うべき。代表的アーチファクトはunderdamping(SAP過大・DAP過小・PP過大)とoverdamping(SAP過小・DAP過大)。補正として、fast-flush testを系統的に行うこと、underdampingには硬く短いチューブ等、overdampingには気泡/血栓/屈曲の除去などを行うことが有効。大腿動脈MAPが橈骨より高めになり得る報告(平均差3 mmHg程度)を示しつつ、現時点で末梢カニュレーションの選好を直ちに変える必要性は明確でない。

見えている「PPが低い/高い」が、循環の変化ではなく測定系のアーチファクトで起き得ることに注意が必要。

フラッシュを一瞬入れて「四角波+その後の振動」を作り、測定系の自然周波数・ダンピング係数を推定する手技をFast flush testと呼ぶ。A(underdamped)、B(appropriate/normal)、C(overdamped)の典型的な波形。

 

動脈圧は大きく ①定常成分(MAP) と ②拍動成分(PP) に分けて考える。MAPは大動脈から末梢の大きな動脈までほぼ一定(少し下がる程度)なのに対し、PPは末梢に行くほど大きくなりえる。末梢血圧は臨床的によく用いられるが、大動脈血圧の上昇は標的臓器障害・心血管リスクと密接に関連している可能性があるため、中枢の血圧を意識することでより正確に評価することができる可能性がある(がこれには議論はある)。

大動脈と大血管は、単なる管ではなく「弾性のある構造物」である。収縮期に左室が血液を押し出すと、SVの一部は末梢へ流れ(systolic run-off)、残りは近位大動脈をふくらませる形で一時的に蓄えられる。そして拡張期にその蓄えが放出され、重要な臓器への持続的な血流として働く。この拍動性の流れを“連続流っぽく”して臓器血流を保つ、というのがWindkessel効果である。この「ふくらみやすさ(弾性)」を、臨床ではまとめて 総動脈コンプライアンスと呼び、実用上は総動脈コンプライアンス ≈ SV / 大動脈PPで見積もる。

※Windkissel効果:収縮期に近位大動脈が伸展して一時的に血液を貯め、拡張期に放出することで拍動流を連続流に近づけるような効果がある。収縮期に貯蔵されたSVの一部が拡張期に放出される。同じSVを押し込むとき、血管が柔らかいほど圧の振れ幅(PP)が小さく、硬いほどPPが大きくなるという関係性を示している(総動脈コンプライアンス ≈ SV / 大動脈PPの式を変形すると、大動脈PP=SV/総動脈コンプライアンスとなり、たとえば血管が硬いほどPPが大きくなることがわかる)。

 

血管評価においてWindlissel効果のほかに重要な要素として、反射波がある。動脈血圧波は、分岐部など動脈インピーダンスの変化に遭遇するたびに反射し(後方波)、これらの反射波の合算効果により大動脈基部に戻る圧力波が生成される。若年では後方波が拡張早期にピークに達するため拡張期大動脈圧が上昇する。高齢ではより早く収縮波が反射されるため収縮期にピークに達することになる。

これらの説明から、動脈硬化および加齢に伴う大動脈脈圧の上昇は2つのメカニズムが絡んでおり、①近位大動脈硬化(Windkissel効果)と②反射波から説明できる。さらに、加齢は大動脈拡張期血圧をわずかに低下させるという事実もPP増大に絡む。

ここまでのまとめ:大動脈PPが高値であることはSVの増加または動脈硬化の進行を示唆。大動脈PPが低いことは基本的にSV低下を示唆(動脈スティフネスの異常な低下はまれ)。大動脈PPが正常であることは、正常なSVと正常な大動脈スティフネス、またはSVの低下と動脈スティフネスの増大のいずれかを反映する。

でも実際には大動脈圧を直接モニタリングすることが現実的ではない。したがって、ICU患者においては、末梢動脈に留置されたカテーテルを用いてのみ、持続的な血圧モニタリングが可能。しかし、末梢血圧は大動脈血圧とは異なる場合があり、末梢血圧測定から血行動態を適切に解釈するためには、いくつかの生理学的原則を念頭に置く必要がある。

大動脈圧と末梢同脈圧の関係はPWAの程度に依存する。末梢では大動脈よりもPPとSAPが高くなるがDAPがわずかに低下し、全体としてMAPはほとんど変化しないことが知られている。大動脈PPと末梢PPの差が生じるのはPWAによるところがあり、いくつかの要因がPWAに影響する。PWAとは、大動脈で生じた脈波が末梢へと進む途中で形を変え、末梢の方がPPが大きく見える現象である(なお、MAPはほぼ一定で変わらない)。圧の波は左室収縮により生じ末梢へ伝わるが、その過程で血管は細く・硬くなっていくため、波形の形が変わる。結果として、末梢側ではSAP↑・DAP↓・PP↑となる。これは主に年齢≒動脈硬化による影響であり、若年ではPWAが大きく、高齢ではPWAが減弱する(若い血管では中枢→末梢ではPPが増幅され、動脈硬化が強い高齢者の血管ではPPが減弱する)。

※Aが若年、Bが高齢。

ICUでは末梢Aラインしか見ていないことが多いが、「末梢BPは大動脈BPと異なり得るので、この生理を思い出すべき」なのだそう。決定的なのが、末梢PPがSVをどれだけ反映するかは年齢で変わるという点。若年ではPWAが強くて相関が弱いが、高齢で動脈が硬いと相関が強い。同じ「PPが上がった/下がった」でも、それがSV変化なのか、PWA(中心末梢差)の変化なのかを考えることが重要。

 

~ここまで小難しい話、正直あまり理解できた気がしない~以下、実用的。

 

MAPはCOや末梢抵抗等の影響を受け、自己調節域を外れると血流がMAP依存となるため低MAPは危険である。敗血症性ショックでは、観察研究などを踏まえつつ、ガイドラインとしてMAP≥65 mmHgが推奨されている。慢性高血圧では自己調節曲線が右方シフトするため高めターゲットが議論されるが、RCT結果は一貫せず、特に高MAP目標+早期バソプレシン戦略で有害シグナルが出た試験もある。「65–70mmHg達成後もショックが続くなら、短時間の昇圧テストで末梢灌流を見て個別化」という実務的対応がありえる。MPP=MAP−CVPの関係より、CVP上昇でMPPが下がるため、可能ならCVP低下を優先し、それが無理ならMAP上げを検討(ただし未検証)とするのがよい。

PPとSVの関係として、理論的には大動脈PP∝SV*動脈スティフネスのため、スティフネスが急激に変化することはないことから、PPの変化≒SVの変化と見なせる場面が多い。PLRやPEEP低下などのダイナミックテスト中にCOがなくとも、末梢PPの変化量でSVの増加を推定する方法が複数の研究で検証されている。高齢者や動脈硬化のある患者で特に相関が良好。ANDROMEDA-SHOCK-2の介入群では、PP <40 mmHgを低SVの目安として介入アルゴリズムに組み込んでいる。

DAPは全身血管抵抗・動脈コンプライアンス・拡張期持続時間(=心拍数)によって決まる。大規模レジストリでは加齢とともにDAPは低下することが示されているが、それでもvasodilatory shockで見られるほど極端に低くはならない。DAPは大動脈〜末梢でほぼ一定→橈骨DAPをそのまま血管トーン指標として使いやすい心拍数↑ → 拡張期が短くなり、大動脈圧が下がり切る前に次の収縮が来る → DAPは相対的に高くなるはず。よって同じDAP 50 mmHgでも、HR 90 bpm:血管トーンはそれなりに保たれている可能性、HR 150 bpm:実際のトーンはかなり低い可能性があり、DAPはHRとセットで解釈すべき。大規模観察研究で、DAP <約45–50 mmHgを下回る範囲で、AKI・心筋障害・死亡率が有意に増加。これらから、著者らは低DAPノルアドレナリン開始の重要なトリガーと位置づけている。重要な指標としてDSI (Diastolic Shock Index) = HR / DAPとVNERi = DAP / (HR × NE投与量[μg/kg/min])がある。DSI (Diastolic Shock Index) = HR / DAP:HRとDAPを一つの指標にまとめることで、純粋な血管トーンの低下+代償性頻脈を表現。敗血症性ショック患者で、NE導入前および導入時のDSIが高値であるほど死亡率が高い。MAPや従来の「systolic shock index」より予後予測能が高かった。早期にNEを開始すべき患者を同定する指標として有望。VNERi = DAP / (HR × NE投与量[μg/kg/min]):NE開始後の時点で算出し、「投与量で割ってもDAPが十分上がっていない」=NE反応性不良を捉える。ANDROMEDA-SHOCKデータの解析では、VNERiと院内死亡率の間に逆Jカーブを認め、約6.7付近が死亡率最小、その下では死亡率が上昇。将来的には「VNERiが低い敗血症性ショック患者」に対して、早期のバソプレシン追加や他の昇圧薬戦略を検証する試験の選択基準になりうると提案している。

SAP:左室後負荷のモニタリングに使用される。SAPが高いほど、左室はより大きな張力を発生しなければならず、酸素消費も増加する。Chemlaらによる新しい経験式:aortic SAP ≈ MAP² / DAP(MAP²/DAP比)で推定。3つの独立コホートで検証し、測定誤差を抑えれば大動脈SAPを良好に推定できると報告。将来的には、MAP²/DAPDAP ≒ 大動脈PPの変化を指標にSV変化を評価できる可能性があるが、現時点では概念レベル。

PPV:人工呼吸下で陽圧換気を行うと、吸気時に静脈還流↓ → 右室SV↓ → 2〜3拍後に左室SV↓→呼気時に回復という生理がある。前負荷依存性が高いほどSVの呼吸性変動が大きくなり、それがPPVとして検出される。初期報告では、TV ≥8 mL/kg・不整脈なし・自発呼吸なしの条件下でPPVは輸液反応性の予測に非常に高い精度。通常TV 6 mL/kgの患者で、一時的に1分間だけTVを8 mL/kgに上げ、PPV(8 mL/kg) − PPV(6 mL/kg) が3.5%以上なら輸液反応性がある可能性が高い、というデータが複数ある。腹臥位や自発呼吸混在下でも一定の有用性あり。PLRによる一時的な前負荷増加で、COモニタがなくてもPPVの減少量を観察することで輸液反応性を判定できる。自発呼吸を残した人工呼吸患者でも、絶対PPV値より「PLRによるPPV減少」のほうが予測能が高いと報告。

 

図9

 

ショック患者の初期評価から治療方針の分岐までをSAP、DAP、MAP、PP、PPVなどの各コンポーネントに基づいて縦軸・横軸的に分岐させていく簡略アルゴリズム

MAP:動脈ツリー全体でほぼ一定であり,基本的な治療ターゲットだが,高血圧歴やCVPを考慮して個別化すべきであること。

DAPDSI・VNERi:血管トーヌスとその予後的意義,ノルアドレナリン開始・増量のトリガーとしての役割。

SAP・PP:特に高齢者ではLV後負荷やSVの変化を反映しうる指標として,経時変化を評価する価値があること。

PPVとその変化(TVC, PLR時):フルイドレスポンシブネス評価のためのダイナミック指標として用い,無駄な輸液・心負荷を避けること。

 

POCUS

Vertical Artifacts as Lung Ultrasound Signs: Trick or Trap? Part 2- An Accademia di Ecografia Toracica Position Paper on B-Lines and Sonographic Interstitial Syndrome

LUSでのBlineの見え方で病態の鑑別をどうするかについての総説。

B lineという用語は誤用されるため、vertical artifactと言うように推奨されてはいる。

vertical artifactは、

・分布(focal / diffuse、均一性)
・アーチファクトの性状
・胸膜ラインの性状
・臨床情報

の4つから判断せよというメッセージ。

大きな鑑別として、心原性肺水腫、線維化、ARDSがあり、
・心原性肺水腫:diffuseかつ均一に分布する、明るく深部まで伸びやすいアーチファクト。肺の構造破綻はないため、胸膜が規則的できれい。
・線維化:focal、不均一性があり、アーチファクトは暗く深部までは届かないこともある(途切れやすい:深部で減衰しやすい)
・ARDS:両側性だが不均一(patchy)で、正常域(spared)を挟む、という分布が特徴的。white lung部では胸膜ラインが不整で病態を反映している
ここに臨床情報が加わることで最終的な判断を下してマネジメントすることになる。
 

Nuts and bolts of lung ultrasound: utility, scanning techniques, protocols, and findings in common pathologies

現場でLUSを使いこなせるようになるための実践的な総説。

理解しておく必要のある特徴的なアーチファクトは以下の4つ。

・Pleural line / Lung sliding:壁側・臓側胸膜が高エコー線として見え、呼吸性移動がlung slidingである。

・Lung pulse:心拍が胸膜ラインに微小振動として見えることがあり、胸膜界面が保たれていることを示し気胸を否定する方向の所見となる。

・A-lines:胸膜ラインを強い反射体として起こる反響(reverberation)で、等間隔の水平線として描出される。

・B-lines:胸膜ラインから画面下端まで伸びる垂直高エコーで、短い垂直アーチファクト(Z-line等)と区別すべし。成因としては近接した反射体間に波が“捕捉”される反響で、肺水腫・肺炎・ARDSなどで出現しうる。

・加えて、正常含気が失われる状況では、アーチファクトだけでなく実質(consolidation等)や胸水など「形態」も見えることがある。

実践として、肋骨・皮下・胸膜ラインを同定し、ビームが胸膜に垂直になるよう調整してbat signを作ることを推奨。設定面では、焦点を胸膜ラインに置き、基本はゲインを下げて胸膜ライン/A・B-lineを見やすくし、コンソリデーションなど実質を解剖学的に見る際はゲインを上げることがある。体位は原則仰臥位から開始し、背側下葉は側臥位が必要になる場合がある(肩甲骨背側は見えにくい)。胸水は座位/セミファウラーが有利。走査点数は、急性呼吸不全の迅速評価として片側3点(modified BLUE)が実用的としつつ、6点以上/8ゾーンなど複数の推奨が存在する。

正常はlung slidingが基本で、M-modeではseashore signとして描出される。心停止などでETCO₂が当てにならない状況では、lung sliding/seashore signがETT確認に役立つ可能性がある。正常所見としてlung pulse、A-lines、少数の孤立B-linesやZ-linesも起こりうる。

病態別の所見:

(a) 気胸:仰臥位では空気が非依存部に集まるため、前胸部(鎖骨中線・第2〜4肋間)を重点的に見る。気胸では臓側胸膜が見えず、lung slidingが消失する。「lung slidingなし+A-lines+lung pulseなし+B-lines等の垂直アーチファクトなし」が典型で、M-modeではbarcode/stratosphere signを示す。部分気胸ではlung pointが移行部として見え、高特異度だが、bullous diseaseや胸膜肥厚・癒着等で類似パターンになり得る、心臓近傍の生理的胸膜滑走が紛らわしいことがある。皮下気腫では超音波が通らずlung slidingが見えないことがあり、E-linesがB-linesと紛らわしい(胸膜ライン由来でない・呼吸同期しない)

※E-line:皮下気腫(subcutaneous emphysema)で見える「垂直の高エコー線」。皮下の空気の影響で超音波が奥に届かない。B-lineとの区別は、胸膜ラインから出てこない、呼吸に同期して動かない(B-lineは呼吸と同期して見え方が変わる)ことからできる。

(b) 片肺挿管(主気管支挿管):換気されない側でlung slidingが消失する。右主気管支へ入りやすい(右がより垂直)ため、結果として左肺で所見が出ることが多い。気胸と異なり、胸膜界面に空気のバリアがないためlung pulseが見え得るのは注意点

(c) 無気肺:air bronchogramが代表所見で、無気肺では静的(呼吸で動かない)になりやすい。lung pulseやB-linesが出ることもある。閉塞性ではlung slidingが消えやすいが、胸水などによる圧迫性では早期にlung slidingが残ることもある。

(d) 肺炎:肺炎はLUSで高い感度・特異度が報告され、含気低下により胸膜下までビームが届いて、楔状で境界不明瞭な低エコー(hepatization)として見える。ただし胸膜に達しないコンソリデーションは見逃しうる。コンソリデーションと正常の境界が不整なshred sign、動的air bronchogram(呼吸で動く)などを挙げ、動的所見は無気肺よりコンソリデーションを示唆する方向とする。静的air bronchogramの場面では、カラードプラで血流を見て肺炎と無気肺の鑑別に寄与しうる。さらに、ウイルス性は小さな胸膜下コンソリデーションが多発・両側性でB-linesを伴いやすく、細菌性はより大きく片側性でair bronchogramを伴いやすい。寝たきり仰臥位患者では背側病変を見落とさないため背側走査が重要。COVID-19流行でLUSがウイルス性肺炎の診断だけでなく重症度評価・進行予測・挿管必要性予測にも使われた。

(e) 肺水腫:肺水腫の中核所見は「pathologic B-lines」で、定義として「1肋間に3本以上」または「肋間の大部分を占めるconfluent B-line」を挙げる。B-lines数は含気低下・CTのすりガラス影(間質/肺胞水腫)と相関しうる。肺水腫ではlung slidingが保たれ、B-linesが両側・均一(homogenous)に出やすく、肺炎/ARDS/肺挫傷などのB-lines(分布が不均一になり得る)との鑑別点となる。心原性では胸膜ライン異常が乏しく、非心原性(間質性肺疾患など)では胸膜ラインの断片化など異常が出る。輸液蘇生のガイドにB-lines出現を使う発想(FALLS)があり、B-linesは非特異(COVIDなどのウイルス性肺炎、ARDS等でも出る)であり、臨床文脈や心機能評価と合わせて解釈すべきである。CHF増悪とCOPD増悪の鑑別として、前者は両側均一B-lines(しばしば胸水合併)、後者はA-lines優位になる。また自発呼吸トライアル中のB-lines増加がweaning failureリスクを示唆しうる。

(f) ARDS:ARDSは重症度・病期で所見が変わり、早期滲出期では肺水腫様のB-linesだがより不均一(heterogeneous)になり、その後はコンソリデーション様の低エコーや動的air bronchogram、lung sliding消失や胸膜ライン不整が出現し得る。

(g) 胸水:胸水は依存部で胸膜間に無エコー域として見え、診断能(感度83–100%、特異度93–100%)。脊椎が横隔膜より頭側まで見えるspine sign、正常なら吸気で肺が“カーテン状”にかぶさるcurtain signが胸水では消える(absent curtain sign)。滲出性/漏出性の推定として、隔壁・混濁・エコー輝度を伴う複雑胸水はほぼ滲出性で、浮遊デブリ(plankton sign)などがある。一方で単純無エコー=漏出性の予測能は低い点には注意が必要。sinusoidal sign、胸水量の目安(深さ>4–5cmは概ね>1000mLで臨床的意義が大きい可能性)がある。

※Sinusoidal sign:胸水の中で肺実質が浮いて見える所見。

(h) 肺挫傷:肺挫傷では局所のB-lines増加やコンソリデーションが所見として挙げられ、胸部X線より早期に高感度・高特異度で診断できる可能性がある。

肺病態 代表的なLUS所見(Common LUS findings)
気胸 lung slidingなし、A-lineあり、縦走アーチファクトなし、lung pulseなし、± lung point
主気管支挿管) lung slidingなし、A-lineあり、B-lineが出ることあり、lung pulseあり
無気肺 lung slidingなし、B-lineあり、lung pulse陽性、静的 air bronchogram、カラードプラで拍動性血流は欠如しがち
肺水腫 lung slidingあり、両側の病的B-line(肋間あたり≥3本)、lung pulse陽性
肺炎 肺の肝様化(lung hepatization)、病的B-line(ウイルス性は主に両側/細菌性は主に片側)、不整胸膜ライン(shred sign)、動的 air bronchogram、カラードプラで拍動性血流が見えることが多い
胸水 壁側胸膜と臓側胸膜の間の無エコー域、spine sign、sinusoidal sign、(複雑性胸水で)plankton sign
ARDS spared areaを伴い不均一に分布する病的B-line、lung hepatization、動的 air bronchogram、lung slidingの消失、胸膜ライン不整
肺挫傷 病的B-line、lung hepatization

 

BLUEプロトコルは急性呼吸不全の迅速診断を目的とし、(報告として)高い精度が示される一方、経験豊富な術者2名の単施設研究である点に注意が必要。改変BLUEでは、まず両側のlung sliding確認から入り、A/B/Cなどのプロファイル(A-profile=lung sliding+A-lines、B-profile=lung sliding+B-lines、A’=A+slidingなしなど)で鑑別を進めるが、所見のオーバーラップで二分的分類が難しい場合がある(例:心原性肺水腫と早期ARDSのB-profile)。FALLSプロトコルはショックでの輸液ガイドとしてB-lines出現をエンドポイントにする発想だが、B-linesの非特異性など限界がある。Lung ultrasound score(LUS score)は各領域を0〜3点で含気の喪失度を定量化し、領域合計で経時変化や治療反応(抗菌薬、リクルートメント、腹臥位など)を追える。

 

外傷

コンパートメント症候群

Practical Review on the Contemporary Diagnosis and Management of Compartment Syndrome

ACS は発症後4時間以内に治療しないと、潜在的に不可逆的な筋肉損傷を引き起こし、8 時間以内にほぼ完全な筋壊死に至る可能性がある。

診断のゴールドスタンダードはあくまで臨床診断(問診と身体所見)であり、「5P」= Pain(激しい疼痛・他覚所見に見合わない痛み)、Pallor(蒼白)、Paresthesia(しびれ)、Paralysis(運動不能)、Pulselessness(脈拍消失)、特に痛み(とくに他動伸展痛)と進行する感覚障害が早期所見として重要。Pulselessness はかなり末期で、既に不可逆的障害の可能性が高い。

客観的評価としての区画内圧測定:一般的に30 mmHg 以上、あるいは拡張期血圧との差が 30 mmHg 未満がACS を疑う閾値。米国では Stryker 針が最も広く用いられるが、リソースの乏しい環境では動脈ラインを転用する Whitesides 法などの代替法が有用。

補助的検査として、CK 高値(しばしば >1000 IU)、尿ミオグロビン、Cr 上昇は筋壊死・ミオグロビン尿性腎障害の程度把握に有用。近赤外分光法(NIRS):筋の酸素化と灌流圧の関係を利用し、連続・非侵襲モニタリングのポテンシャル。超音波(US):筋膜変位量やコンパートメント幅、弾性(relative elasticity)などから、圧上昇を推定する各種指標が提案されている。

治療の基本は早期の筋膜切開(fasciotomy):低い閾値で手術に踏み切ることが推奨され、虚血性筋壊死による機能喪失の方が、筋膜切開創に伴う筋力低下や再手術のリスクよりもはるかに重いとされる。浮腫が少なければ一期閉鎖、一般には陰圧閉鎖療法を用いた遅延一次縫縮や植皮が選択される。

熱傷・電撃傷・小児・低リソース環境など特殊状況でのACSについてのエビデンス:電撃傷は特に ACS のリスクが高い(骨の抵抗による深部の熱損傷)。小児・新生児では前腕 ACS が多く、瘢痕拘縮と成長に伴う変形に注意。ACSは比較的まれだが、環状の深部熱傷が“外側からの輪状締め付け”となるケースが重要。長時間の虚血ののち処置を行うと、再灌流に伴う浮腫 → 区画圧上昇 → ACSという経路をとることがある。

電撃傷では、手・前腕がよく侵され、ACS の頻度が熱傷より高い。骨の電気抵抗が高く、その周囲の筋肉(例:回内方形筋など)が深部から熱損傷・浮腫を起こしやすいため。電撃傷に対するアルゴリズムとして、指での SpO₂ が 90% 未満であれば、たとえドップラーで動脈波形があっても筋膜切開の適応とするプロトコールがある。ここでも、「脈の消失を待ってからでは遅い」ことが強調され、パルスオキシメトリが筋膜切開の判断に重視されている。