今週の目玉は「救急外来での片頭痛急性期治療指針」のアップデートでしょう!
NEJMから特発性正常圧水頭症の総説も出ていました。
結構見逃している可能性があるな~。

総目次はこちら👇
これまでに紹介したすべての総説をまとめて保管してあります。
神経
片頭痛
救急外来での片頭痛急性期治療指針がアップデート!
👇以下も参照してください👇
全体の方向性として、抗ドパミン薬(特にプロクロルペラジン)・NSAIDs・トリプタン・神経ブロックがEDでの第一選択となるべきであり、オピオイドやアセトアミノフェンは避けるべきという方向性が提示された。
2016年〜2025年2月10日までに発表された、成人(>18歳)の片頭痛患者で、EDでの発作に対して注射薬(IV/IM/SC)あるいは神経ブロックを用いたRCT を検索。主要アウトカムは 投与後6時間以内の痛み評価したものを選択している。
治療については、効果に応じて以下の3段階に分けられる。
・最も強いエビデンスを有する治療(「高い確実性で有効」):プロクロルペラジン静注(IV prochlorperazine)、デキスケトプロフェン静注(IV dexketoprofen)、皮下注スマトリプタン(SC sumatriptan)、大後頭神経ブロック(GONB)
・「有効である可能性が高い」治療:クロルプロマジンIV(chlorpromazine)、メトクロプラミドIV、(metoclopramide)、エプチネズマブIV(eptinezumab)、ケトロラクIV(ketorolac)、眼窩上神経ブロック(SONB)
・「無効である可能性が高い」治療:ヒドロモルフォンIV(hydromorphone)、プロポフォールIV(propofol)、アセトアミノフェンIV
これを基にした最終的な臨床での推奨は以下のようになった。

・Level A – 必ず提供すべき(must offer):プロクロルペラジンIV(10–12.5 mg)、大後頭神経ブロック(GONB)
・Level B – 提供すべき(should offer):デキスケトプロフェンIV、ケトロラクIV、メトクロプラミドIV、スマトリプタンSC(3–6 mg)、眼窩上神経ブロック(SONB)
・Level C – 提供してもよい(may offer):クロルプロマジンIV、デキサメタゾンIV(急性痛軽減については「possibly effective」、ただし再発予防では従来どおり level B)、バルプロ酸ナトリウムIV
・Level A – 提供してはならない(must NOT offer):ヒドロモルフォンIV(opioid)
・Level C – 提供すべきでない(should NOT offer):アセトアミノフェンIV
・Level U – 勧奨不能(No recommendation):カフェインIV、グラニセトロンIV、イブプロフェンIV、ケタミンIV、リドカインIV、生理食塩水ボーラス、プロポフォールIV、SPGブロックなど。エプチネズマブIV は、臨床試験集団に近い患者では Level B(should offer)だが、ED全般の患者に対してはデータ不足のため Level U(推奨不能)。
使用方法や有害事象も含めてまとめると以下のようになります。
| 手技/薬剤(IV/SC/ブロック) | 用量 |
有効性の 確実性 |
有害事象 | ガイドライン推奨 |
|---|---|---|---|---|
| 大後頭神経ブロック(GONB) | 0.5%ブピバカイン または 1%リドカイン 0.75–3 mL | Highly likely effective | 注射部位の疼痛 | レベルA(Must offer) |
| 上眼窩神経ブロック(SONB) | 1%リドカイン 0.25 mL | Likely effective | 注射部位の疼痛 | レベルB(May offer) |
| SPGブロック(Tx360® など) | 0.5%ブピバカイン0.3 mL または 10%リドカイン経鼻 | Insufficient evidence | 一過性の咽頭しびれ感 | レベルU(No recommendation) |
| プロクロルペラジン(IV)(±ジフェンヒドラミン) | 10–12.5 mg(±25 mg) | Highly likely effective | アカシジア、鎮静 | レベルA(Must offer) |
| ヒドロモルフォン(IV) | 1 mg | Likely ineffective | 呼吸抑制、傾眠 | レベルA(Must NOT offer) |
| メトクロプラミド(IV) | 10 mg | Likely effective | アカシジア | レベルB(Should offer) |
| デキスケトプロフェン(IV) | 50 mg | Highly likely effective | 特記すべき重篤な副作用なし | レベルB(Should offer) |
| ケトロラク(IV) | 30–60 mg | Likely effective | 重大な有害事象なし | レベルB(Should offer) |
| スマトリプタン(SC) | 3–6 mg | Highly likely effective | 胸部不快感、動悸、潮紅 | レベルB(Should offer) |
| クロルプロマジン(IV) | 12.5–25 mg | Likely effective | 起立性低血圧、鎮静、アカシジア | レベルC(May offer) |
| デキサメタゾン(IV) | 8–16 mg | Possibly effective | 重大な有害事象の報告なし | 急性痛:レベルC(May offer)再発予防:レベルB(Should offer) |
| アセトアミノフェン(IV) | 1000 mg | Likely ineffective | 特記なし | レベルC(May NOT offer) |
| バルプロ酸(IV) | 400–1000 mg | Possibly effective | 特記なし | レベルC(May offer) |
| イブプロフェン(IV) | 400–800 mg | Insufficient evidence | 重大な有害事象なし | レベルU(No recommendation) |
| カフェイン(IV) | 60 mg | Possibly effective | 特記なし | レベルU(No recommendation) |
| グラニセトロン(IV) | 2 mg | Insufficient evidence | 特記なし | レベルU(No recommendation) |
| リドカイン(IV) | 1.5 mg/kgボーラス+0.5–1 mg/kg持続 | Insufficient evidence | 特記なし | レベルU(No recommendation) |
| 0.9%生理食塩水(IV) | 1 L/1時間 | Possibly ineffective | 特記なし | レベルU(No recommendation) |
| ケタミン(IV) | 0.2 mg/kg | Insufficient evidence | 一過性の泥酔感、倦怠感 | レベルU(No recommendation) |
| プロポフォール(IV) | 40 mgボーラス+追加または 0.5 mg/kg | Likely ineffective | 鎮静、徐脈、低血圧 | レベルU(No recommendation)(ルーチン使用は推奨せず) |
| エプチネズマブ(IV) | 100 mg | Likely effective | まれに過敏反応 | 試験集団に近い患者:レベルB(Should offer)一般的ED集団:レベルU(No recommendation) |
① ドパミン受容体拮抗薬
・プロクロルペラジンIV:新規Class I試験では、ヒドロモルフォン1mg IVよりも痛み軽減・レスキュー薬使用率・再診率のいずれでも優れていた。クロルプロマジンIVとの直接比較では有効性は同等だが、有害事象(鎮静・起立性低血圧・アカシジア)が少ない。2016年までのエビデンスでは、スマトリプタンやオクトレオチド、バルプロ酸より優れていることも示されている。総合して「高い確実性で有効(Highly likely effective)」と判断され、Level A – must offer。
※ノバミンと同じ成分、日本には筋注があるが適応はなさそう。
・メトクロプラミドIV:placeboと比較したClass I試験では、主要アウトカム(30分時点)は統計学的有意差なしだが、50%症状改善率など副次解析ではメトクロプラミド優位であり、評価時点が早すぎる点が指摘されている。デキスケトプロフェンIV、GONB、ケトロラックIVなど既知の有効薬と同程度の効果を示す試験が複数ある。2016年から引き続き「有効である可能性が高い(likely effective)」とされ、Level B – should offer。
・クロルプロマジンIV:プロクロルペラジンIV、メトクロプラミドIV、ケトロラックIVなどと同等の鎮痛効果を示す一方、有害事象(特に鎮静・起立性低血圧・アカシジア)の頻度が高い。有効性は認めるが安全性の観点からワンランク下げられ、Level C – may offer にとどめられている。
・その他(ドロペリドールIM・ハロペリドールIV・トリメトベンズアミドIMなど)は新規データがなく、2016年のグレード(いずれも Level C または U)を維持。
バルプロ酸IVとの比較試験(Class I/II)では両者に有意差を認めず、いずれもVASスコアを大きく改善。8mgを16mgに増量してもあまり効果の上乗せは期待できない。モルヒネIVと比較したClass II試験ではデキサメタゾンが優れる結果。2016年時点で、発作再発予防の目的では Level B – should offer が既に確立しており、今回もその結論は維持。急性痛軽減目的に関してはエビデンスが混在しているため、「possibly effective」とし、Level C – may offer にとどめている。
③ NSAIDs
・デキスケトプロフェンIV:Placebo より優れるClass I試験に加え、メトクロプラミドIVとの併用が単剤よりも有効という試験がある。GONB+Metoclopramideとの比較では、GONBや併用療法と同等の痛み改善。アセトアミノフェンIVやイブプロフェンIVよりも成績がよい。多数の良質試験から「Highly likely effective」かつ Level B – should offer。
※日本にはない。
・イブプロフェンIV:Placeboと差がない試験、バルプロ酸IVより劣る試験など成績がばらつき、デキスケトプロフェンIVと同等とする試験もある。エビデンスが不十分として Level U – no recommendation にとどめている。
・ケトロラクIV:メトクロプラミドIVやカフェインIVと同程度の有効性を示し、オピオイド(メペリジン)と同等かやや劣るが、副作用プロファイルを含めると実臨床で十分使えると判断されている。「likely effective」かつ Level B – should offer。
※日本にはない。
・ケタミンIV :低用量ボーラスでの試験では placebo と差が出なかったり、小規模試験で優越性を示したりと結果が一定せず、全体として 推奨不能(Level U)。
・プロポフォールIV:小規模試験で他薬より優れた結果もあるものの、良質なClass I placebo対照試験では差が認められず、「likely ineffective」と評価。しかし安全性やマスクの問題から、ガイドラインとしては Level U(推奨不能) に据え置き、「標準治療とはすべきでない」というニュアンス。
⑤ トリプタン
・スマトリプタンSC:2016年までに多数のtrialで placeboより有効であることが繰り返し示されており、一部ではDHEよりも速やかな効果を示す。新たなClass I試験(3 mg SC vs placebo)でも2時間頭痛消失率で有意差(51.0% vs 30.8%)。一方で、EDの文脈ではプロクロルペラジンIVに劣る結果もあり、「最優先」ではないが有力な選択肢と位置づけ。Level B – should offer を維持。
⑥ CGRP抗体
・エプチネズマブIV:本来は予防薬として承認されているが、急性期への早期効果に着目したClass I trial(EDではなく外来中心) があり、そこでplaceboより優れていた。しかし、試験対象はEDとは異なる「外来予防薬導入患者」に近い集団であり、EDにおける実現可能性(コスト、点滴時間、入院の要否など)、ED特有の重症例や合併症を持つ症例に関するエビデンスが不足。「試験集団にきわめて近い患者」には Level B – should offer だが、一般的なED片頭痛患者に対しては Level U – no recommendation。
⑦ オピオイド
・ヒドロモルフォンIV:プロクロルペラジン+ジフェンヒドラミンIVとの直接比較Class I trialで、1時間時点の痛み軽減、レスキュー薬使用、ED再受診率のいずれもプロクロルペラジン群が優れていた。さらに、別報の観察研究等を含め、オピオイド使用が片頭痛の慢性化やED再診の増加と関連することも踏まえ、オピオイドはむしろ害が大きいと判断。「likely ineffective」かつ害の可能性が高いため、Level A – must NOT offer(提供してはならない) という強い否定的勧告になっている。
⑧ その他の薬剤・輸液
・バルプロ酸IV:ケトロラックIVやドパミン拮抗薬には劣るが、イブプロフェンIVやデキサメタゾンIVとは同等〜やや良好で、「possibly effective」、Level C – may offer。
・アセトアミノフェンIV:placeboより悪いか、他のNSAIDと同等どまりであり、「likely ineffective」、Level C – should NOT offer。
※クラスIのプラセボ対象試験で有意差がなかった。追加のクラスII/III試験でも「他のNSAIDsに劣る」あるいは「同等だが明確な優位性なし」という結果が積み重なっている。まとめると、「安全性の問題というより 効果がはっきりしない/弱いので、EDの片頭痛治療として積極的に使う理由が乏しい」という評価になっている。新しいRCT(Örnek 2024)をみてもベースラインのVASと比較して60分後のVASは大きく低下してはいるため、実用には足ると個人的には思っている。ただ、優先度は低いという、それだけの話。使える薬剤が限定的な日本のEDではアリだと思う。
・カフェインIV・グラニセトロンIV・リドカインIV・生理食塩水ボーラス などは試験数が少なく、結果も一定せず Level U – no recommendation。
⑨ 神経ブロック
・大後頭神経ブロック(GONB):複数のClass I/II試験で、placebo(shamブロック)やSONBより明らかに優れている、メトクロプラミドIVと同等の鎮痛効果を示すことが示された。「Highly likely effective」→ Level A – must offer。
・眼窩上神経ブロック(SONB):placebo(sham)より有効で、GONBほどではないが明らかな効果あり。「likely effective」→ Level B – should offer。
・SPGブロック(経鼻リドカイン、Tx360®など):小規模試験でプラセボに優る結果もある一方、大規模試験では差が出ないなど結果が割れている。エビデンス不足として Level U – no recommendation。
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https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/zutsu_2021.pdf
日本の頭痛の診療ガイドライン2021。
急性期治療の中心は薬物療法であり、①アセトアミノフェン ②NSAIDs ③トリプタン ④エルゴタミン ⑤制吐薬が基本セットとなっている。
治療戦略は、片頭痛の重症度に応じた stratified care(層別治療) を推奨。最初から重症度で層別し、中等度~重度では最初からトリプタンを組み合わせて使うことが現実的とされる。 ※ERを受診するような患者は、原則として中等度~重度と考えて、禁忌がなければトリプタンから行くのがいいだろう。ちなみに、step care:最初は安全・安価なアセトアミノフェン/NSAIDsから開始→効果不十分であれば、次のステップとしてトリプタンなどの特異的薬を追加/切り替えという戦略はstratified careより2時間後の頭痛改善や費用の面から劣る。
ガイドラインが考える「理想的な急性期治療」は、2時間以内に頭痛が消失し、日常生活機能が回復し、副作用が少ないこと。
軽~中等度発作ではアセトアミノフェン/NSAIDsが安全性と安価さから第一選択だが、効果はトリプタンより限定的であり、効果不十分ならトリプタンへのステップアップを行う。日常生活に支障をきたす発作(中等~重度)ではトリプタンをNSAIDsより優先することを提案(弱い推奨/B)。
トリプタンは頭痛が軽い段階 or 発症1時間以内の早期服用で最も効果的(強い推奨/A)。痛みが強くなりアロディニアが出てからでは遅い。前兆期・予兆期に使っても安全上の問題は少ないが、効果は限定的(無効である可能性がある)である。どのトリプタンも有効だが薬理・半減期・投与経路などに差があり、患者ごとの反応性と好みを踏まえて薬を切り替え・使い分けることが推奨される。非経口トリプタン(皮下注・点鼻など)は、悪心・嘔吐や急速に悪化する重症発作など、経口内服が難しい/間に合わない例で使用する。スマトリプタン在宅自己注射は、きちんと教育を受けた18~65歳の適切な診断の患者に限定し、禁忌(心血管疾患など)や相互作用に注意して使う。片麻痺性片頭痛・脳幹性前兆を伴う片頭痛では、現時点でトリプタンは勧められない。
制吐薬(メトクロプラミド、ドンペリドンなど)は随伴する悪心・嘔吐のコントロールと鎮痛薬吸収改善に有用。だから、併用が基本。
その他の急性期薬(静注プロクロルペラジンなどのドパミン遮断薬、鎮静薬、ステロイドなど)は、主に救急・発作重積(status migrainosus)での専門的治療として位置づけられている。発作重積/非常に重い発作では、補液+静注メトクロプラミド/プロクロルペラジン+(必要に応じて)デキサメタゾン静注・経口プレドニゾロンなどを組み合わせる。
妊娠中はアセトアミノフェンが第一選択、トリプタンは重度発作でリスクとベネフィットを慎重に評価して使用(弱い推奨/B)。授乳中は、イブプロフェン・ジクロフェナクなど母乳移行の少ないNSAIDsや、スマトリプタン/エレトリプタンなどの一部トリプタンは使用可能。月経時片頭痛は重症・難治になりやすく、NSAIDsが効かない場合にはトリプタンが急性期治療として推奨される。
いずれの薬剤も使用日数が増えるとMOH(薬物乱用頭痛)のリスクがあり、非オピオイド系では月15日以上、トリプタンでは月10日以上の3か月以上の連用でMOHの危険があることを患者に説明する。
特発性正常圧水頭症
Idiopathic Normal-Pressure Hydrocephalus
NEJMから高齢者の特発性正常圧水頭症の診断と治療に関する総説。
特発性正常圧水頭症(idiopathic NPH)は、60歳以上に主に発症し、「歩行障害」「尿失禁・尿意切迫」「認知機能障害」と「脳室拡大」を特徴とする進行性神経疾患である。髄液シャント術が主な治療である。
著者によれば、「まれ/存在しない」「診断に有用な検査がない」「シャントは危険」「改善は一過性で臨床的意義が乏しい」という4つの誤解が現在も残存しているという。確かに自分の中にもそういった誤った認識があったかもしれない。
病態生理として、単純な「脳室拡大による線維の伸展・圧迫」だけでは説明できない。髄液排除後、脳室サイズの縮小は15%未満でも症状が急速に改善する例がある。一方で、脳室拡大があっても無症候の高齢者は多い。髄液圧は正常~軽度高値くらいだが、圧波形やコンプライアンス異常など頭蓋内圧動態はむしろ異常であることが特徴。
危険因子として脂質異常症、高血圧、糖尿病、肥満、アルコール使用障害などが報告されるが、病態との因果関係は未解明である。遺伝的側面もあるそう。
65歳以上における「possible iNPH」の有病率は約1〜2%、高齢になるほど増加し、日本の縦断研究では70〜86歳で約8%という報告がある。実際にシャント手術が行われている頻度はかなり低く、推定有病数に比較して著しく少ないのが現実。認知症外来患者の約15%、施設入所者の約14%が「possible iNPH」と診断され得るという報告もあり、認知症や歩行障害の背景疾患として見逃されている可能性が高い。過小診断・過小治療が示唆されている。
画像診断ではEvans ratio >0.3、脳梁角の狭小化(<90°)、頂部の溝消失とシルビウス裂の拡大(DESH)、側脳室・第3脳室・水道の拡大などが典型だが、単独の画像所見だけでシャント反応性を予測することはできない。

Evans ratio > 0.3:側脳室前角幅(frontal horn span)を、同一スライスの頭蓋骨内板最大径で割った比。0.3を超えるとiNPHぽさがあがる。
第3脳室と中脳水道の拡大:iNPH例で明らかに拡大しており、交通性水頭症としての特徴を示す。
脳梁角の狭小化(<90°)、頂部溝の圧排とシルビウス裂拡大(DESH)、側頭角拡大
頂部では溝がつぶれ、シルビウス裂が拡大して見える「DESH」パターン。脳梁角(coronal面で後交連を通る線に垂直な断面で測定)が、脳室拡大に伴い鋭角化する。
iNPHは交通性水頭症であり、脳室内に明らかなCSF閉塞がないことが前提となる。CT/MRI、cine MRIやbalanced SSFPなどで、CSFの閉塞部位がないことを確認する。閉塞性水頭症が疑われる場合、腰椎穿刺は脳ヘルニアリスクのため禁忌とされる。
臨床症候は緩徐に進行し、歩行障害が最も高頻度(>90%)で、初発症状になりえる。wideで不安定、歩幅・歩隔が小さい、ややすり足、足のクリアランス低下。立ち上がり動作が遅く、腕で支えないと立てない。歩行開始困難や途中でのフリーズ、方向転換での不安定・転倒。しかし筋力・感覚・腱反射は保たれることが多い。転倒で受診する患者の多くはこれのような…。パーキンソニズムや小脳性失調、感覚性運動失調、脊髄症、末梢神経障害などとの鑑別が必要で、痙性・バビンスキー徴候・Romberg陽性・末梢感覚障害などはiNPHには非典型。
次いで認知障害、尿意切迫・尿失禁。主に前頭葉-皮質下型障害。家族を認識できない、著しい人格変化、幻覚・妄想、失語・失認などは典型的ではなく、アルツハイマー病やレビー小体型認知症などを疑う。歩行障害を欠く純粋認知症像はiNPHとしては稀で、その場合は詳細な認知症精査が推奨される。
排尿切迫・頻尿・抑制困難による尿失禁が特徴。前立腺肥大による排尿困難や残尿、骨盤底障害による腹圧性尿失禁とは症状パターンが異なる。直腸失禁も報告されるが稀であり、その場合は他原因の検討が必要。
三徴すべてが揃うのは約2/3。
無症候性脳室拡大もあるが、前向き研究では3年で約半数が症候性iNPHへ進展しており、定期フォローが推奨されるが、この時点でのシャント術や予後予測テストは推奨されない。
確定診断マーカーは存在せず、「髄液循環の生理学」を評価する予後予測テスト(髄液インフュージョンテスト、ICPモニタリング)や、髄液排除に対する症候改善反応(大容量タップテスト、持続腰椎ドレナージ)が、シャント術の有効性予測に用いられる。
大容量腰椎穿刺(30–50 mL排液)は陽性的中率約90%だが陰性的中率は低く、「反応なし=iNPH否定」にはならない。持続腰椎ドレナージは感度・特異度ともに約90%と高いが、入院が必要で髄膜炎リスク(1〜2%)がある。
プログラマブルバルブ付き髄液シャント術は、適切な予後予測テストで患者選択を行えば、安全かつ持続的な症状改善をもたらす治療である。ランダム化二重盲検試験では、開放バルブ群で歩行速度の有意かつ臨床的に意味のある改善が示された。
合併症として感染、カテーテル位置異常、硬膜下血腫などがあるが、専門センターでは1年以内に91%以上の患者で合併症なし、重篤合併症は6%程度と報告されている。
治療後の症状改善は約90%で持続し、多くの患者で生活の質や自立度が向上、長期的にもコスト効果が高い。一方、診断〜手術までの遅れは改善度低下と死亡率上昇に関連する。
外傷
薬剤
Use of tranexamic acid in trauma surgical specialties: a narrative review
トラネキサム酸(TXA) の外傷領域における使用について、一般外傷、プレホス、整形外科・脊椎外傷、神経外傷の横断的な総説。
hemostasisは凝固系によるフィブリン形成と線溶系による血栓溶解のバランスに依存する。TXAはプラスミノーゲンのリジン結合部位を競合的に阻害し、プラスミノーゲンがフィブリンに結合してプラスミンへと変換される過程を妨げることで、血栓溶解を抑制する。半減期は約2時間で、主に腎排泄される。効果は最大8時間持続し得る。重症外傷では、出血・ショックにより全身性プラスミン活性化とフィブリン血栓の急速分解が起こり、いわゆるhyperfibrinolytic stateとなる(発生頻度2–34%)。hyperfibrinolytic stateはTEG等の粘弾性検査で、例として「30分溶解率≧3%」などにより定義される。プラスミンには、単球・補体系の活性化、単球・マクロファージ・樹状細胞の遊走促進などの免疫調節作用もあり、TXAには抗炎症的な可能性が示唆されているが、TAMPITI RCTではヒトにおける明確な免疫調節効果は確認されていない。
使い方:CRASH-2試験では、1 g IVボーラス+1 g 8時間持続投与を採用し、体重測定不要な固定用量レジメンとして救急現場での実用性が重視された。現時点で「至適用量」は確立しておらず、近年は初回2 gボーラスの有効性に注目が集まりつつある。
合併症:CRASH-2では、TXA群と対照群で血管閉塞性イベント(心筋梗塞、脳卒中、PE、DVT)の頻度に有意差なし(1.7% vs 2.0%, p=0.084)であった。その後の多施設研究・RCT・メタ解析でも、TXA投与によるVTEリスク増加は認めないとする結果が大半。相対的禁忌として、活動性血栓塞栓症、消費性凝固障害、腎不全、くも膜下出血が挙げられている。主な副作用は悪心・嘔吐・下痢・視覚障害などであり、全体として安全域の広い薬剤と評価されている。
一般外傷:大規模RCTでは死亡率減少だが、一部観察研究では重症度などの交絡によりTXA群の死亡率が高く見える。
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CRASH-2(約2万人、40か国)
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SBP<90 or HR>110の外傷出血患者にTXA 1 g+1 g持続
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28日全死亡率:TXA群14.5% vs 対照16.0%(p=0.0035)
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輸血率はほぼ同等(50.4% vs 51.3%)で、死亡率低下は主に出血死減少によると考えられる
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MATTERs I(軍事外傷)
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MATTERs II
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TXAとクリオプレシピテート併用群で最も低い院内死亡率(TXA+CRYO 11.6%など)
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CRYOがTXAの補助療法として有用な可能性が提起される
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否定的・懐疑的なデータ
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Valleら(300例):TXA群の院内死亡率が高い(27% vs 17%)
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Harvinら(高フィブリノリシス1032例):TXA群の院内死亡率が高い(40% vs 17%)が、VTE率は差なし
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病院前:TXAは早期かつ重症例での短期生存改善に寄与しうるが、長期の機能予後や生存率に与える影響は限定的。
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STAAMP試験(Guyetteら)
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プレホスピタルTXA投与 vs プラセボ
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30日死亡率は有意差なし(8.1% vs 9.9%)
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しかしサブグループ解析では、
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受傷1時間以内の投与
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重度ショック症例
で死亡率低下を認める
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PE/DVT/痙攣の頻度に差なし
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PATCH試験
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プレホスピタルTXAで24時間死亡率低下(9.7% vs 14.1%)
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しかし6か月生存率には差なし(約53.7% vs 53.5%)
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重篤な有害事象(血栓塞栓など)の発生率も有意差なし
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整形外科、脊椎外傷:あまり注目していなかったが意外と悪くない。でも、必要性は高くない。
股関節骨折
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Agiusらメタ解析(13試験・1194例)で、
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TXA群は輸血リスク有意減少(RR=0.50)
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血栓塞栓症の増加なし
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Bloomらネットワークメタ解析(19 RCT・1890例)では、
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高用量・低用量いずれも総出血量TBLを有意に減少
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高用量の方がTBL減少効果がやや大きい
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血栓塞栓症リスクの有意な増加なし
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骨盤・寛骨臼骨折
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Kimらメタ解析(764例)
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推定出血量・輸血率ともにTXA有無で差なし
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VTE・感染率にも差なし
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SenらRCT(63例)でも、
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術中出血量・輸血率に差なし
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VTEイベントなし
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結論として、骨盤・寛骨臼ではTXAの明確なメリットは現時点では不明と総括されている
足関節・踵骨など末梢骨折
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TanらRCT(足関節骨折150例)
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TXA投与でTBLが用量依存的に減少(プラセボ382 mL →超高用量176 mLなど)
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症候性VTEは認めず
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Tangらメタ解析(踵骨骨折)
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術後24時間までの出血量は有意に減少
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24時間以降の出血には影響なし
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血栓塞栓に関するデータは不十分
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上腕近位骨折・その他上肢
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CuffらRCT(上腕近位骨折101例)
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TXA群で術中・総出血量ともに有意に減少
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VTEイベントなし
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肘・前腕骨折についてはエビデンスが乏しいが、そもそも循環動態に影響するほどの出血は稀であり、TXAの必要性は相対的に低いと推察されると記載される
脊椎外傷
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既存文献の多くは胸腰椎外傷手術に集中している
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Vasuらメタ解析では、
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総出血量・術中出血量ともに有意な減少
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手術時間・輸血量・DVT/PEに有意差なし
→ TXAは出血量を減らしつつ安全性も良好と評価される
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TBI:TXAはTBIにおいて一部の患者(軽~中等症TBI、早期投与)には利益がある可能性があるが、重症孤立性TBIでは有害の可能性を示唆するデータもあり、現時点ではどんな患者群への投与がベストかのコンセンサスは十分ではない。
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CRASH-2 intracranial bleeding study
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TXA群で出血増大量はやや少ない傾向だが統計的有意差なし
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死亡率も有意差なしだが低下傾向あり(p=0.06)
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CRASH-3(約1.3万例)
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全体として頭部外傷関連死亡の有意な減少は認めず
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しかし軽度〜中等度TBI(GCS 9–15)では頭部外傷関連死亡が有意に減少(RR 0.79)
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重症TBI(GCS<9)では有意差なし
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DVT/PE・痙攣のリスク増加なし
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RowellらプレホスピタルRCT
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6か月の神経学的良好転帰に差なし(65% vs 62%)
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28日死亡率・出血進行にも有意差なし
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BRAIN-PROTECT(観察研究)
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未調整解析ではTXA群の30日死亡が高値(OR 1.34)
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重症度などで調整後は有意差なし
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重症孤立性TBIに限ると、病院前TXA群で死亡オッズが有意に高い(OR 2.05)とのサブ解析結果がある
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電解質異常
一般
Correction of Electrolyte Abnormalities in Critically Ill Patients | Intensive Care Research
ICUで遭遇する電解質異常のマネジメントに関して広く解説した総説。
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低Mg血症は低K血症・低Ca血症を難治化させ、TdPを含む致死的不整脈のリスクを増強。低Mg血症に伴うEKG所見:平坦T波、U波、QT延長、QRS延長など。
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軽度なら経口補正も可能だが、症候性・中等度以上・経口困難例ではIV MgSO₄が推奨。
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腎機能障害では過補正に注意し、少量投与と頻回モニタが必要。IVマグネシウム投与量の最大50%が尿中に排泄されうる。ICU では腎機能が多様なので、投与後2時間でフォロー採血をするのが妥当。大量投与でも多くの患者は耐えるが、急性腎障害などでは過補正のリスクがある。
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臨床的に問題となる低Mg血症には、通常1–2 gを1時間程度で投与し、その後4–8 gを12–24時間かけてゆっくり投与する方式が推奨。急速静注により低血圧誘発のリスクがある。ただし、低血圧のリスクよりも速く投与する利益が大きい状況では、通常のゆっくりした投与より速く投与してよい(以下のTdPや子癇など)。
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TdPや子癇前症など「超急性にMgが必要な状況」では15–30分で1–6 gの負荷投与も許容される。
カリウム:低K血症
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低Mg血症があるとK補正が効きにくいので、Mgを同時に補正することが重要。
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軽~中等度では経口KClが第一選択、重症・症候性・経口不能ではIV KClを慎重に投与。
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10 mEq/h(末梢)~20 mEq/h(中心静脈)が通常上限、生命の危機的状況でのみ40 mEq/hまで検討。
カリウム:高K血症
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高K血症(>5 mEq/L)は、典型的EKG変化(テント状T波~QRS延長~心静止)を介して致死的不整脈を引き起こす。
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対応は
①カルシウム製剤で心筋膜安定化
②インスリン+ブドウ糖/β2刺激薬/(代謝性アシドーシス合併例での重炭酸ナトリウム)による細胞内シフト
③ループ利尿薬・カリウム吸着薬・透析による体外排泄
の3本柱。 -
GI療法:レギュラーインスリン10単位IV+D50W 25–50 g。CKD/AKIでは低用量(5単位等)でも同等のK低下が得られ、低血糖リスクが少ないことを示す研究も紹介。ブドウ糖はボーラスだけでなく、持続補液を併用する戦略もあり、インスリン作用時間と整合的。
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β2刺激薬(ネブライザーアルブテロール10–20 mg/10–15分):2時間程度、最大1 mEq/LのK低下が期待されるが、β遮断薬内服例や末期腎不全では効果減弱。ICUでのエビデンスは少なく、頻脈などの副作用で使いにくいケースもある。
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重炭酸ナトリウム:単独では効果不確実で遅いとの報告が多く、高K血症単独の治療には推奨されない。ただし重症代謝性アシドーシスを伴う場合にはpH是正とともにK低下に寄与しうる(BICAR-ICU試験の安全性解析でK低下が示唆)。
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SPSは効果発現が不確実で腸壊死の稀だが重篤なリスクがあり、急性期では使いにくい。新規薬剤SZCは早期発現が期待されるが、急性期ICU患者でのエビデンスは乏しい。
カルシウム:低Ca血症
- 「補正Ca」の計算式は実測イオン化Caの代わりとしては精度が低く、可能な限りイオン化Caを測定するべし。
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低Ca血症はICUで非常に頻度が高いが、原因は多因子性。COVID-19を含む炎症性疾患でもしばしば認める。
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強い低Ca血症はテタニー・けいれん・QT延長による不整脈を来しうる。
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一方で、ICU患者に対するルーチンなCa補正は有害の可能性を示唆する研究もあり、「数値」ではなく症候・原因に応じた慎重な補正が必要。
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以下のような状況では補正が推奨:低Mg血症を伴う場合、栄養障害・ビタミンD欠乏など是正可能な原因がある場合、大量輸血・血液浄化・クエン酸抗凝固中など。
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症候性/高度低Ca血症ではIVカルシウム(主にグルコン酸カルシウム)を使用。
カルシウム:高Ca血症
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高Ca血症(>10.2 mg/dL)の主原因は悪性腫瘍に伴うPTH関連ペプチドによる骨吸収亢進。
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治療の基本は等張食塩水による輸液+(必要に応じて)ループ利尿薬でのカルシウム排泄促進。 ※ループ利尿薬は個人的にはあまり用いない。
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症候性・高度例ではビスホスホネート(ゾレドロン酸、パミドロン酸)が治療の中核。効果発現には2–4日かかるため、早期投与が重要。ゾレドロン酸の方がより強力だが、腎毒性などに注意し、GFR低下例ではパミドロン酸回避・用量調整が必要。
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ビスホスホネート不応・腎機能障害例ではデノスマブが選択肢。
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カルシトニンは発現が速いがタキフィラキシーがあり、短期のブリッジとして用いる。
リン
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血清リンは2.5–4.5 mg/dLが正常。ICUでは最大50%で低リン血症がみられ、とくに入室後1週以内に多い。
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ICUでは入室後早期に低リン血症が高頻度に見られ、敗血症・栄養障害・CRRT・再栄養症候群など、多くのリスクがほぼ全員に存在。軽度~中等度では無症候性・一過性であることも多いが、重度低リン血症(<2 mg/dL)では呼吸筋機能低下→人工呼吸離脱困難や、不整脈、心機能低下が問題となる。
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低リン血症と高リン血症の両方を経験した患者は、どちらか一方のみの患者よりも予後が悪いと報告されており、「補正しすぎない」ことも重要。
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経口では安定した補正が難しく、重度・症候性・経口困難例ではIVリン酸(NaまたはK)投与が主流。0.25–0.5 mmol/kgを目安とする用量や、濃度・投与時間を定めたプロトコールの有用性が報告されている。
- CRRTではリン除去も起こるため、より頻回のモニタリングと追加補正が必要。
ナトリウム:低Na血症
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低Na血症(<135 mEq/L)はICU患者の~30%で見られ、死亡率・在院日数増加と関連。
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症候(軽度:悪心・頭痛・意識混濁、重度:けいれん・昏睡)はNa値の低さと急性度に依存。
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病態は「張度(浸透圧)」と「容量(volemia)」で分類し、原因に応じて治療:
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Na補正速度の上限を守らないとODS(橋中心髄鞘崩壊症)など重篤な神経障害を来すため、1日あたりの上昇量を厳格に制限する。急性:24時間で10–12 mEq/L以内。慢性:24時間で6–8 mEq/L以内。
- 近年のデータから、末梢静脈からの3%食塩水投与も安全に実施可能とする報告があり、緊急時の柔軟性が増している。
ナトリウム:高Na血症
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高Na血症(>145 mEq/L)は「水の不足」が本質であり、ICUの死亡率と独立して関連。
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低容量/等容量/高容量高Na血症に分けて原因(喪失主体か、Na過剰投与か、DIなど)を考える。
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治療は血行動態が不安定であればまず等張液で循環を確保し、その後、自由水欠乏量を計算して時間をかけて補正。
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最近の大規模データ(MIMIC-III解析)では、成人ICUにおいて「比較的迅速な補正」が必ずしも死亡率や脳浮腫増加につながらなかった可能性が示されており、古典的な小児データに基づく慎重すぎる補正速度が見直されつつある。
👇電解質異常の原因
| 電解質異常 | 薬剤性の原因 | 非薬剤性の原因 |
|---|---|---|
| 低Mg血症 |
・ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬 ・アムホテリシンB ・アミノグリコシド系抗菌薬 ・カプレオマイシン ・ペンタミジン ・白金製剤(シスプラチンなど) ・カルシニューリン阻害薬 ・セツキシマブ、パニツムマブ、マツズマブ ・ホスカルネット ・強心配糖体 |
・低栄養 / 低栄養状態 ・吸収不良症候群 ・慢性下痢 ・甲状腺機能亢進症 ・原発性アルドステロン症 ・急性または慢性アルコール中毒 ・糖尿病 ・重度熱傷 ・リフィーディング症候群 |
| 低K血症 |
・ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬 ・副腎皮質ステロイド ・アミノグリコシド系抗菌薬 ・炭酸水素ナトリウム(HCO₃⁻)投与 ・ペニシリン系抗菌薬(高用量など) ・シスプラチン ・β₂刺激薬(アルブテロール、エピネフリン、サルブタモールなど) ・テオフィリン |
・腎性尿崩症 ・尿細管障害(遠位/近位尿細管症など) ・先天性チャネル異常等の一部先天性疾患 ・クッシング症候群 ・回腸瘻 ・原発性アルドステロン症 ・低体温(治療的低体温を含む) ・アルカローシス ・リフィーディング症候群 ・低マグネシウム血症 |
| 高K血症 |
・カリウム保持性利尿薬 ・RAAS阻害薬(ACE阻害薬/ARB/アルドステロン拮抗薬など) ・カルシニューリン阻害薬 ・トリメトプリム ・ペンタミジン ・NSAIDs ・ヘパリン ・サクシニルコリン(用量依存的) ・マンニトール ・ジゴキシンなど強心配糖体 ・β遮断薬(非選択性>選択性) ・カリウム補充製剤 ・カリウム含有心筋保護液 |
・急性腎不全 ・慢性腎不全 ・IV型尿細管性アシドーシス ・アジソン病、急性副腎不全 ・腫瘍崩壊症候群 ・横紋筋融解症 ・大量輸血 ・溶血 ・アシドーシス ・インスリン欠乏 ・カリウム摂取過多 ・保存期間の長い血液製剤(>12日)の輸血 |
| 低Ca血症 |
・アミノグリコシド系抗菌薬 ・ビスホスホネート製剤 ・リン酸製剤(リン酸塩投与) ・カルシトニン ・ループ利尿薬 ・ホスカルネット |
・敗血症 ・急性膵炎 ・サイトカインを介した炎症反応 ・横紋筋融解症 ・腫瘍崩壊症候群 ・副甲状腺機能低下症 ・COVID-19 との関連が示唆される低カルシウム血症 ・ビタミンD低下 ・低マグネシウム血症 ・高リン血症 ・輸血 ・急性腎不全 ・アルカローシス ・クエン酸を用いた血液浄化療法(RRT) |
| 高Ca血症 |
・サイアザイド系利尿薬 ・リチウム ・ビタミンD過剰投与 |
・悪性腫瘍(PTHrP産生など) ・長期臥床 / 不動化 |
| 低P血症 |
・副腎皮質ステロイド ・ドパミン ・β刺激薬 ・炭酸水素ナトリウム |
・代謝性アシドーシス ・呼吸性アルカローシス ・低栄養 / 低栄養状態 ・下痢 ・ビタミンD欠乏 ・ビタミンD活性化低下 ・甲状腺ホルモン過剰 ・リフィーディング症候群 ・副甲状腺摘除後 / hungry bone syndrome ・糖尿病性ケトアシドーシス ・腎代替療法(RRT/CRRT) ・開心術後 ・グラム陰性菌感染 |
| 低Na血症(高張性) | ・マンニトール | ・糖尿病性ケトアシドーシス(DKA) |
| 低Na血症(低張性・低容量) |
・サイアザイド系利尿薬 ・浸透圧利尿 |
・脳性塩喪失症候群 ・塩喪失性腎症 ・消化管からの喪失(嘔吐・下痢など) ・熱傷 ・サードスペース(腹水、胸水など) ・ミネラルコルチコイド欠乏 ・出血 / 失血 |
| 低Na血症(低張性・等容量) |
・三環系抗うつ薬 ・SSRI ・オキカルバゼピン ・シスプラチン ・カルボプラチン ・MDMA(エクスタシー) |
・不適切抗利尿ホルモン分泌症候群(SIADH) ・悪性腫瘍 ・肺炎 ・外傷性脳損傷 ・甲状腺機能低下症 ・副腎皮質不全 ・心因性多飲 ・ビール多飲症候群(beer potomania) |
| 低Na血症(低張性・高容量) | ・該当薬剤なし |
・心不全 ・腎不全 ・肝不全 |
| 高Na血症(低容量) | ・ループ利尿薬 |
・下痢 ・多量の発汗 ・呼吸による水分喪失 ・糖尿(浸透圧利尿) |
| 高Na血症(等容量) | ・該当薬剤なし |
・尿崩症 ・不感蒸泄増加(発熱、換気など) |
| 高Na血症(高容量) |
・高張食塩水 ・炭酸水素ナトリウム ・塩分錠剤 ・静注薬の希釈液としての生理食塩水 |
・副腎皮質ステロイド ・原発性アルドステロン症 ・クッシング症候群 |
👇電解質異常の補正方法
| 電解質異常 | 重症度 | 治療 | モニタリング | コメント |
|---|---|---|---|---|
| 低Mg血症 | 軽〜中等度(1.0–1.5 mg/dL) |
・1.0–1.5 mg/dL:MgSO₄ 2–4 g を4–12時間かけて点滴静注 ・1.6–1.9 mg/dL:MgSO₄ 1–2 g を1–2時間で静注 |
・投与終了後少なくとも2時間以降に血清 Mg を再測定(平衡が遅い) |
・症候性や腎機能低下例ではより厳密に再検 ・腎機能低下では用量減量を検討 |
| 重症(<1.0 mg/dL) | ・MgSO₄ 4–8 g を静注(1 g/h を超えない速度で投与) | ・同上 | ・大量投与でも多くは安全だが、急性腎障害例では過補正リスクに注意 | |
| 低K血症 | 軽〜中等度(2.5–3.4 mEq/L) | ・経口または静注 K 10–20 mEq を1日3–4回、目標値まで補正 |
・軽症(3.0–3.5)では1日1回程度の K 測定 ・中等症(2.5–2.9)では6–12時間ごとの K 測定 |
・KCl が第一選択(K 含量が多い) ・消化管が使える場合は経口を優先(静注は血管炎リスク) ・経口1回量は最大40 mEq 程度まで、徐放製剤を推奨 ・腎機能正常では K 10 mEq で血清 K 約0.1 mEq/L上昇(K<3.0では0.05程度) ・Mg低値があれば同時補正が必要 |
| 重症(<2.5 mEq/L) | ・KCl 静注:末梢ルート 10 mEq/h、中心静脈 20 mEq/h まで(生命危機時には最大40 mEq/hまで使用されることもある) |
・同様の臨床症状 ・心電図 ・40–60 mEq KCl 投与ごとに血清 K を再測定 |
・10 mEq/h を超える静注の場合は持続心電図モニタリング必須 |
| 電解質異常 | 重症度 | 治療 | モニタリング | コメント |
|---|---|---|---|---|
| 高K血症 | 無症候性(>5 mEq/L) |
・レギュラーインスリン 10単位 IV(CKD/急性腎不全では5単位へ減量)+50%ブドウ糖 25–50 g IV ・フロセミド 20–100 mg IV(既往のループ利尿薬使用歴や腎機能を考慮して用量調整) ・ナトリウムポリスチレンスルホン酸(SPS) 30 g 経口 単回投与、または・ナトリウムジルコニウムシクロシリケート(SZC) 10 g を1日3回、最大48時間まで |
・インスリン投与後30分、その後1時間ごとに3時間まで血糖測定(腎機能障害では少なくとも2時間以上) ・インスリンやβ₂刺激薬投与後30–60分で血清 K を再測定 ・排泄療法(SPSやSZCなど)の効果は2時間後以降に確認 |
・低血糖リスクに注意 ・代謝性アシドーシスを伴う場合を除き、NaHCO₃の routine 使用は推奨されない ・重症例以外でのサルブタモール吸入(10–20 mg/15分)はエビデンスが乏しく、頻脈を増悪させる可能性 |
| 症候性(>5 mEq/Lかつ心電図異常) |
・カルシウムグルコン酸 1–2 g を 0.9%NaCl または D5W 50–100 mL に溶解し、血行動態不安定なら2–3分、安定なら10–20分かけて静注 ・必要に応じて透析を検討 ・上記「無症候性」と同様の K 低下療法を併用 |
・カルシウム投与10分後に心電図を再評価・心電図異常が持続する場合はカルシウム再投与 | ・組織壊死リスクの観点から、カルシウムグルコン酸がカルシウム塩として第一選択(CaCl₂は中心静脈路推奨) |
| 電解質異常 | 重症度 | 治療 | モニタリング | コメント |
|---|---|---|---|---|
| 低Ca血症 | 軽〜中等度(総 Ca<8.6 mg/dL またはイオン化 Ca 1–1.2 mmol/L) |
・カルシウムグルコン酸 1–2 g を0.9%NaClまたはD5W 50–100 mLに溶解し、30–60分かけて静注 ・必要に応じて6時間ごとに反復投与 |
・投与中の心拍数・血圧をモニタ ・投与後4–6時間で血清 Ca 再測定 ・低アルブミン血症ではイオン化 Ca を優先して評価 |
・緊急時にはIVプッシュも可能だが、心毒性リスク増大 |
| 重症(総 Ca<7.5 mg/dL またはイオン化 Ca<1.0 mmol/L 相当) | ・カルシウムグルコン酸 3–4 g を0.9%NaClまたはD5W 50–150 mLに溶解し、約4時間かけて静注、必要に応じ反復・あるいはカルシウムクロリド 1 g をIVプッシュで投与、必要に応じ反復 | ・初回投与後24時間以内に再評価し、必要なら追加投与 | ・CaCl₂はCaグルコン酸の約3倍の元素Caを含み、中心静脈投与が推奨(ただし緊急時は末梢も可とされるが、外漏出に注意) | |
| 高Ca血症 | 軽度・無症候性(総 Ca 10.3–11.9 mg/dL) | ・原疾患評価中は必ずしも積極的治療不要 | ・体液過負荷の有無 | ・心不全や末期腎不全では輸液負荷に注意 |
|
中等度〜重度(総 Ca ≥12 mg/dL)かつ腎障害・神経症状を伴う |
・0.9%NaCl 1–2 L をボーラスで投与後、150–300 mL/h で2–3日間持続し、容量過剰まで補正 ・ビスホスホネート:パミドロン酸 60–90 mg(2–6時間かけて点滴)、ゾレドロン酸 3–4 mg(15–30分で点滴) ・カルシトニン 4–8 単位/kg 皮下注 6–12時間毎(作用発現4–6時間、48時間で耐性) ・デノスマブ 120 mg 皮下注 週1回×4週、その後月1回(作用発現7–10日) ・ステロイド:ヒドロコルチゾン 200–400 mg/日を3–4日、その後プレドニゾン 10–20 mg/日×7日、またはプレドニゾン 40–60 mg/日×10日 |
・補正Caを7–10日後に測定(ビスホスホネート効果確認) |
・ビスホスホネートは診断後48時間以内投与が望ましい、効果発現は通常2–4日 ・パミドロン酸:GFR<30 mL/minでは使用回避 ・ゾレドロン酸:腎毒性・インフュージョンリアクション・骨痛・インフルエンザ様症状に注意、再投与は少なくとも7日後、腎機能で減量 ・カルシトニンは48時間程度で効果減弱 ・デノスマブはビスホスホネート抵抗性かつ高度高Ca血症に使用、顎骨壊死・消化器症状・呼吸苦などに注意 |
| 電解質異常 | 重症度 | 治療 | モニタリング | コメント |
|---|---|---|---|---|
| 低P血症 | 軽度(無症候性)(>2.5 mg/dL) | ・経口リン酸塩製剤 1–2包/回 |
・敗血症、低栄養、呼吸不全など高リスク患者では1日1回以上リン測定 ・その他は重症度とリスクに応じ頻度調整 ・採血は朝が望ましい |
・過補正を避けることが重要 |
| 中等度〜重度(<2.5 mg/dL) |
・Na または K リン酸塩 15–45 mmol を100–250 mL のNSまたはD5Wに希釈し、4–6時間かけて静注 ・体重ベースのプロトコールが望ましい |
・同上 | ・Kリン酸塩は低K血症合併例で有用(高Kに注意) | |
| 低Na血症 | 軽〜中等度 |
・原因に応じた治療 - 低張性・低容量:等張液で循環血液量を補正 - 低張性・等容量:原因薬物中止、水分制限 - 低張性・高容量:水分・Na制限 |
・血清Naを少なくとも24時間ごとに測定 |
・まず体液量評価を行い、タイプを鑑別 ・基礎疾患治療と原因薬物の中止が重要 ・水制限は通常1,000–1,500 mL/日程度・IV薬、PN/ENはできるだけ濃縮して水負荷を減らす |
| 重症または症候性 | ・高張食塩水(3%NaCl)を持続静注または間欠ボーラスで投与 |
・3%NaClボーラス後20分でNa測定 ・持続投与中は2–4時間ごと、安定後は6–12時間ごと |
・急性低Naでは24時間で10–12 mEq/L、慢性では6–8 mEq/Lを超える上昇を避ける ・欧州ガイドライン:中等度症状では3%NaCl 150 mLを20分で投与し、24時間で+5 mEq/L、最大+10 mEq/Lを目標、その後は1日8 mEq/L以内で130 mEq/Lまで・重症症状では3%NaCl 150 mL(または2 mL/kg)を20分で投与し、必要に応じて最大2回まで反復(合計+5 mEq/Lまで)。症状改善後は高張食塩水を中止し、各タイプに応じた治療へ移行・過補正時には低張液やデスモプレシンで再低下させることも検討される(エビデンスは限定的) |
|
| 高Na血症 | 軽〜重症(全般) |
・低容量型:まず等張液で循環血液量を回復させ、その後自由水の補正 ・等容量型:原因(薬剤性尿崩症など)の治療+自由水補正 ・高容量型:Na制限、原因薬剤中止、必要に応じループ利尿薬+低張液 |
・血清Naを少なくとも12時間ごとに測定 |
・一般に24時間あたり8–10 mEq/Lを超える低下は避ける ・水欠乏量(L)=TBW×[(Na/140)−1] で目安を算出し、最初の24時間で50%まで、残りを24–48時間で補正 |
ナトリウム
https://journals.lww.com/jtccm/fulltext/2025/03000/hypernatremia_of_critical_illness.6.aspx
ICU入室時には正常だが、ICU治療中に新たに発症する「集中治療関連(ICU-acquired)高ナトリウム血症(ICU-AH)」に焦点を当てた総説。
本質は「体内ナトリウム量と総体水量の比の異常」であり、多くのICU患者ではナトリウムも水も増えているが、相対的に自由水が不足した状態(relative free water deficit)として理解すべきである。
高ナトリウム血症の有病率は、一般入院患者では 0–2%程度だが、ICUでは 6–47%と高い。大規模データでは、ICU-AH(Na >149 mmol/L)はICU入室後約5日目に発症することが多い。オランダの大規模ICUデータでは、過去20年で高ナトリウム血症の頻度は13%→24%に増加し、「低Na時代から高Na時代へのシフト」が観察されている。
高ナトリウム血症はほぼ常に「自由水欠乏>Na欠乏」によって生じる。ICUでは、
・尿:利尿薬・腎機能障害・尿素による浸透利尿・糖尿病性高血糖・糖尿病性/薬剤性尿崩症
・消化管:下痢、腸瘻、胃管吸引
・皮膚・呼吸:発熱、発汗、熱傷
による低張液の喪失が大きな要因となる。多くの患者はそもそも水を自発的に飲めず(意識障害・鎮静・挿管・高齢)、渇きに対する生理的防御機構が働かない。急性腎障害や慢性腎不全では尿濃縮能が低下し、低張尿の多尿 → 自由水喪失が増加しやすい。ループ利尿薬は髄質濃度勾配を失わせ、尿をより低張にし、Naよりも水の喪失を増やす。尿素蓄積(ICU患者では分解が亢進している、高蛋白付加も影響)により血中・尿中尿素が高く、尿素主導の浸透利尿によって多量の低張尿が出る。この浸透利尿により、尿中浸透圧は高くても「電解質としてのNa・Kは少ない=電解質自由水喪失が多い」状況になる。マンニトール、高血糖、尿崩症、ステロイド投与(グルココルチコイドは鉱質コルチコイド様作用も有し、集合管でNa保持を増強し得る)などもICU-AHのリスク要因。下痢はICU-AHと強く関連し、特に自由水の喪失がNa喪失を上回る場合に高Naをきたす。発熱により汗産生が増え、汗中Na濃度は約35 mmol/Lと血漿より低いため、発汗はほぼ自由水の喪失として働きうる。
ICUではNaは頻回に測定されているにもかかわらず、軽度~中等度高Naの時点で適切な自由水補正が行われず、重度高Naに進行してから初めて問題視されることが多い。尿浸透圧だけに頼ると、尿素主導の高浸透圧尿で「濃い尿だから水は保持できている」と誤解しやすく、実際には電解質自由水喪失が続いている可能性がある。尿Na+尿Kから電解質自由水クリアランスを評価し、それに見合う自由水投与を行うべき。
※電解質自由水クリアランス:V(尿量)× ( 1 - (尿Na+K) / 血清Na )の計算式により、その尿量のどのくらいが自由水かわかる。基本的にはそれと同じ量を投与すれば維持はできる。
ガイドライン(エキスパートオピニオン)は「0.5 mmol/L/時以下、1日変化量<10 mmol/L」を推奨するが、成人での急速補正による脳浮腫の明確なエビデンスは乏しい。観察研究では、高Naをより速く補正しても死亡率増加は認めないもの、逆に速い補正の方が死亡率・在院日数で有利とするもの、一部では速い補正と死亡率増加の関連を示すが、重症度やピークNaによる交絡が強く疑われるものがあり、一致した結論はない。最近の大規模研究では、重度高Na(≥155 mmol/L)に対して0.5 mmol/L/時を超える補正を行った方がむしろ在院日数短縮・死亡率低下と関連し、神経学的合併症の増加は見られなかったと報告されている。とはいえ、「補正が遅すぎる / ほとんど補正されない」こと自体が予後不良と関連することは気に留めておくべし。
※補正に関しては、ルートがとれているならD5Wを使わない手はない。姑息的に経鼻胃管から白湯を混ぜることはよくやられるプラクティスだが、効果はほどほど。後ろ向き研究で5日間で約4 L以上の経腸自由水を投与しても、血清Naは平均で約2 mmol/Lしか低下しなかったという報告がある。
ICU acquired hypernatremia treated by enteral free water - A retrospective cohort study
血液
貧血
Anemia of Critical Illness: A Concise Definitive Review in Critical Care
輸血トリガーに関する研究が進む一方で、「貧血そのものをどう治療するか」という視点に焦点を当てた総説。現時点ではあまり臨床応用は効かないような。
ICUに入室する患者は炎症が強いため、従来のようにフェリチンやTSATだけで鉄欠乏を診断するのはほぼムリという共通認識がある。
ICU入室時点で約 2/3 の患者が貧血であり、3日目までに約 95% に達する。退院時にも 80%以上が貧血のままで、退院後12か月で約45%に貧血が残存するなど、「集中治療関連貧血」はきわめて高頻度で長期に持続する。貧血は、ICU滞在期間や入院期間の延長、さらには死亡率上昇と関連しており、「許容される異常」というより「治療対象となる独立した病態」として捉えるべきである。
ICUで起きるAIの病態生理は以下の図のように説明される。

infection, sepsis, critical illness, trauma などあらゆる炎症性刺激が出発点となるが、炎症性サイトカインが産生されることで、肝臓でのヘプシジン産生が亢進する。ヘプシジンはマクロファージ・肝臓・腸管のフェロポルチンに結合し分解してしまう(フェロポルチンは血液中に鉄を放出する役割があり、これが壊されると血液に鉄を出せなくなり、貯蔵鉄は上昇しうる)→骨髄への鉄供給が減少する。
炎症により腎臓のEPO産生が抑えられ、さらにEPOシグナル伝達も抑制されるため、貧血に見合うだけの造血刺激が起こらない。
結果として血清鉄↓、TSAT↓、トランスフェリン低値/正常、フェリチン↑、ヘプシジン↑という機能的鉄欠乏(iron-restricted erythropoiesis)のパターンが起きる。ICUの多くの患者が有しているAIは、炎症性サイトカイン→ヘプシジン↑→鉄利用障害、EPO産生・作用の抑制の2重のメカニズムから説明される。

「ERFEは、EPO → 赤芽球 → ERFE → ヘプシジン抑制 → 鉄利用促進というループの要となるホルモン」
正常の造血時:貧血や低酸素により腎臓でEPO産生が増加する。EPOが骨髄の赤芽球(erythroblasts)を刺激し、赤芽球数が増加し、各赤芽球から分泌される ERFE(erythroferrone) も増加。循環ERFEは肝細胞に作用してヘプシジン産生を抑制 → 血中ヘプシジンが低下する。これにより、マクロファージ・肝細胞からの鉄放出、腸からの鉄吸収が亢進 → トランスフェリンに結合した鉄(ホロトランスフェリン)が増加し、骨髄赤芽球に十分な鉄が供給され、ヘムとヘモグロビン合成が進む。
炎症性貧血(ICU)の場合:ICUのAI患者ではERFE濃度が急速に低下することが示されており、それがヘプシジン高値・鉄利用制限をさらに悪化させる。AIでは、単にヘプシジンが高いだけではなく、EPO/ERFEの応答不全を伴った鉄利用障害を伴う独立した病態であることがわかる。

NTBI(non-transferrin-bound iron)は、トランスフェリンや他の鉄結合蛋白に結合していない鉄のことを指す。普通、鉄はトランスフェリンと結合して存在しているが、トランスフェリンが飽和している or うまく鉄を結合できない状態だとNTBIと呼ばれ、これが化学反応の触媒として働き、酸素と組むと大量の活性酸素を生むことになる。これは細胞膜の脂質を酸化させる(過酸化)ことで、細胞膜や細胞自体がダメージを受ける。これをフェロトーシスと呼ぶ。
NTBIの主な供給源は、溶血(hemolysis)・筋崩壊・組織障害(myolysis/tissue injury)・肝細胞死(liver cell death)・感染(infection)・輸血などが挙げられ、これにより血中の鉄がいっきに増加してトランスフェリンが埋まる(TSATが高くなる)→それであぶれた鉄がNTBIになる。こうした鉄の放出は、TSAT上昇、血清鉄↑、フェリチン↑というパターンを示す。
NTBIは、酸化ストレス↑(ROS)、病原体の増殖を促進、炎症性マクロファージの活性化を介して、臨床状態悪化と関連する。多臓器障害の増悪、AKIのリスク、死亡率上昇と関連することが示されている。
ICU患者における鉄欠乏の診断は難しい。従来の鉄指標(フェリチン、TSAT)は炎症の影響を強く受けるため、可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)・網赤血球ヘモグロビン量などの定量的網赤血球指標・ヘプシジン測定がAIとIDAの鑑別に有用とされる。ヘプシジン低値を用いると、従来の鉄指標よりも高率に鉄欠乏が検出され、ICU退室時の鉄欠乏は1年後死亡率とQOL低下と関連する。
貧血治療として最も頻繁に用いられるのはRBC輸血だが、非出血性の多くの状況で有効性は限定的であり、有害事象もあるため、原則7 g/dLを閾値とするrestrictive strategyが推奨される(ただし心疾患や一部神経集中治療ではより高い閾値が検討されている)。鉄療法(経口・静注)は、ICU内の貧血治療としては「Hb上昇は得られるが輸血量や死亡率への効果は限定的」という結果が多い。一方、ICU退室後の時期に静注鉄を投与すると、Hb回復促進や再入院率低下を認めた試験もある。ヘプシジン低値などで鉄反応性の患者を選択することで、静注鉄投与が輸血量減少や予後改善に結び付く可能性が示されつつある。近年の静注鉄製剤では重篤なアナフィラキシーは稀であり、安全性は改善している。一方で、IV ironによる感染リスク増加を示唆するメタ解析もあり、ICU領域では明確な増加は示されていないが注意が必要である。
エリスロポエシス刺激薬(ESA)はHb上昇と輸血減少をもたらすが、輸血がもともと制限的なICUでは輸血減少効果は小さい。重症外傷患者では死亡率低下の可能性が示唆されている一方、血栓症リスクが問題である。各国ガイドラインでESA使用に関する推奨は分かれており、フランスのガイドラインは条件付きで推奨、欧州集中治療医学会ガイドラインは routine use を推奨しないなど、一致していない。
ヘプシジン−フェロポルチン経路を標的とした薬剤(ヘプシジン拮抗薬・シグナリング阻害薬・フェロポルチン安定化薬)や、HIF-PHD阻害薬(HIF-PHI)といった新規治療が、炎症性貧血の治療戦略として開発されている。ただしヘプシジンは感染防御上の役割もあり、安易なヘプシジン抑制は触媒鉄の増加や感染リスク上昇につながりうるため、慎重な検討が必要である。

1. 腸管での鉄吸収促進:HIFがdivalent metal transporter 1(DMT1)とduodenal cytochrome Bの発現をアップレギュレートし、消化管(小腸)からの鉄吸収を増やす。
2. トランスフェリンによる鉄輸送:吸収された鉄はトランスフェリンに結合し、骨髄のトランスフェリン受容体へ運ばれる。
3. 発育中赤血球への鉄取り込み:トランスフェリンから鉄が赤芽球に取り込まれ、ヘム・ヘモグロビン合成に使われる。
4. EPO受容体と内因性EPO産生の増加:HIFは腎臓などでのEPO産生とEPO受容体(EPO-R)発現を増やし、EPOシグナルを強化する。
5. トランスフェリン受容体のアップレギュレーション:HIFはproerythrocyteのトランスフェリン受容体発現を増やし、赤芽球への鉄取り込み能力を高める。
6. 成熟赤血球の形成促進:これらの作用により、ヘモグロビンに満たされた機能的な成熟赤血球が形成される。
7. 古い赤血球のクリアランスと鉄リサイクル:約120日寿命を終えた赤血球は肝臓などで貪食され、鉄は再利用される。
※HIFが通常はHIF-prolyl hydroxylase(HIF-PHD)により分解されるが、HIF-PHD阻害薬(HIF-PHI)によって安定化されると、上記のような作用により、内因性EPO↑・腸管からの鉄吸収↑・肝/マクロファージからの鉄動員↑・ヘプシジン↓(ERFE増加を介して)という一連の造血促進効果を発揮することになる。
Iron deficiency in critically ill patients: highlighting the role of hepcidin
ICU患者の貧血に対する鉄欠乏診断と治療の暫定アルゴリズムが示されている総説。

実際には日本で使用するには制限があり、実用性はあまりないけど…。現時点では、血清鉄・フェリチン・TSATから分類する方式を継続することになるんだろう。
なぜ鉄補充を考えるのか:ICU患者では、炎症・出血による鉄欠乏がしばしば同時に存在しており、動物モデルや一部臨床研究から、炎症存在下でも貯蔵鉄が動員され得ることが示されている。また、鉄欠乏は単に貧血の原因となるだけでなく、運動能力・疲労・生活の質・心機能など、幅広い機能障害と関連している。さらに、鉄欠乏は免疫防御能低下や感染リスク増加とも関係することが知られており、ICU患者の予後に悪影響を及ぼす可能性がある。
鉄補充の潜在的リスク:
・酸化ストレス:遊離鉄はFenton反応を介して活性酸素を産生し、脂質やDNA、タンパク質を傷害する可能性がある。特に、トランスフェリンの鉄結合能を超える大量の鉄投与によりNTBIが増えると、毒性が問題になる。動物の腹膜炎モデルでは、致死量に近い高用量の鉄投与で死亡率上昇と組織アポトーシス増加が認められている。一方、ヒト臨床研究では、静注鉄投与による酸化ストレス増悪は明確には示されていない。
・感染リスク:細菌は増殖に鉄を必要とするため、宿主側は血清鉄濃度を下げることで防御戦略を取っていると考えられる。多くの細菌はシデロフォアを分泌して鉄を奪取するため、トランスフェリン vs シデロフォアの鉄親和性の勝敗が重要になる。鉄を投与するときは、ヒトと細菌が“どちらの鉄キレートシステムで勝っているか”という視点が重要で、むやみにトランスフェリンを飽和させてNTBIを増やすような投与は細菌側を有利にしてしまいかねないことに留意すべきということ。透析患者などでは、高フェリチン状態と感染リスク上昇との関連が報告されているが、これは因果関係か、炎症のマーカーとしてのフェリチンかがはっきりしない。ICU・術後患者を対象とした観察研究では、静注鉄投与と感染リスク増加の明確な関連は認められていない。逆に、鉄欠乏そのものが免疫能を低下させ、感染に弱くなることも報告されているため、「鉄は危険だから全く与えない」という単純な図式ではない。
補充は経口 vs 静注?:経口鉄(主にFe²⁺製剤)の吸収には弱酸性環境とビタミンCが必要。ICUでは、PPI/制酸薬の併用・消化管機能障害・吸収障害により吸収効率が低下しやすい。ヘプシジンが高い炎症下では、十二指腸上皮からフェロポルチンが減少するため、そもそも経口鉄の吸収が抑制される。胃腸障害などの副作用も問題となる。静注の場合には、消化管を介さず高用量を短時間で投与可能。フェロポルチンやヘプシジンの影響を受けにくく、血中鉄レベルを確実に上げられる。鉄デキストラン製剤ではアナフィラキシーのリスクが問題となったが、非デキストラン系製剤は比較的安全とされる。メタ解析では、非デキストラン静注鉄は経口鉄より貧血是正に優れると報告されている。
既存エビデンス:ICU患者での静注鉄に関する唯一の試験では、エリスロポエチンなどの造血刺激薬を併用しない場合には明確な造血効果が得られなかった。一方、外科系ICU患者を対象としたRCTでは、ベースラインで鉄欠乏がある患者に経口鉄(硫酸鉄)を投与すると輸血率が低下し、感染リスクの増加は認められなかった。ただし、これらの研究は規模が限定的で、「どの程度の鉄欠乏に、どの投与経路・用量が最適か」という点はまだ確立されていない。
治療方針:真の鉄欠乏、あるいは炎症+鉄欠乏に対しては鉄補充(静注または経口)を検討。炎症性貧血のみの場合には、鉄投与は行わず貧血が長引く場合のみESAの使用を検討。
鉄必要量の算出として、必要鉄量(mg) = 体重(kg) ×(目標Hb − 実測Hb)× 2.4で計算する。ただし、高用量を一度に投与するとヘプシジン産生が誘導されてかえって鉄利用が阻害される可能性があるため、複数回に分けて投与すべきと提案している。ただし、これらの提案はまだ臨床試験で検証されておらず、今後の研究が必要である。
蘇生
ショック
一般管理
Physiological and clinical significance of mean circulatory and mean systemic filling pressure
小難しいが、結局RAP(CVP)を高くし過ぎないようにという主張の総説。
MCFP(mean circulatory filling pressure:平均循環充満圧)とは、心拍が停止し血流がゼロの状態で、全身の血管内圧が平衡化したときの圧である。実は心停止の状態であっても血管には一定の圧が残っていることは事実である。この圧がMCFP。「ストレス血液量(血管壁を伸展させている分)」と、全循環系のコンプライアンスの総和によって決まる。
MSFP(mean systemic filling pressure:平均体循環充満圧)とは、血流が存在するときの体静脈系の平均圧であり、右心房への静脈還流を駆動する“上流圧” かつ、体毛細血管からの排液の“下流圧” である。生理的条件では MCFPとMSFPはほぼ同じ値(差は0.数〜数mmHg程度)。
MCFP/MSFPの生理学的意義と臨床的応用を理解するには、まず血液量とその分布・コンプライアンスを整理する必要がある。
血液量の分布:70 kg男性で全血液量は約5〜5.5 L(75〜80 mL/kg)。このうちおよそ30%がstressed volumeであり、血管壁を張力で伸展させ圧を生む部分。残りはunstressed volumeであり、血管を丸くするが圧はほとんど生まない。
体静脈系:全コンプライアンスの70%前後が静脈・細静脈に存在し、血液量も最多。動脈コンプライアンスの30〜100倍とされ、MCFPをほぼ規定する。一方で肺循環:肺血管コンプライアンスは体静脈の約1/7、容量も約13%程度。進化的に、肺が大きな血液リザーバーになるとガス交換に不利なため、静脈側に容量が寄せられている。
コンプライアンス:ΔV/ΔP(圧変化あたりの容量変化)という物理的な傾き。キャパシタンス:stressed volume+unstressed volumeという“容量設定”を含む概念。自律神経活動や血管作動薬は主にキャパシタンスを変える。交感神経α刺激、バソプレシン、アンジオテンシンII、ニューロペプチドYなど → 静脈平滑筋収縮→ unstressed volumeがstressed volumeへ動員 → 圧-容量曲線の左方シフト(オートトランスフュージョン)
一方で、薬剤は基本的にコンプライアンス(壁材質による傾き)は変えない。コンプライアンス変化は、慢性高血圧やうっ血による構造リモデリングなど、時間スケールの長い変化による。
MCFPは循環の勢いをつけるために必須となる。
・MCFP=0の世界:もしstressed volumeがゼロで、血管内はすべてunstressed volumeで満たされていたとする。心臓は自分のunstressed volumeをわずかに圧縮することでしか血液を送り出せない。この脈波は血管抵抗によって減衰しつつ循環し、再び心臓に戻ってくるまでかなりの時間がかかる。全体のコンプライアンスと抵抗の積(時定数:ある圧の変化を加えたときに最終的な変化量の約63%に達するまでにかかる時間)が大きいため、1分間に数回程度しか拍動できず、拍出量も小さい。
・MCFP>0の世界:実際の循環では、血流が止まった状態でも約8 mmHgの基礎圧(MCFP)が存在する。心収縮により右房圧が一時的に4 mmHgなどに下がると、静脈系から右心房に向かう“圧勾配”が生じて、素早く静脈還流が起こる。その結果、左室収縮期圧は120 mmHg近くまで上昇し、拍動ごとに素早く心室は再充満することができる。すなわち、MCFPがあることで初めて、現実的な拍数と拍出量を持つ循環システムが成立する。MCFPはまた、切断静脈から血液がしばらく出続ける原因でもある。血流がない状態でも、MCFPが大気圧になるまで血液が「押し出される」ためである。
MSFPとは体静脈系の平均充満圧であり、右心房への静脈還流の上流圧、体毛細血管から静脈への排液の下流圧の両方を規定する。心拍が存在し、血液が循環している状態で、静脈容量が非常に大きくコンプライアンスも高いため、拍動間で静脈圧はほとんど変化しない。この“ほぼ一定の静脈圧”こそがMSFPである。報告されるMSFPは多くが6〜8 mmHg。
※静脈系はとても巨大なタンクで、しかもやわらかい風船みたいなもの。1回の心拍で増減する血液量はタンク全体から見るとごくわずか、すなわちタンクの水位(≒静脈圧)は拍動ごとにほとんど動かない。概念的にはこの澄んだタンクの水位がMSFPという数字で示すことができるという話。実際には心拍があるときのタンク全体の平均静脈圧と止めた時の平衡後の圧(=MSGP)には数mmHgもたがわない。
これまでの実験から得られたデータによれば、多くの病的条件において、MCFPとMSFPは数mmHg以内に収まることが示されている。ただし、
・左室機能低下・心拍数低下・SVR増大 → MSFPがMCFPより低くなる:
例えば左室機能20%まで低下すると、MCFP − MSFP ≈ 4 mmHgに拡大。血液が肺・心室側にうっ滞し、体静脈のストレス量が減るためと考えられる。
・SVR半減(敗血症・運動など)→ MSFPがMCFPよりやや高くなる:動脈側抵抗が低いと、体静脈が早く充満するため。
ICUで死亡した患者12人を対象とした、心臓外科後で一時的にペースメーカを停止した患者のRAPトレースを解析したデータでは、死亡群のMCFP(静止後のRAP)は平均15 mmHg前後と高値・ばらつき大、MSFP − RAPの差は平均4 mmHg程度で最大6 mmHg、一部の患者ではMSFP > 20 mmHgと非常に高い例もあるが、その場合でもMSFP − RAP ≦ 4 mmHgであり、絶対値の高さは主として過剰な輸液(容量負荷)の反映と考えられた。
これらの事実から静脈還流の駆動圧は、たった数mmHgのRAP変化で大きく変化し、RAPを“少し下げる/上げる”介入の臨床的インパクトは大きいと考えられている。
ここでもう一度整理。MCFPは流れがゼロのときに、全stressed volumeと全コンプライアンスから一意に決まる。「この循環に、どれだけのポテンシャルエネルギー(弾性エネルギー)が蓄えられているか」を表す理論値。MSFPは実際に血流がある状態での体静脈系の平均圧であり、右・左心機能、抵抗分布、各コンパートメントの容量再分配によって変動する。しかし実際には、正常〜中等度病態ではMCFPとの差は非常に小さい。そのため、概念を理解するにはMCFPが便利だが、ベッドサイドで意味を持つのはMSFPであり、Guytonの「静脈還流曲線」の横軸切片は実質的にMSFPを反映していると結論付けている。
毛細血管の静水圧(Pc)は、一般に20〜25 mmHgであり、健常人のMSFPは8〜10 mmHg程度と推定されることからPc − MSFP ≒ 10〜15 mmHgの圧差がある。もし、MSFPが20 mmHgに上昇するとPcは少なくとも30〜35 mmHg以上となるが、これは著明な濾出亢進・組織浮腫の強い推進力となる。さらに血漿アルブミンが低下していればさらに悪化することが明らか。右房への流入を考えると、例えばRAP=10 mmHgで駆動圧が3〜8 mmHg必要なら、MSFPは13〜18 mmHgとなる。これはすでにかなりうっ血寄りの状態であり、組織浮腫・臓器うっ血リスクが高くなる。このことから、RAPは可能な限り10 mmHg未満(できれば8 mmHg未満)に維持すること、RAPがこの範囲を超えた状態でさらなる輸液を行う際はうっ血・臓器障害リスクを十分意識し、時間を限って行うべきである。そして、実用上えでゃRAP+3-6mmHg≒MSFPと考えてよい。
結論として:MCFPは全stressed volumeとコンプライアンスの総和から定まる“潜在的エネルギー”。MSFPは静脈還流を駆動し、かつ毛細血管排液の下流圧という臨床的に重要な指標。両者は通常ごく近く、MSFP ≒ MCFP ≒ RAP +(3〜6 mmHg) と見なせる。実際のベッドサイドでは、RAP(CVP)を正しい基準点(胸骨角5 cm下など)で測定して、心拍出量(直接または代替指標)と併せて解釈する。「MSFPは高いのか/低いのか」「駆動圧(MSFP − RAP)は十分か」を推定して、それをもとに輸液・利尿薬・血管作動薬・PEEP調整などを判断する。特に、RAP>8〜10 mmHg(適正位置で測定)はMSFP高値=うっ血リスクを示すため、むやみに輸液を追加すべきでない。右心制限が存在する場合は、MSFPとRAPが“連動して”増減し、MSFPを知ってもRAP以上の情報は得られない。
呼吸器
人工呼吸器管理
Ventilation in the obese: physiological insights and management
肥満患者への換気管理の総説。OHSについて詳しい。
TLC(全肺気量)は多くの肥満者で正常〜軽度低下にとどまり、明らかな制限(TLC<下限)は主に BMI 50以上の“super obese”や60以上の“super super obese” に集中する。一方でFRCはBMIに比例して低下し、軽度肥満で約22%、高度肥満で約33%低下するデータが示される。FRCは肺弾性収縮力と胸郭弾性のバランス点であるため、腹腔内脂肪増加 → 胸腔内圧上昇 → FRC低下 → 肺コンプライアンス低下という流れになる。増大した腹部脂肪により胸腔内(胸膜)圧が上昇し、肺はより低容量で機能せざるを得ない。FRCの低下により呼吸が閉塞容量に近い低肺容量域で行われるため、末梢気道が早期に閉塞しやすく、微小無気肺が生じ、表面張力増加や肺血液量増加なども加わって肺コンプライアンスが低下する。メタ解析では、肥満手術術後に体重が大きく減少しても、TLC・FRC・RVの平均値は大きく変化しないと報告されている。これは、肥満に伴う肺容量変化が必ずしも単純な「可逆的メカニカル負荷」だけではない可能性を示唆している。
OHSに関して:肥満では横隔膜は高位に押し上げられ、平坦化しやすいが、多数の研究で最大吸気圧(MIP)・最大呼気圧(MEP)は予測値近傍か軽度低下にとどまるとされる。肥満手術術後にMIP/MEPが改善する報告もあるが、術前の段階で「著しく低い」わけではない。OHS患者の長期NIV導入例ではMIP/MEPがやや低く報告されるが、それでも単独で低換気を説明するほどの重度低下とは言いがたい。吸気筋トレーニング(IMT)は肥満者でMIPを有意に改善し、6分間歩行距離も改善するメタ解析がある一方、肺機能や血液ガスへの影響は明確ではなく、OHS患者を対象とした研究もまだない。幾何学的な横隔膜不利(高位・伸展)こそあれ、筋力そのものの低下はOHSの主因ではないようである。肥満では脂肪組織に浸潤したマクロファージからIL-1, TNF-α, IL-6, IL-8, MCP-1などが分泌され、慢性炎症環境が形成される。レプチンは食欲抑制・エネルギー代謝調節に加え、換気ドライブの維持にも関与するとされ、レプチン欠損マウス(ob/ob)では肥満を発症する前からCO₂応答が著しく低下し、とくに睡眠中の換気応答鈍麻が顕著である。ヒトOHSでは、レプチン高値+レプチン抵抗性、あるいはレプチン低値が呼吸ドライブ低下に関与している可能性が指摘されている。重症OSA合併肥満では、無呼吸・低呼吸の間隔が短くCO₂排泄が不十分となり、慢性的な呼吸性アシドーシス→腎代償→CO₂への換気応答の鈍麻を招き、日中の高CO₂血症へ至るメカニズムが提唱されている。運動時の換気応答指標であるV′E/V′CO₂スロープは、BMIが高くなるほど低下し、とくにBMI≥50では終末呼気CO₂(PETCO₂)上昇を伴う。これは「換気ドライブ低下」あるいは「機械的負荷による換気能力の限界」を反映しうる。肥満者では、同じ分時換気量(V′E)を維持する際、一回換気量(VT)が小さく、呼吸回数が多い「浅速呼吸」パターンをとりやすい。背景要因としてFRC・肺コンプライアンス低下、腹部脂肪による横隔膜運動制限、動的過膨張による横隔膜の機械的不利などが挙げられる。
重度肥満では、安静時でも呼吸の酸素コストが総酸素消費の約16%に達するというデータが示されている。WOB増大の要因は肥満により基礎代謝・V′O₂・V′CO₂が増加し、同じ活動レベルでもより高いV′Eが必要になる。上気道・下気道抵抗が増加する。肺コンプライアンスが低下し、同じVTを得るためにより大きな圧差が必要となる。肥満手術手術後には、運動時のWOBと酸素コストが低下しうることが報告されている。
OHSは肥満者の1〜10%に見られ、重症OSA合併で頻度・重症度が増す。OHSはしばしば見逃され、初回診断が急性呼吸不全(ARF)入院時というケースが多い。血清HCO₃⁻ < 27 mmol/L なら高CO₂血症をほぼ除外できる(陰性的中率高い)が、陽性的中率は低い。BMI≥35でSDB疑い・軽度低酸素血症があれば、ABGとPtcCO₂を含む睡眠検査でスクリーニングすべきとされる。
ARFを生じた肥満患者への侵襲的換気では、挿管困難リスク、換気設定、抜管および抜管後管理に注意が必要になる。
・挿管困難リスク:短頸・巨舌・咽頭軟部肥厚などにより、視野確保とチューブ挿入が難しい。Mallampatiスコアや顎–頸部角度などでリスク評価し、ICUではビデオ喉頭鏡の使用が推奨される。FRC低下 → 早期脱飽和が起きやすく、特に仰臥位でのFRC低下が著明で、無呼吸時間が短い。CPAP/NIVやHFNCを用いた十分なpreoxygenationが重要。
・換気設定:肺保護戦略(VT 6–8 mL/kg 理想体重基準、PEEP約10 cmH₂O、リクルートメント)を推奨しつつ、肥満では胸郭にかかる圧が高いため、気道圧上限だけで肺過伸展を評価できないことに注意。PEEP至適値(atelectasis軽減と過伸展のバランス)は患者間で大きく異なりうる。
肥満患者の換気管理が難しいのは、肺コンプライアンス低下・FRC低下に伴う気道抵抗増加・胸腔内圧(胸膜圧)上昇により、これらが無気肺・シャント増加・低酸素血症を助長しうるから。さらに重要なのは、気道プラトー圧の“安全上限”だけを見ていると、肺実質への実際のdistending pressureを過小評価/誤評価しうる点である。肥満では胸壁コンプライアンス低下により、気道圧のかなりの部分が胸壁の拡張に使われ、肺自体はそれほど伸びていない可能性がある。
・離脱と抜管後管理:肥満は人工呼吸期間の延長・離脱困難と関連するが、一部研究では「肥満パラドックス」としてICU・長期死亡率がむしろ低い可能性も示される。抜管後は上気道閉塞・ストライダーリスクが高く、カフリークテスト、必要に応じてステロイド投与、抜管後NIVまたはHFNCの予防的使用が有用とされる。
How to ventilate obese patients in the ICU
ICUにおける肥満患者の気道管理・非侵襲/侵襲的人工呼吸の最適化」をテーマとした総説。
呼吸生理の変化(病態生理):
・FRC低下:腹部脂肪の増加により横隔膜が頭側に押し上げられ、胸壁脂肪増加とあわせて機能的残気量(FRC)が低下する。BMIが5 kg/m²増えるごとにFRCが5–15%低下するとされ、特に仰臥位で顕著となる。麻酔・鎮静・筋弛緩により呼吸筋トーヌスが失われ、さらにFRCが低下し、無気肺形成を助長することとなる。
・呼吸仕事量の増加:呼吸に伴って移動させるべき組織量(胸腹壁)が増えること、気道径の相対的縮小による気道抵抗の増加、組織抵抗増加が組み合わさり、安静時でも呼吸仕事量が増大する。
・気道閉塞と無気肺、V/Qミスマッチ:従来から知られる「dependent lung regions:下になっている肺の部分での末梢気道閉塞」に加え、近年は肥満患者で“完全な気道閉塞”が報告されている。これは吸気開始に一定以上の圧(閾値)が必要になる現象であり、時間依存的な内因性PEEPとは異なる。気道閉塞が持続すると、その末梢の肺胞は酸素吸収により無気肺化し、吸入酸素濃度が高いほど(100% O₂など)速やかに虚脱が進む。下側(背側)の肺では換気が低下する一方、血流は重力により増加するため、V/Qミスマッチとシャントが生じ、酸素化不良と場合によってはCO₂排出障害を招く。
・肺・胸壁コンプライアンスとpendelluft:肺コンプライアンスは低下し、閉じたユニットを開けるのに必要な圧により、見かけ上のコンプライアンス低下としても現れる。抵抗・コンプライアンスの不均一性が高く、領域間の動的圧差によりair shift(pendelluft)が起こり、局所的な過伸展と虚脱が混在した傷害パターンを生みうる。
※肥満でFRCが低いと多くの肺ユニットが半分閉じかけているような状態になっている。その肺を膨らませようとすると、初期段階には圧をかけても閉じたユニットが開かず、容量はほとんど増えない(=コンプライアンスが低いように見える)。真に肺の弾性が硬くて膨らみにくいのではなく、閉じたユニットをこじあけるのに圧が持っていかれている。逆に、一度開いてしまえば同じ圧変化での体積変化は大きくなり、コンプライアンスはよく見えることがある。また、肥満肺では部位によって潰れやすい領域と潰れにくく比較的開いている領域が混在している。これにより各部のコンプライアンス、抵抗が不均一になる結果、肺の各部位が別々のスピードとタイミングで膨らんだりしぼんだりする。こういった背景から空気の流れが口⇔肺だけではなく、肺の中のエリアA⇔Bの間でも起きてしまうことがある。これがpendelluft。ある部位では実際にはそんなにVTが入っていないのに「過伸展しているような変形」が起こったり、別の部位はしっかり換気されないまま虚脱気味になったりという局所的な過伸展+虚脱のモザイクができる。コンプライアンス・抵抗のバラつき・閉じたり開いたりするユニット・吸気・呼気のたびに起こるpendelluftが組み合わさると、一部の肺領域では気道が毎回閉じては開く(shear stress)+他の領域から空気が押し込まれて「局所的にグッと伸ばされる」→ 機械的ストレスが集中し、VILI(ventilator-induced lung injury)の温床になる。また別の領域では、閉塞が長く続き、ガス吸収により無気肺→シャントとなる。
急性呼吸不全(ARF)の管理:
・非侵襲的戦略と体位:肥満患者では酸素消費増加・呼吸仕事増加・無気肺形成により低酸素血症が起こりやすい。最初の介入として体位調整を行うのは重要。座位は、胸郭コンプライアンスとガス交換を改善しうる。
・術後低酸素血症/ARF:術後(特に腹部・胸部外科)の低酸素血症/ARFに対して、NIVは標準酸素療法に比して挿管率、死亡率、合併症の減少に関連しており、ガイドラインでも推奨されている。一方、心臓外科後の肥満患者を対象にした解析では、NIVとHFNCの治療失敗率に有意差はなかった(約13–15%)。NIVは第一選択になりうるが、HFNCやCPAPの最適な位置づけは今後の研究課題とされる。
・低酸素性ARF(非術後・肺炎など):一般の低酸素性ARF患者では大規模RCTにて、HFNCがNIVより死亡率で優れる結果が報告され、NIVの害が懸念された。BMI>40 kg/m²の重度肥満患者において、肺炎による低酸素性ARFではNIV失敗が多く、難治例では早期に挿管へ切り替える必要がある可能性が示唆されている。しかし肥満の生理学的特徴(高いPEEP依存性)を考えると、適切なPEEP設定のNIVは依然有用である可能性が高く、HFNCとの比較はエビデンス不足と考えられている。
・高炭酸ガス血症性ARF・OHS増悪:肥満低換気症候群(OHS)の慢性治療としては、CPAPまたはNIVによる陽圧呼吸がガイドラインで推奨される。ARFとして増悪したケースでもNIVが第一選択だが、失敗例ではBMIが極端に高い(例:平均62 kg/m²)など、「超肥満」ではNIVの成功率が下がることが示されている。NIVセッションの間の補助としてHFNCを組み合わせる戦略など、今後の検証が必要とされている。
非ARDS患者の侵襲的人工呼吸:
・PEEPとリクルートメント:肥満では胸腹部の脂肪からの静水圧が胸腔内圧を押し上げるため、閉塞(無気肺)回避には高めのPEEPが必要となる。肥満手術患者では、個別化PEEP(肺電気インピーダンストモグラフィを利用)により10–26 cmH₂O(中央値18)が選択され、術前のEELVをほぼ回復できたと報告される。一方、大規模RCTではPEEP 12 vs 4 cmH₂Oで術後肺合併症に差はなく、高PEEP群で循環抑制や補液・昇圧薬増加が観察されるなど、アウトカム改善の有無についてはエビデンスが一貫していない。RMは、開放圧が維持圧より高いという「ヒステリシス」を利用した肺再開放手技であり、肥満では開放に50 cmH₂O前後が必要なこともあるが、循環抑制や気胸リスクからルーチン適用は推奨されないと結論づけている。
・一回換気量(VT)と自発呼吸:VTは予測体重(PBW)に基づき6 mL/kgを基本とするが、肥満ではEELVが小さいため、同じVTでもstrain(VT/EELV比)が大きくなりやすく、過伸展リスクが上がる(ストレイン=ΔV / EELVとなるためEEVLが小さいほどストレインが大きくなる)。PBWを「目算」で決めると過大評価されやすく、VTも大きくなりがちなので、身長と性別から正確にPBWを計算すべき。体位変換(ランプ・座位)や早期自発呼吸の導入により横隔膜荷重を軽減し、依存部の換気を改善、筋萎縮を防ぎ、人工呼吸期間短縮に寄与しうる。
ARDS患者の機械換気:
・観察研究では、肥満ARDS患者では非肥満に比べPBWあたりのVTが高く選択される傾向があり、臨床現場の「肺サイズの過大評価」が示唆されている。しかし、プラトー圧やドライビングプレッシャー(ΔP)は肥満・非肥満で同程度で、アウトカムも大きな差はなかったとの報告もある。
・PEEPと経肺圧:BMI約31 kg/m²までの中等度肥満ARDSでは、PEEP 5→15 cmH₂Oへの増加によるリクルート能・酸素化改善は非肥満と同程度だったとする研究がある一方、BMI>50 kg/m²の重度肥満ARDSでは、食道圧を用いた経肺圧指標に基づき、PEEP 20–22 cmH₂O程度まで引き上げると、酸素化と肺コンプライアンスが著明に改善したと報告されている。さらに、RM+PEEP減量トライアルで最適PEEPを決めるプロトコールでは、従来ARDSnetより8 cmH₂O高いPEEPが選択され、ガス交換・V/Qマッチング改善と循環への有害影響は認めなかったとされる。
※RM+PEEP減量トライアル:RM(recruitment maneuver)をかける、圧制御換気でΔP 10 cmH₂O固定、PEEPを上げていってプラトー圧が 50 cmH₂O になるまで維持(1分)( できるだけ「開けるべき肺」を全部開けにいく操作)→volume control(VC)に切り替え、VT = 5 mL/kg PBW として固定→PEEPを2 cmH₂Oずつ、30秒ごとに下げていく→最もコンプライアンスが良かったPEEP+2 cmH₂O を「その人の最適PEEP」と決める
・腹臥位とECMO:重症ARDSに対する腹臥位療法は、肥満患者でも安全に実施可能で、非肥満患者よりもPaO₂/FiO₂の改善が大きかったと報告されている。腹臥位・筋弛緩で不十分な場合、重度肥満患者でもVV-ECMOは安全に施行可能とされている。
離脱・抜管と術後管理:
・離脱テスト:重度肥満患者を対象とした生理学研究では、Tピース、あるいはPS 0 cmH₂O + PEEP 0 cmH₂Oでの試験が抜管後の呼吸努力・仕事量を最もよく再現した。ただし肥満患者は無気肺形成リスクが高いため、Tピーステスト後は再度十分なPEEP付きPSに戻してから抜管タイミングを調整すべき。
・鎮静と薬物:肥満では脂溶性薬物の分布容量が大きく、ベンゾジアゼピンなどの蓄積・遷延効果により覚醒遅延や呼吸抑制が起こりやすいため、早期の鎮静中止とベンゾ回避が推奨される。
・抜管後の陽圧療法:抜管後、予防的NIVは急性呼吸不全のリスクを16%低下させ、ICU在室日数を短縮したと報告される。特に高炭酸ガス血症を伴う肥満患者では、NIV使用が死亡率低下と関連した。肥満手術患者では、抜管直後からCPAPを導入した群の方が、30分後導入群より肺機能が良好であった。在宅でCPAP/NIVを使用している患者では、ICUでの高レベルサポートが不要になった時点で、可能な限り早期に在宅設定を再導入すべきとされる。
・HFNCの位置づけ:肥満を含む術後患者では、HFNCは標準酸素より優れているとまでは言えず、NIVと同等の失敗率・再挿管率を示した試験もある。高リスク抜管患者全体では、HFNCはNIVに対して「非劣性」とする結果もあり、肥満患者に限った明確な優位性はまだない。
Obesity paradox:大規模メタ解析では、肥満患者はARDS発症リスクや人工呼吸期間、ICU在室日数が増加する一方、ICU死亡率はむしろ低い、または差がないとする結果もあり、「Obesity paradox」と呼ばれている。その理由として、免疫学的な違い、エネルギー貯蔵としての脂肪による「メタボリックリザーブ」、肥満患者がより早期・軽症の段階でICUに入室している選択バイアス(本当は重症度が低い)、無気肺を両側浸潤と誤認したARDS過診断などが議論されている。因果推論を用いた解析では、「もし非肥満患者が肥満だったとしても生存率は改善しない」との結果もあり、Obesity paradoxそのものが見かけ上の現象である可能性も示されている。
Oncologic Emergency
転移性脊髄圧迫(MSCC)のマネジメントに関する総説。
MSCCは、さまざまながん患者の経過中に発生しうる深刻な合併症かつ救急疾患である。「脊髄圧迫」という用語の厳密な定義は一定していないが、椎体あるいは硬膜外腔に発生した腫瘍性病変が脊髄や馬尾を機械的に圧迫する状態を指す。前立腺、乳房、肺の悪性腫瘍は脊椎転移を起こしやすく、MSCC症例の約45〜60%を占める。
発症レベルは胸椎:65%、腰仙椎:25%、頚椎:10%で、20〜35%は複数レベルに病変がある。近年のデータでは、固形がん患者において臨床的に顕在化している脊椎転移の有病率は約15.7%とされる一方、剖検では約30%に脊椎転移が見つかることから、臨床的にはかなりの過小診断があると推察される。脊椎転移をもつ患者のうち約10%がMSCCを発症し、約12.6%が病的椎体骨折を来すと報告されている。
腫瘍による機械的圧迫はまず静脈うっ血と白質の浮腫を生じさせ、その結果として動脈血流が障害され、脊髄実質の虚血〜梗塞へと進行する。これらの変化は初期には可逆的だが、時間が経つと不可逆的な細胞死と神経障害をもたらす。ステロイドは脊髄の浮腫を軽減し、虚血・梗塞への進展を抑えることで神経学的転帰を改善しうるとされる。また、白血病やリンパ腫など一部の腫瘍では腫瘍細胞自体への直接的な細胞毒性(tumoricidal effect)も有する(ゆえに診断をマスクすることがある)。
典型的には、既知の悪性腫瘍を持つ患者における非特異的な背部硬直・疼痛から始まる。夜間痛や臥位・仰臥位で増悪する痛みは椎体転移を示唆する。根性痛(radicular pain)は神経根の圧迫を示す所見である。進行に伴い、四肢の筋力低下、しびれなどの運動感覚障害、尿閉・尿失禁、便秘などの自律神経障害(膀胱直腸障害)が出現する。特に、階段昇降困難、筋のこわばり、排尿困難・尿閉、便秘といった症状は、不可逆的障害になる前に緊急の脊髄減圧が必要である“サイン”とみなすべき。
MSCCでは、身体所見が非特異的あるいは初期にはほとんど認められない場合も多く、「所見が乏しいから否定的」とは言えない点には注意。それでも、根性痛に一致する放散痛・叩打痛、筋力の左右差や筋力低下、感覚障害(触覚・痛覚の低下や異常)は頻度が高いため要注意。進行例では 上位運動ニューロン徴候(腱反射亢進、痙性、Babinski徴候など)が出現するが、急性発症例では初期に明瞭でないことも多い。EDでの評価において ASIA Impairment Scale(AIS) を用いることを推奨している。
・Grade A:S4–S5領域も含めて運動・感覚機能が完全に欠如。
・Grade B:運動は欠如しているが感覚は残存。
・Grade C:下位レベルの運動機能はあるが、主要筋の多くが筋力3未満。
・Grade D:主要筋の半数以上が筋力3以上で、機能的歩行が可能なことが多い。
・Grade E:正常。
AISは、NOMSフレームワークにおける“Neurologic(N)”成分として位置づけられており、救急でのトリアージ、神経学的悪化のモニタリング、手術・放射線・ステロイド投与の方針決定に役立つとされる。
疑わしい場合は緊急画像検査が必須であり、第一選択は全脊椎のMRI。腫瘍の位置・程度・範囲を詳細に把握できる、多椎体病変の評価(MSCCの約20–35%で多発)が容易、良性圧迫(変性や骨折)と悪性による圧迫の鑑別に有用。Bilskyらによる 6段階のMSCCグレーディング(ESCCスケール) がある。
・Grade 0:骨病変のみで硬膜外進展なし
・Grade 1a:硬膜嚢に触れない硬膜外腫瘤
・Grade 1b:硬膜嚢を変形させるが脊髄に接触しない
・Grade 1c:硬膜嚢変形+脊髄への接触
・Grade 2:脊髄圧迫あり、CSFはまだ可視
・Grade 3:脊髄圧迫+CSFが見えない(完全圧排)
MRIが施行できない場合にはCTミエログラフィ、造影CTなどが代替手段となる。これらは軟部組織描出能ではMRIに劣るが、脊柱不安定性の評価には有用である。MRIとミエログラフィの診断能に関して、既報ではMRI:感度44–93%、特異度90–98%、ミエログラフィ:感度71–95%、特異度88–100%と報告されている。ただし、ミエログラフィは侵襲的であり専門技術を要し、時間もかかるため、今日ではMRIに比べて使用頻度が低い。
MSCCと診断・強く疑われた患者は、以下のような大きなサブグループに分類して方針を決定すべきとされる。
①緊急減圧手術が必要な群
②速やかな放射線治療(RT)で対応可能な群
③神経学的に安定しており、在宅支援体制が整っているため外来フォローが可能な群
④24時間程度の観察ユニットで経過を見るべき群(症状が境界的・治療調整中)
運動麻痺の出現〜進行速度が、介入の緊急度を決める最も重要な因子とされる。7日かけて徐々に進行する麻痺の場合、比較的予後が良く、RT単独でも歩行能力を維持しやすい。一方で 24〜48時間以内に急速に進行する麻痺は緊急度が高く、早期診断と治療計画立案が不可欠であり、遅れれば不可逆的な障害に至るリスクが大きい。
理想的には、組織診断を得てからステロイド投与を始めるのが望ましい(特に血液腫瘍では形態を変化させうるため)。しかし実臨床、とくにEDでは、診断検査が完了するのを待たずに、MSCCが強く疑われる時点でステロイドを開始すべき。MRIや専門医(脊椎外科、神経外科、放射線腫瘍科)へのアクセスが限られる施設では、特にその重要性が高い。IVデキサメタゾン 10〜20 mg ローディング→16 mg/日(4 mg 6時間毎) を経口またはIVで投与し、数日〜2週間かけて漸減するというのが推奨されるレジメンNSAIDs使用中など、消化管リスクが高い場合にはPPIの併用が推奨される。
治療選択のフレームワークとして、NOMSがある。NOMSはNeurologic(神経学的状態)・Oncologic(腫瘍の性質・放射線感受性)・Mechanical(脊柱の安定性)・Systemic(全身状態・予後)の4要素を統合して治療方針を決定する枠組みである。
・Neurologic(N):Bilskyの6段階スケールを用いる。低グレード(0〜1)、高グレード(2〜3)に大別する。低グレード:脊髄への圧迫が軽度で症候も軽い場合、一般に手術の利益は小さく、RTが第一選択となる。高グレード:脊髄の明らかな圧迫や神経症状(麻痺、膀胱直腸障害など)がある場合、早期の外科的減圧が推奨される。
・Systemic(S):すでに完全対麻痺が24〜72時間以上持続している症例では、脊髄の不可逆的損傷が強く疑われ、手術を行っても神経学的回復は期待し難い。このような症例では、放射線単独治療とし、疼痛緩和と局所制御を目標にすることが多い。
SINS(Spine Instability Neoplastic Score)というものもある。SINSは痛みの性状・腫瘍の部位・骨破壊の程度・脊柱アライメント・椎体の骨質(溶骨性か硬化性かなど)・後方要素の関与など6項目を評価し、0〜18点でスコア化する。12点を超えると“明らかな不安定性”とされ、脊椎外科への緊急コンサルト・手術的固定の検討が必要になる。
近年では、腫瘍が脊髄の前方を中心に圧迫するケースでは、後方要素のみを削るラミネクトミーでは不十分であり、前方/側方からの減圧+脊椎固定(instrumentation)を組み合わせた現代的手術手技が標準となっている。RCT(Patchellら)では、外科的減圧+術後RT が RT単独と比べて歩行能力の維持・回復に優れ、試験が早期終了となったと報告されている。ただし単施設・長期にわたり患者登録された試験であり、実臨床全体への外挿には注意が必要ではある。さらにメタ解析や観察研究でも、適切に選択された症例において、48時間以内の手術介入が歩行能力やQOLの観点から有利であることが示唆されている。放射線治療はMSCC治療の柱であるが、前方病変など手術適応がある症例では、減圧+固定手術を組み合わせることでより良好なアウトカムが得られる可能性がある。
MSCCの見逃し・治療遅延は、対麻痺・四肢麻痺、感覚障害、膀胱直腸障害といった重篤な後遺症を残しうる。全体として予後は不良で、中央値生存:2.4〜30か月、1年生存率:12〜58%と報告されている。肺がん由来MSCCは最も予後が悪く、1か月時点で既に死亡率が高い。乳がん・前立腺がん由来では比較的長期生存が期待できる。治療は生存期間そのものを大きく延長するわけではないが、疼痛コントロール・神経機能の維持によりQOLを改善しうる。リハビリや支持療法は重要だが、余命の限られた患者においてはリハビリ入院期間を最小限とし、自宅や家族と過ごす時間を最大化する視点が強調される。緩和ケア・ホスピスケアとの連携も重要である。予後不良のサインとして、特に膀胱直腸障害(sphincter dysfunction)の存在が指摘されている。

対象・状況 / 推奨事項
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対応・評価時期 / エビデンスレベル
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ESTRO ACROP ガイドライン
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単発性のMSCC、対麻痺発症から48時間以内、かつ予後予測が3ヶ月超の患者
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外科的除圧、固定術、および術後放射線治療を依頼する。
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脊椎不安定性が疑われる患者
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脊椎外科医へのコンサルト(相談)を求める。
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その他すべての患者
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放射線腫瘍医と脊椎外科医を含む緊急の集学的チームでの協議を行う。
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MSCCが疑われる場合の緊急評価
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原発腫瘍の臨床的徴候について評価を行う。
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既知の悪性腫瘍がない場合
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診断のために血液マーカー、手術、CTガイド下または画像ガイド下軟部組織生検を用いて緊急の組織診断を行う。
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診断手順終了直後
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診断後、速やかに静注デキサメタゾン(10~16 mg)の投与を開始する。
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静注デキサメタゾン投与後
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10~14日間かけて経口デキサメタゾンへ漸減移行する。
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デキサメタゾン使用時の胃粘膜保護(特にNSAIDs併用時)
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必要に応じてプロトンポンプ阻害薬(PPI)を使用することを検討する。
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NICE 2008 (UK) ガイドライン
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骨転移の疑い
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1週間以内の評価。
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片側の神経根痛
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1週間以内の評価。
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MSCCの疑い
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24時間以内、または臨床的に必要性が高い場合はより早期の緊急評価。
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MSCCの確定診断
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24時間以内に根治的治療を開始する。
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Groenen et al. 2018 (オランダ) ガイドライン
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局所的な背部痛を伴う骨転移の疑い
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2週間以内の評価。
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7日間かけて進行する片側の神経根症状(欠損)
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48時間以内の評価。
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7日未満で進行する片側の神経根症状(欠損)
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24時間以内の評価。
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MSCCの疑い
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可能な限り早期、理想的には12時間以内の緊急評価。
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MSCCの確定診断
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24時間以内に根治的治療を開始する。
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頻度が高く、初期対応で予後が大きく変わるOncologic Emergencyに限定した総説。
・SIADHによる低Na血症:入院中のがん患者の約半数が低Na血症を経験し、死亡率上昇と関連する。原因として最も典型的なのが小細胞肺がんで、その他に頭頸部癌、肺外小細胞癌、嗅神経芽細胞腫、他の固形がん・血液悪性腫瘍、さらにビンカアルカロイド・白金製剤・アルキル化剤などの化学療法薬が挙げられる。正常では後葉から分泌されるADHが、血漿浸透圧上昇や循環血液量低下の際に集合管での水再吸収を増やす。SIADHでは、腫瘍細胞や下垂体からADHが浸透圧と無関係に持続分泌され、バソプレシン受容体が慢性的に刺激されることで自由水が過剰に再吸収され、低Na・低浸透圧の希釈性低Na血症となる。軽症では悪心・嘔吐・頭痛・倦怠感・錯乱など非特異的な症状。Naが115–120 mEq/L以下になると、痙攣、昏睡、心肺停止、死亡に至る危険が高まる。低浸透圧性低Na血症(血清Na <135 mEq/L、浸透圧 <275 mOsm/kg)で、身体所見上はおおむねeuvolemia。尿Na >30 mEq/L、尿浸透圧 >100 mOsm/kg が特徴であり、甲状腺機能低下症、副腎不全、肝障害、利尿薬使用を除外して診断する。基本は水制限(500–1000 mL/日)。急性でNa ≤120 mEq/Lなど重症の場合は3%高張食塩水を慎重に投与し、24時間で8 mEq/L以内、48時間で18 mEq/L以内の補正にとどめ、中枢橋髄鞘崩壊症を予防する。Naは4–6時間ごとにチェックする。難治例ではデメクロサイクリン、バプタン(静注コンバプタン、経口トルバプタン)で自由水排泄を促進するが、トルバプタンでは肝障害に注意が必要。
・悪性腫瘍に伴う高Ca血症:高Ca血症はがん患者の10–30%に発生し、多発性骨髄腫、頭頸部・肺・皮膚の扁平上皮癌、腎細胞癌、リンパ腫・白血病で多い。体液性高Ca血症(約80%):腫瘍細胞からPTHrPが産生され、PTH様作用で骨吸収と腎でのCa再吸収を亢進。溶骨性高Ca血症(約20%):腫瘍と周囲マクロファージからのサイトカインがRANKLを増やし、破骨細胞分化・骨吸収を促進。ビタミンD類似体過剰産生(特にリンパ腫で1α水酸化酵素過剰)や異所性PTH産生は稀。可能ならイオン化Ca測定がより正確に診断に寄与する。浸透圧利尿による脱水、多尿・口渇、精神状態変化、食欲不振、悪心・嘔吐・便秘、昏睡などで受診。初期蘇生は生理食塩水で補液:1–2 Lをボーラス投与後、200–300 mL/hで維持し、尿量100–150 mL/hを目標とする。心腎機能に応じて速度調整し、必要に応じてフロセミドで容量負荷を回避。Ca ≥12.5 mg/dLではIVビスホスホネート(パミドロネート、ゾレドロン酸)を24時間以内に投与し、破骨細胞機能を抑制。ただし効果発現は2–4日。速やかなCa低下が必要な場合、カルシトニンを併用し、骨吸収と腎のCa再吸収を抑える。
・腫瘍崩壊症候群(TLS):腫瘍細胞の急激な崩壊により、K・P・核酸(→尿酸)が血中に大量放出され、高K血症・高P血症・続発性低Ca血症・高尿酸血症・急性腎障害を来す。12–24時間:ATP枯渇によるNa/Kポンプ停止と細胞外K流出で高K血症が最初に出現。24–48時間:悪性細胞内の高濃度Pが放出され、高P血症(成人 ≥4.5 mg/dL、小児 ≥6.5 mg/dL)が起こる。Ca-P沈着により腎を中心に組織石灰化・腎障害。Ca×P産物が60 mg²/dL²超でリスク上昇、70以上では腎代替療法の適応となりうる。48–72時間:プリン分解産物がキサンチンオキシダーゼで尿酸となり、高尿酸血症(≥8 mg/dL)。酸性尿で溶解度がさらに低下し、尿酸・キサンチン結晶が尿細管を閉塞し急性腎障害を来す。Laboratory TLS: 治療開始3日前〜7日後に、尿酸・K・Pの高値、Ca低値のうち少なくとも2項目が閾値を超える、またはベースラインから25%以上変化。Clinical TLS:laboratory TLSに加え、Cr上昇(≧基準上限の1.5倍)、不整脈/突然死、痙攣、神経筋不安定などを1つ以上伴う。予防の柱:大量補液で尿量を確保し、K・P制限。ハイリスク例にはアロプリノールまたはラスブリカーゼで高尿酸血症を予防。異常ごとの対応例:高P血症:低P食、Pフリー輸液、アルミニウム水酸化物などのP吸着薬。重症や症候性なら透析。低Ca血症:無症状なら経過観察。症候性ならCaグルコン酸10 mL(1000 mg)を10–20分で静注。ただし高P血症が強い場合は沈着リスクに注意。高K血症:無症候ならK吸着樹脂+心電図モニタ。K>7.5、または心電図変化ありなら、レギュラーインスリン10単位+50%ブドウ糖50–100 mL、Caグルコン酸10 mL静注(重度不整脈時)、代謝性アシドーシスには重炭酸投与、難治例は透析。高尿酸血症:アロプリノール(初日600 mg→以後300 mg/日)またはラスブリカーゼ(固定3 mgまたは0.2 mg/kg/日)、代替としてフェブキソスタット120 mg/日。

| 異常 | 治療・コメント |
|---|---|
| 高リン血症(Hyperphosphatemia)中等度:P ≧ 6.5 mg/dL | 1. 低リン食2. リンを含まない静脈輸液3. リン吸着薬(例:水酸化アルミニウム経口投与 50–150 mg/kg/日)症候性の場合:4. 血液透析または持続的腎代替療法の開始 |
| 低カルシウム血症(Hypocalcemia) | 無症候性:治療不要症候性の場合:1. グルコン酸カルシウム1000 mg(10 mL)を10–20分かけて静注し、ECGモニタリング下で必要に応じ反復2. 重度の高リン血症がある患者ではカルシウム投与に注意 |
| 高カリウム血症(Hyperkalemia) | 無症候性:1. カリウム吸着レジン投与+心電図モニタリング血清K⁺ > 7.5 mEq/L または症候性の場合:1. 速効型インスリン(レギュラー)10単位+50%ブドウ糖50–100 mLを静注2. 心電図変化または不整脈がある場合、グルコン酸カルシウム1000 mg(10 mL)を緩徐に静注し、必要に応じ反復 ※炭酸水素ナトリウムと同時投与しないこと3. 代謝性アシドーシスがある場合、150 mEqの炭酸水素ナトリウムをD5W 1000 mLに溶解し2–4時間で静注(30分後に反復可)4. 他の治療に反応しない重度高K血症、腎不全、容量過剰では透析適応 |
| 高尿酸血症(Hyperuricemia) | アロプリノール:1. 1日目 600 mg、以後 300 mg/日または ラスブリカーゼ:2. 固定用量 3 mg 静注 または3. 0.2 mg/kg/日 静注を最大7日間(確立したTLSに対して)4. G6PD欠損症患者にはラスブリカーゼ禁忌 |
・悪性脊髄圧迫(MSCC):脊椎腫瘍は硬膜外、硬膜内髄外、硬膜内髄内に分類され、MSCCは主に椎体への転移・直接浸潤による硬膜外圧迫によって生じる。原発として肺・前立腺・乳がんが約50%を占め、10–20%ではMSCCががんの初発症状となる。多発性骨髄腫は約11%。小児では肉腫・神経芽腫・リンパ腫が主である。最も多いのは背部痛(80–95%)で、持続性・夜間増悪・仰臥位や咳・くしゃみ・いきみで悪化する。神経症状に数週間先行することが多い。進行すると、感覚障害(しびれなど)が運動麻痺に先行して出現し、最終的に歩行不能(約70%)、膀胱直腸障害が出る。ガドリニウム造影MRIが第一選択で、ほぼ100%の感度とされる(ただし軽度症状の歩行可能例を除く)。全脊柱の撮像が推奨される。MR困難例にはCTミエログラフィーが代替。単純CTやXpは骨破壊はわかるが脊髄圧迫の検出感度は低い。MSCC疑いの時点で高用量ステロイド(デキサメサゾン10–16 mg静注→4 mg 6時間毎など)を開始し、脊髄浮腫を抑制する。胃粘膜保護と血糖・感染のモニタリングが必要。オピオイド、抗けいれん薬(ガバペンチン/プレガバリン)、三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)などで痛み管理。限局した圧迫で神経障害が軽度、脊椎不安定性あり、同部位への既照射歴ありなどでは手術+術後放射線が推奨。椎体切除+スクリュー固定、セメント補強などを行う。高血管性腫瘍(腎細胞癌など)では術前塞栓で出血を抑える。手術不能例、多椎体病変、広範椎体破壊、放射線感受性腫瘍(小細胞肺癌、骨髄腫など)では放射線単独が選択される。PatchellらのRCTやLeeらのメタ解析により、手術+放射線が放射線単独より歩行能力・生存を改善することが示されている。予後不良例には8 Gy単回照射など緩和的照射を、長期生存が見込まれる例には分割大線量を検討する。リハビリテーションも重要。
| 評価項目 | カテゴリー | スコア |
|---|---|---|
| 脊椎レベル(Spine Location) | 移行部(頭蓋–C2, C7–T2, T11–L1, L5–S1) | 3 |
| 可動部脊椎(C3–C6, L2–L4) | 2 | |
| 半剛性脊椎(T3–T10) | 1 | |
| 剛性脊椎(S2–S5) | 0 | |
| 機械的/体位性疼痛(Mechanical or Postural pain) | あり(明らかな機械的疼痛) | 3 |
| なし(時々痛むが機械的ではない) | 1 | |
| 無痛病変 | 0 | |
| 骨病変の性状(Bone lesion quality) | 溶骨性 | 2 |
| 混合性(溶骨性/造骨性) | 1 | |
| 造骨性 | 0 | |
| 画像上の脊椎アライメント(Radiographic spinal alignment) | 亜脱臼/すべり(subluxation/translation)あり | 4 |
| 新たな変形あり(後弯/側弯) | 2 | |
| アライメント正常 | 0 | |
| 椎体侵襲(Vertebral body involvement) | >50% の椎体圧壊 | 3 |
| <50% の椎体圧壊 | 2 | |
| 椎体圧壊はないが、椎体の >50% が病変で占拠 | 1 | |
| 上記いずれにも該当しない | 0 | |
| 後方要素の侵襲(Posterior element involvement) | 両側侵襲 | 3 |
| 片側侵襲 | 1 | |
| 侵襲なし | 0 |
Spinal Instability Neoplastic Score(SINS):合計0–18点。0–6:安定、7–12:潜在的に不安定、13–18:不安定
・悪性心嚢液貯留と心タンポナーデ:転移性心嚢病変は5–25%で認められ、予後不良のサイン。原発として肺・乳がん、血液悪性腫瘍、メラノーマ、稀に大腸癌などが挙げられる。非悪性原因として、抗癌剤・免疫チェックポイント阻害薬・放射線治療・感染症による心嚢炎もある。緩徐な貯留では2 Lまで無症状だが、急速に100 mL程度貯留しただけで心タンポナーデとなりうる。Beckの三徴(低血圧・頸静脈怒張・心音微弱)は全例にはみられず、主訴は呼吸困難や胸痛のみのことも多い。30%で奇脈を認める。心エコーが診断確定の第一選択で、右室拡張早期の虚脱、右房後期拡張期虚脱、呼吸変動のない拡張したIVCなどを認めればタンポナーデと判断する。小さい無症候性貯留は経過観察。症候性で血行動態不安定なら緊急心嚢穿刺+持続ドレナージ、あるいは外科的心嚢開窓術を行い、必要に応じて化学療法・放射線を追加する。
・上大静脈症候群(SVCS):SVCは左右腕頭静脈の合流で形成され、頭頸部・上肢からの静脈血を還流。右側を走る奇静脈系は主要な側副路となる。解剖学的には「奇静脈より近位」「奇静脈レベル」「奇静脈より遠位」による3分類があり、閉塞部位に応じて側副血行と症状が変わる。Stanford & Doty分類(静脈造影によるType I–IV)や、Aziziらの新分類(表10)では病変部位と狭窄度(50–90%、>90%、完全閉塞)でグレード化する。悪性腫瘍が約90%で、その75%が肺がん(特に右側・小細胞肺癌)、15%が非ホジキンリンパ腫。その他乳がん、食道がん、胚細胞腫瘍、胸腺腫、甲状腺癌、転移性腫瘍など。症状:顔面・頸部・上肢の浮腫、顔面紅潮、チアノーゼ、胸壁静脈怒張が典型。喉頭・咽頭の浮腫(喘鳴・嗄声・嚥下障害)、頭痛・視覚障害・認知機能障害など頭蓋内圧亢進症状もみられる。仰臥位で悪化。Yuらの重症度スコア(0–4)で症状の重さを評価し、Kishiスコアでステント治療の適応(4点以上)を判断する。造影CTが感度・特異度とも高く、SVC内の造影欠損・狭窄と側副血行路の描出が診断に有用。ヨード造影剤禁忌例ではMR静脈造影を使用。初期対応は頭側挙上、酸素投与、必要に応じて抗凝固・血栓溶解。原因腫瘍に応じて放射線・化学療法を行うが、内科的治療だけでは症状改善まで時間がかかる。メタ解析では、ステントを含む血管内治療の技術的成功率98.8%、再狭窄10%前後、合併症率約8%とされ、迅速な症状改善が得られるため、悪性SVCSでは第一選択として推奨される。
| グレード | カテゴリー | 所見 |
|---|---|---|
| 0 | 無症候性(Asymptomatic) | 画像上SVC閉塞を認めるが症状なし |
| 1 | – | 頭部または頸部の軽度浮腫 |
| 2 | – | 頭部/頸部の中等度浮腫+機能障害を伴う |
| 3 | 重症 | 軽度〜中等度の脳浮腫または喉頭浮腫、あるいは心予備能低下 |
| 4 | 生命を脅かす(Life threatening) | 著明な脳浮腫、喉頭浮腫、血行動態破綻 |
| 5 | 致死的(Fatal) | 死亡 |
YuらによるSVC閉塞Grade
| カテゴリー | 臨床徴候(いずれか1つがあれば) | スコア |
|---|---|---|
| 神経症状(Neurological signs) | 意識障害または昏睡 | 4 |
| 視覚異常、頭痛、めまい、記憶障害 | 3 | |
| 精神症状 | 2 | |
| 全身倦怠感(malaise) | 1 | |
| 胸部・咽喉頭症状(Thoracic or pharyngeal-laryngeal signs) | 起座呼吸または喉頭浮腫 | 3 |
| 喘鳴、嚥下障害、呼吸困難 | 2 | |
| 咳嗽または胸膜炎様胸痛 | 1 | |
| 顔面症状(Facial signs) | 口唇浮腫、鼻閉、鼻出血 | 2 |
| 顔面浮腫 | 1 | |
| 表在静脈怒張(Vessel dilation) | 頸部・顔面・上肢の静脈拡張/怒張 | 1 |
Kishiスコア(SVC閉塞の症候スコア):合計スコア4点以上で血管内治療(ステント留置)を考慮すべき
・高粘稠度症候群(HVS):血液粘稠度は流体内部・血管壁との摩擦で決まり、単位はセンチポイズ(cP)。HVSはIgM・IgG・IgAなどの高濃度免疫グロブリン、多血症、白血病などにより血液粘稠度が過度に上昇した状態で、Waldenströmマクログロブリン血症の10–30%、多発性骨髄腫の2–6%に見られる。ヘマトクリット50–80%では粘稠度が約3倍に上昇する。三徴:神経症状(意識障害・頭痛・錯乱など)、視覚障害、粘膜出血。眼底では「ソーセージリンク状」の静脈蛇行と拡張が特徴で、視症状がなくても所見があれば治療適応となる。肺(呼吸不全・肺胞出血)、CNS(巣症状・譫妄)、血管系(四肢虚血、静脈血栓)、心(心筋梗塞)、眼耳(網膜出血・耳鳴)など各臓器に症状が出うる。第一選択は血漿交換で、1回で血漿粘稠度が30–50%、免疫グロブリンが約60%減少するとされる。代替として瀉血(phlebotomy)が行われることもあるが根本的ではない。除去した蛋白は生食0.9%またはアルブミン5%で置換。赤血球・血小板輸血は粘稠度をさらに上昇させるため原則避け、必要最小限とする。
| 臓器 | 症状・所見 |
|---|---|
| 肺(Lung) | 呼吸困難、低酸素血症、びまん性肺胞出血 |
| 中枢神経系(CNS) | 意識混濁、精神状態変化、巣症状、頭痛、せん妄 |
| 血管系(Vascular system) | 四肢虚血、静脈血栓症、持続勃起(priapism) |
| 心臓(Heart) | 心筋梗塞 |
| 眼・耳(Eye/Ear) | 視力変化、網膜出血、耳鳴 |
多彩な症状がある。
・発熱性好中球減少症(FN):口腔温 ≥38.3℃を1回、または38.0℃超が1時間以上持続し、ANC <500/μL、または今後48時間以内に500未満が予測される状態。好中球減少の重症度は、1000–1500:軽度、500–999:中等度、100–499:重度、<100:きわめて重度。MASCCスコアで重症感染リスクを評価し、>21点は低リスク、≤21点は高リスクとする。血液培養陽性は全体の約30%で、その中ではグラム陰性菌が最多。抗菌薬投与までの時間が予後を左右し、30分以内の初回投与が生存率を改善する。IDSAガイドライン(2010改訂)に基づき、発熱+好中球減少を認めた時点で原因不明でも広域抗菌薬を開始し、好中球回復まで継続する方針。推奨レジメン:cefepime、piperacillin/tazobactam、meropenem、ceftazidimeなどの単剤静注。バンコマイシンは、皮膚・軟部組織感染、低血圧、フルオロキノロンやST合剤内服中、中心静脈カテーテル感染疑いなど、特定の状況で追加する。
| 項目 | 内容 | スコア |
|---|---|---|
| 症状の重症度(Symptom severity) | 軽症または無症状 | 5 |
| 中等度の症状 | 3 | |
| 重症の症状 | 0 | |
| 低血圧なし | 収縮期血圧 > 90 mmHg | 5 |
| COPDなし | 慢性閉塞性肺疾患(COPD)がない | 4 |
| 悪性腫瘍の種類 | 固形腫瘍または、以前に真菌感染のない血液悪性腫瘍 | 4 |
| 脱水なし | 脱水所見がない | 4 |
| 発熱時の状況 | 発熱時が外来受診中(入院中ではない) | 4 |
| 年齢 | 60歳超 | 2 |
MASCCスコア
・放射線治療(RT)合併症:RTはがん患者の50%以上で治療の一部として用いられ、外照射・組織内照射(ブラキ)、放射性同位元素投与の3つの形態がある。イオン化放射線によりDNA二本鎖切断とROS生成が起こり、腫瘍細胞は修復能が低いため細胞死に至るが、周囲正常組織にも皮膚炎、心血管障害、食道炎、膀胱炎、性機能障害、抑うつなどの障害が発生しうる。患者周囲の人への被曝リスクと接触制限の指針がある。外照射:体内に放射性物質は残らないため特別な制限不要。一時的な組織内照射:線源留置中は入院管理となり、妊婦・小児の面会を制限。永久シード:線源が長期留置されるため、乳児・妊婦・小動物との密接接触を一定期間避ける。全身投与(放射性ヨードなど):数日間は体液が放射性となるため、乳児・妊婦との体液接触は回避。
・免疫関連有害事象(irAEs):免疫チェックポイント阻害薬などによる自己免疫的な炎症反応が、心臓・肺・肝臓・腸管・内分泌臓器・神経・皮膚・筋骨格・眼など多臓器に生じうる。臓器別の代表症状と推奨検査は以下の通り。心:心不全、不整脈、房室ブロック、心筋炎・心膜炎→ECG、心エコー、トロポニン、感染精査、必要なら心筋生検。肺:肺臓炎(咳、呼吸困難、低酸素、胸痛)→感染除外、胸部CT(重症例は高分解能CT)、気管支鏡+BAL。消化管:免疫性肝炎・大腸炎→腹痛、下痢、LFT・電解質。内分泌:副腎不全、下垂体炎、甲状腺機能異常、1型糖尿病→倦怠感、頭痛、視力障害、低血圧、頻脈、高血糖など;ホルモン測定、電解質、下垂体MRI、視野検査。神経:脳炎、末梢神経障害、GBS、重症筋無力症→筋力低下、複視、嚥下障害、眼瞼下垂;神経診察、髄液検査、神経伝導検査、抗AChR抗体など。皮膚:SJS/TEN、天疱瘡様水疱症、白斑など→身体診察・皮膚生検。中等度〜重度毒性では免疫療法を中止し、メチルプレドニゾロン1–2 mg/kg/日+支持療法を行う。48–72時間以内に改善がなければ、インフリキシマブ、ミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミド、IVIG、血漿交換など追加免疫抑制を検討する。
・化学療法血管外漏出:初期には注射部位の疼痛・灼熱感・浮腫で始まり、進行すると皮膚の蒼白化、水疱形成、色素沈着、壊死に至る。早期発見と対応が極めて重要で、直ちに輸液を停止し、カニューレは抜かずにそのまま留置して拮抗薬投与や吸引など次の処置につなぐ。
・消化器症状:がん患者の約17%が、疼痛・オピオイド・免疫療法・化学療法に関連した腹痛・悪心・嘔吐・下痢・便秘・脱水で受診する。対応は失われた水分の補正、制吐薬・止瀉薬による対症療法に加え、CMV・C. difficile・肝炎ウイルス再活性化などを検索する。骨盤照射歴のある患者では腸虚血や穿孔、消化管出血を念頭に置く必要がある。小腸細菌叢異常増殖、胆汁酸吸収不良、乳糖不耐症など、治療関連の吸収障害も発症要因として挙げられている。