今週号はPOCUS、特にVExUSネタが多めです。
あとはショックの基本的な概念やら血行動態モニタリングの世界的なガイドラインやら、結構重要な情報が固まった週だな~という感じ。

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POCUS
Ultrasound indicators of organ venous congestion: a narrative review
図が豊富でわかりやすく、知っているようで知らないVExUSのpitfallが満載。
IVC径・IVCCIは「静脈うっ血の有無や程度の入口情報」としては有用だが、単独では輸液量決定やうっ血評価に不十分であり、他の静脈ドップラー情報と組み合わせるべきである。そこでVExUS。
・肝静脈ドップラーでは、正常では S波>D波(S>D) であるが、うっ血の進行とともに S<D → S波逆転(systolic reversal) へと変化し、重度うっ血の指標となる。
肝静脈(右または左肝静脈)にパルスドップラーを当てることで、右房・右室圧変動がそのまま波形として現れる。
正常波形は 4 成分:
A波:心房収縮による逆行性波(基線より上)
S波:右室収縮期の順行性波(基線より下、通常最大)
V波:心房充満期の移行波(前後方向の違いで形が変化)
D波:拡張期の順行性波
正常では S>D(S波優位)。静脈うっ血の進行とともに、まず S波が減弱し D>S(軽度うっ血)、さらに進むと S波が逆転し、収縮期逆行流(systolic reversal) を呈する。
重度TRでは、収縮期に右房への逆流が強く、S波逆転が顕著だが、左心系充満圧が必ずしも高いとは限らない点に注意が必要。
肝静脈ドップラー単独で「全身うっ血」の程度を判断するのは危険であり、門脈や腎静脈ドップラーと組み合わせることが推奨される。
・門脈ドップラーでは、本来ほぼ連続性の順行性波形だが、脈動性(pulsatility index >30%)や逆行性成分の出現が肝うっ血と腎予後不良(AKIリスク上昇)と関連する。
正常の門脈血流は、低速(10–30 cm/s)の連続した順行性波形であり、心周期による変動はごく軽度。
うっ血評価には pulsatility index(PI)=(Vmax − Vmin)/Vmax ×100% を用いる。PI >30% を門脈うっ血の目安とし、これが腎予後不良(AKIリスク上昇、オッズ比 2.2)と関連することが報告されている。
門脈は肝実質を経由するため、右房→肝静脈→肝内→門脈へと伝わるうっ血の「下流側」を見ていることになり、重度うっ血の検出に特に鋭敏とされる。
ただし、脂肪肝や肝硬変では門脈波形自体が変化するため、PI の解釈に注意が必要。
・腎内静脈ドップラー(IRVF)は、正常では連続波形だが、うっ血に伴い二相性・単相性の不連続波形になり、これを定量化した renal venous stasis index(RVSI) は腎うっ血・予後と関連する。
正常 IRVF:基線より下側に、ほぼ連続した静脈流が記録される(連続単相波形)。
うっ血の進行に伴い、二相性(S+D様)不連続波形→さらに進行すると拡張期のみの単相(monophasic)短いスパイク波形となり、静脈流の存在しない時間が心周期中に増えていく。これを定量化した指標が renal venous stasis index (RVSI)であり、(心周期時間 − 静脈流がある時間) / 心周期時間で表される。「1 心拍のうち静脈流が止まっている割合」であり、うっ血が強いほど RVSI が大きくなる。
IRVFは「腎の静脈系アウトフロー障害」を直接反映するユニークな指標として位置づけられている。

・IVC+肝静脈+門脈+腎静脈ドップラーを統合した VExUS(Venous Excess Ultrasound)スコア は、心臓手術後、急性冠症候群、急性心不全などでAKI発症、利尿薬反応性不良、RRT必要性、死亡リスクと相関する有望なツールとなる。
急性心不全入院患者において、VExUS 高グレード(2–3)は、利尿薬効率の低下(diuretic efficiency の低さ)と関連し、特に RVSI が利尿効果不良の予測に最も優れる指標の一つとされる。
AKI を伴う ICU 患者で、VExUS>1 かつ 48時間でスコアが改善した患者は、RRT を要さない日数が多いなど、静脈うっ血の早期改善が腎アウトカムに影響する可能性が示唆されている。
急性冠症候群患者では入院時 VExUS 0〜3 に応じて AKI 発症率が0:10.8%、1:23.8%、2:75.0%、3:100%と段階的に増加し、VExUS≥1 は AKI と強く関連(多変量解析後も OR 約6)することが示されている。

・大腿静脈ドップラーや内頸静脈エコーは、IVCが描出困難な場合の代替的評価として有用だが、限界も多い。
大腿静脈ドップラー(Femoral venous Doppler; FVD):鼡径靱帯直下にリニアプローブをあて、長軸で大腿静脈を描出しドップラー波形を記録する。正常ではほぼ連続性、うっ血があると脈動性(pulsatile)または逆行性成分を伴う波形となる(腎静脈のような感じ)。VExUS スコアとの比較研究では、FVD によるうっ血検出能は感度・特異度ともに中等度(VExUS との一致は「ほどほど」)で、IVC が描出困難な場面では有用な補助手段となりうる。しかし、腹腔内圧上昇、肝硬変、呼吸困難、深部静脈血栓、静脈瘤など、多くの状況で波形が乱れ、偽陽性・偽陰性が増えるため、単独での評価には限界が大きいとされる。
30–45°半坐位で頸部にリニアプローブを当て、IJV径の変化と Valsalva 時の拡張を M モードを測定する方法もある。JVD ratio(jugular vein diameter ratio)= Valsalva 時最大径 / 安静呼気終末径を計算する。健常またはうっ血のない心不全患者では安静時 IJV は細く(0.1–0.15 cm)、Valsalva で大きく(〜1 cm)拡張するため、JVD ratio ≥4 が正常範囲とされる。うっ血が進行すると安静時径がすでに大きいため、JVD ratio <2 がうっ血を示唆する。右 IJV 断面積変化率(Valsalva での増加率)が 66% 未満だと高右房圧・高容量状態を示唆し、うっ血改善とともに 66%以上に回復するという報告もある。JVDR の再現性(interrater / intrarater reliability)は十分とは言えないとされつつも、外来心不全患者で、低 JVDR は高NT-proBNP、高右房圧、右室機能障害と関連するなど、予後指標としての可能性が示される。IVC が描出困難な肥満・術後・腸管ガス例では有用な代替となりうるが、慢性肺高血圧症や肺塞栓、心タンポナーデでは低血容量と高右房圧が共存しうるため、解釈に注意が必要とされる。
VExUS score: optimizing its use in perioperative and critical care management
VExUSは「容量評価ツール」だけではなく「cardiac-driven congestion score(心臓駆動型うっ血評価ツール)」として用いるべきであるというのが一貫したメッセージ。
・VExUSの構成要素のpitfall
肝静脈は右房・右心系に最も近い静脈で、その波形は右房圧変化を反映するが、その背景には右房・右室機能と容量の複雑な相互作用がある。特に、S波/D波比(S/D比)は右室収縮、三尖弁の運動(逆流の有無)に強く依存するため、逆転S/D(D優位)=右心 – 三尖弁機能不全の反映であって、必ずしも「hypervolemiaそのもの」を意味するわけではない。したがって、肝静脈波形は「右心機能の窓」としての意味合いが強い。
門脈の拍動性(pulsatility index)は、心機能(特に右心・全身静脈圧波及)、腹腔内・肝血管コンプライアンス、容量状態(静脈容量・splanchnic血液貯留)の多因子の結果として生じる。肝硬変や門脈圧亢進など肝臓自体の疾患でも肝のコンプライアンス低下や門脈圧上昇により門脈拍動性が増すことがあり、心機能とは独立して変化し得る。研究では、心機能と容量状態双方が門脈の拍動性を左右することが示されており、「高い門脈拍動性=必ずhypervolemia」とは言えない。
腎静脈波形は、容量状態(高静脈圧による腎静脈圧上昇)、腎間質浮腫による静脈圧迫、腎局所の動脈・静脈コンプライアンス変化、腹腔内圧上昇などの局所腎血行動態因子に加え、左右心機能(特に充満圧)の変化の影響も受ける。心不全患者では、充満圧上昇+液体貯留により腎静脈波形が異常化し、利尿薬による容量減少で改善することが示されている。ICUの研究では、門脈拍動性と腎静脈波形の異常が、「利尿による容量除去に対する良好な反応性」を予測し得るとされ、異常な腎静脈パターンの存在は「容量過剰であり、利尿で改善しうる」サインになり得る。
・高VExUS(≥2)時には「“volume-driven congestion”(容量駆動うっ血)」「cardiac-driven congestion(心臓駆動うっ血)」「混合」のいずれかを見極め、利尿・容量除去 vs 強心薬/後負荷軽減などの治療戦略を組み合わせる必要がある。解釈は文脈依存であり、心機能・血行動態・組織灌流評価・心エコーと統合して判断すべきで、単独で治療トリガーにすべきではない。
高VExUSスコアを見たらまずやるべきことは、右室・左室の収縮能・拡張能、RV–PA coupling(ex. TAPSE / sPAP(TR peak gradient + RA圧)< 0.31〜0.35 mm/mmHgはuncoupling)、LV–arterial coupling(ポンプ機能と後負荷の兼ね合い)を含む両心機能の包括的評価であり、「即座に利尿・除水」ではない。さらに、門脈の拍動性も評価する。
心機能異常 + 高い門脈拍動性→ 容量+心機能の混合型うっ血
治療:利尿/除水+強心薬・inodilator+後負荷軽減などを組み合わせる。
心機能異常あり + 門脈波形は正常
→ 主として心臓駆動型うっ血
肝静脈波形が異常であれば右心/三尖弁由来のうっ血を確認。
腎静脈が正常なら「容量をこれ以上引くと害になる」可能性もあるため、容量除去は慎重に。
心機能正常 + 門脈拍動性異常
→ 容量駆動うっ血が疑われ、利尿/除水で改善が見込まれる。
腎静脈波形異常があれば、容量駆動性うっ血の裏付けとなる。

高VExUSスコアでもfluid responsivenessが保たれている症例があり、VExUSは「絶対的な過容量」ではなく「現状の心機能では許容しきれない容量による高充満圧」を示すに過ぎない。「VExUSが高いから絶対禁水・利尿」という単純なロジックは成り立たないため、組織灌流がまだ低い状態で安易に除水を行うと、心拍出量低下→更なる臓器障害を招き得ることに注意が必要となる。
・ICU観察研究では、最高VExUSスコアを示す患者はしばしば「マイナス〜ごく軽度のプラスバランス」である一方、強い体液貯留があっても心機能が保たれていればVExUSスコアは低いことが示され、VExUSが「容量超過」ではなく「心機能に対する容量負荷の結果としてのうっ血(=圧)」を見ていることが示唆されている。VExUSは、静脈還流(stressed volumeと血管コンプライアンスに規定される平均充満圧)と心機能(特に右心機能:収縮性、後負荷、RV–肺動脈カップリング)の相互作用の結果として生じる静脈系・臓器静脈の「圧」の表現型であると考えるべき。VExUSは「静脈還流と心機能の関係(心機能曲線と静脈還流曲線の交点)」=「充満圧に基づくうっ血」を反映するスコアとして理解すべきであり、単純な容量評価ツールとみなすべきではない。
メタ解析や大規模観察研究では、VExUSとAKIの関連は主に心血管領域(心不全・心臓外科など)で認められ、一般ICU・敗血症などでは弱いか認められないことが示される。
VExUSを実際に使いこなせるようにするための実践ガイド。
・設定のポイント:
心電図表示があると波形解釈が格段に容易。というか間違えることが結構ある。

QRSに「重なる/直後から始まる」下向きの谷が S波、T波の後から拡張期にかけて出る下向きの谷が D波と解釈しないと間違えてしまう。
IVC/HV/PV は心臓・腹部・FASTプリセット+ドップラースケールを約40 cm/sに下げる、IRV は腹部/FASTプリセット+低めのドップラースケール(Nyquist <20 cm/s)で評価。
sweep speedは 50 or 66.7 mm/s が推奨。
・各血管の評価ポイント
IVC:2Dで長軸・短軸を確認し、右房-IVC接合部から 1–2 cm 遠位部で径を計測。径 >2 cm +呼吸性虚脱乏しい場合に「うっ血あり」とみなし、次のステップへ。ただし、体格差や民族差を考慮し、「短軸でほぼ円形に拡大しているか」を併せて判断すべき。
HV:A, S, V, D の4波からなる波形をECGと対応させ解釈。S波優位が正常、S<D→S逆転でうっ血悪化。心房細動(A波消失+S波低下(S<D)を示しても、RAP上昇とは限らない)、伝導異常(PR延長など:ECGなしだと波形同定が難しい)、肝硬変や脂肪肝(静脈コンプライアンス変化により波形が鈍化し、心拍同期性が弱くなる)、器質的な高度TR(ボリュームを減らしてもS逆転が持続し、「除水に反応しない波形異常」となる)の場合には別に解釈を要する。
PV:連続的な低拍動波形が正常。PVPF(Portal Vein Pulsatility Fraction)<30%が正常、30–50%で軽〜中等度、>50%+/−収縮期逆流で高度うっ血。
痩せた人・アスリートでは、RAPが正常でもPVPFがやや高くなることがある。肝硬変・門脈圧亢進では、低速度の連続流・重症例では肝外向き流(hepatofugal)、AVシャントによりPVPFが上昇することもあり、RAPとは必ずしも連動しない。一方で、類洞伝達が障害されRAPが高くてもPVPFが正常に見える症例もある。呼吸に伴う変動を心拍性と誤認しないよう、ECG同期が推奨される。
IRV:連続波形が正常。S/Dの2相になれば軽〜中等度、S逆転しDのみが残る単相パターンは高度うっ血。
評価対象は 腎門部静脈ではなく、腎実質内の葉間(interlobar)または弓状(arcuate)静脈であることに注意。HV・PVに比べて技術的に難易度が高く、協力が得られない患者(呼吸停止不可など)では特に困難。Decrease the Doppler scale. Gradually raise the color gain until the flow becomes visible, being careful to avoid speckling. Adjust the transducer tilt slightly upward or downward and observe if the color flow improves. Consider using Power Doppler instead of color flow if available, as it is better at detecting low velocity flows. Experiment with changing the angle of insonation (oblique or transverse views of the kidney are acceptable).などのトラブルシューティングがある。
慢性腎臓病や腎移植後の患者に対するエビデンスはまだ不足している。
・Pitfall
IVC径は体格・アスリート・腹腔内圧の影響を受ける。
HV/PV/IRVの波形は肝疾患、不整脈、三尖弁逆流などで変化し、単純に「うっ血」とは限らない。
VExUSは「うっ血の重症度」を示すだけで、容量過剰か圧負荷かは区別できず、除水の適応判断ツールではない。常に全体の血行動態評価と統合すべき。右心不全+長期肺高血圧の患者では、心拍出が高前負荷依存になっていることがあり、VExUS高値=除水とは限らない。こうしたケースでは、肺血管拡張薬などによりVExUSが改善する場合がある。心嚢液貯留による心タンポナーデに起因するうっ血では、安易な除水が心内圧をさらに下げて相対的タンポナーデを悪化させる可能性がある。
Unlocking the Potential of VExUS in Assessing Venous Congestion: The Art of Doing It Right
VExUSのtechnical pitfallに関する詳細かつ豊富な図を用いた総説。
ドプラスケール:肝静脈・門脈:約40 cm/s、腎髄質静脈:約20 cm/s。
VExUSでは速度計測をしないため、中間くらいのスイープ(50〜66.7 mm/s)が扱いやすい。
肝静脈は基本的にECGがないと「SとDがどちらか」自体が誤認されうるため、ECGトレースを必ず表示し、R波後がS、T波後がD、P波後がAであることを確認することが強く推奨されている。
肝静脈・門脈は、従来は心窩部(subxiphoid)から観察されることが多いが、著者らは右側胸部(右中〜後腋窩線)からのアプローチのほうが、アーチファクトが少なく、長い血管セグメントが描出できると述べている。同一患者で、subxiphoidからだとノイズが多く判読困難な波形が、右側からだと非常に鮮明に得られる図も示されている。
これらの波形は中心静脈圧などと同様、原則として呼気終末で評価する。深吸気ホールドでは、肝静脈・門脈波形が平坦化(blunting)し、偽の「うっ血なし」あるいは波形消失に見えることがある。そのため、患者に「軽く息を止めてください(呼気終末)」と指示するが、それができない場合は自発呼吸のまま少なくとも3心拍以上、連続した波形を観察することを提案。
門脈波形について、肝硬変があると門脈波形でも拍動性が出たり、脈の血流が完全に逆方向(hepatofugal)になったりもする(図10、11)。VExUSの原法では「門脈本幹」を推奨しているが、実臨床では描出しやすい側枝を拾って解釈してしまう危険がある。「どの枝の波形か」を常に意識しないと、重症度の過大評価・過小評価を招きうる(図15)。右門脈枝だと逆転した波形が出ることもある(図23)。
腎静脈:高度CKD(IV〜V期)では、うっ血がないのに腎髄質静脈が拍動性に見えることがあると述べており、局所の線維化・構造変化が波形に影響している可能性が示唆されている。renal main veinはもともと拍動性であることが多く、「うっ血」と誤解しやすいのでサンプリングしてはいけない。segmental vein と interlobar veinで波形が解離することもあり得るため、可能であればより髄質寄りのinterlobar veinを優先。腎門部付近のドプラでは、本来の腎動脈波形がベースライン上に、その「ミラーイメージ」のようなスペクトルがベースライン下に現れることがあり、一見すると、「動脈上+静脈下」という動静脈2本のように見える。下側は振幅の小さい、やや淡いミラーアーチファクトであるということもある(図26)。
著者の実践的なコツ:
curvilinearプローブ+腹部プリセットを使用
腎をズームし、カラードプラ or パワードプラで髄質血管を描出
パワードプラは低流速に強く、interlobar veinの同定に有用
患者が協力できれば呼気終末で息止め
スケールは20 cm/s以下に設定
心エコープリセットを使わざるを得ない場合は、カラーゲインを上げて血流を拾う
片側がどうしても描出不良なら対側腎を試す
実務上、すでに肝静脈・門脈が“重度異常”でVExUS grade 3を満たす場合、腎静脈ドプラは必須ではないと割り切ることも提案している。
肝・門脈・腎が評価困難な場合、SVC・脾静脈・大腿静脈など他の静脈を追加して評価する「e-VExUS」の考え方がある。大腿静脈では、Femoral Vein Stasis Index (FVSI) という指標が提案されており、1心拍のうち、前向きフロー(心臓への流れ)が占める時間の割合でうっ血度を評価する(評価の方法は腎静脈と似ている)。大腿静脈はビームに対してほぼ垂直であるため、beam steering(ビームを斜めにする機能)で入射角を調整しないと、カラーがほぼ出ない。さらに、hyperdynamic state(低容量・血管拡張)では、呼吸性に強い変動を示し、ECGなしだと「心拍動性」と誤解されることがある。
ECGと同時表示し、波形の途切れが心拍と同期しているか、呼吸と同期しているかを必ず確認する必要がある。
ESICMガイドライン2025(Weekly #2)で参考文献として用いられている集中治療医が修めておくべき基本的な超音波検査技術についての総説。
脳:中大脳動脈のTCCDによる波形評価と PI 測定は、ICHT(頭蓋内圧亢進)を除外する目的で、ベーシックスキルとして「弱く推奨」。ONSD測定、脳死判定補助、脳血管攣縮評価、脳梗塞評価、Bモード脳実質評価、脳自動調節評価などは、高度スキル or エビデンス不足としてベーシックには含めない。
胸部(肺・胸膜・横隔膜・気道):肺スライディング・肺パルス・BラインでPTXを除外、lung pointで確定し、ドレナージ適応と穿刺部位決定に用いることを強く推奨。横隔膜上の無エコー域の検出、量推定、内部エコーによる複雑胸水の鑑別、ドレナージの適応・位置決定とフォローを強く推奨。呼吸不全に対してBラインやコンソリデーションを用いて肺含気低下を診断し、心エコー・静脈エコーと統合することでARDS/心原性肺水腫/PEなどの鑑別を行うことを強く推奨。定量的LUSスコアや、気道USによる気管挿管確認はベーシックには推奨せず(スコアは不要、気道USは「弱く反対」)。横隔膜エコーのうち横隔膜の移動距離(excursion)評価は「弱く推奨」するが、thickening fractionはベーシックには含めない。
※横隔膜移動距離について、横隔膜ドームの「上下移動の振幅(cm)」を測定する。よく動く → 横隔膜が元気に収縮している、ほとんど動かない(数 mm 程度〜ほぼ 0) → 麻痺・重度筋力低下が疑われる。安静呼吸で 1 cm 前後以上あればだいたい妥当、1 cm 未満+左右差大 or paradoxical movement は横隔膜機能不全の疑い。
心臓:4つの標準ビュー(PLAX, PSAX, A4C, subcostal)での左室収縮能の視覚的評価(増加/正常/低下)は強いベーシックスキル。右室拡大・機能不全(RV/LV面積比、PLAXでの径比を用いた右室拡大評価。paradoxical septal motion, septal flattening、拡張したIVC(呼吸変動少ない)を見て、RV failure と診断)、心タンポナーデ(心嚢液+右室/右房虚脱+IVC所見)、重症低容量状態(小さなIVC+小心室+systolic obliteration)の評価はいずれも強く「基本スキル」。LVOT VTIや区域壁運動異常評価、急性重症僧帽弁・大動脈弁疾患の2D診断は「弱い推奨(付加的スキル)」と位置づけ。経食道エコーや詳細な弁評価・圧評価などは、エキスパート領域としてベーシックには含めない。
腹部:AAAスクリーニング(上腹部〜臍レベルまで横断・縦断で大動脈径を測る)はショックや腹痛時の基本スキルとして強く推奨。腎・膀胱のBモード評価(両腎の短長軸で水腎症/膀胱過伸展の有無と膀胱内容量の定性的評価)は強く推奨。非外傷性急性腹症では、腹腔内自由液の検出と臨床所見の統合を基本スキルとし、詳細な腸管機能評価や胆嚢炎診断、腸管内ガス/壁内ガスの描出などはベーシックには含めない。腹部外傷では、FAST での心嚢・胸腔・腹腔の自由液評価を「強く推奨」し、外傷蘇生の基本構成要素とする。
血管:中心/末梢の血管エコーガイド下穿刺(血管の位置・径・圧迫での開存確認、針先のリアルタイム追跡、穿刺後のカテ先位置・即時合併症確認)はすべて「強いベーシックスキル」。大腿〜膝窩までの2点法(あるいは連続圧迫)によるDVT診断も「強く推奨」される基本スキル。
神経
頭蓋内圧亢進
Managing Intracranial Pressure Crisis
SIBICCアルゴリズム(ICPモニタあり) とCREVICEプロトコール(ICPモニタなし)を統合したものを紹介した総説。
呼吸:肺保護換気(TV 6–8 ml/kg, plateau <30 cmH₂O) を基本とし、SpO₂≥94%、PaCO₂ 35–38 mmHg を目標に、過換気も高PaCO₂も避ける。
循環:輸液は 0.9% NaCl によるeuvolemia維持が推奨される。balanced crystalloidはTBIサブ解析で不良アウトカムと関連した可能性が示唆されている。血圧目標は、TBIでは BTF/SIBICCに従い CPP 60–70 mmHg を推奨、ICP未モニタ下では MAP ≥80–90 mmHg が用いられる。
その他:頭部挙上、頭位正中、軽鎮静、てんかん予防、発熱是正、血糖110–180 mg/dL、Hb>7 g/dL など、全身管理により二次性脳損傷を予防する。 ※PMID: 39382241ではHB<9がいいかもねという結果になっていることに注意。
ICP低下はTierに従って行う。
ICP低下治療の開始(Tier 1)
意識低下+CTで脳槽圧排・正中偏位・占拠性病変・ヘルニア徴候などがあれば、ICPが数値として不明でもICP低下治療を開始すべき。マンニトールと 高張食塩水が主役であり、CENTER-TBIサブ解析では両者の死亡・機能予後に有意差は認められていない。脳腫瘍・膿瘍に伴う浮腫ではデキサメタゾンが有用。水頭症・IVHでは EVD、占拠性病変・血腫では 外科的除去や減圧術が推奨される。
ICPモニタなしでの段階的治療(CREVICE)
① Tier 1:定期的ボーラス高張療法(4時間ごとなど)+深鎮静。
② Tier 2:3% NaCl持続投与によるNa上昇、軽度過換気(PaCO₂ 30–35 mmHg)、鎮静強化。
③ Tier 3:バルビツレート昏睡(EEG burst suppression)、軽度低体温(35–36℃)、二次減圧開頭。
Na≥155 mEq/L, Osm≥320, OG≥20 など「安全上限」が経験的に用いられるが、値を超えてもICP低下効果が続くことがある。
CREVICE導入により、ICPモニタのない施設でも予後が改善した可能性が報告されているが、ICP・CPPを直接見られない限界はある。
ICPモニタありでの管理(SIBICC)
ICPモニタは GCS≤8 かつCT異常を伴うTBI、あるいはSAH・ICH・脳浮腫・水頭症・腫瘍などICP上昇が高リスクな症例で推奨される。ICP値・トレンド・波形(P2≥P1はコンプライアンス低下)とCPPを総合的に評価し、治療強度を調整することが重要。ICPの「危険閾値」は伝統的な20 mmHgから、近年は 18–22 mmHgの範囲で柔軟にとらえ、多くの専門家がICP値だけでなく波形や他モニタリング所見を加味して判断するようになっている。SIBICCでも Tier 1〜3が定義され、
Tier 1:高張療法調整、深鎮静(RASS −3〜−5)、CPP 60–70 mmHg維持
Tier 2:軽度過換気、MAPチャレンジによる静的脳血管自動調節(sPAR)の評価、NMBトライアル
Tier 3:減圧開頭術、バルビツレート昏睡、軽度低体温
という構造になっている。

※MAPチャレンジ:static pressure autoregulation(sPAR)=静的血圧反応性が intact か impaired かを判定することが目的。輸液ボーラス+ノルアドレナリンなどの昇圧薬を使い、MAPとCPPを約10 mmHg上昇させた状態を20分間維持し、その間にICPがどう変化するかを連続的に観察する。この評価中は、マンニトール・高張食塩水・鎮静・EVDドレナージなど、他のICP低下治療は変更しないことが推奨される(MAP変化の影響を純粋にみるため)。必要であれば筋弛緩薬の試験投与を加えてもよいとされている。sPARが保たれている(intact)の場合には、MAP/CPPを10 mmHg上げる → 脳血管は自動調節で収縮する → CBFと脳血液量が減る → ICPはむしろ下がるということが起きる。このとき全身的な合併症がなければ、ICPがcritical threshold(18–22 mmHg未満)に保たれるMAP・CPPレベルを維持してよいとされる。sPARが障害されている(impaired)の場合には、MAP/CPPを上げる → 血管が収縮できずCBFが増加 → ICPがさらに悪化して上昇してしまう。この場合は 昇圧薬を中止してMAPを元に戻し、他のICP低下治療(高張療法やEVDなど)を優先する。
・ベッドサイドでのneuromonitoringとして、ICP管理を最適化するために、以下の侵襲的・非侵襲的ニューモニタリングが解説されている。
非侵襲ICP波形解析:頭皮センサでP2/P1比とTTPを測定し、コンプライアンス低下(P2/P1≥1, TTP≥0.2 s)を検出。
TCD:血流速度とMAPからICP/CPPを推定。ICPTCD<20.5 mmHgなら侵襲的ICP>22 mmHgを高いNPVで除外可能。
ONSDエコー:ONSD≥5.3 mmがICP>20 mmHgと良好に相関。
定量瞳孔計(NPi):NPi<3は反応低下を示し、ICP上昇時に低下し、高張療法後に改善する。
脳血管自動調節(PRx):ICPとMAPの相関からPRxを算出し、PRx>0で自動調節障害。CPPoptを決める試みが進行中。
PbtO₂:脳組織酸素分圧<20 mmHgで脳低酸素と定義し、循環・換気・輸血・代謝制御で是正を図る。
脳微小透析:乳酸・ピルビン酸・グルコース・グルタミン酸により虚血・ミトコンドリア障害・脳低血糖などを識別。
PbtO₂や微小透析は、現時点では大規模RCTで明確なアウトカム改善は証明されておらず、プロトコールの確立が課題である。

ICP crisis管理を「理想条件」と「資源制限下」で分けてフレームワーク化している。
・理想的環境:ICPモニタを前提に、ICP値+トレンド+波形でコンプライアンス低下を検出し、PbtO₂で脳酸素化を評価し、PRx/CPPoptでCPP目標を個別化し、NPiで脳幹機能を連続評価する。これらを組み合わせた「ICPガイド治療+neuromonitoringガイドによる治療」で、ICP低下治療の強度(高張療法・鎮静・過換気・減圧開頭など)循環・呼吸管理(CPP目標、FiO₂, PaCO₂)をよりピンポイントに調整することが理想とされる。
・資源制限環境:ICP・PbtO₂など侵襲モニタが使えない環境では、ONSD超音波 → 頭蓋内高圧のスクリーニング、TCD → ICP/CPP推定(特に「高ICPでない」と言い切る目的)、非侵襲ICP波形解析 → コンプライアンス低下の検出、定量瞳孔計(NPi) → 脳機能の変化・治療反応の評価を組み合わせることで、CREVICEプロトコールに沿った段階的治療を少しでも“データ駆動”に近づけることが提案されている。
Management of intracranial hypertension with and without invasive intracranial pressure monitoring
「急性脳損傷全般」におけるIH管理をICPモニタあり・ICPモニタなしの両方でどう戦略を立てるかを整理したレビュー。
侵襲的ICPモニタリングの適応は①明らかなヘルニア徴候を伴うIH、②CT異常+GCS低下で神経学的評価が信頼できない患者、③将来悪化リスクが高い症例など。
ゴールドスタンダードは 外ドレナージ可能な脳室ドレーン(EVD)。代替として脳実質内プローブがあり、機能的アウトカムは両者で大きな差はない。合併症として感染(特に脳室炎:平均約9%、5日以降で増加)、出血、カテーテル閉塞・位置異常、ドリフト(経時的な測定誤差)などがある。多数のコホートでは「ICPモニタリング群で院内死亡率が低い」傾向が示される一方、機能的転帰の改善は一貫せず、治療強度の上昇・ICU滞在延長・合併症増加が観察される研究もある。
・ICPモニタリングに関するエビデンスの「賛否両論」について
多くの観察研究は「高いICPが悪い予後と関連」することを示しているが、それは 予後予測因子(severity marker)なのか、治療可能な因子(causal mediator)なのか が明確でない。研究の多くが「治療強度」「時間依存の交絡」「選択バイアス」「連続変数の安易な二分法(dichotomania)」の問題を抱えており、「ICPモニタリングの有無による因果効果」を直接的に答えてはいないと指摘している。
多数の大規模コホートで、ICPモニタリングを受けた重症TBI患者は 院内死亡率が低い ことが報告されている(Farahvar, Alali, CENTER-TBI中国コホートなど)。SYNAPSE-ICUでは、ICPモニタリングありの方が治療強度は高いものの、瞳孔非反応など重症例では6か月死亡率の低下が観察された。
一方でICPモニタリングに懐疑的な研究もある。オランダのコホートでは、ICPモニタリング群は鎮静・昇圧薬・人工呼吸期間が長く、長期機能予後に差はなく、約1/4はICP 20 mmHg以下にコントロールすらできなかった。CREACTIVE(イタリア・ハンガリー)では、ICPモニタリング群で6か月の機能予後がむしろ悪かった。BEST-TRIP試験(LMICのRCT)では、ガイドラインに基づく「臨床+画像」管理と「ICPモニタリング主導管理」で機能予後に差はなかった。前者ではTier 1治療の頻度が高い一方、Tier 3治療のバルビツレートはモニタリング群で多かった。
・非侵襲的モニタリングには以下のような方法がある。
身体診察のみではIHの診断・除外は不十分:散瞳;特異度は高いが感度が低い、GCS低下;感度は高いが特異度が低い、眼底検査による乳頭浮腫はIHの所見だが、発現は遅く、緊急対応には適さない。自動瞳孔計(pupillometer, NPI)低下は平均ICP上昇と関連し、一般的なICP上昇に約16時間先行しうるとの報告がある。ORANGEコホートでは「異常NPIの記録が1回でもあると6か月予後不良と関連」したが、後解析ではNPIと実測ICP値の相関は弱く、IHモニタとしての位置づけはなお議論途上。
CTではMarshallスコア、midline shift、脳室圧排、血腫の有無など、多数の形態学指標がIHリスクを評価するのに用いられている。しかし「正常CT」でも早期・遅発のIHは起こり得るため、感度不足。MRIでは、血流脈動に伴う微小な体積変化を利用した脳弾性計測法などでICP推定が試みられているが、連続モニタリングには不適、搬送・時間・安定性の問題もあり、日常的なICUモニタとしては現実的でない。
ONSDは、眼球後3 mmの部位で鞘径を測定し、4.8〜6 mmのしきい値でIHを予測した報告が多数。メタ解析では、ONSD超音波はIHの有無判定に良好な診断精度を示し、診断オッズ比は約67と報告されている。ただし、カットオフ値や測定断面のバラつき、IH改善後どの程度で鞘径が“元に戻る”か不明、急激なICP上昇(くも膜下出血など)ではIHがなくても鞘の伸展が起きうるといった限界があり、単独ではなく他の指標と組み合わせることが推奨される。
経頭蓋ドプラ(TCD/TCCD):中大脳動脈などの血流速度波形から、Pulsatility Index (PI) を算出し、PI > 1.4 かつ 拡張末期流速 ≤ 20 cm/s でIHを強く示唆。MAPと組み合わせた推定CPPから 非侵襲的ICP (nICP) を算出する式も提案されている(nICP = MAP − nCPP)。ちなみに、このときのMAPは動脈ラインのゼロ点:耳珠(tragus)の高さで測定すること。
非侵襲的指標の総合的精度:Robbaらの研究では、ONSD・TCD由来のPulsatility Index・推定ICP・瞳孔計NPIはいずれも侵襲的ICPと有意な相関を示し、
ONSD単独:AUC 0.78
PI単独:AUC 0.85
推定ICP:AUC 0.86
NPI:AUC 0.71 であり、ONSD+推定ICPの組み合わせでAUC 0.91 と、マルチモーダル評価の優位性が示された。
ICPモニタリングができないなかでの現実的な対応は以下。

臨床的にIHが疑われる患者に対して、まず頭部CTと「neuro POCUS」(TCD+ONSD測定などの脳超音波)を行う。ONSD > 6 mm(片側でも)、TCDでの高いPIなどがあれば「ICP上昇が疑わしい」(※)と判断して、Tier 0を開始する。
Tier 0実施にもかかわらずIHが持続する場合、Tier 1→Tier 2→Tier 3へと段階的にエスカレーションする。B-ICONICの考え方に沿い、「neuroworsening」(※※)や複数の非侵襲指標の著明な異常がエスカレーションのトリガーとなる。
(※)「ICP上昇が疑わしい」所見:以下のうち2つ以上があれば疑わしい
Optic nerve sheath diameter(ONSD):片側でもONSD > 6 mm、ベースラインから0.5 mm以上の増大
TCD/TCCDによる非侵襲nICP推定値:nICP > 20–22 mmHg
Pulsatility index(PI):PI > 1.4 かつ 終末拡張期血流速度(FVd)< 20 cm/s、PIの増加 > 0.5
Pupillometer-derived neurological pupillary index(NPi):NPi < 3、ベースラインから1以上の低下
さらに、CREVICEプロトコルにおいて「suspected intracranial hypertension(SICH)」と判定し、治療開始すべき条件を「Major criteria」「Minor criteria」で分類されている。
Major criteria(1つあればSICHとして治療)
Marshall CT分類III以上:圧排された脳槽(diffuse injury III)、正中偏位 > 5 mm(diffuse injury IV)
mass lesion > 25 cc
Minor criteria(2つ以上あればSICHとして治療)
GCS motor ≤ 4
瞳孔不同
瞳孔反応異常
Marshall diffuse injury II
(※※)neuroworseningは、治療エスカレーション・頭部CT再検・ICPモニタ挿入の再検討のトリガーとして使われる概念で、GCS motorの自発的低下 ≥1点、新たな瞳孔反応低下、新たな瞳孔不同または両側散大瞳孔、新たな局所運動障害、ヘルニア症候群、またはCushing triadで即時対応が必要な状況を指す。
Noninvasive Intracranial Pressure Monitoring: Are We There Yet?
非侵襲的モニタリングのpitfallや限界についての記載。
ONSD:ICP上昇はくも膜下腔を介して視神経鞘を拡張させるという生理学に基づく。多くの研究で高い診断精度が報告される一方で、バイアス・閾値のばらつき・オペレーター依存性などの問題が大きい。厳密にデザインされた前向きTBI研究では、ONSDのAUCは0.82、感度82%、NPV 98%だが、PPVは28%と低く、閾値の一貫性もない。現状では治療意思決定の中核として頼るべきではない。
TCD(PIおよびCzosnyka法):PIはICP上昇に伴い上昇するが、脳小血管病・血管攣縮・自動調節・その他パレンキマ病変など多因子的で特異度が低い。Czosnyka法(CPPe/ICPe推定)は、初期報告では良好な相関を示したが、後続研究では精度に一貫性がない。大規模多施設IMPRESSIT-2では、ICPeのAUC 0.76、NPV 96%、PPV 23%であり、ICP上昇の除外(スクリーニング)には有用だが、「高いからといって治療開始の根拠にはならない」という位置づけ。
定量瞳孔計測:瞳孔反応は「自然のICPモニタ」として長く重視されてきたが、視診は主観的で信頼性が低い。赤外線瞳孔計により、瞳孔径・収縮速度・弛緩速度などを数値化し、神経学的瞳孔指数(NPi)などの指標として表示。限られたデータではあるが、NPi <3.0を「鈍い」、NPi=0を「無反応」としてICP上昇と相関すること、NPi <3.9を用いるとICP>20 mmHgの除外にNPV 97%を示すなど、早期検出ツールとしての可能性が示唆される。
いずれの非侵襲的指標も、単独では小規模研究・広い信頼区間・有病率の影響などから診断精度に限界がある。TCD-ICPe, TCD-PI, ONSD, 瞳孔計の4つを組み合わせると、ICP>20 mmHg検出のAUCが0.91まで上昇した研究がある。著者自身の施設では、定量瞳孔計(1–4時間ごと)+TCD(1日1回)+CT・アンモニア値などを組み合わせたプロトコルで、侵襲的モニタリング不適の高リスク患者(例:急性肝不全)を管理しているそうな。

視神経鞘(ONS)の境界をしっかり出すこと。さもないと、下図 (A)のように過小評価してしまうことになる((B)が正しい測定)。

Practicalities of noninvasive neuromonitoring in intensive care
nnMRスコアから、連続脳波モニタリング(continuous EEG: cEEG)とNIRSが、手作業による処理なしに連続モニタリングを可能にすることが示された。Blind-TCDとNIRSは良好な時間分解能を提供し、一方でONSDは良好な空間分解能を提供し、cEEGとskull extensometerはその両方を兼ね備えている。完全な解剖学的明瞭性を示すのはcEEGのみであり、そのマルチモーダル統合のためのソフトウェアオプションが今後登場してくる段階にある。

各非侵襲的モニタリングのスペック表。よく使うのはONSDとTCDだけど、
Blind-TCD:時間分解能は高いが、連続自動モニタではなく、局在性も限定的→血行動態変化の瞬間的な評価、ONSD:局所(視神経鞘)の空間分解能は高いが、スポット測定のみで時間・ソフト連携は弱い→ICP高値スクリーニングのスポットでのチェックくらいのスペック。
循環器
心不全
Advances in the management of acute decompensated heart failure
BMJから心不全急性増悪の総説。
ADHFは従来「症状の急性悪化+入院+静注治療」という位置づけであったが、近年は「標準的な心不全治療を行っているにもかかわらず、さらに強化・レスキュー治療を要する『治療の失敗』状態」として定義し直す動きがある。これにより、救急・外来・在宅など“場所”に依存しない概念が強調されている。
ESCは心不全の急性期表現型をADHF(慢性心不全の増悪)、急性肺水腫、右心不全、心原性ショックに分類し、さらに「warm/cold(灌流)」×「wet/dry(うっ血)」の4象限で定義している。
warm & wet:最も多い(約70%)、灌流は保たれるがうっ血あり
cold & wet:約20%、低灌流+うっ血で予後不良
cold & dry:<2%
warm & dry:<10%
ADHFの多くは、心拍出量低下に伴うRAAS・交感神経系活性化 → Na・水貯留+末梢血管抵抗上昇 → 心筋負荷増大という悪循環で説明される。
急性肺水腫は、後負荷上昇や拡張機能障害などによる血液の肺への再分布(必ずしも総水分量増加ではない)で発症し、急速に重篤化する。SCAPE(sympathetic crashing acute pulmonary edema)は、その極端な表現型で、高度高血圧と重度呼吸困難を伴い、交感神経暴走が主因であり、高用量硝酸薬+NIPPVが治療の中心となる。
BNP / NT-proBNPについての整理:BNP <100 pg/mL、NT-proBNP <300 pg/mL であれば、ADHFの可能性はかなり低くなる。高齢・腎不全・女性・SGLT2/ARNI治療中などで値が変動する点に注意。100–500 pg/mL(BNP)などの中間領域は「グレーゾーン」であり、臨床文脈と併せて解釈すべき。年齢別NT-proBNPカットオフ(<50歳:450、50–75歳:900、>75歳:1800 pg/mL)が推奨されている。serialな変化(入院中の減少度合い)も予後や治療反応性の指標となる。
初期治療の整理:急性呼吸困難や肺水腫を呈する患者では、NIPPV(CPAP または BiPAP)が推奨される。早期NIPPV導入は、挿管率を約半減させ、院内死亡率も低減させることがメタ解析で示されている。CPAPとBiPAPの間で死亡率・挿管率に明確な差はない。マスク不耐・嘔吐リスクなどでNIPPVが困難な場合、高流量鼻カニューラも選択肢となり、従来酸素より挿管率を低下させたとする報告がある。
収縮期血圧160 mmHg以上の高血圧性ADHFでは、静注ニトログリセリンが第一選択。静注ライン確保前に舌下スプレー/錠400 µgを投与してもよい。持続静注は0.5–0.7 µg/kg/min程度から開始し、数分ごとに症状と血圧をみながら増量、最大200 µg/min程度まで。場合によっては1,000–2,000 µgのボーラスが有効で、ICU入室率や症状改善に寄与した報告もある。やっぱり多めに使うのがトレンド。大動脈弁狭窄、右室梗塞、肥大型心筋症、著明なvolume depletion では、前負荷依存性が高く、硝酸薬での急激な血圧低下に注意する。高用量ニトログリセリンでも十分な血圧・症状改善が得られない場合、静注エナラプリラート(ACE阻害薬)、静注ニカルジピンなどが第2選択として検討されるが、あくまで補助的な位置づけ。ニトロプルシドは強力な動静脈拡張薬だが、血圧低下リスクが大きく敬遠されがちである。最近のGALACTIC・ELISABETHなどの試験では、早期で集中的な血管拡張戦略が必ずしも長期転帰(死亡・再入院)を改善しなかった点も示されており、「万能解」ではないことが示唆される。
うっ血が明らかな症例では、静注ループ利尿薬が標準治療である。すでに内服ループ利尿薬を使用している場合:→ 入院時の静注初回投与量は普段使いの2倍(フロセミド換算)が妥当。利尿薬未使用または新規発症の心不全では、フロセミド静注40 mgが一般的な開始量。利尿効果の評価は、6時間で 100–150 mL/h 程度の尿量、2時間時点の尿Na 50–70 mEq/Lを目安とし、不十分なら倍量投与や併用利尿薬を検討。Sequential nephron blockadeを意識:ループ利尿薬に加え、サイアザイド系(ヒドロクロロチアジドなど)、メトラゾン、アセタゾラミドを追加して遠位ネフロンもブロックし、利尿抵抗性に対応する。ADVOR試験では、アセタゾラミド500 mg/日追加により、3日以内の「完全除水達成率」が有意に増加し、入院期間も1日短縮したが、死亡・再入院には差がなかった。CLOROTIC試験では、HCTZ併用により体重減少は増えたが、腎障害も多く、転帰改善は明確ではなかった。MRA(スピロノラクトン等)の急性期導入効果は一定しないが、慢性期予後改善からみて、K・Crが許容範囲なら早期から導入を検討する価値がある。
利尿薬抵抗性の重症うっ血では、限外濾過により大量の除水を行うことができる。UNLOAD試験では、48時間後の除水量と90日再入院率の減少が報告されたが、CARRESS-HFでは、利尿薬増量戦略と比べ、限外濾過で除水量に優位性はなく、腎機能悪化など有害事象が多かった。メタ解析でも低血圧などの合併症リスクが示されており、「最後の手段」に近い位置づけである。
心原性ショックは、低血圧(SBP <90 mmHg など)・低心拍出(CI <2.2)・臓器低灌流(乳酸上昇、代謝性アシドーシス等)を特徴とし、死亡率が非常に高い。ノルアドレナリンが第一選択の昇圧薬であり、必要に応じてバソプレシンなどを併用する。低心拍出で末梢灌流不良が明らかな場合、ドブタミンまたはミルリノンを併用する。最近の試験では、全体としてミルリノン群でやや死亡率低下が示唆されたが、ショック合併サブグループでは有意差なし。これら症例では心不全専門医・集中治療医との連携が必須であり、必要に応じてIABP、Impella、VA-ECMO などの機械的循環補助を検討する。

治療介入するポイントが一目でわかる図。
腎臓
RRT
Acute kidney injury: when and how to start renal replacement therapy
ICUにおけるAKIで、RRTを「いつ・どのように」開始するかの最新エビデンスと実践的推奨。
結論として、「緊急適応がなければ待機的に経過観察し、72時間を超える極端な遅延は避ける」「モダリティは循環動態や容量状態に応じて選択」という実践的アルゴリズムが提示されている。

KDIGOステージ2〜3のAKIであっても、「生命を脅かす合併症がない状況」での早期RRT開始は、生存率改善につながらず、むしろRRT回避の機会を奪うことがランダム化比較試験で示されている。「待つ」戦略により、約半数の患者は自然回復によりRRTそのものを回避できる可能性がある。早期開始が有利だった唯一の試験(ELAIN)は、登録時にvolume overloadの患者が多く、結果の解釈が難しい。「純粋な意味での早期開始」の恩恵と解釈するのは無理がある。サブグループ解析でも、特定の患者群だけが早期開始の恩恵を受ける、という明確なグループは同定されていない。むしろ懸念として、乏尿や無尿がない患者では、早期RRTが過剰治療となり死亡率を悪化させる可能性が示唆されている。既存CKDを持つ患者では、より長くRRTに曝露されることで腎回復が阻害され、長期透析依存に陥りやすい可能性がある。これらは、RRTに伴う血行動態不安定化などが腎修復を妨げている可能性があると推論されている。早期RRTは、特に乏尿・無尿がない患者や既存のCKD患者では、死亡リスクや長期透析依存のリスクを増やす可能性が示唆されている。
一方で、「どこまでも遅らせて良い」というわけではなく、AKIKI-2試験などから、ステージ3 AKI発症後72時間を超えるような“極端に遅い”開始戦略は有害な可能性がある。早期よりも待つことのメリットは示されたが、過去の試験における「遅延群」でも、RRT開始の中央値は登録後31〜57時間程度に収まっている。したがって、「72時間を超えるような極端な遅延」が安全かどうかは、当初の試験からはわからない。
AKIKI-2試験の結果:「遅延開始」(ステージ3 AKI発症72時間後の開始)と「さらに遅延」(それ以降まで延ばす)を比較。より遅い戦略は、RRTフリーの日数を増やすことができず、むしろ死亡率増加の傾向が見られた。また、重度AKIを伴う昏睡患者において、より遅い戦略は昏睡から覚醒する確率を下げるという解析も示されている。よって、緊急適応がない場合でも、ステージ3 AKI発症から72時間を超えるような遅延は有害の可能性があると結論付けている(図1でも「maximum 72h」の表現)。
生命を脅かす合併症(重度高カリウム血症、重度代謝性アシドーシス、著明な体液過剰)があれば、RRTは即時開始が推奨されるが、その「閾値」は明確なエビデンスがなく、実臨床ではばらつきが大きい。高カリウム血症では、RCTはなく、先行試験ではK 5.5〜6.5 mmol/LをRRTトリガーとした。利尿薬や新規K吸着薬による回避も選択肢。代謝性アシドーシスでは、pH≦7.20かつKDIGOステージ2〜3のAKI症例でのBICAR-ICU試験から、NaHCO₃投与(250 mL 4.2%)後もpH<7.20ならRRTを遅らせるべきではないとされる。体液過剰は定量評価が難しく、身体所見・バランス・画像・酸素化の総合判断が必要であり、ベッドサイドエコー・バイオインピーダンスが補助となる。
RRTモダリティ(IHD vs CRRT)に関しては、大規模RCTでは死亡率の明確な差はないが、腎機能回復や長期RRT依存に関しては研究間で結果が食い違っている。ある二次解析では、初期モダリティとしてIHDを選択した場合、重症度が比較的低い患者(SOFA < 10)では60日生存率が高いという結果。一方で別の二次解析では、初期モダリティとしてCRRTを選択した場合、90日死亡率とRRT依存のリスクが低く、その効果は主にRRT依存の低減によって説明されると報告。病状が安定している患者にはIHDを選択しても安全と考えられる、という一般的実務感覚に沿った推奨でよいのではないか。
CRRTの処方は、小分子クリアランス20〜25 mL/kg/h程度が標準であり、抗凝固はクエン酸による区域抗凝固がヘパリンよりもフィルタ寿命延長と出血リスク低減の点で優れる。
どの程度の除水速度(ultrafiltration rate)が最適か、また血液濾過(hemofiltration)と血液透析(hemodialysis)の優劣は未解決であり、現在も試験中である。
蘇生
ショック
一般管理
Assessment of Tissue Perfusion Pressure in Patients With Septic Shock: Beyond Mean Arterial Pressure
敗血症性ショックにおける組織灌流圧評価についての総説。
敗血症性ショックにおいては、MAPとCOをガイドライン推奨値まで回復させても、組織レベルの酸素供給や臓器機能が回復しない症例が少なくないため、単純なマクロ循環(MAP, CO)の管理だけでは不十分とされる。ガイドライン上のMAP 65 mmHgは妥当な出発点だが、MAPは「動脈側の入力圧」であり、静脈圧や腹腔内圧が高いと、同じMAPでも実際の組織灌流圧は不足しうる。
知っておくべき概念はCritical Closing Pressure(Pcc)、Mean Systemic Filling Pressure(Pmsf)、Tissue Perfusion Pressure(TPP)とvascular waterfall。
Critical Closing Pressure(Pcc):血管径が小さくなるほど流路断面積が増加し、抵抗が急増して短い距離で圧が低下する。血管内圧が血管壁の平滑筋トーンを下回ると血管は虚脱する。このときの圧が Pcc(critical closing pressure) である。ショックの種類によって、虚脱点となる位置(血管床内のどこでPccに達するか)が変化する。失血・心原性ショックなど血管トーン亢進では、虚脱点がより近位(大きい動脈側)に移動。敗血症性ショックのようなvasoplegiaでは虚脱点は末梢側へ移り、Pcc自体も低下する。
Mean Systemic Filling Pressure(Pmsf):循環が瞬時に停止した際、血液が再分布した状態で全身静脈系にかかる圧が Pmsf であり、静脈還流を駆動する上流圧と考えられる。通常は10 mmHg以下と低く、静脈トーン・組織圧・血液量などで決まる。
Tissue Perfusion Pressure(TPP)とvascular waterfall:TPP = MAP − Pcc で定義され、組織への血流駆動圧となる。さらに、Pcc − Pmsf の圧差が「vascular waterfall」と呼ばれ、動脈側から毛細血管への流れを一定レベル以上に保ち、局所の自己調節を可能にする“落差” として機能する。生理的には、Pmsf ≲ 10 mmHg、安静時 Pcc ≈ 45 mmHg→ Pcc ≫ Pmsf で大きなwaterfallを形成し、毛細血管を高圧から守りつつ、代謝需要に応じた局所血管の拡張・収縮で血流を調節できる。

組織灌流を考えるとき、「MAPだけ」では不十分で、上流側:Pcc(どこまで下げると血管が潰れるか)、下流側:Pmsf・Pra(静脈系がどれくらい満たされ・戻せるか)を一緒にみないといけない。
敗血症では全身のvasoplegiaにより、PccもPmsfも低下する。さらに、Pccの低下がより顕著で、PccがPmsf付近まで落ちることがあり、このときvascular waterfallが消失し、局所血流の自動調節能が失われる。この状態では、MAPとCOを上げても血流分布はよくも悪くも「均一化」(各臓器への血流が“必要に応じた差”をつけられなくなる)してしまい、代謝需要の高い臓器は相対的に低灌流、需要の低い組織は過灌流となる「hyperdynamic hypotension」(大事な臓器には“相対的に足りない”、どうでもいいところには“相対的に多すぎる”)が生じる(低MAP・低DAP、高CO・高HR・高混合静脈酸素飽和度・高乳酸と臓器障害を伴う)。こうして、自己調節の破綻が起きる。さらに敗血症が遷延すると、細胞内シグナルやミトコンドリア機能の異常により、灌流圧を是正しても臓器機能が戻らない「細胞レベルの障害・老化(senescence)」が残存しうる。
VAC(ventriculo-arterial coupling)の理解:「心臓との関係性においてどのくらい後負荷を上げることができるかの指標」「Vasopressorで後負荷を上げたらCOが落ちそうかどうかの見当をつける」。左室は、すでに圧のかかった動脈系にSVを押し出している。動脈側の「重さ(インピーダンス=後負荷)」が増えると、SV は減ってしまう。SV がどれくらい減るかは心臓側の強さ(end-systolic elastance = Ees) と血管側の硬さ・細さ(arterial elastance = Ea)のバランスで決まる。この心臓(Ees)と血管(Ea)の関係がVACで、VACの比が1に近いと効率がよく、自動調節もしやすい。敗血症性ショックではvasoplegiaによりEaが低下し、この状態で昇圧薬によりEa(後負荷)を上げると、潜在していた左室収縮障害が“顕在化”し、COが低下して初めて心機能障害が見えてくることがあるのが注意点。VAC が「そこそこ良好(≈1)」なら→多少 Ea(後負荷)を上げても、心臓はまだ頑張れる→「MAPをもう少し上げようか」が比較的安全にできるイメージである一方、VAC がかなり悪い(心臓の力に比べて後負荷が重すぎる)なら→ これ以上 vasopressor で後負荷を上げると、COがさらに下がって逆効果になりうる。
Eadyn(Dynamic Arterial Elastance)の理解:「COの変化がどのくらいMAPの変化につながるかの指標」「今の循環状態で、「輸液やノルアドの調整が MAP にどれくらい効いてくるか」を予測」。左室のSVが変わると、それに応じてPP(SAP−DAP)も変わる。その「SVの変化とPPの変化の関係」が dynamic arterial elastance(Eadyn)であり、Eadyn = PPV / SVV(PPの変動幅 / SVの変動幅)として計算される。Eadyn < 1 の場合、SVが増えてもPPの増加が小さく、輸液でCOは上がるがMAPがあまり上がらない患者像が想定される。この場合、昇圧薬の併用が必要になりやすい。逆に、昇圧薬投与中にEadyn > 1.1 であれば、ノルアド減量に伴うMAP低下のリスクが低いとされ、より安全かつ迅速な離脱が可能となる可能性が示されている。
※SVV:呼吸ごとにどれだけSVが上下しているか(%)、PPV:呼吸ごとにどれだけPPが上下しているか(%)なので、SV = 1回で風船に入れる水の量、PP = 風船の内圧とたとえると、同じだけ水を増やしたときにペラペラの風船(柔らかい動脈)→ かなり膨らむけど、内圧はあまり上がらない(PPの変化が小さい)→ SVは変わるのにPPはあまり変わらない → Eadynは小さい、カチカチの風船(硬い動脈)→ 少し水を足しただけで、すぐ圧が上がる(PPの変化が大きい)→ SVがちょっと変わるとPPが大きく変わる → Eadynは大きいというように考えることもできる。例1:PPV = 20%、SVV = 10%→ Eadyn = 20 / 10 = 2(大きい)「SVが増えるとPP(≒MAP)もよくついてくる血管」。例2:PPV = 10%、SVV = 15%→ Eadyn ≈ 0.7(小さい)「SVはかなり変わるのに、PPがあまり変わらない血管」。
SAP・MAP・DAP・PP・HRそれぞれの臨床的意味
SAP:ショックの型を問わず低下しうる“非特異的ショックマーカー”。SAPの大きな変動・不規則な変動は予後不良と関連し、その原因はしばしばfluid deficitであり、単純な昇圧薬不足ではないとされる。
MAP:多くのガイドラインで 65 mmHg以上が初期目標とされるが、慢性高血圧患者では「平常から15%以上低下しないこと」が望ましい、高い中心静脈圧や腹腔内圧がある場合はより高いMAPが必要など個別に考えることはある。したがって重要なのは TPP(=MAP − Pcc)や、静脈圧・腹腔内圧を含めた“実効灌流圧” である。
DAP:冠血流の入力圧であるため、DAP < 40 mmHg は左室虚血リスクと関連する。DAPは血管トーンとPccを強く反映するが、HRで大きく左右される。頻脈では拡張期が短いためrunoffが減り、同じSVでもDAPが高く見える。敗血症性ショックで、DAP 50–70 mmHg・HR 60–90 bpm が転帰良好な範囲とされ、DAP ≤ 40 mmHg かつ HR ≥ 100 bpm は高死亡リスク。resuscitation後24時間時点の DAP < 59 mmHg は28日死亡率の上昇と関連し、MAP 65を達成した後も DAP ≥ 59 mmHg を目標とする戦略が提案されている。
PP:PPが低い(SAPとDAPが近い)ことはSVが小さいか、血管トーンが高いことを示唆する。敗血症においては低PPが死亡率上昇と関連するとの報告がある。機械換気中の PPV ≥ 13% は輸液反応性を高く示唆する。
HR:HR上昇 → 拡張期時間が短縮 → 動脈内から末梢へのrunoff時間が減少 → 同じSVでもDAPが高く維持される。したがって、頻脈患者では「DAPが保たれているから血管トーンが保たれている」と早合点すると危険で、実際には重度vasoplegiaを頻脈がマスクしていることがある。HRとDAPを統合した指標が Diastolic Shock Index(DSI = HR / DAP)。DSI > 2.2 は敗血症性ショックで死亡率が有意に高い。一定のHRでDAPが下がる、あるいは一定のDAPでHRが上がる、いずれもDSIが上昇し予後不良となる。DSIはベッドサイドで簡単に計算でき、早期からの血管無力症の重症度評価や昇圧薬開始の判断に役立つ可能性がある。
観血的動脈圧と非侵襲的測定(カフ)は、平常状態では大きな差がないことも多いが、低血圧やvasoplegiaの場面では誤差が大きくなりやすい。特に昇圧薬高用量(ノルアド ≥ 0.1 μg/kg/min)では、橈骨動脈圧が大腿動脈圧を5 mmHg以上過小評価する(低く見積もる)症例が6割以上という報告もある。末梢ではreflected pressure wave(反射波:これが中枢血圧にプラスされるような感覚)の影響で pSAP > cSAP となるのが通常だが、vasoplegiaが進むと反射波が減弱し、末梢測定が中央圧を過小評価することが、ショック管理では問題になる。つまり、「実際より低く見えている血圧を基準に血管収縮薬を増やし続ける」→ 過度な昇圧・過治療につながる可能性があり、ショック管理上のpitfallとなる。これを補正するため、cSAP = MAP² / DAP という推定式が提案されている。また、非侵襲的カフ測定は平均するとSAPを過小評価・DAPを過大評価(各6 mmHg程度)するバイアスも報告されており、ショック患者では観血的ラインが依然として推奨されてはいる(※最近違うテイストの研究も出ていたが)。
Pcc・Pmsfをベッドサイドで測定することはできるが、いずれも実践的ではない印象。
Pcc:動脈ラインを急速に遮断し、10〜12秒間の圧の減衰カーブからPccを推定する方法。でも現実的にはむりぽ。Pmsf arm:上腕カフをSAP + 50 mmHg以上に急速加圧し(0.3〜1.4秒)、上腕の動静脈を一時的に遮断して平衡圧を測定する。これがPmsfに対応。Pmsf analogue:Guytonモデルに基づき、Pmsf = a×CVP + b×MAP + c×CO(a + b = 1 で、a ≈ 0.96, b ≈ 0.04、スマホアプリ iGuyton が自動計算を支援)。Pmsf inspiratory hold:機械換気患者で、複数レベルの終末吸気ポーズ(2〜10 cmH₂O)を行い、そのときの右房圧とCOをプロットし、CO=0となる外挿点をPmsfとみなす。ん~、なんか小難しい。現実的には、PmsfはCVPあたりから、PccはDAPやDSIから間接的に推定するくらいだろうか。
TPP・vascular waterfallと微小循環についての考え方:心臓術後患者の研究では、TPP > 34 mmHg が良好な乳酸クリアランスと微小循環の自己調節維持と関連した。術後vasoplegia患者の研究では、蘇生前には Pcc − Pmsf < 5 mmHg とwaterfallがほぼ消失していたが、ノルアドでMAPを80 mmHg以上に上げると、約半数でPccが上昇しwaterfallが再形成され、乳酸・ΔPCO₂・舌下微小循環・CRT が改善した。一方で、MAPやTPPを上げてもwaterfallが再形成されない症例では、追加の昇圧薬や輸液を増やしても微小循環は改善せず、むしろ有害となる可能性が示唆される。
Macro–micro circulation coupling:敗血症では、MAP・COの改善が必ずしも微小循環(舌下ビデオ顕微鏡、CRTなど)の改善に結びつかない「incoherence」が頻繁にみられる。ANDROMEDA-SHOCK では、CRTをターゲットにMAPを調整する試験的アプローチがとられ、MAPを80〜85 mmHgに上げた際にCRTが改善する患者では「高めのMAP維持に意義がある」が、逆にCRTが悪化する場合はMAP目標をむしろ下げるべきという考え方が提案されている。著者らは、実践的な目安としてMAP ≥ 65 mmHg、TPP > 35 mmHg、Pcc − Pmsf > 10 mmHgでなお末梢低灌流(CRT延長・高乳酸など)が続く場合、さらなる輸液や昇圧薬増量は利益より害が大きい可能性が高く、他の要因(細胞レベルの障害など)を考慮すべきと考えている(ただし、これは仮説であり、今後の臨床試験で検証が必要)。
ESICM guidelines on circulatory shock and hemodynamic monitoring 2025
ショックと循環モニタリングに関するESICMのガイドライン2025。
1.ショックとは、組織灌流の低下を特徴とする生命を脅かす急性循環不全であり、その結果として、細胞の代謝需要を満たすのに十分な酸素供給および/または酸素利用が得られない状態である。
2.典型的な特徴は低血圧、頻脈、そして異常な皮膚灌流、尿量減少、意識状態の変容といった低灌流の徴候(「3つの窓」という記載がある)である。低血圧はしばしば認められるが、ショックを定義するために必須ではない。
3.ショック状態では乳酸値は典型的に上昇しており(>2 mmol/L)、これを認めることが多い。
4.ショックの経過を追跡し、基礎にあるパターンおよび心拍出量(CO)と血管機能の適切性を評価するために、組織灌流の連続的評価を行うべきである。
5.皮膚灌流のモニタリングは、CRT(毛細血管再充満時間)の評価によって行うべきであり、これに皮膚温およびskin mottling(皮膚斑状変化)の評価を補足してもよい。
6.中心静脈カテーテルを有する患者では、(中心)静脈血酸素飽和度[S(c)vO2]の連続測定を行うべきである。
7.中心静脈カテーテルおよび動脈カテーテルを有する患者では、二酸化炭素分圧の静脈‐動脈較差(Pv-aCO2)の連続測定を行うべきである。
8.中心静脈カテーテルおよび動脈カテーテルを有する患者では、Pv-aCO2を酸素含量の動静脈較差(Ca-vO2)で割った比(Pv-aCO2/Ca-vO2)の連続測定を行うことを考慮してもよい。
※S(c)vO2は、全身の酸素供給と需要のバランスを直接反映する。Pv-aCO2勾配は主として心拍出量によって規定され、Pv-aCO2/Ca-vO2比は嫌気性代謝の指標となる。Pv-aCO2 ≒ VCO2 / CO(「CO2排出量」をCOで割ったもの)、Ca-vO2 ≒ VO2 / CO(「O2消費量」をCOで割ったもの)と表現されるため、Pv-aCO2 / Ca-vO2 ≒ (VCO2 / CO) / (VO2 / CO) = VCO2 / VO2と表すことができる。つまり、組織レベルの「CO2産生量/O2消費量」=呼吸商(RQ)に近い指標となる。好気的代謝では、VCO2とVO2のバランスはおおむね一定(RQ ≒ 0.7–1.0)となるが、嫌気性代謝が優位になると、余分なCO2が出てくるので、 VCO2/VO2(≒ Pv-aCO2/Ca-vO2)が上昇する。
9.可能であれば、包括的な血行動態評価に加える補助的手段として、微小循環の評価を考慮してもよい。
※舌下微小循環の可視化により、初期のマクロ循環指標を標的とした蘇生後にも持続する異常灌流が明らかになる場合がある。この手法は、循環不全の診断および治療最適化に資する重要な情報を明らかにしうる。ただし、微小循環を評価することがショック患者の転帰を改善するという強固なエビデンスは、現時点の文献には存在しない。
10.初期輸液蘇生後もショックが持続している患者では、輸液蘇生を継続する前に輸液反応性を評価すべきである。
11.輸液反応性の評価によって予測される輸液投与の潜在的利益は、輸液投与の潜在的リスクと比較衡量されるべきである。
12.輸液投与による有害事象のリスクは、血管内容量充満圧、腹腔内圧、血管外肺水分量(EVLW)、肺血管透過性指数(PVPI)、静脈うっ血超音波(VExUS)グレーディング、動脈血酸素分圧と吸入酸素濃度の比(PaO2/FiO2比)、あるいは肺エコースコアといった指標を用いて評価しうる。
13.Fluid challengeとは、その効果を評価しながら5〜10分かけて200〜500 mLのボーラスを投与することで定義される。
14.心拍出量(CO)モニタリングが可能な場合はCOに対する効果を、利用できない場合には平均動脈圧(MAP)よりも脈圧に対する効果を評価することを考慮してもよい。
15.組織灌流を改善するうえでの輸液ボーラスの有効性は、CRT、skin mottling、S(c)vO2、二酸化炭素分圧(pCO2)由来の指標、乳酸といった変数の変化を考慮して評価すべきである。
16.適用可能な場合には、前負荷の静的指標よりも動的指標を用いて輸液反応性を予測することを推奨する。
17.人工呼吸管理下にあるショック患者において、自発呼吸活動の有無にかかわらず、輸液反応性評価のために下肢挙上(PLR)テストを用いることを推奨する。
18.人工呼吸管理下にあり自発呼吸活動のないショック患者において、PLRテストの代替として、呼気終末オクルージョンテスト(EEOT)を用いることを推奨する。
19.人工呼吸管理下にあるショック患者において、PLRテストの代替としての一回換気量チャレンジ(tidal volume challenge)の使用に関しては、利用可能なデータの乏しさおよび/または不均質性のため推奨を提示できない。
20.人工呼吸管理下にあり自発呼吸活動がなく、一回換気量が8 mL/kg以上のショック患者において、輸液反応性評価のために脈圧変動(PPV)を用いることを推奨する。
21.人工呼吸管理下にあり自発呼吸活動があり、一回換気量が8 mL/kg未満のショック患者において、輸液反応性評価のためにPPV単独を用いることには反対を提案する。
22.人工呼吸管理下にあり自発呼吸活動がなく、一回換気量が8 mL/kg以上のショック患者において、輸液反応性評価のために一回拍出量変動(SVV)を用いることを提案する。
23.人工呼吸管理下にあり自発呼吸活動を有するショック患者において、輸液反応性評価のためにPPVを用いることに関しては、推奨を提示できない。
24.人工呼吸管理下にあり自発呼吸活動を有するショック患者において、輸液反応性評価のためにSVVを用いることに関しては、推奨を提示できない。
25.ショック患者におけるミニフルードチャレンジテストの使用に関しては、利用可能なデータの乏しさおよび/または不均質性のため推奨を提示できない。
26.重症患者において、輸液反応性評価のために下大静脈(IVC)径の変化のみを用いることには反対を提案する。
27.初期治療に反応しない患者においては、ショックのタイプを評価し、血行動態状態を評価し、治療反応性を判定するために、心拍出量(CO)および/または一回拍出量をモニタリングすべきである。
28.COの頻回再評価を考慮してもよい。
29.COをモニタリングする場合、その適切性は、臓器機能、組織酸素化、代謝、および灌流の評価と組み合わせて解釈すべきである。
30.心拍出量(CO)モニタリングが必要な患者においては、経肺熱希釈法または肺動脈カテーテル(PAC)を用いた肺動脈熱希釈法を考慮してもよい。
31.ショックかつ中等度〜重度ARDSを有する患者において、輸液療法の指針とする目的で、経肺熱希釈法またはPACの使用を考慮してもよい。
備考:右心不全のない患者では、EVLWを測定できるため、経肺熱希釈法が推奨される。
備考:右心不全を有する患者では、肺動脈圧を測定できるため、PACが推奨される。
32.心臓手術後に右心不全を伴う持続性ショック患者においては、反復心エコーに加えてPACの使用を考慮してもよい。
33.ショック患者において、PACや経肺熱希釈のようなより侵襲的な方法よりも、当該状況においてCO推定の精度が証明されている、より低侵襲のCOモニタリングデバイスを使用してもよい。
34.ショックのタイプおよび血行動態状態を評価する第一選択の画像モダリティとして、心エコーの使用を推奨する。
35.COがモニタリングされている場合でも、心機能に関する追加情報を得るために、反復心エコー評価を行うべきである。
36.ショック患者では動脈圧をモニタリングすべきである。
37.初期治療に反応しないショック、および/または昇圧薬投与を要するショックでは、動脈カテーテルを用いて動脈圧をモニタリングすべきである。
38.ショック患者の蘇生中における血圧目標は、個々の患者に応じて設定すべきである。
39.敗血症性ショック患者では、初期の目標MAPは65〜70 mmHgとすべきである。
40.慢性高血圧の既往があり、より高い血圧で臨床的改善を示す敗血症性ショック患者では、より高いMAP目標を考慮してもよい。
41.高いCVP値を有し、より高い血圧で臨床的改善を示す敗血症性ショック患者では、より高いMAP目標を考慮してもよい。
42.外傷性出血性ショックかつ出血がコントロールされていない患者で、外傷性脳損傷を認めない場合には、より低いMAP目標を考慮してもよい。
43.外傷後の初期相において、外傷性脳損傷および昏睡(Glasgow Coma Scale ≤ 8)の臨床的証拠がない場合には、主要な出血が止血されるまで、収縮期血圧80〜90 mmHg(MAP 50〜60 mmHg)を目標とすべきである。外傷性脳損傷(Glasgow Coma Scale ≤ 8)では、初期の目標MAPは80 mmHg以上とすることを推奨する。
※外傷性脳および/または脊髄損傷患者では、脳灌流圧を維持するため、permissive hypotensionを標的とする蘇生戦略は禁忌とされる
44.心原性ショック患者では、初期の目標MAPとして65 mmHg以上を考慮してもよい。
45.腹腔内高血圧のリスク因子を有するショック患者では、腹腔内圧(IAP)の経時的モニタリングを考慮してもよい。
46.中心静脈カテーテルを有するショック患者では、中心静脈圧(CVP)を測定すべきである。
47.ショック患者の蘇生中に、あらかじめ設定した特定のCVP値を目標とすべきではない。
48.循環ショック患者に対して、1回以上の心エコー検査を行うことを提案する。
49.ショック患者において,心エコーで定義される左室および右室収縮機能のフェノタイプは,予後的意義を有する可能性がある。
※LVEFは感度の高いマーカーではなく、MAPSEなどの縦方向収縮の指標の方が左室収縮能低下を拾いやすい可能性がある。大規模コホートでは、LVEFと死亡率にU字カーブ→ 低LVEFも、過運動性LVEF(>70%)も両方死亡率が上がるとは報告されている。右室機能障害は入院および28日死亡と独立して関連。右室が拡大&収縮低下+CVP高め → “右室failureフェノタイプ”を疑い、輸液の攻めすぎに注意くらい。敗血症性ショックにおける拡張機能障害の予後的意味は、現時点でははっきりしない。
50.循環ショック患者において,心エコーはマネジメントの変更をもたらし,治療効果を裏づける。
呼吸器
VAP
Ventilator-associated pneumonia
2025年最新版のVAP総説。
下気道サンプリング方法として気管吸引と気管支鏡下BALがあるが、侵襲的 vs 非侵襲的サンプリングを比較したメタ解析では、VAP疑い患者において死亡率など患者中心アウトカムの改善は示されておらず、ガイドラインでも推奨が分かれている。
新たな診断ツールとして、以下がある。
multiplex PCRパネル:気管支鏡サンプルから、VAP起炎菌候補最大20種+耐性遺伝子マーカー最大20種を数時間で検出可能。標準培養との一致率は50〜60%程度と報告。生菌/死菌由来DNAを区別できず、コロナイゼーションの過検出による「偽陽性」や過剰治療のリスクがある。
HMEフィルターの揮発性有機化合物(VOC)解析:HMEフィルターに捕捉された呼気成分からVOCを解析し、特定のグラム陰性菌増殖と関連する炭化二硫化物等を検出する研究。臨床所見より最大3日前にVAPを検出し得る可能性が示唆されているが、現時点では研究ツールに留まる。
リスク因子は、
患者要因:高齢、男性、喫煙歴、免疫抑制、糖尿病
入院関連要因:意識障害での入院(例:脳障害、薬物中毒など)、熱傷・外傷、既往の広域抗菌薬曝露、人工呼吸期間の延長。
起炎菌として、
代表的グラム陰性桿菌:Pseudomonas aeruginosa、Klebsiella pneumoniae、Escherichia coli、Acinetobacter spp.
グラム陽性菌:Staphylococcus aureus(特にMRSA)
P. aeruginosa VAPでは多剤耐性株の割合が約33%(国により19〜87%と大きく変動)。耐性菌リスクとして、人工呼吸開始から5日以降の遅発VAP、広域抗菌薬曝露歴が挙げられる。
予防策として、
Ventilator bundle:IHIが提唱した4要素(ベッド頭側挙上30°、自発覚醒&自発呼吸トライアル、ストレス潰瘍予防、静脈血栓塞栓症予防)と、回路交換を頻回に行わない、声門上吸引・カフ圧管理・胃残量測定・口腔/消化管の選択的デコンタミネーションなどが追加される形で各施設のbundleが形成された。SRではVAP発生率低下と関連したが、いずれも小規模な前後比較研究でバイアスのリスクが高く、構成要素もバラバラであり、どの介入が有効かは特定困難。
観察研究ではPPI使用とVAP増加の関連が示唆されていたが、PEPTIC試験(PPI vs H₂ブロッカー):死亡率差なし。VAPについては一部センターしかデータなく差は明らかでない。大規模RCT(pantoprazole vs プラセボ)2本とメタ解析の結果、PPIは感染合併症(肺炎含む)リスクを明確には増加させないと結論。現時点のエビデンスでは、PPIによるストレス潰瘍予防は「VAPリスク増加とは言えない、ほぼ安全」とされる。
胃残量をモニターしない戦略は、VAP発生率においてモニター群に対して非劣性であり、死亡率や肺炎発症にも有意差は示されていない。メタ解析でも同様の結果。
消化管選択的デコンタミネーション(SDD):非吸収性抗菌薬を口腔・消化管に投与し、場合により短期の静注抗菌薬を併用する戦略。SuDDICU試験単独では死亡率差はなかったが、これを含むメタ解析/Bayesian解析ではVAP発生と病院死亡率の減少に高い確率で関連するとされた。特に静注抗菌薬併用群の効果が大きい可能性。急性脳障害患者の事後解析では、SDD群で死亡率低下が示され、意識障害・誤嚥リスクの高い集団ではbenefitが大きいかもしれない。一方で、耐性菌出現リスクと、感染症/薬剤部門等を巻き込んだ大規模体制構築が必要なため、導入は各施設の状況・優先度に応じて慎重に判断すべき。
吸入アミカシン(AMIKINHAL試験):人工呼吸開始72時間以内に3日間投与で、中央判定によるVAP発生率を有意に減少。心停止後のICU患者に対する48時間の静注アモキシシリン/クラブラン酸:VAP減少はあるが、換気フリーデイズ・死亡率に差はない。急性脳障害患者への単回セフトリアキソン(PROPHYVAP):早期VAP減少に加え、死亡率10%絶対減少を報告。ただし試験は死亡率を主要アウトカムとして設計されておらず、効果推定は過大評価の可能性が高い。メタ解析では、急性脳障害患者でVAPリスクは下がるが、死亡率差は確証されていない。また、早期から抗菌薬を使用することで培養陰性VAPが増え、「VAP減少」と見えても実際には診断が抑制されているだけの可能性も指摘される。結論として、急性脳障害患者における予防的抗菌薬は有望だが、ルーチン実装にはさらなる大規模試験が必要である。
初期抗菌薬の選択では、早期発症かつ多剤耐性リスクの低いVAP:第3世代セフェム、あるいはβラクタマーゼ阻害薬配合アミノペニシリン(例:amoxicillin-clavulanate)を推奨(弱い推奨・エビデンス低)。後期発症(5日以降)または多剤耐性リスクあり:抗緑膿菌活性を持つ広域βラクタム(piperacillin-tazobactam, cefepime, meropenemなど)。MRSA高リスクであればバンコマイシンまたはリネゾリド追加。抗菌薬は、培養結果が得られ次第可能な限り狭域化(de-escalation)し、耐性菌出現を抑制する。
薬剤選択上の最近の論点:カルバペネム多用によるカルバペネマーゼ産生菌増加の懸念。piperacillin-tazobactamはAmpC産生菌への活性が不十分なことがあり、その対策としてcefepime使用が増えている。しかしACORN試験では、piperacillin-tazobactamとcefepimeで腎障害・死亡率には差がない一方、cefepime群でせん妄/昏睡のない日数が少なく、神経毒性の懸念が示された。著者らは、局所アンチバイオグラムで両者が同等なら、神経毒性リスク回避のためpiperacillin-tazobactamを優先することを推奨している。
BLING-III試験:敗血症患者に対し、piperacillin-tazobactam または meropenem を持続 vs 間欠投与で比較。主要アウトカム(90日死亡)では有意差なしだが、調整解析やBayesianメタ解析を含めると「持続投与による死亡リスク低減の可能性」が高いことが示された。著者らは、敗血症/敗血症性ショックの基準を満たすVAP患者では、βラクタムの持続(または長時間)投与をルーチンに用いることを推奨。
治療期間:一般的には7–8日で十分であり、5つのRCTメタ解析では7–8日 vs 10–15日の比較で治療失敗率は増加せず、抗菌薬free daysが増加。血流感染があっても7日vs14日で非劣性とするエビデンスがあり、「長期療法の必要性」は限定的。長期療法が必要な例:免疫不全、嚢胞性線維症、膿胸、肺膿瘍、空洞形成、壊死性肺炎など。REGARD-VAP試験では、解熱・循環安定化を目安に、呼吸器培養陰性:最短3日、培養陽性:最短5日、それ以外でも最大7日という個別化短期療法が、従来の≥7日療法に対して非劣性であることを示した。

NIRS
HFNT、CPAP、BiPAP などの「非侵襲呼吸補助」について、生理学的効果・機器と回路・インターフェース・設定方法・臨床適応を一体として解説する臨床ガイド。
HFNT の特徴:加熱加湿された高流量ガス(通常 30–60 L/min)を専用鼻カニュラから投与し、低レベルの陽圧(約 1–4 cmH₂O)と上気道の CO₂ 洗い出し(解剖学的死腔の洗浄)をもたらす。従来の鼻カニュラやマスクなどの低流量酸素療法では、患者の吸気ピークフローに比べ供給流量が少なく、吸気時に室内空気が多量に混入し FiO₂ が大きく変動していた。HFNTとして高流量にすることによって、FiO₂ の安定化(流量を患者の吸気流量以上に設定することで室内空気混入が減り、設定した FiO₂ を安定して供給できる)、低レベル PEEP(1–4 cmH₂O)をかけられる(高流量が鼻腔内圧をわずかに上昇させ、呼気終末肺容量を増加させる。これにより肺胞虚脱の予防・換気分布の均一化が得られる)、上気道 CO₂ 洗い出しと WOB 低下(上気道のデッドスペースを洗い出すことで肺胞換気を増やし、同じガス交換をより低い分時換気・呼吸数で達成できる)といった効果が望める。AHRF(低酸素主体)の患者では、40–60 L/min といった高流量への増加で呼吸ドライブ、呼気終末肺容量、酸素化が改善するため、最大限に耐えられる流量(例:60 L/min)から開始し漸減することが推奨される。一方、COPD 等の高 CO₂ 患者では、30–40 L/min 程度の中等度流量で上気道 CO₂ 洗い出し効果が十分得られ、それ以上の流量増加による追加効果は乏しいとされる。一方の鼻孔のプラグ径を大きく、他方を小さくした「非対称 HFNT カニュラ」は、片側の閉鎖度を高めることで 平均気道圧上昇と CO₂ 洗い出し効率の改善を狙ったデザインとなっている。一部の試験では、標準 HFNT よりも分時換気と WOB を減らしうるが、他の試験では肺換気効率に明確な優位性が見られないなど、効果は文脈依存。高温設定(37℃)は絶対湿度が最大になる一方で、患者の快適性は約 31℃ の低め設定の方が高いというデータがあり、過剰な加湿は不快感を生みうる。実臨床では、やや低めの温度から開始し、患者の快適性を見ながら調整するアプローチが推奨される。
CPAP の特徴:PEEPで 終末呼気肺容量を増加させ、虚脱肺胞を再開通し、シャントを減らし酸素化とコンプライアンスを改善する。軽〜中等度 AHRF では、CPAP による肺胞安定化がatelectraumaの回避にもつながる。胸腔内圧上昇と右房圧上昇により静脈還流(右室前負荷)が減少し、うっ血性肺水腫時には間質浮腫の軽減と酸素拡散能改善をもたらす。同時に、左室の経壁圧と吸気時の大きな陰圧が軽減されることで左室後負荷が減少し、心拍出が改善する。これは特に左室機能不全の CPE 患者で顕著となる。
BiPAP の特徴:PEEP に加えて吸気圧サポートを与え、分時換気の増加・CO₂ 排出の改善・呼吸筋の解除・WOB(呼吸仕事量)の減少をもたらす。COPD では小気道抵抗・気道虚脱・弾性リコイル低下により、呼気流量制限と PEEPi(内因性 PEEP)が生じる。BiPAP による 外因性 PEEP は、小気道を開存させて PEEPi を一部「吸収」し(PEEP absorber)、吸気開始時のしきい負荷を減らし WOB を低減、肺容量をほぼ一定に保ち動的過膨張を抑える。ただし、喘息のような閉塞では外因性 PEEP が PEEPi と加算され(non-absorber)、過膨張を悪化させる可能性があり注意。重度肥満では仰臥位で横隔膜運動が制限され、小気道虚脱と PEEPi が生じやすい。OSA 併存例では、BiPAP による PEEP が 上気道ならびに末梢気道の開存維持に役立ち、夜間低換気を改善する。NIV 中の代表的な非同調は、リークによるオートトリガーと、リークのために終末流量基準に達せず吸気相が延長する終了遅延。改善策として、マスクサイズ・タイプの適正化(リーク減少)、PS/PEEP/立ち上がり時間/呼気トリガ閾値の調整、NIV 専用機や ICU ベンチレータのリーク補償機能の活用が挙げられる。NIV 中も、特に高流量・口呼吸患者では乾燥ガスにより粘膜乾燥や気道過敏化を来すため、加湿は推奨される。HME(人工鼻)はデッドスペース増加と抵抗増加があり、リークが多いと性能低下する。HH(加熱加湿器)は HME よりも 肺胞換気と CO₂ 排出の改善・WOB 減少が示されており、特に高 CO₂ 症例に向く。温度は 26–28℃ に設定し、患者の快適さと耐容性に応じて調整する。ただしフェイスマスクでは、やや高めに設定してもよい(粘膜乾燥を防ぎ、快適性を上げるため)。
インターフェース(マスク vs ヘルメット): facemasks/oro-nasal masksは小さな内部容量・CO₂ リブリージングを減らせる二ポート回路もあるが、リーク・皮膚障害・会話や飲水の妨げが弱点。回路構成として、シングルリム回路とダブルリム回路がある。シングルリム回路でwhisper(リークアダプター)を用いた場合、有効な二酸化炭素除去が得られるのは PEEP が 8 cmH2O 以上のときに限定される。plateau exhalation valve では、任意の PEEP レベルで完全な CO2 クリアランス得られる。ダブルリム回路では、高いバイアスフローでマスク内デッドスペースを洗い出し、CO₂ 再呼吸を最小化できる。
※気になったので調べてみましたが、当院で使用しているV60はシングルリム回路ですが、plateau exhalation valveが組み込まれているので任意のPEEPでCO2クリアランスが得られるそうな。当然、人工呼吸器の方はダブルリム回路なのであまり気にせず。
ヘルメット:顔面接触がなく長時間・高 PEEP に耐えやすく、飲水や会話もしやすい一方、大きな内部容積によりCO₂ 再呼吸や圧立ち上がり遅延、騒音など特有の注意点がある。H-CPAP では、自由流入式の高流量フロー(通常 ≥60 L/min)+ PEEP バルブでヘルメット内圧を一定に保つ。従来型ヘルメットで BiPAP を行うと、大きな内部容量と高コンプライアンスのため圧立ち上がりが遅れ、吸気圧が十分伝わらない。新世代の H-BiPAP 用ヘルメットは内部容積・コンプライアンスを減らし、より良好なトリガ・圧支持が得られるよう設計されている。それでもフェイスマスク BiPAP と比べると、COPD では呼吸困難軽減効果がやや劣る報告もあり、CO₂ 再呼吸と不同調を意識した設定最適化(PEEP 10–12、PS 10–14、短い立ち上がり時間など)が重要とされる。
主な臨床適応のまとめ

心原性肺水腫(CPE): 多数の RCT により、CPE では CPAP/BiPAP が 挿管率・院内死亡率を低下させることが示されており、薬物療法に加える第一選択とされる。BiPAP で心筋梗塞リスクが増加したとの古い報告があったが、その後の試験では否定的であり、CPAP と BiPAP の優劣は明確でない。HFNT は COT より呼吸数を大きく減少させ、BiPAP に対しても挿管/死亡の複合アウトカムで非劣性であり、長時間のサポートや CPAP/BiPAP 不耐の患者向けに有用。
de novo 急性低酸素性呼吸不全(非心原性 ARDS/Pneumonia 等): HFNT を ICU における第一選択とすべきと推奨。COVID-19 関連 AHRF では CPAP も挿管回避目的で選択肢。FLORALI 試験では、PaO₂/FiO₂ ≤300 の AHRF 患者で HFNT は COT と比べ挿管率は同等だが、90 日死亡率の改善・PaO₂/FiO₂ ≤200 のサブグループで挿管率減少を示した。その後の RCT・メタ解析でも、HFNT は COT に比べ 挿管回避に有利だが死亡率には明確な差はないという傾向。CPAP/BiPAP は COT に比べ挿管率・死亡率を減らし得るとのネットワークメタ解析もあるが、CPE や慢性肺疾患を除く厳密な de novo AHRF では結果が一貫せず、ガイドラインも明確な推奨はしていない。COVID-19 AHRF では RECOVERY-RS 試験において CPAP が COT に比べ挿管率と 30 日死亡率を低下させた一方、HFNT は COT と差を示さなかった。
AECOPD+呼吸性アシドーシス:AECOPD+呼吸性アシドーシス患者では、BiPAP が COT に比べ 挿管率を 75%→10–15% に低下させ、死亡率も減少させる強いエビデンスがある。HFNT は WOB や PaCO₂ の改善、次回増悪までの時間延長など生理学的には有利だが、挿管回避や治療失敗率で BiPAP に非劣性と証明されてはいない。近年の RCT では、高強度 BiPAP(より高い PS)を用いることで挿管率をさらに減らせる可能性が示唆される。結論として、AECOPD の急性呼吸性アシドーシスにはフェイスマスク BiPAP を第一選択、BiPAP 不耐や休憩中の補助として HFNT を考慮、という立場。
抜管後の予防的非侵襲呼吸補助:高リスク患者では BiPAP(もしくは BiPAP+HFNT)が HFNT 単独よりも再挿管率を下げる。低リスク患者では HFNT vs COT の結果はまちまちだが、ガイドラインは COT より HFNT をやや支持。高リスク患者(高齢・長期人工呼吸・合併症あり)では、BiPAP(または BiPAP+HFNT)が HFNT 単独や COT より再挿管率を減らす。肥満患者では、BiPAP+HFNT が HFNT 単独より再挿管・死亡のリスクを下げることが示されている。
| モダリティ | CPE | de novo AHRF | AECOPD |
|---|---|---|---|
| HFNT |
- FiO₂:0.21–1 - 流量:40–60 L/min - 温度:31–37 ℃ - 加湿:加熱加湿器(HH)推奨 |
- FiO₂:0.21–1 - 流量:40–60 L/min - 温度:31–37 ℃ - 加湿:HH 推奨 |
- FiO₂:0.21–1(SpO₂ 88–92%を目標) - 流量:30–40 L/min - 温度:31–37 ℃ - 加湿:HH 推奨 |
| CPAP |
- FiO₂:0.21–1 - 新鮮ガス流量:60–100 L/min(ヘルメット・マスク共通) - PEEP: ・フェイスマスク 5–8 cmH₂O(このレベルでは低酸素血症を十分に補正できないことがある。BiPAPと違い同調が不要なため、リークの影響が少なく、高めの PEEP 設定も許容される) ・ヘルメット 8–12 cmH₂O - 温度:26–30 ℃(加湿器チャンバー温 26–28 ℃に設定し,ヘルメット/マスク入口で約 30 ℃を目標) - 加湿:HH 推奨 |
- FiO₂:0.21–1 - 新鮮ガス流量:60–100 L/min(ヘルメット・マスク共通) - PEEP: ・フェイスマスク 5–8 cmH₂O(上記と同様の注意) ・ヘルメット 8–12 cmH₂O - 温度:26–30 ℃(チャンバー 26–28 ℃→入口 30 ℃を目標) - 加湿:HH 推奨 |
推奨なし(Not recommended) |
| BiPAP |
- FiO₂:0.21–1 - PEEP: ・フェイスマスク 5–8 cmH₂O(低酸素補正には不十分なことがある) ・ヘルメット 8–12 cmH₂O - PS(圧サポート): ・フェイスマスク 7–10 cmH₂O ・ヘルメット 10–12 cmH₂O - 温度:26–30 ℃(チャンバー 26–28 ℃→ヘルメット/マスク入口 30 ℃) - 加湿:フェイスマスクでは HH 推奨,ヘルメットでは不要 |
- FiO₂:0.21–1 - PEEP: ・フェイスマスク 5–8 cmH₂O(低酸素補正に不十分な場合あり) ・ヘルメット 8–12 cmH₂O - PS: ・フェイスマスク 7–10 cmH₂O ・ヘルメット 10–14 cmH₂O - 温度:26–30 ℃(チャンバー 26–28 ℃→入口 30 ℃) - 加湿:フェイスマスクでは HH 推奨,ヘルメットでは不要 |
- FiO₂:0.21–1(SpO₂ 88–92%を目標) - PEEP:フェイスマスク 5–8 cmH₂O - PS:7–15 cmH₂O(必要に応じ PS 22 cmH₂O まで増加可。ただし吸気圧(IPAP)は ≤30 cmH₂O に保ちつつ、pH 7.35–7.45 を目標に Vt 10–15 mL/kg(推算体重) を得るよう調整) - 温度:26–30 ℃(チャンバー 26–28 ℃→マスク入口 30 ℃を目標) - 加湿:HH 推奨(肺胞換気と CO₂ クリアランスを改善するため) |
肥満低換気症候群(OHS)の急性増悪では、上気道開存と換気改善を目的に BiPAP を治療の第一選択とする。嚢胞性線維症増悪: 呼吸筋負荷軽減と換気改善のため BiPAP が第一選択、HFNT は補完的選択肢。
モニタリングと NIV 失敗予測:CPE や AECOPD では、NIV 開始後比較的速やかに呼吸困難や血液ガスが改善するのが通常であり、改善が得られない場合は早期の挿管を検討すべきとされる。de novo AHRF では NIV は「諸刃の剣」で、強い自発努力による P-SILI(patient self-inflicted lung injury)のリスクがあるため、慎重な評価が必要。強い自発努力は、高い経肺圧 → 過伸展・剪断ストレス、血管透過性亢進と肺水増悪、不十分な PEEP での再虚脱(atelectrauma)、不均一な胸膜圧伝達による pendelluft(非依存部から依存部へのガス移動)を通じて既存の肺障害を悪化させうる。PaO₂/FiO₂<150、Vt>9 mL/kg、ΔPes の変化、HACORスコア、ROX/VOX 指数、LUS/LUSS、横隔膜エコー、End-tidal CO₂、EIT などが NIV 成功/失敗の指標として整理されている(Table 3)。
PaO₂/FiO₂ <150 mmHg(CPAP/BiPAP):NIV 失敗のカットオフ。
Vt >9 mL/kg PBW(HFNT/BiPAP):治療 1 時間後、この閾値超えは挿管の強い予測因子。
ΔPes の変化(BiPAP):2 時間で 10 cmH₂O 以上の減少は NIV 成功予測因子。一方、大きな ΔPes は放置すると肺障害進展と関連。
HACOR スコア >5(1–2 時間後):HFNT/CPAP/BiPAP いずれでも NIV 失敗の良好な予測能を示す。
ROX 指数(SpO₂/FiO₂ / 呼吸数):HFNT・CPAP での悪化リスク評価に用いられ、HFNT <3.85、CPAP <6.32(6 時間時点)が失敗カットオフ。
VOX 指数(SpO₂/FiO₂ / Vt):HFNT の早期失敗予測に有望。
画像・デバイスによるモニタリング
LUS / LUSS:肺超音波スコア(単独 or ROX と組み合わせ)は、COVID-19 AHRF で挿管・死亡の予測に有用。
横隔膜エコー:横隔膜肥厚率と呼吸数/肥厚率比は NIV 成否の予測に用いられる。
End-tidal CO₂:マスク下にメインストリームセンサを置くことで PaCO₂ とよく相関し、悪化の早期検出に役立つ。
EIT:非侵襲的に呼吸数と区域換気を可視化し、異常な換気パターン・不同調・pendelluft の検出に有用。
中毒
Diagnosis and management of cannabis-related emergencies
大麻による中毒の総説。
大麻は、すべての物質関連ED受診の13.0%を占め、アルコール(38.9%)に次いで2番目に多い。
内因性カンナビノイド系は5つの構成要素がある。
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エンドカンナビノイド(AEA, 2-AG)
AEAはFAAH,2-AGはモノアシルグリセロールリパーゼで分解される。AEAは5-HT受容体阻害による制吐作用と,TRPV1活性化による痛覚・嘔吐制御に関与するとされ,大麻誘発の「制吐」と「逆に嘔吐を起こす」両面性の基盤となる。 -
カンナビノイド受容体(CB1, CB2)
CB1受容体は中枢神経系に高密度に分布し,シナプス前終末に存在して各種神経伝達物質の放出を抑制するため,多幸感・陶酔・知覚変容・抗けいれん・食欲亢進など多彩な効果をもたらす。CB2受容体は主に免疫系細胞に発現し,炎症抑制・神経保護作用が示唆され,骨粗鬆症,慢性痛,免疫疾患などへの治療標的として研究されている。 -
合成酵素
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分解酵素
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輸送機構
Cannabis sativa など3種のカンナビス属には545以上の化合物が含まれ,主要成分はTHCとCBDである。花房にもっとも高濃度に存在し,葉,茎,根と順に減少する。THCが精神作用・依存形成の主因で,CBDは陶酔性がなく,てんかん,小児難治性発作などに対する薬剤(Epidiolex)として承認されている。
合成カンナビノイドは研究用に1970年代から合成され,2005年頃に「Spice」「K2」などの商品名で市場に出回った。非規制化合物に置き換えることで法律の抜け道を利用しやすく,成分もロットごとに大きく異なる。4世代にわたる構造の変遷があり,後期世代ほどCB1活性が強く,ドパミン放出もより強力で,けいれんや致死例が多いとされる。
投与経路(吸入,経口,経皮,経静脈,直腸)により発現時間が異なり,吸入は数分でピークに達するが,経口は1時間以上遅れ,過量摂取の一因となる。
| 投与経路 | 血中ピーク濃度に達するまでの時間(THC) |
|---|---|
| 吸入(Inhalation) | 3〜10分 |
| 経口摂取(Ingestion / oral) | 4〜6時間(セサミ油製剤) |
| 1〜5時間(チョコレートブラウニー) | |
| 2〜4時間(ドロナビノールカプセル) | |
| 経皮(Transcutaneous) | 非常に緩徐な吸収(数時間以上かけて) |
| 静脈内投与(Intravenous) | 10分 |
| 直腸投与(Rectal) | 2〜8時間 |
臨床症状① 精神症状:EDで最もよくみられるのは不安発作,パニック,パラノイア,幻覚・妄想などの精神病様症状で,多くは一過性で自然軽快する。
臨床症状② 心血管系:安静時心拍数の増加は最大100%まで報告され,血圧上昇や起立性低血圧,狭心症閾値低下が起こりうる。心筋梗塞リスクは,少なくとも週1回以上喫煙する人では喫煙後1時間に5倍に上昇し,その後は基礎リスクに戻る。心房細動,心室頻拍,Brugadaパターン,洞停止,QT延長,房室ブロック,心筋炎/心外膜炎など,多様な不整脈・器質的障害が症例報告されている。
臨床症状③ 肺・腎・代謝その他:喫煙は咳嗽,喀痰,喘鳴,呼吸困難と関連し,既存の喘息を悪化させうる。合成カンナビノイドは急性腎障害(主に急性尿細管壊死・間質性腎炎),横紋筋融解と関連し,CPK 18,000 IU/Lに達した症例もある。代謝異常として,高体温,低血糖,低カリウム血症,低ナトリウム血症,代謝性アシドーシスが報告されている。口腔ではドライマウス,眼では結膜充血が典型的所見であり,まれに閉塞隅角緑内障や網膜静脈閉塞も報告される。
臨床症状④ 離脱症状:重度・長期使用の中止後24–72時間で発症し,2–6日でピーク,ヘビーユーザーでは3週間持続し得る。いらいら,不安,抑うつ,不眠,食欲低下,振戦,腹部症状,頭痛などで,特に睡眠障害が最も頻度・重症度とも高い。
カンナビノイド悪阻症候群(Cannabinoid Hyperemesis Syndrome:CHS)は慢性的な大量使用者にみられる「周期性・再発性の悪心・嘔吐・腹痛」が特徴。三相モデルがあり、前駆期:数ヶ月〜数年続き,主に朝の悪心と軽度腹部不快感のみで嘔吐はない→高嘔吐期:24–48時間持続する激しい持続性腹痛と止まらない嘔吐により,経口摂取不能,脱水,電解質異常,体重減少に至る。熱いシャワーや入浴で症状軽快することが多い→回復期:補液・体重回復後,日常生活に戻るが,使用を再開すると再発しうる。脂溶性THCが慢性蓄積してCB1/TRPV1の脱感作を起こし,胃運動と嘔吐制御が破綻する仮説が示されている。ただし全ての慢性使用者がCHSを発症するわけではなく,THC濃度や遺伝的素因などが関与している可能性がある。
頻回の嘔吐の鑑別を挙げられるようにしておくこと:CHS(熱いシャワーで治る)のほかに、周期性嘔吐(片頭痛の家族歴、心理的ストレス)、妊娠悪阻、心因性嘔吐(転換性障害やうつ病に合併)、神経性過食症、アジソン病(倦怠感、体重減少、皮膚色素沈着、低血圧、低Na・高K血症)、片頭痛あたり
「尿でTHC陽性だからカンナビノイド」と決めつけると,PPI・抗HIV薬・NSAIDs・抗てんかん薬などによる偽陽性を見逃す恐れがあるため注意。
ERでのマネジメント① 急性カンナビス/合成カンナビノイド中毒:特異的拮抗薬はなく,治療は支持的。脱水や腎障害・横紋筋融解を防ぐための輸液,電解質補正が基本となる。強い不安・興奮・精神病にはロラゼパムなどベンゾジアゼピンを使用するが,他の抗けいれん薬は合成カンナビノイド誘発けいれんに有効とはいえない。嘔吐にはオンダンセトロン4 mg IV(またはODT),メトクロプラミド10 mg IVを第一選択とし,効果不十分ならハロペリドールやドロペリドールを用いる。合成カンナビノイドによる横紋筋融解・急性腎障害には,積極的補液と腎機能・CPKのモニターが必要である。
ERでのマネジメント② CHS:治療の柱はカンナビスの完全中止(最も決定的な治療)、輸液・電解質補正、制吐薬+ブチロフェノン系、カプサイシンや熱シャワーなどTRPV1刺激を利用した症状緩和、難治例へのロラゼパム/アプレピタント追加。ハロペリドール2.5–5 mg IV,ドロペリドール1.25 mg IVなどは約1時間で嘔吐と腹痛を大きく改善させ,入院を回避しうると症例・後ろ向き研究で報告されている。QT延長のリスクは低用量では小さいが,併存リスクがある場合は心電図とモニタリングを考慮する。カプサイシンクリーム(0.025–0.15%)や8%パッチを腹部に貼付する治療はエビデンスは弱いが,30–45分で症状改善を認めた報告が複数ある。局所の灼熱感・紅斑が副作用として出現しうる。なお,CHSの患者を安易に「いつものこと」として評価を省略すると,腹膜炎やBoerhaave症候群などの急性腹症を見逃すため,腹部板状硬・局所圧痛などがあれば通常通り画像診断を行うべき。
妊娠悪阻とCHSは臨床像が類似し,カンナビス使用歴・熱シャワーでの軽快・症状の周期性の有無などから鑑別する。
ERでのマネジメント③ 離脱:カンナビノイド離脱に対する標準薬物療法は確立していないが,ドロナビノールやナビキシモルなどカンナビノイド作動薬,ベンゾジアゼピン,ゾルピデムなどの使用で症状軽減が報告されている。とはいえ,基本はカウンセリングと行動療法。
Cannabis-Associated Emergencies in the Emergency Department
ER診療における大麻使用者を診るときの注意点が解説されている。
尿中THCは常用者では最大3か月検出されうる。このため現在の急性作用の評価には大きな限界がある。さらに、PPIやプロメタジンなどで偽陽性になりうる。
急性大麻中毒と、慢性使用に伴う精神病は症状が非常に似ており、鑑別が重要になる。慢性使用では、メタ解析で精神病リスクが一般人口の約2.5倍に上昇することが示されている。一方で、精神病の発症には幼少期トラウマ・多剤乱用・遺伝要因など多因子が関わる。「大麻を使用後からおかしくなった」患者を、すべて“ただの一過性中毒”として数時間の観察で帰してしまうことには注意で、実際には初発精神病のトリガーとして大麻が関与しているケースがあり、入院・精神科連携が必要なことがある。
若年者の反復嘔吐を「ウイルス性胃腸炎」「心因性」「機能性嘔吐」として帰宅させ続けない。大麻使用歴を問診して、CHSという疾患概念も念頭に置いておく。症状が強いと経口摂取がほぼ不可能になり、電解質異常・腎前性急性腎不全、稀に死亡例も報告されている。救急で最も重要な急性期対応は「大量の輸液による体液喪失の補正」である。なお、CHSの腹痛にオピオイドは使うべきではない、ハロペリドールなどを使う。
「大麻+胸部症状=単なるパニック/自律神経反応」とみなして、ECG・トロポニンなどの最低限の心血管評価を省略してはならない。特に心血管リスク因子を持つ患者や高用量摂取例で、真のACSや致死的不整脈を見逃す危険がある。
症状は吸入後3–5時間、経口摂取後8–12時間でおおむね消退する。経口摂取患者を「来院時に落ち着いているから」と短時間で帰宅させ、その後、作用ピークの時間帯に自宅で症状が悪化するようなことがあってはならない。観察時間や帰宅後指示を、摂取経路・摂取量・時間経過を無視して一律に決めてはならない。