救急外来とICU診療で役立ちそうな総説やガイドラインを、読んだそばからメモしていくシリーズ「救急医のEvidenceブックマーク」を始めます。

最近ほんとうに物忘れが激しくて、
「この論文どこだっけな〜」
「結局どういう結論だったっけ?」
が多発しています。
ZoteroとかNotionとかにも一応メモは残しているのですが、診療の合間にサッと振り返るには、もう少し「見に行きやすい置き場」がほしいなと思うようになりました。
そこで、ブログ上にも自分用の「救急エビデンス置き場」を作ることにしました。
将来の自分が診療中に検索してニヤッとできれば大成功ですし、もしどこかの誰かの診療や勉強のヒントになれば、なおうれしいです。
この記事は Weekly #0(創刊準備号)という位置づけです。
2025年10月27日〜11月21日に、総説やガイドラインを読み散らして書きためていた約3万字のラフメモを、ほぼそのまま載せています。
自分の興味や診療内容に沿ったものばかりなので、網羅的ではなく、最新とは限りません。
読みやすさよりも「まずはログとして残すこと」を優先しているので、フォーマットは統一されていません。
ただ、「読んだときに何を面白いと思ったか」「明日の診療でどこを意識したいか」は、生のまま残してあります。
今後の Weekly #1 以降では、もう少しフォーマットをそろえつつ、1週間ごとにゆるくアップデートしていく予定です。
ってことは、現時点での意気込みは毎週投稿ということになるのですが……どこまで続くことやら??? 温かく見守っていただければうれしいです。
Weekly記事らは以下の記事にまとめられていく予定です。
蘇生
心肺蘇生
Vol 152, No 16_suppl_2 | Circulation
2025 ERC Guidelines is Released
JRC、AHA、ERCのガイドライン2025。必読。
まとめブログ👉
蘇生ガイドライン、一挙まとめ!(JRC, AHA, ERC) - りんごの街の救急医
ILCORからのコンセンサス。
ILCORが推奨事項として2020年以降の5年間で新規に唱えた内容を、基礎的救命処置(BLS)、高度救命処置(ALS)、小児救命処置(PLS)、新生児救命処置(NLS)、教育・実施・チーム(EIT)、および応急手当の6つの観点からまとめている。
ILCORは各国蘇生協議会の独自のガイドライン作成を援助する立場であり、全てのガイドラインはこのILCORの根本原則からは逸脱しないことを求めていることになるそうな。へぇ~。
気管挿管
Plan A(気管挿管)、Plan B(声門上デバイス)、Plan C(フェイスマスク換気)、Plan D(eFONA)として気道管理戦略を持つよう推奨がされている。それぞれのプランについての"アクションカード"が提示されていて見やすい。けど、あまり目新しさはないかも。
声門の視認がCormack–Lehane分類3または4(glottisが見えない)の状況での盲目的なブジー挿入、「hold-up sign」の確認は、それぞれ誤挿入や外傷のリスクがあるため避けるべきと記載がされている。
インドの2025年版困難気道ガイドライン。
「Code D(difficult airway)」導入により困難気道への即時対応体制が明確化され、院内連携の即応性が高まることが考えられている。他の「Code Blue」等の病院内コードと同様、標準化されたチーム対応の契機となる。
コチラもインドから、リスクのある抜管に関するガイドライン。
抜管時の安全性を確保するために、SAFE: S – Stratify Risk, A – Assemble and Anticipate, F – Facilitate Extubation, and E – Evaluate and Escalateを意識することが推奨されている。Stratify riskとして、 3Ds: Distortion, Difficulty, Disease, and the 3Ss: Secretions, Swelling, Stenosis. Additionallyが強調されている。
リスクの高い抜管にはtube exchangerを用いたSSE(段階的逐次抜管)を選択するとよいかも。ただし、AECによる酸素投与や換気は推奨されず、HFNC、NPPVなどで行うこと(基本的には再挿管をしやすくするためのチューブ)。抜管時に気管チューブ内へのリドカイン投与(4%リドカイン2ml)やカフ内アルカリ化リドカイン充填により循環反応低減や咳嗽・口咽頭症状の軽減に有用であるとされている。
Best practices in airway management in critically ill adults
多国籍観察研究(INTUBE Study)によれば挿管の重大な合併症は約45%と非常に多く,その多くが心血管虚脱(43%)と重度低酸素血症(9%)であり,ICU死亡・28日死亡増加と関連する。
重症患者では解剖学的困難気道だけでなく,「生理学的困難気道」という概念が重要であり,既存の生理学的・病態生理学的異常が挿管と陽圧換気への移行時の合併症リスクを増大させる。
ICU における気道困難の予測には MACOCHAスコア(「経験年数が少ないオペレーター」「O2飽和低値」「ショック」「肥満」「阻塞性睡眠時無呼吸」「頸椎可動性低下」「口が開きにくい」などを組み合わせたスコア)が有用であり,またチェックリストやチーム準備など「ヒューマンファクター」への配慮が安全性向上に重要である。
呼吸管理面では,30°ヘッドアップ位(HELP)での前酸素化により機能的残気量が増加し,特に肥満患者で低酸素血症リスクを減らせる。
NIV(非侵襲的換気)や高流量鼻カニューラ(HFNO)は,従来のフェイスマスク酸素より優れており,特にNIVは挿管中の重度低酸素血症を減らすとするエビデンスが蓄積している。HFNOは喉頭展開中も継続可能であり,無呼吸酸素化(apnoeic oxygenation)の観点から利点がある。PREOXI trial を含む複数試験・システマティックレビューから,ハイリスク重症患者では従来型フェイスマスク酸素をもはや第一選択とすべきでない可能性が示唆される。
興奮の強い患者にはケタミンを用いた delayed sequence intubation がプレオキシジェネーションの成功率を高め,低酸素血症を減らす。
修正RSI中の穏やかなバッグマスク換気は,誤嚥を増やさずに低酸素血症を減らせる。
循環管理では,心血管虚脱の頻度が高く,挿管前の血行動態最適化とモニタリングが極めて重要である。モンペリエ挿管プロトコルでは挿管前輸液ボーラスが含まれ,観察研究では合併症減少が示された一方,2つのRCTでは輸液ボーラスによる心血管虚脱減少効果は示されていない。挿管前の予防的バソプレッサー投与の有効性を検証する国際試験(FLUVA, PREVENTION)が進行中である。
挿管手技としては,修正 rapid sequence intubation(速効性鎮静薬+速効性筋弛緩薬 ± 穏やかなマスク換気)が誤嚥リスク低減に推奨される。セリック法はチューブ位置確認・カフ膨張まで維持しうるが,喉頭展開が困難なら解除すべきであり,どの患者が恩恵を受けるかのエビデンスは不足している。
薬剤面では,INTUBE研究の解析から,プロポフォール使用が修正可能な独立予測因子として心血管虚脱と関連しており,重症患者ではケタミンやエトミデートのようなより血行動態安定性の高い薬剤が推奨される。RSIにおける筋弛緩薬の使用は first-pass success 向上と合併症減少に関連し,スキサメトニウムとロクロニウムで成功率に大きな差はない。ロクロニウムは1.2 mg/kg 以上の高用量が迅速な挿管条件のために推奨される。sugammadex は「挿管も換気もできない」状況でロクロニウムを迅速拮抗しうるが,重症患者での安全性データや実際の有用性には限界がある。
デバイス面では,ビデオ喉頭鏡(VL)は direct laryngoscopy(DL)より優れた挿管条件と高い first-pass success をもたらすことが示されている。STYLETO trial などから,初回挿管時にスタイレットまたはブジーを routin eに使用する意義が示されているが,どちらが優れるかは状況依存でありエビデンスが不足している。
挿管後には,波形カプノグラフィを7呼吸以上で確認することがチューブ位置確認の標準であり,深さ確認には聴診・胸部X線・気管支鏡を併用する。肺保護換気と適切な鎮静を行い,発生した合併症に適切に対応することでアウトカム改善が期待される。
輸液
推奨①
急性期の輸液蘇生を終えた成人の重症患者に対して、輸液療法のデエスカレーションを行うことを、デエスカレーションを行わないことよりも弱く推奨する(条件付き推奨,エビデンスの確実性は低い)。
推奨②
輸液蘇生の急性期を過ぎた重症患者において、通常ケアよりも利尿薬によるプロトコール化された体液除去を推奨する(条件付き推奨、エビデンスの確実性は中等度)。
※利尿薬使用によりRRTリスクが低下するという報告を重要視
推奨③
急性期の輸液蘇生を終えた成人の重症患者において、他に腎代替療法(RRT)の適応がない状況で、限外濾過や体外式による除水を日常的に用いないことを弱く推奨する(推奨、エビデンスの確実性は低い)。
Individualized fluid optimization and de-escalation in critically ill patients with septic shock
ROSEに沿った治療を推奨。ICUでの輸液療法の復習によい。
R:アンダートリートメント回避、不要輸液の細小か、心機能の評価。
初期輸液は最大30ml/kgを3時間で投与。24時間時点でANDROMEDA/CLASSIC等の集計より総投与≈5 L(対照的にARISE/PROCESSでは約2.5 L)、バランス≈+2.5 Lが妥協点。連続ボーラスはCO改善と末梢灌流の回復を確認しつつ実施、POCUS(心機能プロファイル)やCRT・皮膚所見が参考になる。
心機能プロファイル①:LV hyperkinesia(LV kissing)があるとき、拡張末期サイズをみて、小さい→hypovolemiaがあるため反応性を見て輸液負荷、正常→vasoplegiaが進行中のため輸液はあまり効果がないかもしれない。このプロファイルにdynamic obstructionがあると死亡率55%と急上昇する。(※dynamic obstructionの検出については詳述はないが、LVOTにCWドプラを当てて、後尖りlate-peakingで鋭い短剣型dagger-shapedの波形ならそれらしいと考えている)
心機能プロファイル②:敗血症でみる重度のLV収縮不全は、① 心筋固有の収縮性低下(“intrinsic”)か、② 血圧是正の過剰(=過度の昇圧で前負荷/後負荷バランスが崩れる等)で起こりうる。LVEF<40%かつLVOT-VTI<14 cmを暫定基準としているが、ここにDOBを入れることで転帰を改善するかは根拠がまだない。
心機能プロファイル③:既存のLV機能障害をもつ敗血症性ショック患者。時間の経過でVTIや充満圧上昇のサイン(左室径、弁輪E/e’、IVC所見 など)がどう動くかを見ると、介入の的中/空振りが分かる。
小刻みのボーラス+反応性テスト(PLR等)でCO/VTIが実際に伸びるかを確認し、効く介入だけを重ねることが有効だろう。
O:いつ輸液をやめるか。
輸液反応性の見極めをPLR、PPVなどを用いて行う。不要な輸液を避ける。
S:ボーラス輸液の有用性は減少し、維持期に入る。蘇生に用いる以外の輸液(fluid creep)がかさまないよう注意が必要。
E:過剰水分の能動的除去。利尿薬やRRTでマイナスバランスを目指す。2日以上の連続陰性バランスは生存に有利。第一選択はループ利尿薬(フロセミド)。腎機能・既曝露で用量を個別化し、必要に応じて併用療法や高膠質圧アルブミン併用が除水を助けることもある。
ショック
薬剤
Vasopressin and its analogues in patients with septic shock: holy Grail or unfulfilled promise?
敗血症性ショックにおいて、ノルアドレナリンは第一選択の昇圧薬として推奨されているが、高用量は心毒性・免疫抑制を含む有害作用と関連し、予後を悪化させる可能性がある。
バソプレシンは非カテコラミン性昇圧薬として、ノルアドレナリンの使用量削減(デカテコラミニゼーション)により、有害作用を軽減することが期待される。
敗血症性ショック患者の最大1/3がバソプレシン欠乏状態にあり、これが治療抵抗性の低血圧に寄与する。
生理学的にはバソプレシンは血管平滑筋のV1受容体を介して昇圧作用を発揮し、腎機能や免疫調節にも関与する多様な作用を有する。
これまでに行われた3つの大規模RCT(VASST、VANISH、VANCS II)では、バソプレシンの28日・90日死亡率への明確な改善効果は示されなかった。
ノルアドレナリン使用量を減らせる(ノルアドレナリン・スパリング効果)という意味では有望であるが、患者中心のアウトカム(死亡率・腎代替療法使用・心毒性軽減)に対する効果は不明確。
副作用(特にデジタル虚血などの虚血性合併症)への懸念があり、安全性の面でも注意が必要。
使用開始のタイミング、投与量、離脱プロトコル、ステロイドとの併用、患者層の選定など、未解決の課題が多い。「離脱はノルアドレナリンから」で決着がついているわけではなく、たとえば最近のRENOVA試験では逆の結果になっている。個別に考えるべき課題なのだろう。
※個人的には、1単位静注→0.03-0.04単位持続静注として使用しています。VALOR試験と同じやり方で、これによりMAPが大幅に(ΔMAP>22mmHg)上がるようなら、AVPの効果はあると考えるし、そんなMAP上がらないならさっさとアドレナリン追加とかを考えたりしている。
Mastering the practical application of vasopressin at the bedside in septic shock
SSCGでは、バソプレシンはノルアドレナリン投与量が0.25~0.5γの範囲に達した時点で開始することを推奨している。
AVPは、血管平滑筋細胞上のV1A受容体を活性化することで直接的な血管収縮をもたらす。さらに腎臓のV2受容体を刺激することで水の再吸収を促進し、抗利尿作用を示す。排泄半減期(6分)および実効半減期(6~20分)は短く、投与量を増減した効果は投与後20分程度で現れると考えられている。
低血圧は下垂体後葉に貯蔵されたAVPの分泌を刺激し、ショック初期には血中濃度が上昇する。しかしその後、血管拡張性ショックにおける血管麻痺には、相対的なAVP欠乏が伴うとされている。
投与量について、敗血症性ショックでは通常0.03国際単位(IU)/分の固定用量が用いられていることが多い。ただし、あるRCTでは0.033 IU/分と比較して0.067 IU/分のほうが、有害事象の発生率を増加させることなく循環不全の改善により有効であったと報告している。これらのRCTでは高用量のAVPにより腸間膜虚血が増加したことは示されていない。
非常に高用量のAVP(平均0.47 IU/分、範囲0.06~1.8 IU/分)は、おそらく後負荷増加による心係数の低下や、腸管粘膜血流の低下と関連していると報告されており、追加の安全性データが得られるまでは0.06 IU/分を超える用量は避けるべきである。筆者らは、「0.01 IU/分からの低用量固定投与で開始し、目標とする血行動態が得られるまで0.005 IU/分ずつ20分ごとに増量する」ことを提案している。
使用するタイミングが重要で、特にショック発症から早期にかつNAD用量が低いうちにAVPを開始された敗血症性ショック患者では、生存率が改善し、腎代替療法を要するオッズが低下することが示された。メタ解析では6時間以内が生存率改善と関連することが示唆。ショック発症後最初の6時間以内に、かつNAD用量が0.25 µg/kg/分未満の時点でAVPを導入くらいが目標。
1 IUのボーラス投与に続いて持続投与を行い、カテコラミン指数の変化によって反応の有無を判別する「AVP反応性テスト」が提案されている。
AVPからの離脱方法については議論があり、AVPを先に中止した場合に低血圧が多い傾向が示されていたが、最近の研究では中止の順番はアウトカムに影響しないことが示唆されてもいる。
OHCAからROSCし、ICU入室後に低血圧/血行動態が不安定な患者を対象としたコンセンサス。
低血圧はSBP<90 mmHg または MAP<65 mmHgと定義されるが、この数値だけでは臓器低灌流の有無を判定できず、「治療すべき低血圧」と「治療不要の低血圧」を区別する必要がある。低血圧=必ずしも低灌流ではなく、低血圧であっても臓器灌流が保たれている場合や一見正常血圧だがショック(normotensive shock)に陥っている症例もあるため個別に判断。たとえば一部の患者では、鎮静薬、体温管理、ミトコンドリア機能障害などに伴う交感神経緊張の低下が主因の「低灌流を伴わない低血圧」が存在し、MAPを上げても脳酸素化や全身血行動態が改善しないことが示されている。
OHCA 後の病態はpost-cardiac arrest syndrome(PCAS)と称し、全身虚血再灌流障害、心筋機能障害(左室/右室機能低下)、低酸素脳障害、心停止を引き起こした原疾患から構成される複合病態である。再灌流後、酸化ストレス・内皮機能障害・全身炎症反応が生じ、敗血症に類似した血行動態(強い血管拡張と多臓器不全)を呈し得る。
低血圧の原因はしばしば多因子・混合型であり、低充満圧(低容量/血管拡張)、心原性ショック、血管拡張性ショック、これらの混合ショックに分類して考えると整理しやすい。
管理のキーポイントは「血圧数値そのものではなく、臓器灌流の確保」であり、MAP 60–65 mmHg、尿量(≧0.5 mL/kg/h)、乳酸の正常化・減少傾向を主要なターゲットとする。ただし、乳酸高値や心拍出量低下はPCASの文脈では必ずしも持続的な低灌流を意味しないため、評価には注意を要する。心原性ショックの「古典的所見」である乳酸高値は、ROSC直後のPCAS患者ではほぼ全例で見られ、それは“ongoing hypoperfusion”というより “oxygen-debt(心停止中にたまった酸素負債)”を反映していることが多い。高乳酸血症は、交感神経・カテコラミン(内因性/外因性)やクリアランス低下など、低灌流以外の要因でも上昇しうる。重要なのは絶対値ではなく“lactate clearance(下がっていくかどうか)”である。
全例で継続的な臨床評価と反復心エコーを基本とし、必要に応じて肺動脈カテーテルなどの高度血行動態モニタリングを加えてショックタイプを同定する。SvO₂<55%は死亡および腎代替療法必要性と関連し、さらなる評価・介入のトリガーとなる
血圧ターゲットに関して、高めのMAP(例:80–100 mmHg)を一律に目指してもアウトカム改善は示されておらず、むしろカテコラミン過量投与の害が懸念される。個別化した目標設定が推奨される。たとえば、慢性高血圧患者では脳の自己調節曲線が右方偏位し、高いMAPを必要とするとされる一方、慢性心不全患者では低灌流圧に順応している可能性があり、一律のターゲット設定は不適切である。
治療は原因治療(AMI ならPCI、PEなら抗凝固/血栓溶解・外科的治療など)、輸液・輸血、血管収縮薬(第一選択はノルアドレナリンが一般的)、強心薬、必要に応じた機械的循環補助(VA-ECMO、Impella等)を組み合わせて行う。
循環動態の悪化や再心停止につながる不整脈の管理(除細動、アミオダロンなどの抗不整脈薬、ペーシング等)も重要な柱である。
Dobutamine administration: a proposal for a standardized approach
使用開始の条件は、「末梢循環不全の徴候」と「心収縮力の低下」が両方あること。単に心拍出量(CI)が低いだけでは適応にならない。
灌流不全の臨床指標:mottling skin、CRT > 3秒、意識障害(多因子性)、持続性乏尿、消化管虚血の徴候(稀かつ診断困難)
生物学的指標:ScvO₂/SvO₂ < 65動静脈pCO₂差 > 6 mmHg、乳酸値 > 2 mmol/L(肝機能障害やミトコンドリア障害にも注意)
敗血症でEFやSVが保たれていても低灌流が持続する場合、DO₂/VO₂依存性を調べるために “dobutamine challenge” を実施する。このテストでは、5–10 μg/kg/分 のドブタミンを投与し、CI・DO₂・VO₂が増加するか、SvO2のわずかな上昇や乳酸の減少があるかどうかを観察する。これらの変化があれば、「DO₂/VO₂依存性が存在」しており、ドブタミンが有効と判断される。
初期評価には心エコーが不可欠であり、その後は連続的な心拍出量モニタリングを併用するべきである。
推奨開始用量は 2.5 μg/kg/分 で、CIと灌流指標を20分毎に再評価しつつ段階的に増量する。15%以上のCI増加が「反応あり」と見なされる。増量は 2.5 μg/kg/分 単位で行い、20分毎にCIと灌流マーカーを評価。最大推奨用量は約20 μg/kg/分。それ以上では効果が頭打ちになり、副作用リスクが増大。
反応が乏しい場合でも、CIが改善しているかどうかに応じて、慎重に用量調整を行う。
過剰な用量増加は心拍数上昇による酸素消費増加や不整脈などのリスクを高める。
アナフィラキシー
Current update on anaphylaxis: anaphylaxis management in recent guidelines
各種ガイドラインを横断して整理した総説。
EAACI基準は「既知/可能性の高いアレルゲンへの暴露」の概念をより明確化。WAO基準は「皮膚症状を欠くアナフィラキシー」を明示的に許容し、低血圧・気道症状のみでも診断しうる点を強調。
エビデンスは主に観察研究に基づくが、IMアドレナリンが第一選択かつ唯一の生命予後改善が示されている治療と位置づけられる。ABCDEアプローチ+早期アドレナリン投与+酸素投与+輸液が基本。抗ヒスタミン薬やステロイドは 第二選択・補助療法 であり、生命を救う治療ではない。ステロイドによる二相性反応予防効果は、大規模データでも 明確な有効性が示されていない。
二相性反応の観察期間は、通常:症状完全消失後 6〜8時間。
以下では 12〜24時間 の観察延長を推奨:難治性・重症反応、二相性反応の既往、医療機関へのアクセスが悪い、重症喘息・呼吸症状、アレルゲン持続暴露の可能性、重篤な循環器合併症など。
https://www.jsaweb.jp/uploads/files/Web_AnaGL_2023_0301.pdf
日本アレルギー学会からのアナフィラキシーガイドライン2022。
旧2014版からの最大の変更は、診断基準がWAO 2020に沿って3項目から2項目に再編され、皮膚症状やショックを伴わない重症例も拾いやすくなった点だろうか。
アドレナリン投与量が0.5mgというのは、このガイドラインくらいの時期を境により一般的になったように思う。
呼吸器
人工呼吸器管理
Brain Protective Ventilation Strategies in Severe Acute Brain Injury
肺保護換気ならぬ脳保護換気の戦略「脳保護換気の10原則」を紹介。
①人工呼吸器モードの選択 - 急性期には制御された換気を確保するために VCV または PCV を使用する - 神経学的および呼吸器の安定性が改善したら、頭蓋内圧の変動を注意深くモニタリングしながら、補助モード (PSV、VSV) に移行する②呼気終末陽圧 (PEEP) - 肺胞リクルートメントと酸素化を維持するために、中等度の PEEP (5~10 cm H₂O) を適用する - 脳静脈還流を損なわないように、頭蓋内圧をモニタリングしながら慎重に調整する③④プラトー圧 (Pplat)と一回換気量(VT) - Pplat≦27cmH2Oを目標にする - PplatとICPを目安にVTを6~8 mL/kg PBWに調整する - 中等度の換気量(7~8 mL/kg)は、コンプライアンスが保たれている患者ではPaCO₂コントロールに役立つ可能性があるが、ARDSではより低いVTが必要になる場合がある⑤駆動圧(ΔP) - 脳浮腫を悪化させ、血液脳関門を破壊する可能性のある肺ストレスと全身性炎症を軽減するため、ΔPを15 cm H₂O未満に目標とする⑥メカニカルパワー(MP) - 累積エネルギー供給と人工呼吸器関連障害を最小限に抑えるため、MPを17 J/分未満に制限する ※MP≈0.098×VT×RR×[Ppeak−0.5×ΔP] ※VTはL単位で計算 - 特にコンプライアンスが低い患者では、MPを不釣り合いに上昇させる過度のRRまたはVTを避ける - RR>16を避ける⑦PaCO₂目標値 - 正常炭酸ガス血症(PaCO₂ 35~40 mmHg)を維持する - ICP上昇の間は、短期的な低炭酸ガス血症(30~35 mmHg)を慎重に使用する⑧酸素化目標 - 低酸素血症(PaO₂ <60 mmHg)および高酸素血症(PaO₂ >120~150 mmHg)を回避する - PaO₂ 80~120 mmHg(SpO₂ 92~96%)を目指し、個別管理のためにPbtO₂モニタリング(目標20~30 mmHg)を検討する⑨気管切開のタイミング - 厳格なタイミングプロトコルに頼ることはできない - 神経学的軌跡、鎮静の必要性、および予測される人工呼吸期間に基づいて決定する - 特定の患者では、早期の気管切開により、離脱と神経学的評価が容易になる場合がある⑩支持戦略 - normovolemia、浅鎮静、およびマルチモーダル神経モニタリング(頭蓋内圧、PbtO₂、自己調節指標)を人工呼吸管理に統合する - これらの要素は、安全な人工呼吸器の調整を導き、二次的な脳損傷のリスクを軽減することができる
NIRS(Noninvasive respiratory supports)
Noninvasive respiratory supports in ICU
低酸素性呼吸不全におけるNIRSの使用には、適応選定の難しさがある。吸気努力が強い場合にはNPPVにより吸気努力軽減→経肺圧低下→PSILI予防となるが、吸気努力が弱い場合には圧サポートによりTV増加→経肺圧上昇により肺傷害リスクとなりえる。
HFNCは「中等度の吸気努力」の患者に、NIVは「強い吸気努力」の患者に適している。
| 指標 | 吸気努力が「中等度」→ HFNCが適する | 吸気努力が「強い」→ NPPVが適する |
|---|---|---|
| 呼吸数 | 25〜30 | >30 |
| ROX指数 | 4〜5 | <3.85 |
| 1回換気量 | <8 ml/kg | >9 ml/kg(NPPV中) |
| pH/PaCO₂ | 正常 or 軽度のアルカローシス | 明らかな呼吸性アルカローシス |
| 身体所見 | 軽度の呼吸補助筋使用 | 強い努力呼吸、不穏、著明な呼吸困難感 |
抜管後の再挿管予防目的でのNIRS(prophylactic NIRS)が注目されている。
高リスク因子(65歳以上、心疾患・呼吸器疾患の既往、抜管前に7日間以上の人工呼吸器管理を受けた)のいずれかがあれば、NPPVを予防的に使用することが推奨。また、肥満患者に対する抜管後の予防的NPPVが有用であることが示されており、積極的適応が検討されている。
初期の24〜48時間にわたり、1日あたり少なくとも12時間、場合によっては連続24時間使用する。NPPVの使用時間が短すぎると効果が不十分になるため、最低でも1日12時間以上の陽圧提供が推奨される。
耐えられない場合には、NPPVとHFNCの交互使用(交代的使用)により、さらなる効果が期待される。
例)日中:NPPVVを3〜4時間ごとに1〜2時間適用し、その間はHFNCを継続。夜間:連続的にNPPVを適用し、途中で患者が耐えられない場合は一時的にHFNCへ切り替え。
市中肺炎
成人における市中肺炎(CAP)の診断と治療に関する最新のエビデンスを反映し、4つの主要な臨床的問いに基づいて推奨を提示している。
①肺エコーによる診断:適切な専門技術がある施設では肺エコーを胸部X線の代替診断法として許容できる
②ウイルス検査陽性のCAP患者における抗菌薬投与:状況による
・外来・基礎疾患なし:抗菌薬は推奨しない
・外来・基礎疾患あり:抗菌薬を推奨
・入院・非重症:抗菌薬を推奨
・入院・重症:抗菌薬を推奨
抗菌薬非投与側の判断材料として「細菌重複感染の疑いが低い(病歴・炎症マーカー低値・ウイルス優位像など)」「C. difficile既往や薬剤有害事象歴」「患者が抗菌薬回避を希望」等、投与側の材料として「“二峰性の増悪”エピソードや膿性痰、炎症マーカー高値、充実性陰影など」「高齢・妊娠など投与しない場合の害が大きくなる」「フォロー困難」等が挙げられる。
③抗菌薬治療の期間
・外来・臨床的安定時:5日未満(最低3日)の治療を推奨
・入院・非重症・臨床的安定時:5日未満(最低3日)の治療を推奨
・入院・重症:5日以上の治療を強く推奨
延長を考慮すべき状況:C. difficile既往や薬剤有害事象等で抗菌薬曝露による害が高い場合は短縮の方向性、逆に起因菌が長期療法を要する場合(S. aureus、P. aeruginosa、Legionella等)、膿胸/肺膿瘍/壊死などの合併、気管支拡張症などの基礎肺疾患、長期療養施設入所・最近入院などでは延長を考慮する。
④全身性ステロイド治療
入院・非重症:使用しないことを強く推奨
入院・重症(インフルエンザ性肺炎を除く):使用を推奨
実際のレジメン例:ヒドロコルチゾン200 mg/日持続静注を4または7日、その後漸減し合計8-14日投与、あるいはICU退室時に中止する。
間質性肺疾患
まずは除外診断:肺水腫、肺炎、誤嚥、肺胞出血、肺塞栓など
放射線パターンとしてUIPやNSIPなどは理解しておく。
臨床検査:各種培養、レジオネラ+肺炎球菌抗原、ウイルスPCR、プロカルシトニン(細菌性肺炎 vs AE-ILD)、気管支鏡(BAL)、過去にILDの診断がなければ膠原病関連ILDや肺胞出血の鑑別目的に血清学的自己免疫検査
呼吸補助(HFNC or NPPV→IMVだが移植候補者以外には推奨されない)に加えて、抗菌薬やステロイド(1-2mg/kg/dayのコルチコステロイド)を含む経験的治療を要する
The Management of Interstitial Lung Disease in the ICU: A Comprehensive Review
ステロイドに免疫抑制剤を追加することもある。
呼吸不全に対してはHFNCが第一選択だが、これでも低酸素血症が持続・高二酸化炭素血症がある場合にはNPPVを検討する。
IMVでの高いPEEPはILD患者には適さない可能性がある。腹臥位療法は研究が限られてはいるが、潜在的な利点はあるかもしれない。
経験的抗菌薬投与ではPJPを考慮すること(ILD増悪に類似した画像所見となる)。
肺高血圧症による右心不全に注意する。
誤嚥性肺炎
Aspiration pneumonia guidelines - Société de Pathologie Infectieuse de Langue Française 2025
フランス感染症学会による2025年版の誤嚥性肺炎のガイドライン。
定義に関する初期研究では嫌気性菌の検出率が61〜92%と高かったが、近年は1.6〜16%と大きく低下している。最近の疫学データでは、APに関与する主な菌は肺炎球菌(S. pneumoniae)、インフルエンザ菌(H. influenzae)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、一部の腸内細菌科(Enterobacterales)、緑膿菌(P. aeruginosa)など。
リスク因子:嚥下障害(パーキンソン病、ALS、神経変性疾患、咽頭・食道の器質的疾患、サルコペニア、呼吸器疾患、筋骨格変形)、注意障害(脳卒中、てんかん、意識障害、精神薬、アルコール、麻酔、薬物中毒など)、胃食道逆流(胃食道逆流症、経管栄養、便秘、腹圧上昇(妊娠、肥満、腹水)など)、咳・咽頭反射異常(麻薬、局所麻酔、脳卒中、チューブ挿入など)など。
初期抗菌薬治療:第一選択はアモキシシリン・クラブラン酸(経口または静注)。※日本の使用量よりはるかに多い。使用できない場合はセフトリアキソン皮下注。重度アレルギーではST合剤を考慮。嫌気性菌を幅広くカバーする抗菌薬を常に第一選択とするべきではないという最新エビデンスが示されており、過剰な抗菌薬使用を避けるべきという観点からこの薬剤が支持されている。
重症化している患者、あるいは緑膿菌やMRSA(Methicillin‑resistant Staphylococcus aureus)感染のリスクがあると判断される場合には、Piperacillin‑tazobactamなど広域スペクトラムB/L剤を考慮する。必要に応じて、MRSAカバー薬を併用検討する。
誤嚥後の対応:抗菌薬の予防的投与は推奨されず、症候出現時のみ治療開始。
72時間後の再評価:別の原因・耐性菌・非典型病原体を念頭におくべき。経過が不良な場合、Piperacillin‑tazobactamへの変更を考慮。
Yoshimatsu’s Checklist – 誤嚥リスク評価チェックリストが紹介されており、誤嚥リスクに関わる症状・疾患・医原性因子・処置に関することが列記されている。
・症状:注意障害 → せん妄・脳損傷・てんかん等を確認、筋力低下・臥床 → サルコペニア・骨折・神経疾患の精査、嘔吐 → 消化管画像・内視鏡、嚥下痛・歯科トラブル → 耳鼻科・歯科評価
・疾患:脳卒中、パーキンソン病、認知症、神経筋疾患、COPD、栄養不良など
・医原性因子:気管切開、経鼻胃管、PEG/PEJの存在 → 適応・位置・体位確認
・手術歴:頭頸部・消化器手術後 → 創治癒、消化機能の確認
・薬剤:ドパミン作動薬、抗コリン薬、咳抑制薬、筋弛緩薬、鎮静薬、利尿薬
→ 適応の再評価と中止の検討
・ワクチン:肺炎球菌、インフルエンザ、COVID-19、帯状疱疹 → 接種歴の確認と更新
循環器
心筋梗塞
ECG Patterns of Occlusion Myocardial Infarction: A Narrative Review
押さえておくべきSTEMI equivalents = OMI(はぐれSTEMI)についての総説。インフォグラムがとても見やすいので、忘れやすい場合には図1をいつでも参照できるようにしておくとよい。
不整脈
Managing drug-induced QT prolongation in clinical practice
問題形式でQT延長に関する知識を確認することができてとてもよい。
・多くの薬物はQT延長との関連があり、TdPをはじめといた致死的不整脈発症のリスクを高める可能性がある
・QTを延長させる薬剤を処方する際には以下の3つの要素を考慮すべし
◦患者に関するリスク因子
◦新規処方する薬剤に関連するQT延長の潜在的なリスクと程度
◦QT延長のリスクを増強させる可能性のある他の処方薬
・QT延長薬剤が処方される場合には修正可能なリスク因子を可能な限り補正すべし(特に徐脈と電解質異常)
・心電図検査はベースラインと薬剤が定常状態に達した後に行う
QT延長に関連して、CTRX+ランソプラゾールは注意。
・併用により平均12msec延長して、>500msecを超える可能性が1.4倍になる
・CTRXとランソプラゾール併用群は他のPPI併用群と比較して、心室性不整脈・心停止・院内死亡のリスクが有意に高い(心室性不整脈・心停止のリスク差1.7%、院内死亡のリスク差7.4%)
◦このリスクは他のPPI(オメプラゾール、パントプラゾール等)との併用ではない
Management of Long QT Syndrome: A Systematic Review
LQTSにはβ遮断薬を第一選択薬として使用する。ナドロール、プロプラノロール(2-4mg/day)を投与することは、失神およびSCDのリスクを効果的に低減する。β遮断薬によりQT間隔が有意に短縮するという報告もある。
NEJMからの総説。LQTSは致死的でありうるが、適切な診断と現行治療(β遮断薬+LCSD+メキシレチン)により、多くの患者は良好な予後と通常の生活の質を得られる疾患となっているそうな。
推定有病率は少なくとも1/2000であり、遺伝子陽性だが表現型陰性の患者を含めると実際はさらに高いと考えられる。
主症状は失神・心停止・突然死であり、ときに最初のイベントが突然死となる。
QTcは男性≳440 ms、女性≳460 msで上限域、QTc>500 msで中〜高リスクの鑑別に有用。
T波の形態異常(切痕、二相性、交互脈など)はLQTSを強く疑わせる。図1に典型的な心電図波形が示されている。たとえば、notched T waveはLQT2に特徴的。
遺伝子型特異的トリガー(gene-specific triggers)が存在しており、
・LQT1:運動(特に水泳)・情動ストレス
・LQT2:突然の大きな音、低K血症、産後の睡眠遮断
・LQT3:安静時・睡眠中
β遮断薬(プロプラノロール:2.0〜3.5 mg/kg/日、ナドロール)が第一選択で、遺伝子型にかかわらず高い有効性を持つ。左側心臓交感神経切除術(LCSD)は、β遮断薬でもイベントが続く症例で強力な抗細動効果を示し、ICDショックを約90%減少させる。メキシレチンはLQT3のQT短縮とイベント減少に有効で、最近ではLQT2でも約70%でQTc短縮(40msec以上)が得られると報告。ICDは過剰使用が問題であり、心停止からの蘇生例や、最適薬物+LCSDでも再発する高リスク例に限定すべき。治療開始後もリスクは時間とともに変化しうるため、少なくとも年1回のフォローで治療内容を見直すこと(triple therapyへの追加、ICD導入の再検討など)が重要。
後天性LQTSとして、低K血症や徐脈・房室ブロック、IKrを強くブロックする薬剤によりQT延長が起こりうる。個々の「repolarization reserve(再分極予備能)」は遺伝的に規定され、薬剤性LQTSやTdPのリスクにはまれな変異と共通多型の両方が関与する。そのため、強い薬剤性QT延長が起きた症例では、40歳未満・基礎QTc延長・不整脈イベントの有無を踏まえて、先天性LQTS遺伝子の検査を検討すべきである。
肺塞栓
Risk Stratification and Management of Intermediate-Risk Acute Pulmonary Embolism
マネジメントはFig. 2が見やすい。
Intermediate-Risk PEは、血行動態は安定しているが右心室機能障害(RV dysfunction)を伴う症例を指し、管理が特に難しい。
Intermediate-Risk PEの層別化には、PESI/sPESIスコア、心筋障害バイオマーカー(トロポニン、BNP)、画像(CT、心エコー)での右室拡大などが用いられる。
CT:RV/LV比 > 0.9〜1.0がRV障害の指標、他にもIVCへの造影剤逆流、心室中隔偏位、RV拡大などが所見としてでる。
心エコー:TAPSE < 16 mm、RVOT VTI < 9.5 cm、McConnell sign、60/60 sign(RVOT AcT <60 ms + TRPG <60 mmHg)
欧州心臓病学会(ESC)ガイドラインではIntermediate-RiskをIntermediate-Low(PESIクラスIII-IVあるいはsPESI ≥1で、心筋バイオマーカー上昇またはRV障害のどちらかを有する)とIntermediate-High(PESIクラスIII-IVあるいはsPESI ≥1で、心筋バイオマーカー上昇およびRV障害の両方を有する)に分類し、両者で予後や治療方針が異なる。
標準治療は抗凝固療法(初期はLMWH、以降はDOAC)である。血行動態の悪化が懸念される場合や介入予定例では、未分画ヘパリン(UFH)の持続静注が選択される。血行動態悪化のリスクが高い場合は血栓溶解療法やカテーテル治療も検討される。
全身的血栓溶解療法は出血リスクが高く、使用は限定的。PEITHO試験では、Tenecteplase群で7日以内の血行動態悪化が減少(2.6% vs 5.6%)したが、出血(特に脳出血)のリスクが増加(6.3% vs 1.2%)。MOPETT試験では低用量tPA(最大50mg)でPASP低下・入院期間短縮が得られたが、死亡率や再発には差がなかった。
→ よって、全身的血栓溶解療法は現時点でIntermediate-Risk PEへの使用は限定的であり、より明確な指標が必要
代替としてカテーテル治療(EKOS、FlowTrieverなど)の研究が進行中。
出血リスクが全身療法より低い可能性があり、ICU滞在短縮・早期症状改善などの効果も見込めるかも。しかし、
一部の報告では、機械的血栓除去において出血リスク(特に頭蓋内出血)がUS-CDTより高い可能性があり、デバイスによる心血管合併症や長期予後改善の有無は不明。
神経
脊椎硬膜外血腫
厳密にはcase reportだけどわかりやすいので。
Spontaneous Spinal Epidural Hematoma(SSEH)は、突然の麻痺症状を呈する点で、横断性脊髄炎・脊髄梗塞・硬膜外膿瘍・大動脈解離などと類似した臨床像を示す。そのため、救急現場での初期鑑別において見落とされる可能性が高い。特に頸部痛/背部痛+急速な神経脱落症状という組み合わせに遭遇した際、鑑別リストにSSEHを含めることが重要。「軸性痛」「感覚レベルの明確化」「括約筋障害」「脳神経が正常」であれば脊髄病変を示唆する。
出血リスクを有する患者での神経症状出現時は、SSEHの可能性を強く考慮すべき。抗血小板薬や抗凝固薬の内服歴の確認は必須。
MRIはSSEH診断のゴールドスタンダード。CTでは明瞭な所見を得にくいが、後方の硬膜外腫瘤(半月状/レンズ状)として見えることもある。
多くの研究で、発症から手術までの時間が12〜24時間以内であるほど機能予後が良好であることが示されている。
急性脊髄障害では、MAPを85〜90 mmHgに維持することが推奨されている。
※これに関してはMAP65-70mmHgでも良いのではないかというRCTもある(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40965887/)
Clinical features of spontaneous spinal epidural hematoma
CT軟部条件で腫瘤性病変を半数以上で描出することができた。
CTの軟部条件・矢状断で紡錘形の硬膜外腫瘤をとらえることがSSEH早期診断の鍵であり、その後MRIで確定診断すべきと結論されている。軟部条件+矢状断でのチェックを救急現場のルーチンに組み込むべき!
消化器
肝硬変
EASL Clinical Practice Guidelines on the management of hepatic encephalopathy
European Association for the Study of the Liver(EASL)により策定された肝性脳症(HE)の診断と管理に関する臨床診療ガイドライン。
HEの早期段階でも他の疾患を除外する視点が明確になる利点があることから、HEと早期に判断するのではなく、急性脳症として鑑別することで診断の精度が上がる。実際、HEと診断された患者の22%は別の疾患(感染症、出血、薬物、中枢病変など)であったという報告がある。
「covert HE」とは、軽度の神経精神機能障害を呈するが、明らかな臨床症状を欠く肝性脳症であり、肝硬変患者の30–70%がcovert HEを有するとされる。overt HEのリスク因子であり、放置すると進行する可能性がある。非吸収性二糖類(ラクツロースなど)やリファキシミンなどによる治療が推奨される。
アンモニア値の否定的診断価値の明示: 「正常アンモニア=HE否定」を重視することで、誤診の抑制につながる。ただし、高値でもHEの重症度や治療反応を反映しないケースがあり、治療モニタリングには不適である。
Inpatient management of hepatic encephalopathy
肝性脳症(HE)は、肝硬変患者において頻繁に認められる合併症であり、初回エピソードでも1年後の死亡率は約65%と予後不良である。
入院患者の精神状態変化に対しては、まずHEを疑いながらも他の原因(感染症、電解質異常、出血、薬物など)も鑑別・除外する必要がある。特に感染症は重要、感染評価には、血液・尿・腹水・喀痰・便などの培養が必要。SBPを忘れがち。診断が確定しない場合は、腰椎穿刺(髄膜炎の除外)や脳波検査(てんかん性疾患の除外)も検討。アルコール離脱による振戦せん妄や精神疾患も鑑別対象。
アンモニアは重症HEの診断補助となるが、診断の決め手ではない。
HEの診断後は、①誘因因子の治療、②抗HE治療(主にラクツロースとリファキシミン)、③栄養管理が柱となる。
治療効果が乏しい場合は、診断の再評価や未発見の誘因(門脈体循環シャントや難治性感染症など)を再検討する。
栄養療法
Gastrointestinal function and nutritional interventions in septic shock
敗血症性ショックが消化管に与える影響は大きい。腸管微小循環の低下から粘膜虚血→タイトジャンクション破綻→LPSなどが血中へ移行して炎症が自己強化される。また、これにより腸管-多臓器のクロストークが生じ、双方向性にMODSを悪化させる(例:心血管機能(内毒素血症・IAH→前負荷低下、昇圧薬増量)、肺(ARDS増悪、腸リンパ関与)、腎(IAHで腎灌流低下・AKI増加、過栄養でRRT需要増の示唆)、脳(血液脳関門障害・神経炎症)、肝(PAMP/DAMP流入で障害)など)。
最初の焦点は灌流回復(とともにうっ血を最小化させる)。ショック期は内因性エネルギー産生が高く、ENで需要を上乗せするとNOMIの危険があるため、低用量から開始し耐容量で漸増する。ENの潜在的メリット(粘膜萎縮予防、細菌叢維持、免疫調整)と、過量ENの害(需要>供給→虚血、腸拡張)を天秤にかけること。
実践的管理方法:1) MAP≥65 mmHgなど灌流標的を充足→2) COSMOGI/GIDS等でGIを定期評価→3) 低用量EN開始し嘔吐/下痢/高GRV/IAP上昇などがないかモニタリング→4) 禁忌/不足時はPNを慎重に行う→5) 将来的にバリア・微生物叢介入を検討。
電解質(リン)の早期変動は、「まだ積極的に食わせに行くタイミングではない」可能性の注意サインというのは興味深い。具体的な閾値はないが、急な低P血症や大きな下振れがあれば、「代謝が栄養に引っ張られ始めている」可能性のサインとして警戒するとよい(EPaNIC二次解析の示唆)。そんなときには栄養の漸増ペースを緩めるか一次据え置きするかの判断をしておいた方がよい。
腎・電解質
RRT
ICUでの急性腎代替療法(RRT)のデエスカレーション(とくにCRRTから間欠的RRTへの移行)と、その移行期における薬物(特に抗菌薬)投与最適化の総説。
RRT-Induced Organ Injuryというものがあり、IHD患者ではIHD中に多様な臓器に虚血が起きて、結果的に心臓壁運動異常や脳虚血につながりえる。いわんやICU患者をや、ということでよりRRT-Induced Organ Injuryに脆弱な患者群と考えられている。RRTを標準より早期に始めると90日時点でRRT依存率が高まったり、ICUでRRTを行われた重症患者のほぼ全員にAMIが引き起こされたりという報告がある。そういう意味で、CRRT>IHDの方が急性疾患の血行動態にも悪影響を及ぼしにくいのかも。
容量管理が要(とくにUF目標)であり、CRRT中止直後の初回間欠RRTでは透析中低血圧(IDH)が非常に一般的で、死亡と関連するため残余過剰水分・1回の除水必要量・耐容量除水性を精査して移行時期を決めるべきである。60 kgで3–4時間のIHDで一気に3 Lの純除水を達成する期待は非現実的として警告している。
IDH軽減の補助的作戦として、アルブミン静注、低温透析液、透析液Na/Ca↑、経口血管収縮薬、UFプロファイリング、バイオフィードバックなどがある。
RRTを離脱できるかどうかについては、尿量が最も頑健な予測因子になる。利尿薬なしで400mL/日超は感度46%・特異度81%。利尿薬反応性の評価は見解が割れるが、利尿薬併用で2.5 L/日超は離脱成功を特異的に示す。時間尿のCr・尿素クリアランス平均>15 mL/minなら腎回復は明白と判断しうる。
利尿薬
Diuretics in critically ill patients: a narrative review of their mechanisms and applications
ICU重症患者における利尿薬療法について。
ループ利尿薬が第一選択だが、その効果は尿細管腔内濃度(ボーラス vs 持続投与)・アルブミンとの結合(低Alb血症の影響)・利尿抵抗性の有無に大きく依存する。
フロセミド持続静注はボーラス投与と比較して、より安定した尿量増加とマイナスバランスを少量で得られる可能性があり、ICUでは安全に施行し得る選択肢とされる。AKIを伴わない体液過剰ではまず1 mg/kg/日〜最大4 mg/kg/日のボーラス投与を行い、2時間で尿量>150 mL/hが得られなければ持続投与へ切り替えることを提案している。
低アルブミン血症に対してフロセミド+アルブミン併用の生理学的合理性はあるが、ICU患者に限定すると、利尿効果の明確な増強は示されていない。肝硬変・ネフローゼなどを含むメタ解析では、Alb <2.5 g/dLかつCr >1.2 mg/dLの場合に尿量増加の効果が大きいとされるが、ICU全体に一般化するには慎重さが必要とされる。
サイアザイド系/サイアザイド様利尿薬やアセタゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)は、ループ利尿薬抵抗性を打破するための併用薬として位置づけられ、尿量・ナトリウム排泄を増やしマイナスバランスを得る目的で用いられる。ループ利尿薬抵抗性に対する第二利尿薬としての併用がICUでも心不全ガイドラインでも推奨されており、24時間尿量・マイナスバランスの中等度増加が報告されている。サイアザイドは低Na血症を起こしやすいため注意。急性心不全においてループ利尿薬抵抗性が疑われる場合に、アセタゾラミド(250–500 mg/日)を併用することでナトリウム排泄・マイナスバランス・うっ血所見の改善が得られた(ADVOR試験など)。COPD患者の利尿薬・ステロイド起因の代謝性アルカローシス是正にも用いられ、pH・HCO₃⁻を低下させて呼吸ドライブを改善する目的で使用される。
マンニトールなどの浸透圧利尿薬は、横紋筋融解によるAKI予防・治療や腎移植の虚血再灌流障害予防など特定の状況で用いられるが、過量投与では低Na血症・AKIを含む重篤な合併症を起こし得る。
遠位ネフロンで作用するカリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン、アミロリドなど)は利尿力は弱く、ICUでは主に他の利尿薬に伴う低K血症・低Mg血症の是正目的で用いられる。
SGLT2阻害薬は主として外来T2DM/心不全/CKD患者の予後改善薬だが、重症患者においても利尿薬反応性改善や腎機能悪化抑制が示唆されつつあり、安全性に関する初期エビデンス(DEFENDER試験など)が示されてきている。
利尿薬抵抗性は「最大量の利尿薬でも2時間後の尿量>150 mL/h または尿中Na >50–70 mmol/Lが得られない状態」と定義される。主な機序は、①腎血流低下・低アルブミン血症・有機酸蓄積による近位尿細管への薬物分泌低下、②慢性的なループ利尿薬曝露とRAAS/ADH活性化による遠位ネフロンでのNa⁺再吸収亢進(distal nephron remodeling)=“breaking phenomenon”、③tubular NaCl感知機構の変化の3つ。
AKIを伴わない体液過剰で利尿抵抗性が疑われる場合、フロセミドを最大4 mg/kg/日まで段階的に増量して尿細管腔内濃度を高め、それでも不十分ならサイアザイドまたはアセタゾラミドを追加して24時間でのマイナスバランスを得るというアルゴリズムを提示している。早期AKI患者では、furosemide stress test(1.0–1.5 mg/kg単回投与後2時間尿量<200 mL)がAKI進行(Stage 3)予測に有用であり、RRT導入タイミングの判断の一助となり得る。
電解質異常
カルシウム
Management of hypocalcaemia in the critically ill
重症疾患による低カルシウム血症が無症状または軽症の場合、ICU患者への補充を推奨する集中治療ガイドラインはない。iCa 1.01~1.20 mmol/l の患者ではカルシウム投与後の 90 日死亡率が高かったが、iCa レベルが 1.01 mmol/l 未満の患者ではカルシウム投与が有益である可能性があることを報告した研究がある。たぶん補充の閾値はこのくらい(iCa < 1.0mmol/L、症候性::テタニー、痙攣、QT延長、心機能障害など)にあると考えられる。
重度の低Ca血症への治療は一般に推奨される。特に外傷による大量輸血時は、iCa > 0.9 mmol/Lに保つ補正が強く推奨される。
マグネシウム
Rethinking hypomagnesemia: diagnostic thresholds and metabolic implications in critical illness
「ICU入室後24時間で血中イオン化Mgが急速に低下する」という前向き研究があり、低マグネシウム血症の病態生理と診断閾値、代謝的意義を再考することを目的としたコメント論文。
交感神経ストレスにより グリコーゲン分解と解糖系が亢進し、Mg-ATP需要が増大することで、細胞内へのMg取り込みが促進され、血中イオン化Mgが急速に低下する「再分布」が起こるという統合的モデルを提唱。こうしたMgの細胞内シフトは、短期的には解糖と酸化的リン酸化を支える「適応反応」である一方、長期化・過剰化すると、血管・神経筋・内皮機能に必要な細胞外Mgが不足しうるという二面性があると指摘。
現在一般に用いられる血清総Mgの下限値(0.70–0.75 mmol/L≒1.70-1.82mg/dL)は、症状のある患者を含む集団平均をもとに設定されており、アウトカムに基づいた妥当性検証を欠くため「真の欠乏」を見逃している可能性が高いと批判している。Liebscherらの再解析によれば、カットオフを0.70 mmol/Lとした場合、真にMg欠乏のある患者の約90%が「正常」と誤分類されるとされ、0.75 mmol/Lでも約半数が見逃されると報告されている。機能的Mg枯渇は、血中レベルの明らかな低下より先に心血管不安定・神経筋過興奮・代謝障害として表面化しうる。
Mgはほぼすべての解糖系酵素およびピルビン酸脱水素酵素複合体の補因子であり、Mg欠乏はチアミンピロリン酸形成を障害し、ピルビン酸が乳酸に変換されやすくなり、酸素十分下でも「代謝性偽低酸素症(metabolic pseudohypoxia)」をもたらしうる。Mgが低下すると酸化的リン酸化の効率が下がり、ATP産生が不十分となり、乳酸産生が一層増加する。その結果、低Mg(あるいは低〜正常の下限域Mg)は、敗血症など重症病態における高乳酸血症と関連する可能性があり、少規模試験ではMg補充が乳酸クリアランス改善、ICU在院日数短縮、乳酸アシドーシス頻度低下と関連していたことが分かっている。
「『Mg値が閾値を下回ったら治療開始』では遅すぎる可能性がある」と指摘し、以下の病態の場合には、境界域Mgでも積極的な補充を検討すべき。
・難治性低K・低Ca血症
・新規発症心房細動などの不整脈
・循環最適化にもかかわらず持続する高乳酸血症など
ただし、真の枯渇がない状況での過量投与は、特に腎機能障害例で後に細胞内・骨貯蔵からの放出により高Mg血症を来し得るため、臨床状況と腎機能、Mg値をモニタリングしながら慎重に投与量を調整すべき。
MgはATPの必須補因子であり、数百種の酵素反応・エネルギー代謝・核酸代謝・蛋白合成・シグナル伝達・概日リズム制御など、ほぼ全ての細胞機能に関与する不可欠な陽イオンである。ATPase反応(ATPの加水分解を介したエネルギー産生)にはすべてMg²⁺–ATPが必要。
体内Mgの大部分は骨と軟部組織に貯蔵され、血清Mgは全体の1%未満であるため、血清Mg値は全身のMg貯蔵量を必ずしも正確に反映しない。
Mg恒常性は、腸(吸収)、骨(貯蔵)、腎(排泄調節)から成る「腸‐骨‐腎軸」によって高度に協調的に制御される。
ヒトではTRPM6/7やCNNMファミリー、SLC41A3、MRS2などのMg特異的トランスポーター/チャネルの同定により、Mg恒常性の分子機構が大きく進展した。TRPM6/7はとくに腸管・腎遠位尿細管におけるMg再吸収の鍵であり、遺伝子変異は低Mg血症症候群をきたす。
成人の正常血清Mgは1.7–2.4 mg/dL(0.7–1.0 mmol/L)であり、1.7 mg/dL未満が低マグネシウム血症と定義される。前述の通りだが、血清Mg値は全身のMgストアを必ずしも正確に反映しないことは強調されている。
低Mg血症は一般人口の3–10%にみられ、2型糖尿病患者、入院患者、とくにICU患者で有病率が著しく高い(ICUでは65%以上)。低Mg血症は全死亡・心血管死亡のリスクと関連する。
低Mg血症ではしばしば低カルシウム血症・低カリウム血症・代謝性アルカローシスを合併し、特に低K血症はMg補正なしには難治性となる。
原因としては、摂取不足・消化管からの喪失・腎性喪失・細胞内シフト・薬剤性・遺伝性疾患・アルコール使用障害・2型糖尿病・心血管疾患・妊娠高血圧(子癇)など多岐にわたる。
多くの薬剤(PPI、利尿薬、カルシニューリン阻害薬、EGFR阻害薬、mTOR阻害薬、シスプラチン、各種抗菌薬など)が腎でのMg再吸収障害を介して低Mg血症を引き起こす。PPIでは約20%に低Mg血症が生じうる。
家族性低Mg血症の約80%では、TRPM6/7、CLDN16/19、CNNM2、NCC関連因子、Na⁺–K⁺–ATPase複合体などMg輸送経路関連遺伝子の病的バリアントが同定されている。
臨床ではまず血清総Mg測定が標準だが、低アルブミン血症や採血条件などに影響されうるため、原因不明の低Mg血症では尿Mg排泄(24時間尿、分画排泄、負荷試験)により腎性か消化管性かを鑑別する。
治療は臨床症状と重症度に応じたMg補充が基本であり、軽症は経口Mg塩(有機塩が吸収良好)、重症・経口困難例では静注・筋注を用いる。SGLT2阻害薬やアミロリドなどが補助的治療となりうる。
MgはTdP、重症喘息増悪、子癇・重症子癇前症など、限られた病態において第一選択の治療薬であり、その主な作用はカルシウム拮抗、血管拡張、気管支平滑筋弛緩、NMDA受容体抑制、抗炎症作用などと考えられている。
アルコール使用障害
AUDには、ICU入室時にチアミン・葉酸・マグネシウムなどの重要なビタミン・電解質欠乏を来しやすく、従来はbanana bagが画一的に投与されてきた。典型的なbanana bagは、1 Lの輸液にチアミン100 mg、葉酸1 mg、マグネシウム1–2 g、マルチビタミンを混注し、24時間かけて点滴する形であるが、その用量設定・投与方法はエビデンスに乏しい。
特に重要なのはチアミン欠乏によるWernicke脳症(WE)/Korsakoff症候群(KS)であり、ICUでは鎮静や基礎疾患により症状がマスクされ、著しく過小診断されている。オートプシー(剖検)研究ではアルコール依存患者の約12.5%にWEが見られたにもかかわらず、生前に診断されていたのは一部に過ぎないと報告されている。意識障害、眼球運動障害、失調の三徴が特徴だが、すべてそろうのは10%程度。ということで欧州神経学会はAUD患者におけるWE診断基準として、①栄養障害、②眼球運動障害、③失調、④精神状態の変化または記憶障害のうち2つがあれば診断することを提唱している。
従来のチアミン100 mg/日では、WEの治療・予防には不十分であり、200–500 mg IVを8時間ごととする高用量分割投与が推奨される。健常ボランティアでのデータでは、経口チアミンは30 mg投与で吸収上限(約4.5 mg)に達し、それ以上増量しても吸収量は増えないとされる。一方、AUDではこの吸収がさらに低下し、ある試算では、「100 mgを1日3回経口投与しても、24時間で吸収されるのは健常人の1/3以下(約5 mg/日)」と推定されていることから経口投与は不適切。WE確診例に対して50–100 mgのパレンタルチアミンを投与した古い報告では、完全回復したのは16%のみで、84%はKSに進行し、長期的な記憶障害を残したとされるので、大量のチアミン投与が必要。200–500 mg IVを8〜12時間ごとに投与する分割レジメンが理にかなう。
葉酸はDNA合成と正常な赤血球産生に必要であり、欠乏すると巨赤芽球性貧血やさまざまな神経・精神症状(混乱、不眠、うつ、精神病様症状など)を引き起こし得る。さらに、葉酸低下は高ホモシステイン血症と関連し、アルコール離脱時のけいれんリスクを高める可能性が指摘されている。慢性アルコール摂取により吸収障害と摂取不足が重なり欠乏しやすく、400–1,000 μg/日を数日間静注で補充することは妥当と考えられるが、エビデンスはチアミンほど強くはない。
マグネシウムは、エネルギー代謝およびチアミン依存酵素(トランスケトラーゼなど)の補因子として必須であり、低マグネシウムではチアミン治療が効きにくくなるため、積極的な補充が推奨される。初日にマグネシウム約1 mEq/kg(MgSO₄換算で約64 mg/kg)を分割投与し、その後3日ほど0.5 mEq/kg/日(約32 mg/kg/日)を継続するレジメンが推奨されている。
一方で、マルチビタミンの急性期静注投与に有効性を示すデータは存在しないため、「ルーチンでbanana bagに混ぜる」ことを支持するエビデンスはない。
低リン血症・低カリウム血症など他の電解質異常もAUD患者にしばしば見られるが、 routine での一律補充ではなく、個々の検査値と臨床症状に応じて対応すべきとされる。
アルコール性ケトアシドーシス(AKA)が疑われる場合は、生食よりもブドウ糖含有輸液の方がアシドーシス是正が早いとされる。
Electrolyte Disturbances in Patients with Chronic Alcohol-Use Disorder
AUDでは、入院時にはNa低下と代謝性アシドーシスが目立つ一方、P・Mg・K・Caなどは一見正常〜軽度異常に見えるが、治療開始後24–36時間でこれらの血中濃度が急降下し、大きな体内欠乏が「暴露」されることが特徴。これが起きる機序として、ケトアシドーシスの是正によりpHが正常化 → 細胞内pH上昇が解糖系律速酵素を刺激し、ATP合成のために細胞内への電解質の取り込みが増大、ブドウ糖輸液によるインスリン分泌増加 → リンの細胞内シフトがさらに進む、アルコール離脱に伴う呼吸性アルカローシスとカテコールアミン上昇も同様にで電解質の細胞内移行を促進するなど。
酸塩基異常は混合性が多く、78%の患者で複数の異常が共存する。代表はアルコール性ケトアシドーシスであり、入院アルコール関連患者の約25%で認められる。アルコール中止後、嘔吐や腹痛を契機に受診する例が典型的。治療は5%ブドウ糖を含む0.9%生理食塩水による容量・循環の是正とケトーシスの停止が基本であり、インスリンは通常不要・むしろ低K・低P・低Mgを悪化させるため避けるべきとされる。ビタミンB1(チアミン)はブドウ糖投与前に投与し、Wernicke脳症などを予防する。ブドウ糖は7.0–7.5 g/h程度の投与をすることで、12–24時間以内にアシドーシスは改善する。
P・Mg・Ca・Kは相互に密接に連関しており、慢性アルコール使用障害ではこれらすべてが同時に枯渇していることが多い。また、アルコール自体が腎尿細管機能に長期的なダメージを与えるため、入院初期の補正後も数週間にわたり電解質異常が再燃しうるのがやっかい。
リン欠乏は入院後2–3日で50%の患者に急性低リン血症として顕在化し、背景には低栄養、アルコール誘発性腎遠位尿細管障害(糖尿・アミノ酸尿・高Mg尿など)、代謝性アシドーシス、二次性副甲状腺機能亢進、Mg欠乏などがある。低Pは筋力低下、横紋筋融解、組織虚血、溶血、心機能障害などを引き起こす。
Mg欠乏は約1/3の患者にみられ、低摂取・吸収障害・腎性喪失(アルコールによる尿細管障害)が原因である。Mg低下は副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌低下と標的臓器抵抗性を招き、低Ca血症の持続の主因となる。Mgを補正しない限り低Ca血症は改善しない。
K欠乏は約半数の患者でみられ、低摂取、下痢、嘔吐およびアルコール性ケトアシドーシスに伴う尿中K喪失、Mg欠乏によるROMKチャネル脱抑制、β2刺激・呼吸性アルカローシス・インスリンによる細胞内移行などが複合して生じる。重度低Kは致死的不整脈や急性筋力低下・横紋筋融解を来す。
酸塩基平衡
Mixed Acid-Base Disturbances: Core Curriculum 2025
血液ガスの評価に関する超絶review。
サリチル酸中毒とかD-乳酸代謝性アシドーシスとかゲンタマイシンによる神経筋接合部遮断作用による呼吸性アシドーシスとか疑えるかなぁ。
代謝・内分泌
How to manage sodium-glucose cotransporter-2 inhibitors in the critically ill patient?
ガイドライン(ADA)は、重症疾患、ケトン血症・尿症、長期絶食や手術時にはSGLT2iを避けるよう推奨しており、現時点では入院中の一般的な糖尿病管理薬として routine に用いるべきではないとしている。
一方で、EMPEROR試験のサブ解析ではSGLT2iを中止すると心不全患者の心血管死・心不全入院リスクが増加することが示されてた。SGLT2iを急に止めることで、心不全患者に有害な影響が出る可能性を示唆しており、「ICU入室=自動的に中止」という一律の方針には慎重であるべきで、「急性期の中止」が必ずしも安全ではない可能性がある。
さらに、急性心不全患者における単施設研究では、早期のempagliflozin導入により5日間の尿量累積が25%増加し、腎機能への悪影響は認めなかったと報告されており、急性期でもうまく使えばうっ血解除に寄与しうることが示唆されている。
ICUの実臨床では、ショック・重度代謝性アシドーシス・重度UTIではSGLT2i中止を考慮すべきだが、
・慢性心不全を有し、血行動態が安定している患者
・尿量やうっ血管理が課題となる患者
ではSGLT2i継続を検討することができる。ただし、モニタリングは必要。
※SGLT2iは難治性低Mg治療の補助薬ともなりえる。
敗血症・感染症
真菌感染症
Invasive candidiasis in intensive care medicine: shaping the future of diagnosis and therapy
ICUの侵襲性カンジダ症(IC)は致死的。non-albicans増加と耐性化(C. glabrata/C. auris/C. parapsilosis)が問題。
ICリスク予測スコアの最大の価値は高い陰性的中率にあり、安全に抗菌薬投与を見送れることにある。高スコアだとしてもそれを治療開始の唯一の指標にしない(検体採取を行うトリガーとして使用し、臨床像がICを支持するときに限り経験的治療を行う)。
診断は培養感度が低く遅い。BDGは偽陽性に注意しつつ“除外”に有用(陰性ならデエスカ可)、単独で治療開始しない。疑えば血培ペア採取+病巣からの採取、必要に応じ分子検査を行う。
ショック・超高リスクは経験的治療→24–48hで再評価。第一選択はエキノカンジンだが部位移行不良やECMO/CRRT・低Alb・肥満で曝露低下→TDMと用量最適化。改善乏しければアムホテリシンBを強く考慮。持続カンジダ血症はソースコントロール不良・曝露不足が多因、AFST(FKS/ERG11)と反復培養でモニタリング。
Current diagnostic approach to fungal infection in the critically ill patient
真菌感染症のバイオマーカーによる診断の感度や特異度が詳しく説明されている。
侵襲性カンジダ症(IC): 血液培養がゴールドスタンダード。2025年ガイドラインでは、バイオマーカーやNAATは単独では日常診療の標準推奨に至らず、補助的役割にとどまる。BDG、マンナン/抗マンナン、CAGTAの感度・特異度は概ね60–87% / 58–90%。組合せによりNPVが上昇。
侵襲性アスペルギルス症(IA): リスク因子は中〜重度COPD、肝硬変、制御不良HIV、固形腫瘍、高用量/長期ステロイド、侵襲的ICU処置、長期抗菌薬、最近のウイルス感染など。血清GALは好中球減少例で感度72%だが、非好中球減少例では16.7%へ低下。BALでのGALは感度60–90%。BAL-GAL+血清BDGの併用で、重症患者において感度・NPVが最大100%に達しうる。
Pneumocystis jirovecii肺炎(PJP): 免疫蛍光が標準。BALでのNAAT(主にqRT-PCR)は感度ほぼ100%・高NPV。血清BDGはしばしば高値だが単独では除外に不十分。非侵襲検体(鼻咽頭吸引・含嗽液)でのNAAT併用も示される。
ムーコル症: 特異的バイオマーカーが乏しく、血清NAATの有用性が前向き試験(MODIMUCOR)で示されつつある。BALや血清での新規LFD(Rhizopus arrhizus/panmucorale抗原)開発も進む。
Review on the management of intra-abdominal candidiasis
腹腔内カンジダ症(IAC)は集中治療室で診断される腹腔内感染症の10〜30%を占め、入院期間の延長と高い罹患率・死亡率と関連する。
診断には血液培養が用いられるが、陽性率は低く(5〜20%)、診断までに72時間以上要することがあり、結果として治療開始が遅れ、死亡率が上昇する。
BDGやCandida PCRなどの非培養法は早期診断に有用だが、偽陽性や感度の限界がある。
腹腔内で分離されるCandida種としてはC. albicansが最多だが、C. glabrataやC. parapsilosisも多く、多種混合感染も稀に認められる。腹腔内は抗真菌薬耐性の隠れたリザーバーとなる可能性があり、特にC. glabrataの耐性株が問題。
重症患者では薬物動態(PK)・薬力学(PD)が変化しやすく、標準用量では治療効果が不十分なことがある。
エキノキャンディンは腹腔内移行が悪く、C. glabrataなどには不十分な可能性がある。
脂質製剤アムホテリシンB(L-AmB)は組織浸透性や耐性回避の観点から特定の症例で有用である。組織浸透性良好、耐性もほぼ見られず、持続透析やECMO使用中でも血中濃度維持が可能となる。
BDGガイドによる治療の早期中止戦略は、抗真菌薬使用の最適化に貢献し得る。
L-AmBの単回高用量投与+BDG戦略による早期中止は安全で、抗真菌薬の過剰使用を回避できる可能性がある。
※CRBSIとの鑑別はどうすればいいだろうか…
・Differential Time to Positivity(DTP):CVCから採取した血液培養が、末梢静脈から採取した血液培養よりも2時間以上早く陽性化した場合、CRBSIの可能性が高い(Lancet Infect Dis . 2007 Oct;7(10):645-57.)
・定量培養法:CVCから採取した血液の菌数が末梢静脈から採取した血液の菌数の5倍以上であれば、CRBSIを強く示唆する(Lancet Infect Dis . 2007 Oct;7(10):645-57.)
・カテーテルチップ培養:カテーテル抜去時に先端(5cm)を半定量培養し、同一微生物が血液培養とカテーテル先端から検出された場合も診断根拠となる(Clin Infect Dis . 2009 Jul 1;49(1):1-45.)
外傷・熱傷とか
外傷
High risk and low prevalence diseases: Traumatic arthrotomy
ポイントは、①身体所見で関節損傷があるかはわからない、②レントゲンやCTを補助的に活用せよ、③疑ったら専門科コンサルトせよ。
・TAは患者を化膿性関節炎の発症リスクにさらし、緊急の外科的状態とみなされている
・ 化膿性関節炎の死亡率は15%にも達し、関節機能の不可逆的な低下は25~50%に達すると報告されている
・最初の画像検査では、患関節の単純X線写真を撮影するべき
・骨折、関節内遊離ガス、または放射線不透過性異物の視認は、TAの非常に疑わしい所見
・膝関節TAの検出における従来のX線写真の有用性を遡及的に評価し、関節腔内の遊離ガスを評価する感度は78.1%、特異度は90.6%
・膝関節X線写真において、後から遊離ガスの存在が判明した症例の80%は、初回の読影で見逃されていた
・生理食塩水負荷試験(SLT)は、外傷部位から離れた関節内に滅菌生理食塩水を注入し、創傷からの体液流出を観察することで、関節包の完全性をさらに評価するためにも使用できる
・臨床判断のみでTAを診断した場合、感度は57%、特異度は61%
・小さな創傷の場合、TAの診断を確定または除外するためには、身体診察だけでは限界がある
・TAを強く疑う所見としては、血液中の脂肪滴や損傷部位からの滑液の漏出など
・CTはTAの評価における代替法として、そしておそらくは好ましい方法として提案されている
・CT検査がTA患者の診断において100%の感度を示した(ただし、膝)
・抗菌薬は開放骨折のGustilo分類に沿うような形で行う
Diagnosis of acute compartment syndrome: current diagnostic parameters
急性コンパートメント症候群(ACS)は、筋膜区画内の圧上昇により組織灌流が障害され、虚血、低酸素、壊死へと至る進行性の疾患。全ACS症例の80%以上が四肢の骨折に起因し、特に脛骨骨折が3分の2を占める。
診断は依然として困難であり、明確な診断基準やゴールドスタンダードが存在しない。それでいて、4〜6時間以内の外科的減圧(筋膜切開)を逃すと、不可逆的な損傷が起こりうる。現時点では、身体診察とMEMS型連続圧測定の併用が、最も信頼される組み合わせとされる。
身体診察所見(痛み、蒼白、感覚障害などの“6P”)は信頼性に乏しく、特に早期には非特異的である。従来の「Pain with passive stretch」や「痛みの程度が外傷と不釣り合い」という所見は、主観的で不正確である。
非侵襲的検査(MRI、NIRS、超音波など)は現在のところ診断精度に課題が多く、臨床応用には限界がある。
従来のカテーテル式圧測定は技術的困難が多く、誤差も大きい。
MEMS(微小電気機械システム)センサーを用いた連続的な筋内圧測定は、精度と再現性に優れており、今後の主流になる可能性がある。
手術閾値は、McQueenらにより「ΔP = 拡張期血圧 − 筋内圧(ICP)」という指標が導入された。ΔPが<30 mmHgの状態が 2時間以上持続すれば、筋膜切開術の適応とされた。これにより、平均で 16時間早く手術が実施され、後遺症リスク91%低下、骨癒合不全(non-union)も低減した。
熱傷
Emergency department management of smoke inhalation injury in adults
火事現場から救出後の患者が呼吸困難を訴える場合には、①上気道熱傷(浮腫→閉塞)、
②下気道/肺実質障害(フィブリンキャスト、V/Qミスマッチ、無気肺、気管支攣縮)、
③CO/CNによる細胞レベルの低酸素あたりを考える。
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/nessho2023.pdf
熱傷診療ガイドライン第3版。
来院時CTでの気管分岐2cm下での気管粘膜厚(BWT)は人工呼吸器装着日数/ICU滞在日数と有意な相関を示し、肺炎発症の予測にも有用。BWT>3mmは肺炎発症予測に関して、感度79%/特異度96%/PPV91%/NPV88%とされていて、個人的にはよく見る所見。
あとはキャスト除去のためのヘパリン+NAC吸入。具体的なレジメンは掲載されていないが、UpToDateでは、NAC20%溶液3 mLを4時間ごと+ヘパリン5000~10,000単位を3 mLの生理食塩水に溶解したものを4時間ごとに7-14日間または抜管できるまで投与すると記載あり。
中毒
Use of intravenous lipid emulsions in drug-induced toxicities: a 2025 narrative review
静注脂肪乳剤(ILE)はもともと局所麻酔薬による心停止(特にブピバカイン中毒)の治療法として1998年に提案された。現在では三環系抗うつ薬、カルシウムチャネル遮断薬、抗精神病薬など多くの脂溶性薬物中毒に使用されている。
作用機序として「リピッドシンク仮説」や「リピッドシャトル仮説」に加え、心筋保護や血管調節などの非除去的作用も提唱されている。
・リピッドシンク仮説:ILEが血中に脂肪相(lipid phase)を形成し、脂溶性薬物をその中に取り込むことで血漿中の有効濃度を下げる。
・リピッドシャトル仮説:単なる吸着にとどまらず、毒物を脳や心臓など高感受性臓器から肝臓・脂肪・筋肉へと再分布させ、代謝・解毒を促す。たとえばトラゾドン中毒では、血中濃度が急激に低下した後に再上昇する現象が観察され、これは一時的な脂質中隔への移行と再放出を示唆していると考えられている。
こういった除去の要素だけではなく、ILEには以下のような非除去的メカニズムが生じている。
・心筋収縮力の増強:ILEが前負荷・後負荷に依存せずに心拍出量や収縮力を高める。
・NOによる血管拡張の抑制:リノレン酸によりNO媒介性血管弛緩を抑制し、血圧上昇に寄与。
・ミトコンドリア機能の支持:毒物によるミトコンドリア機能障害(ATP合成阻害やROS産生増加)を改善。
・細胞膜の安定化とイオンチャネルの調整:Naチャネル遮断の解除やCa流入の促進による陽性変力・変時作用。
・細胞内シグナル調節:GSK-3βのリン酸化を通じて虚血再灌流障害を軽減。
臨床研究(RCTやコホート研究)および動物実験、症例報告により、ILEの有用性が一部示されている。
RCTでは、トラマドール、クロザピン、有機リン系農薬中毒でGCS改善、入院期間短縮、痙攣抑制などの効果が報告されている一方で、死亡率低下は一貫して証明されていない。多くの研究はサンプルサイズが小さく、バイアスリスクが高い。
観察研究や症例報告レベルでは、非LASTの中毒でも改善が報告されているが、他治療との併用が多く、因果関係の特定は困難である。
稀ながら重大な副作用として以下が挙げられるため、安全投与量は10–12 mL/kg以下・血中TG濃度の測定と投与速度・量の制限が推奨される。
・急性膵炎
・脂肪過負荷症候群(特に持続大量投与時):呼吸障害、ARDS、血液回路閉塞(ECMO・CVVH)
LASTに対しては第一選択薬として推奨されているが、その他の薬物中毒への適応には議論が残る。
症候
めまい
めまい診療は「TiTrATEアプローチ」(Timing, Triggers And Targeted Examinations)で行う。Timing and TriggerによりAVS vs EVSを決定し、そこからTageted examinationを行う流れになる。
AVSの場合はHINTS(Head Impulse, Nystagmus, Test of Skew)を実施。AVSに含有しうる概念であるAIS(Acute Imbalance Syndrome)は眼振を伴わず姿勢や歩行の不安定性が主症状の場合を指すが、これは中枢病変を示すリスキーな徴候として知られる。
救急外来というよりは内科外来でより詳しく詰めるための総説。なんかよくわからんめまいのときにtable 1を眺めながら鑑別を考えていく。
救急現場でAVSといえば通常は「椎骨脳底動脈系脳卒中」と「急性一側性前庭障害(AUVP)」が鑑別の主役だが、多数の非神経学的原因や脳卒中以外の神経疾患もAVS様に発症しうる。
非神経学的AVSの代表として、薬物中毒・薬剤副作用、アルコール・違法薬物、電解質異常、内分泌異常(低血糖・甲状腺機能異常など)、起立性低血圧、ビタミン欠乏(特にB1)、心疾患(不整脈、低心拍出)、重度貧血・低酸素、環境毒(CO、農薬)、高地障害などを挙げている。
薬剤としては、多くは 中枢神経抑制/興奮薬:抗てんかん薬(フェニトイン、カルバマゼピン、オクスカルバゼピン、ラコサミド、ガバペンチン、プレガバリン)、ベンゾジアゼピン、リチウム、抗不整脈薬(アミオダロン)、一部の抗がん剤(シタラビン、エポチロンD)など。
脳卒中以外の神経疾患として、多発性硬化症や他の脱髄疾患、後頭蓋窩腫瘍・転移、脳炎、頭蓋内圧亢進・低下、前庭性片頭痛、ビタミンB1欠乏によるWernicke脳症などがAVS/EVSの原因となる。
非神経学的AVSでは一般に、眼振が乏しい/動作で悪化しない一方、全身症状(血圧異常、脱水、呼吸症状、内分泌症状など)が前景に立つことが診断の手掛かりとなる。