病歴
・4か月女児、ワクチン接種未
・左側頭部の腫脹のためER受診
・2日前に転落したと母親が話した
・鼻汁あり、発熱なし、咳嗽なし、嘔吐なし
・左側頭部に腫脹を認めるが周囲に裂創や紅斑は伴っていなかった
・CT…左側頭部の帽状腱膜下血腫を認めた
◦頭蓋骨骨折や頭蓋内出血はなかった
・ウイルス性上気道炎と診断され帰宅となった
その後の経過
・5日後にER再受診
・発熱の持続、機嫌の悪さ、血腫増大しているとのこと
・BT39℃, HR198bpm
・左側頭部腫脹は7cm*10cmにまで拡大
◦紅斑と熱感があり、触診で痛そうにした
・血液検査…WBC30000/mm3, CRP20mg/dL, Hb9.6g/dL
・血液培養採取後、CTRX静注を実施
・脳外科へコンサルトされ、ベッドサイドで血腫の穿刺が行われた
◦2mlの黄色がかった血性の液体を採取
・上記結果よりVCMが追加投与された
最終診断
感染性帽状腱膜下血腫
・血液培養は陰性であったが、血腫培養はStreptococcus pneumoniae
◦CTRX感受性あり、VCMの投与は中止された
・頭部腫脹と紅斑は改善し、解熱もした、CRP2.6mg/dLに低下
・患者は5日後に退院し経口抗菌薬投与を受けた
・3週間後のフォローで異常ないことを確認された
・帽状腱膜下血腫は新生児ではまれで、3例/1000出生
・受傷起点としては器具を使用した分娩が多く、導出静脈の損傷による
◦これらの静脈は表在性脳静脈と深部の硬膜静脈洞とを接続する役割がある
・臨床症状…縫合線を越える頭皮の腫脹、黄疸、不機嫌、筋緊張低下など
(Pediatr Neurosurg. 2015;50(4):223-8./Eur J Pediatr. 2009 Jun;168(6):647-50./Pediatr Infect Dis J. 2007 Aug;26(8):757-9.)
・帽状腱膜下腔は、新生児で最大250mlの液体を貯留できこれによりhypovolemic shockを発症することもある
(Eur J Pediatr. 2009 Jun;168(6):647-50./Neurosurgery. 2003 Jun;52(6):1470-4; discussion 1474.)
・鈍的外傷や髪を引っ張られることで、乳幼児や思春期の児童でも帽状腱膜下血腫を発症しうる
(Pediatrics. 1981 Oct;68(4):583-4./Pediatr Radiol. 2009 Jun;39(6):622-4.)
・帽状腱膜下血腫に感染を伴うことはさらにまれで、通常は頭皮の挫創が併発していることが多い
◦頭皮の挫創なく感染を起こすこともあるが、文献で報告がわずかにある程度
‣細菌の血行性播種(特に急性中耳炎や副鼻腔炎からの微小血管系関与)によると考えられている
(Pediatr Neurosurg. 2015;50(4):223-8./Eur J Pediatr. 2009 Jun;168(6):647-50./Ann Emerg Med. 1989 Jul;18(7):785-7.)
・起因菌は、周産期ならE.coli、外傷ならS.aureusが多い
(Pediatr Neurosurg. 2015;50(4):223-8.)
・血液検査で炎症反応上昇があることや、帽状腱膜下血腫に紅斑/熱感/圧痛などを伴う場合に感染を疑う
・診断には画像的所見を要さないが、CTは血腫の程度とともに頭蓋骨の病変を特定するのに有効である
(Pediatr Neurosurg. 2015;50(4):223-8./Eur J Pediatr. 2009 Jun;168(6):647-50.)
・治療法について標準的なガイドラインはないが、針吸引は診断と治療の両方に有効であり、抗菌薬投与とともに考慮されるべし
・膿瘍形成+頭蓋骨骨髄炎を合併した症例では外科的介入とドレナージ留置がされることがある
(Pediatr Neurosurg. 2015;50(4):223-8./Eur J Pediatr. 2009 Jun;168(6):647-50./Eur J Pediatr. 2004 Sep;163(9):565-6./Pediatr Neonatol. 2015 Apr;56(2):126-8.)
帽状腱膜下血腫が出来て2日後の受診、というのが少し遅いような。
このような外傷ではいつでも虐待を疑わないといけません。症例報告の中には記載がなかったけど、どうして4か月が転落するんでしょう…
まとめ
・新生児の帽状腱膜下血腫では、挫創がない限り感染を起こすことはまれだが、炎症所見や血液検査での炎症反応上昇があれば感染を疑う(特にワクチン未接種では怪しい)
・診断的治療として針穿刺は良い適応