病歴/身体所見
・37歳男性
・突然発症の左踵部痛のためER受診
・テニスをしているときに左足関節後部にぱちんと音がするような感覚を自覚した
・既往歴なし、抗菌薬投与歴なし
・アキレス腱部に陥凹があり、下腿を圧迫しても足関節底屈が生じなかった
診断
アキレス腱断裂
・保存的治療が選択されたが、3か月経過後リハビリ中に再発症し外科的治療がされた
・Simmonds–Thompson testでは、ふくらはぎを圧迫した時に足関節底屈がない場合に陽性と判定し、アキレス腱断裂を示す
◦部分断裂と鑑別はできないが、診断は高い感度と陽性的中率がある
(Clin Podiatr Med Surg. 2017 Apr;34(2):229-243.)
左アキレス腱断裂
身体所見でもいいですし、エコーでも一発ですね!
そういえば、キノロン系抗菌薬が腱断裂リスクを上げるとどこかで聞いた気がするのでUptodateで見てみました。
アスリートに対するキノロン処方について以下のように説明されていました。
・fluoroquinoloneによる腱断裂のリスクは高くはない
・ただし一般的には、既知の腱障害や損傷がある場合にはfluoroquinoloneによる治療は避けるのが(代替手段があれば)妥当と考えられている
・特にアスリートに対しては予防策を講じておいたほうがよい
(ただし、エビデンスがあるわけではない)
(PM R. 2011 Feb;3(2):132-42.)
以下、推奨を示します。
➀アスリートはfluoroquinolone初回投与時から運動量と強度を減らし、抗菌薬投与期間全体を通じてこれを維持する
・fluoroquinolone投与終了2-4週間を経過するまでは高強度のトレーニングは許可しない
②ランナーであれば、初回投与から7日間は走行距離を60%程度まで減らし、坂道走行やスピードインターバルトレーニングは避ける
・治療2週間経過して無症状であれば、1週間に10%ずつ走行距離を伸ばしてよいが、さらに2週間はスピード/坂道トレーニングは避ける
③サッカーやテニスなどの競技では、治療終了後2-4週間経過してから通常のトレーニングと競技を再開することを選択可能
・ただし、強度は徐々に増やすのがよく、治療終了から4週間を経過するまでは腱損傷の可能性が高いことには言及しておく
キノロン系抗菌薬が処方されるシーンはだいぶ限られると思いますが、
どうしても必要な場合には上記のようにリスクマネジメントをする必要があります。
まとめ
・Simmonds–Thompson test陽性はアキレス腱断裂を示唆する
・ニューキノロンにより腱断裂リスクが増加する可能性がある
◦特にアスリートに処方する際には適切な指導を要することを覚えておく