りんごの街の救急医

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症例62:嘔気、嘔吐、左半身脱力で受診した65歳男性(J Am Coll Emerg Physicians Open. 2020 Nov 6;1(6):1763-1764.)

病歴/身体所見

・65歳男性
・嘔気/嘔吐、左半身脱力のためER受診
・胸痛の訴えはなかった
・左上下肢の麻痺があったが、そのほかの神経学的異常なし
 

検査

脳梗塞疑いとして検索が開始された
・頭部CT…右大脳半球の広範な梗塞所見

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暫定診断

脳塞栓症
 
精査目的で実施した頭頚部CTAで以下の所見が偶然見つかった

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最終診断

Stanford A型急性大動脈解離
 
 
・急性大動脈解離は、急性発症の裂けるような胸背部痛を呈することが典型的
 
10%ほどの患者で全く胸痛がないことが知られている
(Emerg Med J. 2006 Mar;23(3):e24.)
 
・急性大動脈解離はしばしば他の疾患であるようにふるまうため診断の遅れが生じえる
 
神経学的異常は大動脈解離の30%で認められる
(Stroke. 2007 Feb;38(2):292-7.)
 
脳梗塞と判断して血栓溶解療法を行うことで、大動脈解離がある場合にはその予後を悪化させる
 ◦血栓溶解療法を行う前には大動脈解離の可能性がないか考慮することは重要
(Case Rep Emerg Med. 2014;2014:468295.)
 
・CXRは血栓溶解療法前にルーチンに行われる検査となっている
 
救急医実施の超音波によるStandord A型大動脈解離診断の感度は88%
 ◦迅速に行えることに利点がある
(Intern Emerg Med. 2014 Sep;9(6):665-70.)
 
・大動脈解離診断のgold standardはCTAによる
(Clin Pract Cases Emerg Med. 2018 Aug 14;2(4):300-303./West J Emerg Med. 2010 Feb;11(1):98-9./Eur J Echocardiogr. 2010 Sep;11(8):645-58.)

 

 

大動脈解離にはいつも悩まされます。上記症例がその典型的な例です。

特に胸痛がないタイプにはいつもひやっとさせられます。

 

以前経験した症例では…

・「動悸」のため救急要請(そのほかに症状は皆無)

・救急隊接触時、BP150/80mmHg, HR120bpm その他異常なし

・当院到着時、BP80/60mmHg, HR120bpm

 

このバイタルの差はどこから来たんでしょうか?

実は、救急隊は右上腕で血圧測定、当院では左上腕で血圧測定をしていました。

これがきっかけで大動脈解離の診断に至れました。偶然の産物であり、この所見がなければ解離の診断はもう少し遅れていたかもしれません。

 

脳梗塞と診断した場合には胸部CTもルーチンがよいのかもしれません。

当院ではCOVID-19対策として入院症例には全例胸部CTを撮る決まりになっています

(これが本当に必要かどうかはさておき)

現在では、良くも悪くも、これのおかげであまり見逃しは起きないかもしれません。

 

まとめ

・急性大動脈解離の10%では胸痛は全くない

・神経学的異常は急性大動脈解離の30%で認められる

脳梗塞に対する血栓溶解療法実施前にはCXRや超音波、CTなどによるスクリーニングが有効かもしれない