病歴/身体所見
・21歳男性
・2日前にサッカー中に足首を「ひねり」、体重を乗せると足の痛みが出現するようになった
・第1-2中足骨基部付近に腫脹と圧痛を認めた
◦足背や足底の皮下出血は認めず
検査
・単純レントゲン
内側-中間楔状骨間距離の増大(破線部)
第2中足骨の側方偏位(矢印)
intermetatarsal fat pad sign陽性(両矢印)
・CT
第2中足骨基部と中間楔状骨のアライメント不全(破線)が生じ第2中足骨が側方偏位
内側楔状骨と第2中足骨基部間も拡大している
・MRI
MRI T2WIにてLisfranc ligamentに信号変化を認めた
診断
リスフラン関節靭帯損傷
経皮的整復および固定が実施された
・Lisfranc関節損傷
…足根中足関節複合体(tarsometatarsal joint complex)の破壊を伴う一連の損傷
◦多くは、1つまたは複数の中足骨基節部の脱臼骨折を伴う
◦高エネルギー外傷と関連
◦レントゲンで容易に診断可能
(Injury. 2015 Apr;46(4):536-41.)
・Lisfranc関節靭帯損傷
…内側楔状骨の足底表面と第2中足骨基部をつなぐ強靭なLisfranc靭帯の損傷
◦低エネルギー外傷と関連
◦軽微な所見しか出ず、ERでは見落とされる可能性がある
(Injury. 2015 Apr;46(4):536-41./Chin J Traumatol. 2019 Aug;22(4):196-201./EFORT Open Rev. 2019 Jul 2;4(7):430-444.)
今回扱うのは、診断が難しい「Lisfranc関節靭帯損傷」です。
まずは解剖学的な話です(これがわからないと理解できません)
・足根中足関節(tarsometataesal joints:TMT関節)…Lisfranc関節ともいわれる
◦3つの楔状骨(内側/中間/外側)+立方骨+中足骨基部とからなる関節
→基本的には可動性が小さい関節
◦そのなかでも第2TMT関節(中間楔状骨と第2中足骨基部との間の関節)は最も可動域が小さい
・TMT関節(Lisfranc関節)複合体…dorsal/ interosseous/ planter ligamentsからなる
◦dorsal Lisfranc ligament…内側楔状骨と第2中足骨基部を背側から連結している
◦interosseous Lisfranc ligament…内側楔状骨と第2中足骨基部を連結し、安定性のkeyとなる靭帯
◦plantar Lisfranc ligament…内側楔状骨と第2-3中足骨基部を足底側で連結する靭帯
(Radiographics. Mar-Apr 2014;34(2):514-31.)
上記を図示すると以下のようになります。
a)足背側…青:dorsal TMT ligament、茶:inter-metatarsal ligaments(第1-2中足骨間には存在しない)
b)足底側…赤:plantar TMT ligamennt、緑:interosseous ligament
(Radiographics. Mar-Apr 2014;34(2):514-31.)
上記のように、足底骨と中足骨は強靭な靭帯によって連結されていて、可動性が非常に少なくなっている関節だと理解します。
解剖だけでおなか一杯かもしれませんが、やっと本論にいきます。
ここから学ぶLisfranc関節複合体(=dorsal/ interosseous/ planter ligaments)の損傷ががすなわち、Lisfranc関節靭帯損傷(ligamentous Lisfranc injury)の主要な機序になります。
(Radiographics. Mar-Apr 2014;34(2):514-31./EFORT Open Rev. 2019 Jul 2;4(7):430-444.)
・Lisfranc靭帯損傷は診断が難しく、20-50%が初診で見逃されている
(Radiographics. Mar-Apr 2014;34(2):514-31./EFORT Open Rev. 2019 Jul 2;4(7):430-444./J Bone Joint Surg Am. 1990 Dec;72(10):1519-22.)
・受傷起点として足底方向への屈曲が起きるような外力があった場合、TMT関節部の圧痛と腫脹がある場合にはLisfranc関節損傷を疑わなくてはならない
◦TMT関節に沿った(直接的な)圧痛や、間接的につま先を圧迫することでTMT関節部の疼痛が誘発される
◦症例によっては足底に斑状出血が認められうる(Lisfranc sign)が、ないからといって除外できないことに注意
(Injury. 2015 Apr;46(4):536-41./J Orthop Trauma. 1996;10(2):119-22.)
(Radiographics. Mar-Apr 2014;34(2):514-31.)
つま先をついて(+回旋運動が加わって)受傷、というパターンではLisfranc関節損傷を疑う
Lisfranc signです。あればLisfranc関節損傷が疑われますし、なくとも除外はできません
(EFORT Open Rev. 2019 Jul 2;4(7):430-444.)
・単純レントゲンでは異常が見られない場合がある
◦疑わしい場合には患肢の荷重撮影を行うこと
◦正面像、側面像、30°内旋位像をオーダーすること
(Injury. 2015 Apr;46(4):536-41./EFORT Open Rev. 2019 Jul 2;4(7):430-444.)
・以下の所見がないか、入念に探すこと
fleck sign
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第2中足骨基部または内側楔状骨の剥離骨折
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intermetataesal fat pad sign
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第1-2中足骨基部間距離>2mm
※同様に、通常は内側楔状骨第2中足骨基部間距離が2mm未満であることを確認せよ
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subluxation of TMT joints
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それぞれの中足骨と対応する足根骨とのアライメントが悪くなっている
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dorsal step-off sign |
中間楔状骨の高さに比較して第2中足骨基部が背側に偏位している
※荷重して側面像でより顕著
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intercuneiform diastasis
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内側-中間楔状骨間距離の拡大
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それぞれ図示すると以下のようになります。
足のレントゲンをみるときにはここをチェック!です。
・CTは中足骨基部のoccult fractureやそのほかの足根骨骨折などを検索する目的で有用
◦axial, coronal, sagittalに加えて3次元の再構成をするとTMT関節のわずかなずれを同定できる可能性がある
(Radiographics. Mar-Apr 2014;34(2):514-31.)
・MRIは疑わしさが高い症例に使用される
◦Lisfranc ligament complexの損傷が可視化できる
(Radiographics. Mar-Apr 2014;34(2):514-31./Skeletal Radiol. 2012 Feb;41(2):129-36.)
・Lisfranc靭帯損傷が同定された場合には外科的手術により安定性を獲得する必要がある
◦未治療により外傷後足関節症の発生率が高くなり、慢性疼痛などの原因になる
(Injury. 2015 Apr;46(4):536-41./EFORT Open Rev. 2019 Jul 2;4(7):430-444.)
もうちょっと例を見ながら、Lisfranc関節靭帯損傷がきたときに見逃さないようにトレーニングしてみます。
まずは、正常像の確認です
a)M1とC1(第1中足骨と内側楔状骨)、M2とC2(第2中足骨と中間楔状骨)のアライメントが滑らか。C1-M2間距離とM1-M2間距離がそれぞれ2mm未満
b)側面像:M1とC1が作るライン(点線)が一直線。M1ライン(黒線)がM5ライン(白線)より背側に位置している
(Radiographics. Mar-Apr 2014;34(2):514-31.)
a)第1中足骨の完全脱臼と第2-5中足骨の側方偏位、立方骨骨折
b)加重により中足骨の背側への脱臼が顕著にみえる(dorsal step-off sign)
c)CTにて第2中足骨基部骨折が明らかになった
(Radiographics. Mar-Apr 2014;34(2):514-31.)
fleck sign陽性(第2中足骨基部の剥離骨折)
内側楔状骨や第1中足骨と第2中足骨の距離が2mm以上に開いている
(Radiographics. Mar-Apr 2014;34(2):514-31.)
a)非加重。あまりはっきりした損傷なし
b)荷重すると、内側楔状骨/第1中足骨と第2中足骨間の距離が2mm以上に拡大している
(Radiographics. Mar-Apr 2014;34(2):514-31.)
これだけ見ておけば、見逃さないはず!!!
症例はサッカーをしていて、ボール蹴ろうとして地面でも蹴ってしまったんでしょうか。
まとめ
・Lisfranc関節靭帯損傷は軽微な所見しか出ず、ERで見逃される可能性がある
・爪先をつくように受傷した場合にはLisfranc関節損傷を疑う
・Lisfranc関節部の圧痛や腫脹がある場合、足底に出血斑がある場合にはLisfranc関節損傷を疑う
・単純レントゲンでは、必要に応じて加重撮影をせよ
・第2中足骨基部や楔状骨の骨折/第1-2中足骨基部間の距離や内側-中間楔状骨間の距離が拡大/中足骨と足根骨のアライメントが滑らかでない/荷重して側面像で中間楔状骨の高さに比較して第2中足骨基部が背側に偏位している場合にはLisfranc関節損傷を疑う
・Lisfranc関節損傷があれば手術を要する