りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

症例21:急速に進行する全身のびらんと粘膜病変を呈する39歳女性(J Emerg Med. 2020 Oct;59(4):e139-e141.)

病歴/身体所見

・39歳女性
・既往歴なし
・3日間で急速に進行する顔面のびまん性膿疱性発疹、口唇びらん、羞明が出現し入院となった

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・入院して2日後、体表面の70%以上に及ぶ粘膜皮膚に水疱形成を認めた

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・この時点で、頻脈/尿閉/嚥下困難が出現していた
 
・さらに、熱傷に似た表皮壊死を広範囲に発症した

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診断

中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis: TEN)

 
sertralineを15日間内服していたことが判明
・SCORTEN scoreは3点
・治療はsertraline中止と支持療法がおこなわれた
・27日後、皮膚病変改善し退院となった

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TEN生命を脅かす皮膚粘膜の水疱性疾患
 ◦広範囲な皮膚壊死と全層性表皮剥離が特徴的
 ◦弛緩性水疱/湿った葉巻紙のような表皮の剥離/広範囲なびらん/粘膜病変が主要徴候
(J Am Acad Dermatol. 2013 Aug;69(2):173.e1-13)
 
・急速かつ予測不能な発症をして、多くは薬剤により誘発される
 ◦薬剤摂取後、7日間~8週間で通常は発症しうる
  ‣平均6日間~2週間
(J Am Acad Dermatol. 2013 Aug;69(2):173.e1-13/An Bras Dermatol. Sep-Oct 2017;92(5):661-667.)
 
SSRIは誘因となりうる…fluoxetine, sertralineなど
 ◦sertralineは光毒性/日光アレルギー/斑状丘疹状発疹/Stevens-Johnson syndrome/剥奪性皮膚炎/acute generalized exanthematous pustulosis(AGEP)などの原因となることが報告されている
 ◦ただし、TENにまで至ることは多くない
Acta Derm Venereol. 1999 Sep;79(5):401./Postepy Dermatol Alergol. 2014 May;31(2):92-7./Orphanet J Rare Dis. 2010 Dec 16;5:39./J Clin Psychopharmacol. 2009 Feb;29(1):95-6.)
 
SCORTEN scoreは、TEN患者の予後予測に有効なスコアリング
(J Pain Symptom Manage. 2019 Jan;57(1):e8-e9.)

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(Roberts and Hedges’ Clinical Procedures in Emergency Medicine and Acute Careより抜粋)
 
・予後改善のためには、早期の原因薬物の中止と支持療法が必須
 
 
インパクトのある症例でした。
広範囲な皮疹と粘膜病変がある場合に疑われます。
確かにセルトラリンでSJS/TENを発症することは少ないのかもしれないですが、いかなる薬剤でも先行投与があって、広範囲な皮疹+粘膜疹では疑わなければなりません。
 
原因として多いのは"SATAN"で覚えます。
・Sulfa
・Allopurinol
・Tetracyclines
・Anticonvulsants
 ◦carbamazepine, lamictal, phenobarb, phenytoin
・NSAIDs

よく使う薬剤が目白押しです。

 
SCORTEN scoreは初めて聞きました。
とにかく死亡率が高い疾患であるという認識でよいでしょう。
 

まとめ

・TENは死亡率が高い、全身の皮膚粘膜の水疱性疾患
・多くは薬剤により誘発され、平均6日間~2週間程度で発症
 ◦ただし、最大8週間程度まで発症しうることに注意
・原因薬物として"SATAN"を覚えておく
SSRIでの発症はあまり多くないが、いかなる薬剤でも発症しうると認識しておく
・治療は早期に診断し原因薬物を中止することと支持療法が中心