病歴/身体所見
・精神疾患を持つ29歳男性
・自室内で昏睡状態であるところを発見された
・部屋全体に吐物が認められ、腐卵臭が漂っていた
・ER受診時点ではGCS4
検査
・ERで行われたCT検査では異常所見なし
診断
硫化水素中毒
・入院4日目のMRIにて、比較に両側対称性の信号変化を認めた
MRI FLAIRでも同様の所見
・自殺企図であったことが後日判明した
・適切な治療を受けて回復し、1か月後のMRI FLAIRでより明瞭な高信号を認めた
・硫化水素は無色で毒性が高く、腐った卵のようなにおいが特徴的
・硫化水素中毒では、めまい/頭痛/昏睡/けいれんを呈しうる
(Am J Ind Med. 1999 Feb;35(2):192-5.)
→組織を低酸素状態にする
→低酸素性-虚血性脳症を発症する
(Annu Rev Pharmacol Toxicol. 1992;32:109-34./Ind Health. 2004 Jan;42(1):83-7.)
・低酸素に敏感な大脳基底核と大脳皮質に所見が現れる
(Ind Health. 2004 Jan;42(1):83-7.)
・治療は、適切な酸素供給を維持するための呼吸療法を含む支持療法が中心とおなる
(Am J Emerg Med. 2015 Sep;33(9):1327.e1-2.)
・曝露が短時間であったり、適切な治療がされると意識障害からは早期に離脱可能
◦重症、長時間の曝露により永続的な神経学的異常や死亡を引き起こす
毒性を引き起こす機序がイマイチわからなかったのでもう少し調べてみました。
(以下、臨床中毒学より)
◦これは組織に蓄積されず、チオ硫酸/硫酸/ポリスルフィドなどの毒性の低い物質に分解されて尿から排泄
◦同様に、短時間の硫化水素への曝露なら自力で解毒できる機能が備わっている
・硫化水素はH+とHS-に分解される
◦HS-はFe3+に対して高い親和性を持つ
治療方法にも自信がなかったので、Rosen's Emergency Medicine: Concepts and Clinical Practice, Ninth Editionで少し調べてみました。
・基本的には酸素投与などで改善しうる
・亜硝酸Naの使用は、重度または長時間曝露した患者への投与が推奨される
・硫化水素に対するチオ硫酸ナトリウムは不要
・HBOによる明確な利点は示されていない
画像ももう1つ見ておきます。
まとめ
・硫化水素は腐った卵のようなにおいが特徴的な毒性の高いガス
・硫化水素中毒では、めまい/頭痛/昏睡/痙攣などを呈する
・硫化水素はミトコンドリアのcytochrome oxidaseを阻害することで好気性代謝を阻害して組織の低酸素状態を引き起こす
・治療は酸素投与を始めとした支持療法が主体になるが、亜硝酸アミル吸入/亜硝酸ナトリウム静注/高圧酸素療法なども症例によっては考慮される