ERにアルコール使用障害(Alcohol-Use Disorder: AUD)の患者はよく受診します。
それぞれのERにお得意様のような患者さんがいるのではないでしょうか( 一一)
「酒飲みはめんどくさい~」と声が聞こえてきそうですが、
めんどくさがっていると重大な合併症で致命的になることもあります。
今回はAUD患者に発症しうる酸塩基平衡異常と電解質について深めます。
「アル中なんてめんどくさい!」と嫌がっている人ほど読んでみてください。
AUD患者に対してはやらなければならないことがたくさんあります。
背景にある生理的な部分も理解できると奥深さに興味がわくと思います♪
Biff F Palmer et al.
Electrolyte Disturbances in Patients With Chronic Alcohol-Use Disorder.
N Engl J Med. 2017 Oct 5;377(14):1368-1377.
まとめ
異常
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機序または原因 |
解説
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治療
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AKA |
インスリン/グルカゴン比低下によるAG開大型アシドーシス
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・併存疾患の治療
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乳酸アシドーシス
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・併存疾患の治療
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尿中ケト酸塩喪失による間接的重炭酸の消失
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腎での重炭酸再合成により欠乏が補充される
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・保存的治療
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嘔吐
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AKAを合併した時にHCO3-濃度低下以上にAG上昇 |
・Cl含有細胞外液補充
・低K血症補正
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呼吸性アルカローシス
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・アルコール離脱
・慢性肝疾患
・疼痛
・敗血症
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多くは原疾患による混合性酸塩基平衡異常
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・アルコール離脱にはベンゾ
・基礎疾患の治療
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低P血症
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・アルコールによる尿中排出
・Mg欠乏
・アシデミア
・栄養失調
・消化管からの吸収低下
・呼吸性アルカローシス
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・筋力低下
・横紋筋融解
・組織虚血
・溶血
・心機能異常
・尿中P≧100mg/日または排出率≧5%は腎性喪失を示唆
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・経口補充が好ましい
・重度の場合には、42-67mmolのリン酸を6-9時間で投与
・CaとMg低下を防ぐため1日90mmolを超えないようにする
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低Mg血症
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・アルコールによる尿中排出
・P欠乏
・栄養失調
・消化管からの吸収低下
・呼吸性アルカローシス
・アルコール誘発性尿中喪失
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・腎からの喪失が数週間続く可能性あり
・初期補正しても低Mg血症再発しうる
・尿中Mg≧25mg/日または排出率≧2%は腎性喪失を示唆
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・経口補充が好ましい
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低Ca血症
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・アルコール誘発性尿中喪失
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Alb値に合わせて補正
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・Mg欠乏の補正
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低K血症
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・遠位尿細管Na再吸収増加とアルドステロン濃度上昇による尿中喪失
・Mg欠乏
・下痢
・アシドーシス補正
・呼吸性アルカローシス
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・横紋筋融解症患者での低~正常 カリウム値は体内K貯蔵量の著減を示唆
・尿中K≧30mmol/日または尿中K(mmol)/Cre比(g)≧13は腎性喪失を示唆
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・経口補充が好ましい
・重症の場合にはKClを10-20mmol/hrで静注
・アシデミア患者ではK投与前に重炭酸塩を投与
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低Na血症 |
・beer potamaniaで溶質排出低下
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・血管内容量保持とタンパク摂取増加
・最初の24時間で6-8mmolに補正を制限
・補正速度を下げるために5% ブドウ糖やデスモプレシンなどを投与
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・様々な
電解質異常を呈している場合には以下の輸液を行うとよい
5%ブドウ糖+0.45%生食1000ml+リン酸K20mmol+50%硫酸Mg4ml(Mg8mmol)
8時間以上かけて投与
これにアルコール脳症に対する
ビタミンB1投与、アルコール離脱予防目的のベンゾ投与を組み合わせることもあります。
酸塩基平衡
・AUDでは酸塩基平衡が頻発する
混合性異常(
代謝性アシドーシス+
代謝性アルカローシス)が78%と最多です。
呼吸性アルカローシスの合併もよく経験し、その場合にはアルコール離脱/疼痛/
重篤な肝障害/敗血症などの原因を探ります。
これからAKAを題材にAUD患者における酸塩基平衡を見ていきます。
・アルコール関連疾患で入院する患者のうち25%をAKAが占め、アメリカ都市部の病院では週2回×9か月間連続で診断されたと報告
ここまで多くはありませんが、どこの救急外来にもアルコール関連の困った患者はいると思います。 当院でもそれなりの患者が…。できれば社会的に介入したいのですがなかなかうまく実を結びません。。。
・AKA患者では、受診前に飲酒できなくなっているのが一般的
アルコール関連胃炎や膵炎による腹痛や嘔吐を伴うことが多いため、AKAだと決め打ちせずに検索を要します。
経口摂取はかなり不良になっていることが典型像です。
・ケトンと乳酸の蓄積によるAG開大型代謝性アシドーシスを呈する
嘔吐が長引いた患者では
代謝性アルカローシス合併により、HCO3-の低下に比較してAG開大が大きくなります。
ただし、尿中HCO3-排出によりAG正常
代謝性アシドーシスを呈することもあります。
・代謝性アシドーシスを呈していても、約50%にしかアシデミアはみられない
なんと約30%はアルカレミアを呈すると報告されています。

1)AKAは、グルカゴン分泌に対するインスリン分泌の比率が低下することにより引き起こされる
この条件下では、
脂肪酸がケトン体(特に
βヒドロキシ酪酸)に変換されるようになっています。
2)アルコール離脱/飢餓状態/脱水に陥ったAUD患者では、以下の反応が引き起こされる
③コルチゾルや成長ホルモン、グルカゴンなどのストレスホルモン分泌の増加
3)上記反応の結果、脂肪細胞から脂肪酸が遊離して肝臓に移動
つまり、
代謝の際に酸化された
NADに対して還元されたNADHの割合が増加(
NADH/NAD比の増大)することに起因しています。
肝臓では、ケトン体の中でも特に
βヒドロキシ酪酸の産生が優先される状態になります。
→グルカゴンはさらに肝臓でのケトン体産生能力を高める
という悪循環に入ります。
また、AKA患者では
低血糖のリスクが増大し、約25%が
低血糖となります。
①飢餓によるグリコーゲン貯留低下
③交感神経緊張による膵β細胞からのインスリン分泌抑制
インスリン分泌低下とグルカゴン分泌増加のミスマッチがケトン体産生へとつながります。
7)βヒドロキシ酪酸が細胞外液に放出され、NaHCO3と反応し、βヒドロキシ酪酸NaとH2OとCO2になる
間接的に
HCO3-濃度が低下し、ケト酸塩(βヒドロキシ酪酸Na)が増加することとなり
AGが開大します。
8)ケト酸塩がNaやKとともに腎外に排出されるとNaが減少するため、細胞外液量が低下してRAA系亢進により今度はNaCl貯留傾向になる
9)循環血液量低下、NaCl貯留、ケト酸塩体外喪失で高Cl性AG正常代謝性アシドーシスともなる
機序を理解するのは大変ですが、図を見ながらだとなんとなく理解できます。
臨床的に大切なのは、産生されるケトン体はβヒドロキシ酪酸中心ということです。
・尿検査ではβヒドロキシ酪酸を検出できず、アセト酢酸のみを検出しているという事実を知っておくこと
そもそもケトン体には3種類あることをご存知でしょうか。
アセトン、アセト酢酸、βヒドロキシ
酪酸の3つです。
(
DKAもそうですが)AKAを疑うときには
血中β-ヒドロキシ酪酸濃度を測定することがとても大事です。尿中ケトン検査は肝心のβヒドロキシ
酪酸を検出できず、
偽陰性となってしまい、
ケトアシドーシスを見逃す可能性が高まります。
5000円くらいでベッドサイドで測定可能なキットが買えるので、もしもすぐに測定できない施設は購入を検討してもいいかもしれません。
・NADH/NAD比の増大はピルビン酸から乳酸への変換を促進するが、末梢組織では乳酸を酸化できるため乳酸アシドーシスの程度は軽度になる
もしも重度の乳酸アシドーシスがあるならば、ただのAKAだけではないようです。
敗血症/循環血液量減少/ビタミンB1欠乏などを積極的に疑って、検査/診断的治療に踏み込む必要があります。
・治療は血行動態の安定化とケトン産生経路を遮断すること
・血行動態の安定化のために0.9%食塩水+5%ブドウ糖液を投与する
1号液で良いと思います。
体液量が増えてくるにつれて交感神経緊張が緩和され、
目安として、7.0-7.5g/hrの速度で糖を含んだ輸液を行うことで、
アシドーシスは12-24時間以内に改善していきます
※ソルデム1号液なら250ml/hrくらい
・
ビタミンB1投与は糖含有液を投与する前にしてしまうのが理想的
Wernicke脳症やKorsakoff症候群のリスクを減ずるための対応です。
個人的には、
AUDを疑う病歴があれば全ての輸液の前にアリナミン100mgを静注してから対応することにしています。あの匂いがなんとも言えませんが。
・AUD患者はエタノールが手に入らない場合には、それ以外のアルコールを飲んでしまうことがあるため注意
以下に簡単にまとめておきます。
アルコール
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酸塩基平衡の異常・特徴
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Osmolar Gap
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治療
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以下が混合
・AG開大型アシドーシス
・AG非開大型アシドーシス
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アルコール濃度50mg/dL上昇
→11mOsm/kg変化
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・AG開大型アシドーシス
・AKI
・尿中シュウ酸Ca結晶
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アルコール濃度50mg/dL上昇
→8mOsm/kg変化
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・fomepizole
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・失明リスクがある眼障害
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アルコール濃度50mg/dL上昇
→16mOsm/kg変化
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・fomepizole
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イソプロパノール
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・アシドーシスにならない
・尿中と血清ケトン陽性
※アセトンが産生される
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アルコール濃度50mg/dL上昇
→8mOsm/kg変化
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・保存的治療
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※fomepizole…アルコール脱水素
酵素を抑制し毒性
代謝物の形成を制限する目的で投与
AUD患者で重度アシドーシスがあるときには上記も考慮します。
低リン血症
・低P血症はAUD患者が入院治療を受けて2-3日以内に最大50%の患者で問題になる
以下に解説していきますが、AUD患者の
電解質異常は、
「入院して数日してから進行する」ことが特徴的です。
・リンを含有する食品を食べていないことに起因する
肉、魚、ナッツ、豆、乳製品などがPを豊富に含みます。
・制酸剤、慢性下痢/嘔吐も低P血症の原因となる
・Pの体内貯蔵量が低下し低P血症を発症しているにも関わらず、アルコール関連尿細管障害のために尿中P排泄量は増加
細胞膜のリン
脂質二重層中の構造変化に関連しています。トランスポーターの機能異常/Na-K ATPaseの異常が起きるようです。
また、骨からのリン酸塩の移動や近位尿細管のnaPi-2a/2c共輸送体なども関与するとされています。これは数週間の禁酒によりしばしば改善しうる異常です。
・低Mg血症でも尿中Pが増加する
骨格筋のリン酸塩含有量が減少し、尿中にPが排出されます。
さらに、低Mg血症が機能的
副甲状腺機能低下症を招くために、
副甲状腺ホルモンが拮抗され、血中P濃度上昇し、結果として尿中Pが増加することもあります。
・リン酸塩の再吸収低下も起きている
・上記のように潜在的に欠乏しているPが入院後に顕著な低P血症として現れる
どうしてこんなことが起こるかというと、キーワードは「細胞内シフト」です。
治療をしていくとpHが正常化してきます。それによりPが細胞内にシフトします。
細胞内のpHが上昇してくると、解糖系の
律速酵素が刺激され、
グルコースをリン酸化するために細胞内にさらにPが取り込まれます。このシフトは糖含有液投与により
インスリンが多量に分泌されることで促進されます。
また、離脱など発症して呼吸性アルカローシス+血中カテコラミン濃度上昇が起きるとさらにPの細胞内への取り込みが増加するようです。
・低P血症は骨格筋の衰弱や横紋筋融解症などの症状を引き起こす
実は、アルコール性ミオパチーの影響を見ている可能性もありますので鑑別は難しいです。
低P血症を呈するAUD患者では、アルコール離脱による横紋筋融解症の頻度が増加することも知られています。通常、急激なPの低下のみでは横紋筋融解症は生じません。例えば、
過換気症候群や
DKA治療中の患者ではこの合併症は基本的に生じません。
よって、発症には基礎となる慢性的な筋肉の損傷が必要で、AUD患者に特有であることが示唆されています。
①細胞内P欠乏によりATP産生が低下
→細胞内ATP低下によりphosphofructokinase活性が刺激される
→解糖系と乳酸産生が促進される
②赤血球内では、細胞内P欠乏により2,3-diphosphoglycerateの含有量が低下
→酸素解離曲線を左にシフトさせて酸素に対するHbの親和性を高める
→末梢組織虚血に陥り、乳酸産生が増加する
・低Mg血症はAUD患者の約1/3に発症する
・入院してまもなくの超急性期には血中Mg濃度は正常~軽度低下程度であるが、数日かけてマスクされていた体内貯留量の減少が明らかになる
やっぱりコイツも「細胞内シフト」がキーワードです。
アシドーシスの改善/糖含有液投与による
インスリン分泌増加によりMgが細胞内へシフトすることが1つ。もう1つは、カテコラミン増加やアルコール離脱による呼吸性アルカローシスにより細胞内シフトが起きることも影響します。これは予防が大切ですね。
・Mg体内貯留量の低下には以下の原因がある
‣緑黄色野菜、ナッツ、肉など
②消化管での吸収低下…慢性下痢や脂肪性下痢症
③腎からの排泄の増加…可逆的なアルコール関連尿細管機能障害
④骨格筋のリン酸塩減少により筋肉内のMgとATPの減少が起きる
・低Mg血症の症状は、神経筋の過敏症状が初期症状…脱力、振戦、Trousseau徴候
Mgが枯渇すると、
副甲状腺ホルモンの分泌が抑制され、末梢での作用を低下させます。血中に残留した
エタノール自体にも
副甲状腺ホルモンへの抵抗性を高める作用があります。そのため、
低Mg血症改善まで低Ca血症が改善しない(通常、血中Mg濃度正常化から数分~数時間で低Ca血症も改善される)という現象が認められます。機序は別ですが、低K血症の治療もまずはMgの補正からです。
・ビタミンD欠乏症は低Ca血症の原因として考慮すべき
①経口摂取量の低下
②日光への曝露低下
④アルコール関連脂肪便による吸収低下
・横紋筋融解症を起こしていると、リン酸Caが損傷した筋組織に沈着するため低Ca血症を呈することがある
・入院しているAUD患者の約50%に認められる電解質異常
・MgやPと同様に入院後数日してから減少が著明になることがある
これもKの細胞内へのシフトが原因になっています。
・低K血症を引き起こす原因は以下
①経口摂取量の低下
②下痢による消化管からの排出増加
③尿中排出の増加
嘔吐や
ケトアシドーシスにより、mineralocorticoid増加と遠位尿細管へのNa再吸収増加が起き、代わりにK排出が増えます。また、重炭酸やケト酸塩の非吸収性陰イオン効果、低Mg血症も尿中排出増加に関連があります。
これには交感神経の緊張や呼吸性アルカローシスによる細胞内pH上昇が関与します。
ちなみに、低P血症により
インスリン分泌制限がかかります。その効果によって、低K血症の
重篤化を抑えられますが、逆にPが補正されてくる入院後に低K血症が悪化してしまう要因となっています。
・低Mg血症でもK低下が起きてしまう
細胞内MgはROMK channelを阻害して、遠位尿細管へのK排泄を制限しています。
低Mg血症により細胞内Mgが減少すると、ROMK channelの抑制が弱くなります。
この機序により遠位尿細管へのK排出が増加することとなります。
・低K血症において最悪の事態は心毒性が起きること
心電図異常がないこともあれば、致死的
不整脈が起きることもあります。
・骨格筋への毒性と急性ミオパチーも起きる
通常、筋肉痛/圧痛/腫脹などは起こりません。
・横紋筋融解が起きているにも関わらず血中K濃度が正常の場合には体内貯蔵量がだいぶ足りないと考えよ
・AUD患者では多数の症状を訴えることが多いが、低K血症の改善とともに消失することが多い
マネジメント
ここまでAUD患者に発症する酸塩基平衡異常、電解質異常を見てきました。
それぞれの異常が他の異常を巻き起こす悪循環が起きていることがわかりました。
ここまでの小括となるような図です。

・AUD患者では、摂取不足/消化管での吸収障害/慢性的なアルコールへの曝露による尿細管障害などによりあらゆる電解質が低下する
・交感神経緊張/呼吸性アルカローシス(アルコール離脱)/糖含有液によるインスリン分泌/代謝性アシドーシスの改善により、各種電解質が細胞内へシフトすることが原因
・尿細管障害は禁酒後数週間続きうる
※入院して電解質補正をして数日後に低Mg血症をはじめとした電解質異常が再出現するのはこのため
・低Na血症は溶質摂取不足とvasopressin分泌が原因
よって、治療は各種電解質の相互作用に着目して介入することになります。
・経口摂取に耐えられる場合には、それぞれの電解質を経口的に補う
当院であれば、ソリタ-T配合顆粒3号なんてちょうどいい感じです。
牛乳を摂取してもよいそうです。CaやKを豊富に含み、Pを35mmol/L含んでいるそうです。
多くの患者は初期はあまり経口摂取ができないように思いますが、どうしても帰宅を強く希望する場合には(飲んでくれるかわかりませんが)、上記薬剤処方や牛乳を勧めるとよいと思います。
カルーアミルクじゃだめだよね…。
・以下のような重篤な低P血症の症状を呈する場合には経静脈的に補充する
◦脱力
◦横紋筋融解症
◦呼吸不全
◦溶血性貧血
◦血中P濃度<1.0mg/dL(0.32mmol/L)
・6-9時間で42-67mmolのPを投与する(ただし、90mmol/日を超えないようにする)
当院採用薬なら、リン酸Na補正液0.5mmol/mlなどを使用します。下記に紹介しますが、いつもは全ての
電解質異常を補正する「カクテル」を作って投与しています。
・経静脈的P補充は症候性低Ca血症を引き起こしうるため慎重なモニタリングを要する
低Mg血症が併存する場合にはこのリスクが高いとされていますので要注意。
副甲状腺ホルモン分泌が抑制されているためです。
・P以外に様々な電解質異常を呈している場合には以下の輸液を行う
◦ブドウ糖濃度を5%にした0.45%生食+リン酸K20mmol+50%硫酸Mg4ml(Mg8mmol)を8時間以上かけて投与
「カクテル」を紹介します。
用意するものは以下です。
①ソルデム1号液500ml ここから100ml抜いておきます
②KCL注10mEqキット20ml 1A
③硫酸Mg補正液1mEq/ml20ml 1A
④リン酸Na補正液0.5mmol/ml20ml 1A
※ソルデム1号液の予備容量が160mlのため、それに合わせて調整します。
上記カクテルを(体重や腎機能などにもよりますが)8時間で1日3回投与します。
さらに、Wernice脳症の治療も開始できます。低栄養状態があり、
眼振/ふらつきなどある場合にはWernicke脳症として治療してしまうと良いです。特に害はないので。
また、アルコール離脱予防のために
ジアゼパム内服/静注もしておきます。
・Mgを経静脈的投与するとその大半は尿中に排泄され、体内にとどまる量としてはあまり多くない
そのため、Mgは数週間にわたり経口投与が必要になることがあります。
低ナトリウム血症
・AUD患者では17%が低Na血症を呈する
・アルコール摂取(急性)は血中vasopressin濃度が抑えられて水利尿が生じ、脱水症と高Na血症が誘発される
・
慢性的な大量飲酒をするとこの抑制がなくなり、vasopressin濃度が上昇して、尿浸透圧増加/自由水クリアランス低下して低Na血症を引き起こす
・vasopressin濃度上昇は以下の因子によっても起こりうる
◦血清浸透圧上昇
◦嘔吐
◦疼痛
・AUD患者に発症した低Na血症への対応は、通常通りでよい
ただし、アルコール消費により高トリグリセリド血症を発症していることがあるためこの除外は必須です(血中TG>1500mg/dLでなければ偽性低Na血症は考えにくい)。
・beer potamania…十分な経口摂取をしない大量ビール飲酒者におけるvasopressin非依存性機序による低Na血症
尿中への溶質排出が少なくなるとそれに引きずられて水排出も少なくなります。
ビールはNaとタンパク質含有量が少ないため、食事を摂らないでビールばかり飲んでいると尿中への溶質の排出が少なくなります。そのため、水を体内にため込む方向に傾きます。
重度低Na血症<110mmol/L、低K血症、低BUN血症、希釈尿(<100mOsm/kg)を呈しますが、尿浸透圧>100mOsm/kgとなることもありえます。この場合には、体液量減少/アルコール離脱/嘔吐/薬剤などによるvasopressin増加が同時に起きているとされます。
・beer potamania患者に対する溶質の投与は激しい利尿を起こす
NaCl静注、食事、脱水補正が主な治療内容ですが、これにより多量の利尿を起こして低Na血症の補正速度が速すぎることが起こりえます。
・低Na血症の急速な補正により浸透圧性脱髄が18%に発症
特に低K血症や低P血症が併存する場合にはリスクが高いとされます。
リスクを最小限にするためには、Na補正速度を4-6mmol/24hrにとどめておくことが重要です。
・5%ブドウ糖液を投与しておくことで補正速度を抑えることができる
特に過補正してしまった患者にも使え一手なので覚えておいても良いと思います。
ODS(浸透圧脱髄症候群)については過去の記事もご参照ください。
個人的には、特にERにおいては〇時間かけてゆっくり補正とかはやりません。
外来だと手が回らなくてついつい補正しすぎてしまうことがあります。
なので、症候性の低Na血症に限り、3%食塩水100ml bolus投与をしています。
これは2回まで繰り返し投与可能で、1回につき1-2mEq/Lほど
血中濃度が上昇します。
忙しい外来やけいれんなどで急速な補正をしなければならないときには選択肢です。
最終まとめ
・AUD患者ではAKAや低P/Na/K/Ca/Mg血症が生じる。
・AKAは飢餓状態になったAUD患者に発症し、アルコール離脱や脱水症をきっかけに増悪する。
・AKAの治療は脱水補正とケトン体産生抑制。糖を含む点滴をする。
・AKAでは乳酸蓄積は少ない。もしも乳酸高値なら他のショックの原因がないか検索せよ。
・AUD患者では飲酒をしたいがためにエタノール以外のアルコールを飲むことがある
・低P/Na/K/Ca/Mg血症では、食事量低下だけでなく、尿中排出増加も影響している。飲酒量が多いと1日3食食べても電解質異常をきたしうる。血液検査で正常値でも体内貯蔵量が少ないため、輸液などにより数日後に再度低下する可能性がある。
・AUDを示唆する徴候として、「血清P/Mg/K/Caが入院から24-36時間で進行性に低下すること」がある。
・低P血症の症状は骨格筋力低下と代謝性アシドーシス進行。
・低Mg血症が低Ca血症の原因になる可能性あり。低Ca血症を見たら低Mg血症も疑って補正せよ。症状は類似している。
・低K血症では、骨格筋力低下、致死的不整脈をきたす可能性あり。
・電解質異常の治療原則は経口補正。経口摂取できない場合には輸液で治療。
・輸液の組成は「1号液500ml+リン酸K10mEq+50%硫酸Mg2ml」が推奨される。
・低Na血症はアルコール慢性曝露によるvasopressin高値、自由水大量摂取、食事量低下により尿中溶質量低下で発症。補正が必要な場合でも過補正に注意する。
少しでもアルコール関連疾患をもつ患者の診療に役立てば幸いです。