りんごの街の救急医

救急科専門医によるERで学んだことのまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

救急外来における医師と看護師のコミュニケーション

救急外来において、スタッフ間でコミュニケーションをとることは

患者の安全性を担保しつつ効果的な対応を行う上で必須です。

 

あれ、なんでまだこのオーダーやられてないんだろ…

こんな重症ならもっと早く声かけてよ…

患者についての情報はカルテに書いてあるからそれちゃんと見ろや…

 

とかいろいろ不満が生じてしまうこともよくあります。

 

スタッフ間でのコミュニケーションの取り方って難しいですよね。

対患者についてのコミュニケーション方法はいろいろと勉強しますが、

意外とスタッフ同士のコミュニケーションの取り方については学ぶ機会が限られていました。

 
Hettinger AZ et al.  Ten Best Practices for Improving Emergency Medicine Provider-Nurse Communication.
J Emerg Med. 2020 Mar 4. pii: S0736-4679(19)30939-4. doi: 10.1016/j.jemermed.2019.10.035. [Epub ahead of print]
 
この論文では、救急医と看護師の情報共有のニーズを具体的に把握して、
どのような情報を誰が誰にどのようなタイミングで伝えるべきか調査しています。
有用だけど、共有されていない/共有が難しい事項に焦点を当てています。
 
さらに、この研究で得られた知見は、Ten Best Practices としてまとめられています。
 
今回はこのTen Best Practices を紹介したいと思います。
 

 

推奨①
診断/評価、治療計画、特にdispositionについて早期に伝えること。
計画に変更があればすぐにupdateすること。
 
入院(またはオーバーナイト)か、帰宅させるかについては、看護師としてはとても知りたい情報のようです。なのでそのdispoditionについてはなるべく早期に伝えておくべきです。
 
これにより、看護師は入院にかかわる対応(書類、患者の移動など)を開始することができ、最終的にER滞在時間が短縮することにもつながります。
 
例)55歳男性の胸痛患者を診察後、部屋をでて看護師と対応を相談。
心血管リスクが高いため検査陰性でも経過観察する予定であることを看護師に伝える。
看護師は入院の準備まで含めて効率的に対応することができた。
 
 
 
推奨②
保留中の検査/処置、オーダーの変更などについて伝えておくこと。
 
患者に対する次の検査/処置などを医師-看護師間で共有しておくと、エラーの検出や患者状態の事前の安全なモニタリングに役立つことがあります。
 
例)医師は電子カルテのコメント欄に「レントゲン、尿妊娠検査待ち」と記載していた。しかし10分後、看護師は尿検査がオーダーされていないことに気づき、医師にオーダーを依頼、諸検査が進んでいった。
 
肺塞栓を除外しなければいけない状況だけど、D-dimerの結果を見てから造影CTをするかどうか考えたいときとかよくありますよね。これを伝えておくことで、もしも造影CTを行うことになった場合、すでにルートが造影ルートで確保されていたりして円滑に進みますね。
 
看護師は、医師がなにをしたいのか、何待ちなのかわからないと不安になります。
チームなので積極的に共有しましょう(これが研修医の難しいところ)。
 
 
推奨③
診断のための検査や治療介入方法などについて詳細な情報を事前に共有しておくこと。
 
診断/治療の遅れを防ぐことができるようなプロトコルは可能な限り早い段階で開始されるべきです。これもある程度体系化されたものを事前に作っておくとよいでしょう。
door to provider timeが大幅な遅れにつながるような場合には、対応可能な医師へ対応を依頼することも重要です。
 
例)腹痛を訴える若年女性が受診。看護師は、女性の腹痛に対するプロトコール(尿検査/尿妊娠検査を含む)を立案し、血液検査と輸液を開始するか医師に確認した。尿検査で妊娠反応陽性、医師に報告され超音波所見も併せて異所性妊娠破裂疑いとして産婦人科医にコンサルトされた。
 
普段からある程度プロトコルを作っておくとよいかもしれません。
例えば当院では、胸痛や動悸などを訴える場合には看護師のトリアージの段階で心電図をとってもらうことにしていて、「STEMIです」と診断までつけてくれていて早期に循環器にコンサルトできたりすることはよくあります。ありがたや。
 
 
推奨④
全ての人が共通の理解を持っているとは思わないこと。
あなただけがその情報を持っている可能性があり、それはタイムリーに共有すること。
 
患者の情報については、チーム全体で最新の情報を確認しておくことが必須です。
近くにいたし知っているはずだ、電子カルテを見てくれるでしょ、患者から聞けばわかるよねとか、自分以外のチームメンバーがその情報を知っているだろうと想定してしまうことはよくありません。運転のときにもだろう運転はだめだと教わりました。
ケアの遅れを招くだけでなく、他のメンバーの大きなフラストレーションや患者の安全性への懸念を抱くことにつながります。
 
例)整形外科医がERで患者を診察し、手術が必要になると評価された。
研修医にのみ1時間以内に手術の予定となることが伝えられた。
1時間後、その情報を周知していなかったことでERも手術室も大混乱となった。
 
 
推奨⑤
バイタルサインや状態の変化があった場合(致命的または予期しない場合)には、医療従事者で共有すること
 
バイタルサインと看護記録が電子カルテに遅延なく入力されたとしても、それを医師がすぐには見ないこともあり得るので、予期しない変化がある場合にはカルテを残すだけではなく、メンバー同士で口頭で共有しましょう。逆もまた然りで、医師が記載した情報を看護師がチェックする時間もなく働いていることもあります。
 
例)患者はERでの評価を終えて、帰宅可能と判断された。
看護師が帰宅前にバイタルサインを測定し看護師は医師に報告した。
新たに頻脈を呈しており、医師はさらなる評価が必要と判断しERにとどまった。
 
 
推奨⑥
電子カルテのオーダーが口頭指示の代わりになると思わないこと
 
患者が多く忙しい場合には、看護師が電子カルテを見ることができず処置の遅れが生じえます。電カルでオーダーしたから対応が進んでいるはずだとは思わず、早期の処置が必要になるときには看護師にも口頭で共有しましょう。
 
例)医師は敗血症治療のために広域抗菌薬を電子カルテでオーダーした。
医師は看護師に指示内容を知らせ、3時間バンドルの必要性を伝え、なるべく早期の抗菌薬投与を依頼した。
 
 
推奨⑦
優先度の低い事項については非同期的コミュニケーション
(asynchronous communication)を使用すること
 
asynchronous communicationの重要性は高いと思います。
これを使うことで、スタッフの状況判断/思考を妨げることなくコミュニケーションをとることができます。
 
例)血液検査で軽度の電解質異常があることを看護師は発見した。
看護師は電解質補正の必要性があると判断し、医師の電子カルテに「ペーパータオル」ノートを貼ってその対応を依頼した。
 
忙しいときにささいなことであまり話しかけられると、二兎追うものは状態で、
正確な判断が妨げられることがあるので有効な手段になります。
 
 
推奨⑧
チームメンバーの経験値や関係性によってコミュニケーション戦略を練ること。
 
例えば、経験の浅い看護師の経験値を読み間違えてしまうと、多くの仕事量を課しすぎてしまうことでミスや遅延が発生しえます。キャパオーバーです。ベテランと同じようにはいろいろな対応を並行してかかえることはできません。
逆に、研修医/医学生からのオーダー待ちをしているとこれも診療の遅延につながります。看護師からつついてくれるといいですね。
 
例)シフト開始時にグループチャットをすることでお互いを知ることができる。
お互いの名前や役割、経験(経験値は高い看護師だが施設には慣れていないなど)を周知できるようにする。特に、医学生や研修医がそれまでに確立されていたチームに入るようなときには必要である。
 
当院のような小さなERではそこまで知らない人が入れ替わり立ち代わりになることは在りませんが、教育病院のERならあり得るシチュエーションかもしれません。
 
研修医が毎日ERをローテートするような病院であれば、これまでに回ってきた科などを共有しておくと仕事を割り振りやすいですよね。
 
 
推奨⑨
ERの物理的なレイアウトにコミュニケーション戦略を適応させること。
特に、看護師と医師がお互い目の届かない詰所で働いている、またはどのメンバーがチームに属しているか明確にわからないような施設の場合には重要である。
 
物理的な距離が遠いことも問題になります。
看護師と医師のお互いのworkflowや潜在的な問題に関する状況認識を低下させてしまうことがあるそうです。患者の状態の変化に気づきにくくなり、患者やほかのメンバーからの応援要請に気づけなくなることがあります。
さらに、経験の浅いスタッフは、他のメンバーの仕事を妨げてはいけないではないかという意識を持っているために声掛けをしにくいことがあります。
これは、定期的にラウンドを行うことで解消することができます。
 
例)医師と看護師で定期的に患者のラウンドを行って、情報を共有した。
検査の遅れや追加治療のオーダー(例えば鎮痛薬の反復投与など)について、共有して患者ケアの質を上げることができた。
 
当院では、時としてオーバーナイト(空床がないために入院できずERで入院待機している患者)が20名を超すこともあり、ERであっても定期的なラウンドをすることは患者さんの安全のためには重要だと思いました。
 
当院ではシフトが終わるときのの申し送りだけではなく、10時と15時にも患者共有の時間を作っています。
 
 
推奨⑩
役職に関係なく医療従事者の経験値に応じた戦略を使用すること。
 
経験豊富なスタッフが持っている、それぞれの施設で求められる知識は重要です。
これは患者をケアするのに不可欠であり、役職にかかわらず臨機応変に対応することが求められます。
 
例)入職したての研修医は、診察終了した患者を一般病床に入れることを決定した。
しかし、経験豊富な看護師が、患者の重症度と予想される看護必要度に基づいて患者をICUに入室させることを勧めた。
 
こういう嗅覚は看護師(特にベテラン)にはかないません。
 
 
 
もしもこれらで明日から取り組めそうなことや、取り組んでおいたほうがよいことが見つかればぜひ試してもらって診療の質と安全性を上げていきましょう。