りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

市中肺炎 CAP ATS/IDSAガイドライン2019

CAPについての新しいガイドラインが出ました。

個人的にはステロイドの使い方についてと、

HCAPという枠組みはもはや推奨されないという2点が考えさせられる内容でした。

ガイドラインについてまとめつつ、個人的な見解も少し記載してみます。

f:id:AppleQQ:20191010224436p:plain

( Am J Respir Crit Care Med. 2019 Oct 1;200(7):e45-e67.)

 
Q1.成人市中肺炎において、診断時に喀痰グラム染色/培養を採取するべきか?
 
・外来治療においてはルーチンでの採取は推奨しない
(strong recommendation, very low quality of evidence)
・入院加療となる患者においては採取しておくことを推奨する
 ◦重症CAP
(strong recommendation, very low quality of evidence)
 ◦MRSA/ P.aeruginosa感染症の既往がある場合
(strong recommendation, very low quality of evidence)
・過去90日以内の入院歴や抗菌薬静注治療歴がある場合
(conditional recommendation, very low quality of evidence)
 
重症CAPとは、major criteriaを1つ以上またはminor criteriaを3つ以上満たす症例
major criterion
・昇圧薬を要する敗血症性ショック
・人工呼吸器を要する呼吸不全
minor criteria
・呼吸回数>30回/分
・PaO2/FiO2 < 250
・複数の肺葉にわたる浸潤影
・BUN>20
・白血球≺4000
・血小板≺100000
・低体温症≺36度
・低血圧(積極的な輸液を要する)

高齢者が増えていますし、個人的にはルーチンでの喀痰採取はしてもいいと思います。

さらに言えば、結核を狙っての抗酸菌塗抹なんかも依頼したほうがよいのでは…?

結構結核の患者は多いし、忘れたころに見逃します。

 

Q2.成人CAPにおいて、診断時に血液培養を採取すべきか?

 

・外来治療においては血液培養を採取することを推奨しない
(strong recommendation, very low quality of evidence)
・入院治療においてもルーチンでの血液培養採取はしないことを提案する
(conditional recommendation, very low quality of evidence)
・入院加療かつ以下の条件がある場合には血液培養採取を推奨する
 ◦MRSA/ P.aeruginosaへの経験的治療歴がある
(strong recommendation, very low quality of evidence)
 ◦MRSA/ P.aeruginosa感染症の既往がある場合
(conditional recommendation, very low quality of evidence)
 ◦過去90日以内の入院歴や抗菌薬静注治療歴がある場合
(conditional recommendation, very low quality of evidence)

 

Q3.成人CAPにおいて、診断時にレジオネラ/肺炎球菌尿中抗原を採取するべきか?

 

・ルーチンでの採取をしないことを提案する
 ◦ただし、重症の場合を除く
(conditional recommendation, low quality of evidence)
・以下の場合を除き、ルーチンでの採取をしないことを推奨する
 ◦疫学的要因が合致する…レジオネラアウトブレークや旅行歴など
(conditional recommendation, low quality of evidence)
 ◦重症CAP
(conditional recommendation, low quality of evidence)
・重症CAPにおいてはレジオネラ尿中抗原/選択培地での喀痰培養/核酸増幅検査を行うことを提案する
(conditional recommendation, low quality of evidence)
 
重症CAPであればレジオネラの検査はしておいた方がよいでしょう。
ただ、肺炎球菌に関してはどうなんでしょう。肺炎球菌を狙わずに肺炎治療をすることはありませんし、どう転んでもあまりやることは変わらないような気がします。
自分はほとんど出したことがありません。
 
Q4.インフルエンザウイルス検査をすべきか?
 
・周囲の流行がある場合、インフルエンザウイルス迅速診断キットでの検査を推奨する
(strong recommendation, moderate quality of evidence)
 
Q5.プロカルシトニン測定により抗菌薬治療の開始を差し控えることができるか?
 
・プロカルシトニン値にかかわらず、臨床所見とレントゲン所見から経験的抗菌薬治療をすることを推奨する
(strong recommendation, moderate quality of evidence)
 
Q6.Clinical Prediction Ruleを使用して外来治療か入院治療かを判断すべきか?
 
・臨床判断に加えて、Clinical Prediction Ruleを使用することを推奨する
 ◦PSI (strong recommendation, moderate quality of evidence)
 ◦CURB-65(conditional recommendation, low quality of evidence)
 
最近はあまり計算しなくなりました。
でも研修医の先生と方針を相談する際には共通言語であり有用であることがあります。
よくA-DROPを使う人を見かけますがあまりお勧めしません(以下に記載)。
どうせやるならCURB-65かPSIをつけましょう。
 
PSI
・A-DROPやCURB65のもとになった基準
 ◦1997年にPneumonia Patient Outcomes Research Teamにより編み出された
 ◦短期CAP死亡率を予測するrule
・対象は免疫不全のないCAP患者。
・項目が多くめんどくさいけど、重症度判定の精度は格段に高い
 ◦CURB-65だけでは推し量れないような、外来か入院かのグレーゾーンの患者に有用
Step1
50歳以上、悪性腫瘍、うっ血性心不全、脳血管障害、腎疾患、肝疾患、意識障害、呼吸回数≧30回/分、HR≧125回/分、SBP<90mmHg、体温≺35℃または≧40℃
→1つでも当てはまればstep2へ進む

Step2

患者背景
男性
50歳を超えた年齢を加点
 
女性
50歳を超えた年齢−10点
 
施設入所者
+10点
合併症
悪性腫瘍
+30点
 
肝疾患
+20点
 
うっ血性心不全
+10点
 
脳血管障害
+10点
 
腎疾患
+10点
身体所見
+20点
 
呼吸回数≧30回/分
+20点
 
SBP<90mmHg
+20点
 
HR≧125回/分
+10点
 
体温≺35℃または≧40℃
+15点
検査値
pH<7.35
+30点
 
BUN≧30mg/dL
+20点
 
Na<130mEq/L
+20点
 
血糖≧250mg/dL
+10点
 
Hct≺30%
+10点
 
PaO2≺60mmHg
+10点
 
胸水
+10点
Class
点数
死亡率
Class 1
Step 1
0.1%
外来
Class 2
70点以下
0.6%
外来
Class 3
71-90点
2.8%
入院
Class 4
91-130点
8.2%
入院
Class 5
131点以上
29.2%
入院(ICU
・Class 1-2では安全に外来治療可能
・Class 3は23時間の間、1-2回の抗菌薬静注と補液を行い決定する
・Class 4-5は入院を要する。特にClass 5はICUへの入院が好ましい
 
CURB-65
・以下のような利点あり、A-DROPよりおすすめ。
 ◦30日死亡リスクが入っている
 ◦重症度とも相関している
・PSIよりは簡便だが死亡率予測には若干弱い
Confusion
見当識障害
Urea
BUN≧19mg/dL
Respiratory rate
呼吸回数≧30回/分
Blood pressure
SBP≦90mmHgまたはDBP≦60mmHg
65 
年齢≧65歳

 

※A-DROP

・2005年に日本呼吸器学会より提唱された市中肺炎の重症度分類。
・以下の欠点がある→いまいち!
 ◦30日間死亡リスクを評価に入れていない。
 ◦SpO2は呼吸回数により代償されうるパラメータ
Age
年齢:男≧70歳、女≧75歳
Dehydration
BUN≧21mg/dLまたは脱水所見あり
Respiration
SpO2≦90%、PaO2≦60mmHg
Orientation
Pressure
SBP≦90mmHg
0点…軽症→外来通院可能
1-2点…中等症→外来または入院
3点…重症→入院
4-5点…超重症(ショックがあれば1項目のみでも超重症に分類)→ICU入院

 

Q7.ICUへの入室に関してClinical Prediction Ruleは使用すべきか?
 
・昇圧薬使用を要する低血圧や人工呼吸器を要する呼吸不全を呈している場合にはICU入室を推奨する
(strong recommendation, low quality of evidence)
・上記を満たさない場合には、IDSA/ATS 2007 minor severity criteriaを使用してICU入室か否かを判断することを提案する
(conditional recommendation, low quality of evidence)
 
普通にバイタル異常がある場合かPSIなどを使えばいいと思います。
 
Q8.外来治療を選択した際に推奨される抗菌薬は?
 
・基礎疾患のない健康成人においては以下を推奨する
 ◦amoxicillin 1g 1日3回(strong recommendation, moderate quality of evidence)
 ◦doxycycline 100mg 1日2回(conditional recommendation, low quality of evidence)
 ◦azithromycin 初日500mg、翌日から250mg(conditional recommendation, moderate quality of evidence)
※肺炎球菌への耐性が25%未満の地域の場合
・基礎疾患がある場合には以下が推奨される
※心/肝/腎/肺疾患、糖尿病、アルコール依存、悪性腫瘍、無脾
 ◦amoxicillin/clavulanate 500mg/125mg 1日3回
 or amoxicillin/clavulanate 875mg/125mg 1日2回
 or cefpodoxime 200mg 1日2回
 or cefuroxime 500mg 1日2回
 上記に加えて
 azithromycin 初日500mg 翌日から250mg
(strong recommendation, moderate quality of evidence for combination therapy)
 or doxycycline 100mg 1日2回
(conditional recommendation, low quality of evidence for combination therapy)
 ◦単剤ならばlevofloxacin 750mg 1日1回
 or moxifloxacin 400mg 1日1回
 or gemifloxacin 320mg 1日1回
(strong recommendation, moderate quality of evidence).

 

Q9-1.非重症CAPにおいて、入院治療を選択した際に推奨される抗菌薬は?
MRSA/ P.aeruginosaリスクがない場合)
 
・重症ではなく、かつMRSA/ P.aeruginosaリスクがない場合には以下の経験的治療が推奨される
 ◦ampicillin + sulbactam 1.5–3g 6時間毎
 or cefotaxime 1–2g 8時間毎
 or ceftriaxone 1–2g 1日1回
 or ceftaroline 600mg 12時間毎
 上記に加えて azithromycin 500mg 1日1回
(strong recommendation, high quality of evidence)
 
Q9-2.重症CAPにおいて、入院治療を選択した際に推奨される抗菌薬は?
MRSA/ P.aeruginosaリスクがない場合)
 
・β-lactam plus macrolide
(strong recommendation, moderate quality of evidence)
・β-lactam plus respiratory fluoroquinolone
(strong recommendation, low quality of evidence)
※上記Q9-1参照
 
Q10.入院患者において、誤嚥性肺炎を疑う場合には通常の推奨治療に加えて嫌気性菌カバーを考慮すべきか?
 
・ルーチンでの嫌気性菌カバーはしないことを提案する
(conditional recommendation, very low quality of evidence)
 
Q11.入院患者において、MRSA/ P.aeruginosaリスクがある場合に推奨される抗菌薬は?
 
・従来のHCAPという概念を用いて抗菌薬治療について考えることは推奨しない
(strong recommendation, moderate quality of evidence)
MRSA/ P.aeruginosaのリスクがある場合にのみいずれかの細菌をカバーする抗菌薬を投与することを推奨する
(strong recommendation, moderate quality of evidence)
 ◦MRSA治療は以下を推奨
  ‣vancomycin 15mg/kg 12時間毎
  ‣linezolid 600mg 12時間毎
 ◦P.aeruginosa治療は以下を推奨
  ‣piperacillin-tazobactam 4.5g 6時間毎
  ‣cefepime 2g 8時間毎
  ‣ceftazidime 2g 8時間毎
  ‣aztreonam 2g 8時間毎
  ‣meropenem 1g 8時間毎
  ‣imipenem 500mg 6時間毎
 
※2005年のATS/IDSAガイドラインではHCAPという用語が使用されていた。
・HCAP=介護施設入所者、90日以内に2日以上の入院歴、慢性透析などしている患者に発症した肺炎のこと
 ◦これらの患者では耐性菌保有リスクが高いと考えられていた
 ◦しかしその後の研究でHCAPの枠組みの患者であっても耐性菌を持つ割合は高くなく、広域抗菌薬使用による予後改善効果もなかった
(J Crit Care. 2016 Dec;36:265-271./Eur Respir J. 2011 Oct;38(4):878-87./Ann Pharmacother. 2013 Jan;47(1):9-19./Respirology. 2013 Aug;18(6):923-32./Respir Med. 2012 Sep;106(9):1309-10./J Antimicrob Chemother. 2011 Jul;66(7):1617-24./Clin Infect Dis. 2015 Nov 1;61(9):1403-10./J Infect Chemother. 2015 Aug;21(8):596-603./J Antimicrob Chemother. 2015 May;70(5):1573-9.)

よって上記のようにHCAPという枠組みを推奨しなくなったようです。

 

Q12.入院患者において、corticosteroidを使用すべきか?
 
・非重症CAPに対してはcorticosteroidをルーチンで使用しないことを推奨する
(strong recommendation, high quality of evidence)
・重症CAPに対してcorticosteroidをルーチンで使用しないことを提案する
(conditional recommendation, moderate quality of evidence)
・重症インフルエンザ肺炎に対してcorticosteroidをルーチンで使用しないことを提案する
(conditional recommendation, low quality of evidence)
・敗血症性ショックになっている場合にはSurviving Sepsis Campaignの推奨に基づくcorticosteroid使用を支持する
※ただし、上記推奨はCOPD/喘息/自己免疫性疾患などのcorticosteroidによる治療の効果が証明されている病態に対して推奨をしないものではない
 
 
上記についてはあまり納得いかなかったので、推奨のまとめとなった根拠を読んでみました。
・2つのRCTでは死亡率改善、病院滞在日数短縮、臓器不全の減少が認められた
 ◦ただし、一方のRCTでは他の研究に比して死亡率改善の程度が大きかったため結果の過大評価が生じている可能性あり
 ◦さらにもう一方のRCTでは比較群間で腎機能のbaselineが異なっていた
 ◦その他の研究ではcorticosteroidによる臨床的に重要なoutcomeを達成することはできなかった
(Am J Respir Crit Care Med. 2005 Feb 1;171(3):242-8./Egypt J Chest Dis Tuberc 2013;62:439–445./Lancet. 2015 Apr 18;385(9977):1511-8./JAMA. 2015 Feb 17;313(7):677-86.)
・いくつかのmetaanalysisでは重症CAPに対するcorticosteroid使用は死亡率改善効果を認めていた
 ◦ただし、重症の定義があいまいで定まっていなかった
 ◦corticosteroid 240mgほどの投与による副作用として高血糖の増加と二次感染増加の可能性が示唆
(Sci Rep. 2015 Sep 16;5:14061./J Thorac Dis. 2016 Mar;8(3):E162-71./Clin Infect Dis. 2018 Jan 18;66(3):346-354./World J Emerg Med. 2015;6(3):172-8./JAMA. 2016 Nov 1;316(17):1775-1785./BMJ. 2017 Apr 12;357:j1415.)
・インフルエンザ肺炎ではcorticosteroid使用により死亡率が増加したというmeta-analysisあり
(Cochrane Database Syst Rev. 2016 Mar 7;3:CD010406.)
 

個人的にはステロイドは重症症例に限って補助的に使用してもよいのではないかと思っています。

・ARDS頻度を減少させ、病悩期間を減少させる効果あり
気管挿管とARDS発症率を5%低下させる(NNT20)
・一方で、no evidenceとする報告もある
→昇圧剤を要するショック、重症CAP、相対的副腎不全を疑う場合には投与すべき
(Ann Emerg Med. 2019 Jul;74(1):e1-e3./Ann Intern Med. 2015 Oct 6;163(7):519-28./Eur Respir J. 2016 Oct;48(4):984-986./Clin Infect Dis. 2007 Mar 1;44 Suppl 2:S27-72.)
corticosteroid200mg/日ほどの投与量であればbenefitがriskを上回るのでは…?
 
 
Q13.インフルエンザ陽性CAPに対して抗ウイルス治療をすべきか?
 
・発症から診断までの期間にかかわらず、入院患者に対しては抗インフルエンザ治療をすることを推奨する
(strong recommendation, moderate quality of evidence)
・発症から診断までの期間にかかわらず、外来患者に対しては抗インフルエンザ治療をすることを提案する
(conditional recommendation, low quality of evidence)
 
Q14.インフルエンザ陽性CAPに対して抗菌薬治療を追加すべきか?
 
・外来/入院にかかわらず、通常の抗菌薬治療を開始することを推奨する
(strong recommendation, low quality of evidence)
 
Q15.CAP治療の適切な治療期間はどのくらいか?
 
・臨床的に安定が得られたうえで(バイタルサインが正常化、食欲正常、精神状態の異常なし)、合計5日以上使用することを推奨する
(strong recommendation, moderate quality of evidence)
 
 
以上です。
実臨床はもっと複雑な合併症があったりして大変です。
基本的には普段のpracticeを大きく変えるような推奨はなかったかも。