夜間救急外来で勤務していると、重症患者に紛れて
「子供がどうしてもなきやみません」という主訴でご両親が小さな子供を抱きかかえて受診されることがあります。
忙しいと、「ハイハイ、colicでしょ」と帰宅させがちですがとんでもない!
怖い病気がいっぱい隠れています!ちゃんと鑑別診断を挙げて全身診察が必要です。
Key Wordは "IT CRIES "
生理的な啼泣
・乳児は1日のうちで平均1時間30分~2時間ほど泣いている
◦生後6週間で最大に達する…140分ほど
◦生後12週までに徐々に減少し、1時間ほどになる
・circadian patternに沿っており、主に夕方や深夜に泣くことが多い
・良性な原因やcolicから来ているものか鑑別が必要になる
「泣き止まない」の原因疾患
・器質的異常は5-10%を占める
◦特に多いのは尿路感染症…器質的原因の5.1%であったとされる
◦61%に放置しておくと何らかの介入を要する疾患が存在していた
・鑑別診断は以下
colic
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・明らかな原因はなし
・rule of threeを参考に考慮
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消化管 |
・milk-protein allergy
・GERD
・便秘
・裂肛
・腸重積/絞扼性腸閉塞/腸管回転異常
・蟯虫
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心臓
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・頻脈
・心筋炎
・心不全
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中毒/代謝
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・母体薬物使用
・電解質異常
・低血糖
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神経
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・頭蓋内出血
・水頭症
・脱髄疾患
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・中耳炎
・尿路感染
・髄膜炎
・化膿性関節炎、骨髄炎、蜂窩織炎
・疥癬
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皮膚/骨格
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・骨折
・脱臼
・digital tourniquet
・虫刺症
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その他
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・外傷
・角膜擦過傷、緑内障
・異物
・鼻閉
・オムツによる皮膚炎
・口蓋熱傷、口内炎
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覚え方は"IT CRIES"
Infection
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Trauma
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骨折、虐待
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Testicular torsion
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精巣捻転
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Cardiac
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Reflex
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胃食道逆流
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Reaction to formula
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ミルクアレルギー
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Reaction to medication
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薬物副作用、母親からの中毒
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Insect bites
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虫刺症
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Immunization
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ワクチン接種後反応
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Eye |
角膜損傷、眼内異物、緑内障
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Ear
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急性中耳炎、耳内異物
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Surgical
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腸重積症、腸軸捻転、腸閉塞、鼠径ヘルニア陥頓
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Strangulation, skin
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hair tourniquet、虫刺症、蜂窩織炎
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Seizure
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けいれん
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・年齢別に鑑別に挙げるべき疾患順位も変化
◦3か月未満…乳児疝痛(55%)、便秘症、急性中耳炎、鵞口瘡、鼠径ヘルニア陥頓
Colic
・ “cry-fuss behavior” or “excessive crying” or “unsettled infant behavior”などと称される
・上記状態の乳児の3-28%でcolicが原因とされている
・あくまで除外診断!
・原因はよくわかっていないが以下が提唱されている
◦腸内細菌の変化
◦牛乳タンパクや乳糖不耐
◦妊娠中の母の喫煙
・従来の定義は「rule of three」
◦3週連続で、1週間に3回以上、1日3時間以上
・新しい定義は以下の全てを満たす場合に診断される
◦原因なく生じる過敏性、大泣き
◦少なくとも1週間の間、3日間以上、3時間以上の啼泣
◦発育不良がない
・生後15日頃から発症し、2か月でピークに達し、4か月で治まる
・夕方~夜間にかけて多くなる
・握りこぶしを作る、腹部を緊張させる、背中を丸める、顔をゆがめるなどが関連した症状とされる
・いったん泣き始めると、泣き止ませるのは非常に困難
◦泣く頻度は正常の乳児と大差ないが、その持続時間が有意に長い
・リスクファクターとしては以下が知られる
◦早産
◦神経学的に異常のある子ども
◦母親がストレスにさらされている
◦GERD
◦腸内細菌叢の変化
◦両親の喫煙
◦垂直に抱く
身体所見
・2-8週の乳児
・下肢を引き上げる動作
・おならや便をしていない
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・Infantile colic
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・背中を曲げる動作
・食事をあまりとらない
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・GERD
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・摂食中にだけだるそう
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・鼻閉
・口内炎
・呑気症
・食物アレルギー
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・進行性の腹部膨満/嘔吐/血便
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・腸重積
・絞扼性腸閉塞(ヘルニア陥頓など)
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・慢性便秘
・排便中の啼泣
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・裂肛
・おむつ皮膚炎
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・耳をいじる
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・中耳炎
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・咳、頻呼吸、食事摂取不良
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・呼吸器/循環器疾患
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・頭をたたく
・嘔吐
・まぶしそう
・ぐったり
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・中枢神経疾患
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・排尿中の啼泣
・尿流の異常
・性器を触っている
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・泌尿器科疾患
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・多いまばたき、眼をこする、涙目
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・眼異物
・角膜擦過傷
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・四肢を動かさない
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・骨髄炎
・関節炎
・骨折/脱臼
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・静かに寝かせておくと泣かないが抱っこで泣く
※paradoxical irritability
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・髄膜炎
・腹膜炎
・骨折(特に鎖骨骨折)
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・おむつを替える際に泣く
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・股関節病変 |
・受診の遅れ
・一貫性のない病歴
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・子育ての問題
・虐待
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・突然発症
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・不整脈
・精巣捻転
・痙攣
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・発熱、ぐったり
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・敗血症
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Red Flag
・高熱
・食事をしない
・傾眠傾向
・普段と異なる行動
・摂食不良、発汗、発育不全
・最近の外傷歴、原因不明のあざ、一貫性のない病歴
・保護者が薬物中毒、精神疾患
・頻脈>180bpm
・胆汁性嘔吐
・血便
・paradoxical irritability
・四肢を動かさない
特に全身をくまなく観察する入念さは必要です。
検査
・検査の役割は非常に限定的
・血液検査が有用であるのは、病歴や身体所見からはわからない原因の3-5%程度にすぎない
・発熱患者全員に検査することは推奨されない
◦初期評価として(原因がわからなければ)尿検査を実施することは賢明かも
◦疑えばseptic work upを行う
‣血算、生化学、CRP
‣血液培養
・電解質異常や血糖値異常、心電図の検索は限られた患者で有効
マネジメント
・マネジメントの目標は以下
①詳細な診察により重篤な疾患を見逃さない
②改善可能な原因の治療
③保護者への説明
・red flagがある患児は要注意!!!
・マネジメントのフローチャートは以下
・95%は良性疾患またはself-resolvong
◦余計な介入や薬剤投与は慎むこと
◦両親への教育が重要で、多くは処方を要さない
◦外来では1-2時間の経過観察でよい
・外来で泣き止んだ場合にも以下の疾患には要注意
◦腸重積…間欠期を見ている可能性
◦精巣捻転、鼠径ヘルニア、陥頓包茎…自然整復された可能性
◦アナフィラキシー、痙攣…自然軽快しうる病態の可能性
◦鎖骨骨折…寛解因子による過小評価の可能性
・子供を落ち着かせる手段を試してみるのもよい
◦腹臥位
◦温かい布で包む
◦腹部マッサージ
・子宮内環境を再現する方法「5S」も有名
◦swaddle…両腕を伸ばした状態のまま布でくるむ
◦side or stomach position…保護者のそば、保護者の肩~腹部に位置させる
◦shush…ホワイトノイズをかける(しーっという)
◦swing…頭、頸部を支えて細かく揺らす
◦suck…おしゃぶりを吸わせる
・「The Hold」という方法もある
◦乳児の両上肢を胸の前で折り畳み自分で包み込むような形を作る
◦保護者の左手で体幹(胸部)を支え、乳児を前方45度に傾けた状態で維持
◦保護者の右手でおむつを支える
◦ゆっくり前後に揺り動かす
・普段からの子供への接し方も大事
◦1日10時間の肌と肌の接触、さまざまな刺激を与えることで啼泣率を50%減少させられる
・食事や睡眠などのルーチンをコンスタントに行うことも有効
まとめ
・泣き止まない子供は "IT CRIES"で鑑別
・Red Flagsを見逃さない
・colicは「少なくとも1週間、3日以上、3時間以上の啼泣」が新たな定義