救急外来には中毒患者が多く訪れます。
そんなものそんなに飲んじゃったの!?って人が特に夜間にちょくちょく来ます。
中毒の分野では拮抗薬として炭酸水素ナトリウムが注目されて久しいです。
特に、三環系抗うつ薬中毒に対してはその効果が報告されています。
雑誌を読んでいるとよく出てくるし、使いやすい薬剤でもあると思います。
当ブログでもロペラミド中毒の際に少しご紹介しました。
でも、実際どんなときに使うか?どうやって使うか?三環系抗うつ薬以外にも使えるのか?まだまだ未知数な薬剤であることも確かです。
そこで、今回は中毒に対する炭酸水素ナトリウム投与の効果についてreviewします。
A Literature Review of the Use of Sodium Bicarbonate for the Treatment of QRS Widening.
適応
三環系抗うつ薬
・最も広く研究されている
◦治療のメカニズム、始めるタイミング、治療期間などは定まっていない
◦TCA中毒を炭酸水素Naで治療する流れは1970年代から始まった
→1980年代から本格的に使用され始めた
・使うべきタイミングはまだ定まっていないが…
◦QRS>100msec…33%で痙攣を発症
◦QRS>160msec…50%で不整脈を発症
◦上記に達しない場合には、痙攣や不整脈が起きる報告はゼロ!
・citalopram, escitalopram, fluoxetineには炭酸水素Naの効果(QRS短縮)が認められた
◦Bupropionは効果がなかった
QRSが延びたら使っておけば間違いなさそうです。
抗不整脈薬
・Class 1a, 1c, β-blockerに対する炭酸水素Naの効果が報告されている
・Class 1a…quinidine, procainamide
◦procainamide中毒によるペースメーカー不全を起こした場合にも有効であった症例報告
・Class 1c…flecainide,propafenone
・β-blocker…propranolol
◦QRSは確かに短縮することもあるが…
◦ただし、統計学的有意差はなかった(しかもイヌでの研究でヒトではない)
麻酔薬、麻薬
・コカイン以外にはあまり効果がないよう
・リドカイン中毒は炭酸水素Naで治療されている場合にはQRS延長が起きない
◦効果のほどは定かではない
抗マラリア薬
・chloroquine, hydroxychloroquine, quinine
・動物実験と症例報告程度しかないが、QRS短縮効果はありそう
ジフェンヒドラミン
・ジフェンヒドラミンに対しても効果があるという症例報告あり
yew berry seed poisoning
・QRS短縮効果があった
効果があったものは以下のようにまとめられます。
ご興味があれば原著を当たってみてください。
実際の使用方法
・現時点ではbolusがよいのか、持続静注がよいのか、治療期間はいつまでか…ガイドラインがない
・bolus投与の場合(こっちが主流)
◦8.4%炭酸水素Na溶液(メイロン)を1-2mEq/kg投与
◦目標pH7.45-7.55
・挿管された患者の場合
◦8.4%炭酸水素Na溶液1-3mEq/kg投与と過換気設定を推奨している流れ
・治療期間は24-48時間が推奨か
◦TCA中毒に対しては、pH7.45-7.55を目標に24時間持続投与を推奨する研究あり
◦ECGが正常化したことを前提に24-48時間でよい
合併症
・低K血症
◦炭酸水素Naを使用してアシドーシス治療中に低K血症とVTを発症することもある
・低Ca血症、高Na血症
・アルカレミア
◦pH7.48を超えるアルカレミアは内科/外科患者の死亡リスク増加と関連
‣pHが上昇するにつれて死亡リスク上昇
◦TCA中毒患者に対する治療で致命的アルカローシスを発症した症例あり
やはり特に効果が認められているのは三環系抗うつ薬中毒のみのようです。
でも、よくわからない中毒患者でwide QRSであったらメイロン投与してみてもいいのかな~とも思ってしまいます。